解説集 ズミ の池 (印刷版)
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10.1週
●自由と平等、学問の意義
自由を求めれば平等でなくなり平等を志向すれば自由に制限が加わります。世の中にはいろいろな人がいます。「もっと自由にやらせてほしい」という人もいれば「もっと制限をしてみんなが平等になるようにしてほしい」という人もいます。
自由の行き過ぎも、平等の行き過ぎも、人間の幸福な生き方に反します。今後の日本の社会でどういうことが問題になるかを予測し、その原因と対策を考えていきましょう。
Re: ●自由と平等、学問の意義
たとえば、こんな書き方が考えられます。
【自由と平等】
1.導入
例・お金持ち紹介番組、ホリエモン。今の日本は、生活も豊かになり、家庭環境にかかわらず、才能や才覚さえあれば誰でも自由にお金を稼ぐチャンスが与えられるようになった。しかし、このままでは、低収入でぎりぎりの生活を強いられている人との格差がますます開き、定着してしまうかもしれないことが問題だ。
2.原因
資本主義の社会では、「より多くの利益、より多くの富」が企業や個人の経済活動の原動力になるから。
「体験実例」/お小遣いが増えると嬉しい。
3.対策
社会的弱者救済のシステムを作ること。(高所得者から、もっと税金を!)
「読書実例、長文実例」/ジンチョウゲ9.2週など
4.確かに、誰もが平等にチャンスを得られ、自由に経済活動ができるということは大切だ。しかし、……。
『ことわざの加工or自作名言』
【学問の意義】
1.導入
例・大学進学率。かなりな数の人たちが大学などの高等教育を受けられるようになった日本。しかし、このままでは、それほど勉強したいわけではないのにみんなが行くからと進学し、学問の意義がわからなくなってしまうかもしれないことが問題だ。
2.原因
今の日本は、生活も豊かになったから。学歴により、就職にも有利だから。
「体験実例」/テスト。
3.対策
大学を入りやすく、出にくく、欧米型に変えること。
「読書実例、長文実例」/ジンチョウゲ7.2週など
4.確かに、基礎学力を身につけるということは社会にとっても必要だ。しかし、……。
『ことわざの加工or自作名言』
●構成図の書き方
構成図は、小3以上の生徒が書きます。小2以下の生徒は、絵をかいてから作文を始めるという課題になっているので、構成図は書かなくて結構です。
構成図を書くときに大事なことは、思いついたことを自由にどんどん書くことです。テーマからはずれていても、あまり重要でないことでも一向にかまいません。
たくさん書くことによって、考えが深まっていきます。したがって、構成図は、できるだけ枠(わく)を全部うめるようにしてください。しかし、全部埋まらなくてもかまいません。
枠と枠の間は→などで結びます。この矢印は、書いた順序があとからわかるようにするためです。作文に書く順序ということではありません。
構成図は、原稿用紙や普通の白紙に書いて結構です。
構成図を書きます。
| 頭の中にあるものをそのまま書くとき。
| 構成図で書くとき。
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初めに絵をかきます。(絵はどこにかいてもいいです)
| 思いついた短文を書きます。(どこから始めてもいいです)
| 思いついたことを矢印でつなげていきます。
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関係なさそうなことでも自由にどんどん書きます。
| はみだしてもかまいません。 | 大体うまったらできあがり。
|
10.2週
●回収された牛乳パック(感)
回収された牛乳パックから作られるトイレットペーパーが売れなくなっている。木から作ったパルプを使ったほうが値段が安いからだ。リサイクルはすばらしいことだが、もう一歩進んで考える必要がある。
善意の意図から行われるちぐはぐな結果というのは、リサイクル以外にもいろいろとありそうです。早期教育なども、子供のためにと思ってしたことがかえって子供にとってマイナスになるという場合があります。「巨人の星」に出てくる大リーガー養成ギブスなども、本当に子供にあんなことをしたら、骨折しちゃうだろうしね。
最近問題が次々と出ている原子力発電所も、エネルギー問題を解決するよりも、かえって高コストについてしまうことがあるようです。
シカを保護するために、シカの天敵であるオオカミを退治しすぎた結果、シカも絶滅しそうになったという話は、どこかで聞いたことがあるでしょう。
いいことをしようという動機は大切ですが、その方法を科学的に考えないとかえって動機に反することをしてしまうということです。しかし、人間の限られた知恵であらかじめすべてを見通すことは不可能です。むしろ大事なことは、試行錯誤の結果、間違いに気づいたらすぐに軌道修正できるという柔軟性なのかもしれません。
高3 10.2週 回収された牛乳パック(感想文)の書き方
テーマは、一言で言えば、「善意の勘違い」というところか。
第一段落で要約。続けて問題提起。「現代の情報社会では、牛乳パックに限らず、似たような善意の勘違いがもっと大きな問題として起こることが予想される」。
第二段落で対策1。「第一の対策としては、情報の受け手が判断力を育てていくことである」。その実例。「先日北海道西友で、外国産食肉を国産と偽って販売しその代金をレシートなしで返金する事件があったが、判断力のない人が付和雷同的に友人に善意で……」。
第三段落で対策2。「第二の対策としては、誤った情報だとわかったときに速やかに軌道修正できる仕組みを作っていくことである」。社会実例(読書実例←できるだけ有名な本で)。「福沢諭吉の著書『福翁自伝」によると、横浜に行って、外国語の主流はオランダ語ではなく英語だと知った諭吉は、即座にオランダ語を捨てて英語の勉強を開始した。このような軌道修正を……」。
第四段落で反対理解と最初の意見。「確かに、よいことをしようという心がまえは大事である。しかし、その心構えが正しい結果として結びつくかどうかを判断することもそれ以上に大事である」。ことわざの加工。「善意の行動が、小さな親切大きな迷惑となってはならないのである(ちょっと変か^^;)。「角をためて牛を殺すという言葉がある。小さな短所に目を奪われると対極を見失う。同様に、小さな長所を見ることによって大局を見誤ることもあるのではないか。牛乳パックの再生という小さな長所を伸ばす前に、まず生きている牛をよく見ることだ」。
10.3週
●高校進学率が(感)
内容:進学率の上昇に伴い、受験生の合格可能性を見きわめるために偏差値が使われるようになった。しかし、いったん偏差値が使われると学校の序列化が進み、偏差値のランクそのものが受験競争の誘因になっった。背後に立身出世などの大きな物語があるわけではない大衆受験社会は、個人の野心や欲望に基づかない、偏差値だけをモノサシとした空虚な主体を製造している。
解説:受験競争が激しいわりには受験ノイローゼは激減しているそうです。昔は、受験生というと周囲も腫れ物にさわるような扱いで、本人も思いつめた悲壮な決意で受験に臨んでいました。今は、希望すればだれでもどこかの大学に入れるような状況があるせいか、それほど生きるか死ぬかの決断のような雰囲気はなくなっています。しかし、その分、学校の序列化が進んでいるので、少しでも偏差値の高い学校へという受験競争にすべての人が巻き込まれているようです。何のために勉強するのかという大きな目的はなく、ただみんなとの競争に巻き込まれてしまったので、その競争に負けないように勉強するという感覚です。予備校などの偏差値情報も、年々より細かくビジュアルになっているので、初めはその気がなくても模擬試験などを何度か受けているうちにだんだんがんばらなければならないような雰囲気になってきます。受験勉強は、現代では新しいゲームになっているようです。
しかし、こういうゲームで大学に入った人の多くが、大学に入ったあとに何のために勉強するのかという目的の不在に悩んでいます。偏差値というゲームを利用して、楽しく勉強することは大事です。しかし同時に、その勉強の本当の目的を時々自分なりに考えていくことが必要です。現代の問題は、勉強のゴールが大学受験になっているところにあるようです。
高3 10.3週 ●高校進学率が(感)
第一段落は要約。続けて、予測問題。「受験競争の向こうにある目的は、建前としては立身出世だが、だれも心の奥底ではそのような価値を信じてはいない。受験は偏差値をめぐる単なるゲームとなりつつある。しかし、そのようなゲームで勉強に取り組んでいれば、ますます目的不在の勉強となることが予想される」。
第二段落は、その対策1。「まず第一に、勉強の目的を自分なりに考えてみることである」。体験実例。「よく、成績がいいから偏差値の高い○○学部に行くなどいう人がいるが、私は、それよりも自分の興味のある勉強をしたいということで□□学部を選んだ」。
第三段落は、対策2。「第二に、社会全体が新しい価値観を持つ必要がある」。社会実例(読書実例)。「福沢諭吉はその著書の中で『学問は立身出世のためにある』と述べた。これはそれまでの教養主義的な学問観に対する批判であった。しかし、いま、また立身出世を目的とした学問観に取って代わるものが求められているのではないか」など。
第四段落は、反対理解とまとめ。「確かに、偏差値を尺度とした受験競争は目標を明らかにしやすいという点で評価できる。しかし……」。自作名言。「勉強の目的は点数ではなく、点数の向こうにあるものである」など。
11.1週
●言語記号を(感)
内容:言語は人間の住む環境世界のとらえ方を感覚を超えたものへと拡大した。力が物質となり、物質が遺伝子を持った生物を生み出し、その生物の中から言語が生まれたというのは、宇宙の進化の大きな三つの段階である。言語を宇宙における人間の地位を位置づけるためのものとして見ることができる。
解説:これまで、環境問題などが論じられるときは、生き物に優劣はなく人間だけが特別な生物ではないのだから、ほかの生物との調和を保って生きて行くことが大事だ、というような意見がよく出されてきました。今回の長文は、その考えと正反対で、人間という生物の特殊性を進化の頂点として見ていこうとするものです。こういう考えは、まだ少数派ですから、著者の述べ方もあまり歯切れがよくありません。しかし、それだけ勇気のある創造的な意見だと言えるかもしれません。
宇宙の進化の頂点として言語を持った生物=人間が登場したと考えると、人間は、宇宙全体から見ると期待のホームランバッターがちょうどバッターボックスに立ったところだと見なすことができます。これまで期待されていたわりには、戦争を起こしたり、核兵器を作ったり、環境を破壊したりと、ドジなことばかりしてきましたが、最後に逆転ホームランを打てるのはやはり人間しかいません。
大自然は完成されたもののように見ることもできますが、よく考えると、ライオンは嫌がるシマウマを無理矢理つかまえて食べています。そのライオンも年をとれば獲物を捕らえることができず、やがてハイエナの餌食になってしまいます。あらゆる生き物が幸福に暮らせる世界を完成された世界と考えると、今の自然界はまだ不完全なところがたくさんあります。ここで、言語=科学を持った生物である人間が新しい解決策をもたらすことが、ライオンからもシマウマからも期待されているのだと考えることができます。
人類は、核エネルギーを手にし、遺伝子を操作する力を身につけました。やがて新しい生物を作ったり、新しい物質を作ったり、新しい星を作ったりすることができるようになるでしょう。単なる物質から生命が生まれ、生命から言語が生まれ、その言語がみずから物質をコントロールするようになるのです。何か、漫画の「火の鳥」全巻をいっぺんに読んだような壮大な話ですね。
●言語記号を(感)
第一段落は要約と意見(予測問題の主題)。「現代は、人間も自然界の一部だという謙虚な考え方が増えている。しかし、人間の言語や意識の優位性を過小評価していては、現在、人類が抱えている問題は解決されないのではないかと予想される。」
第二段落は対策と体験実例。「そのための対策としては第一に、現代の問題をもっと広範に論議することである。地球温暖化の問題を考えるとき、私もかつては、『人間が生きていること自体が悪い』というような考え方をしていた。しかし、それでは問題はひとつも解決されないことを知った。」
第三段落は対策2と読書実例。「第二の対策としては、科学の成果を正しく評価することだ。デカルトはその著書『方法序説』の中で心臓の働きについての叙述を数ページにわたって費やしている。哲学を自然科学にも適用しようとしたデカルトの精神を私たちはもう一度見直してみるべきではないか。」
第四段落は、反対理解と自作名言。「確かに、人間中心の考え方が自然環境を破壊してきた面があることを考えると、人間の都合だけを狭く考えることは正しいことではない。しかし、人類の直面している問題を解決できるのはやはり人間しかいないのである。」
11.2週
●歴史家の専門の(感)
内容:歴史家の仕事は、自己中心性を克服する一つの試みだ。自己中心性は生の必要条件であるが、同時に誤りの原因でもある。
解説:イギリス人が書く文章は、シェークスピアの影響なのでしょうか、日本人から見るとやや饒舌な印象を受けるようです。「くまのプーさん」を読んだときも同じことを感じましたが、この長文も、もっと簡潔に書けばいいのになあと、つい私(森川林)は思ってしまいます。(笑)
さて、歴史家トインビーは、人類の文明の歴史を研究し、どのように発展した文明もやがて主に内部的な原因から衰退していくと述べました。栄耀栄華の中にいるときは、その状態が昔からずっとあって将来もずっと続いていくような虫のいいことを人間は考えがちです。
十一世紀初め、二代の天皇のもと約二十年間にわたって政治の実験を握った藤原道長は、「この世をばわが世とぞ思うもち月のかけたることもなしと思えば」という歌を詠みました。しかし、その摂関政治もやがて上皇による院政に取って代わられ、上皇と天皇の対立をきっかけに武士が台頭していきます。十二世紀初め平清盛が活躍したころの平家一門は「平家にあらずんば人にあらず」とまで言われましたが、源頼朝の挙兵により滅びてしまいます。このような栄枯盛衰の歴史を見ていると、調子のいいときでも油断をしてはいけないし、下積みの時代も腐らずに力を蓄えていくことが必要なのだとしみじみと感じますね。
世界の近代の歴史を見ても、スペイン・ポルトガルからオランダ・イギリスへと覇権が移り、やがてアメリカが世界の中心となっていく動きがよくわかります。日本の社会の問題を考えるときも、今目の前にある現象に目を奪われるのではなく、歴史的に見ていくことが必要です。
日本では一昔前は、勉強のし過ぎが問題となっていましたが、今は、学力低下に見られるような勉強の不足が逆に問題になりつつあります。あらゆる時代を超えて普遍的な真理というものはありません。問題を歴史的に見る見方がないと、固定的で自己中心的な見方に陥ってしまいます。歴史を勉強するのは、テストに合格するためでなく、こういう歴史的な見方を身につけるためなのですね。
高3 11.2週のヒント ●歴史家の専門の(感)
第一段落は要約と意見(予測問題の主題)。「歴史を学ぶことによって自己中心性を克服することができる。しかし、自己中心性を克服することによって、今後更に別の問題が登場することが予測される。それは、客観性を標榜する歴史が味も素っ気もないものになることである。どの国においても、歴史は国民国家の精神的支柱として学ばれているのではないだろうか。」
第二段落は、対策1と体験実例。「第一の対策としては、学校教育によって自国の歴史を正確に伝えることである。私は、海外にホームステイに行ったとき、日本のことをいろいろ質問されて、自分が何もしらないことに気づかされた。」
第三段落は、対策2と社会実例(読書)。「第二の対策としては、どのような歴史観(歴史教科書)を学ぶかということが、もっとオープンに論議されるべきだということである。第三の対策としては、歴史の勉強を、事実の暗記ではなく歴史観の養成という観点で行うことである。勝海舟の自伝を読むと、彼はその著書「氷川清和」の中で、青年時代に蟄居を命ぜられ、二年間部屋に閉じこもって読書に明け暮れていたということを述べている。この時代に、中国や日本の歴史を学ぶことによって、その後明治維新で大きく国の進路を変えるときに、正しい判断を下せたのではないだろうか。」
第四段落は、反対理解と自作名言。「確かに、さまざまな立場からの歴史を学ぶことによって、自己中心性を克服することは、今日の国際化の時代には必要なことである。しかし、そのためにはまず、自分の歴史的立場を明確にすることが必要だ。国際交流で大事なことは、相手の立場を理解することではなく、自分の立場を鮮明にすることである。」
※予測問題に発展させると書きにくい場合は、長文のテーマにそのまま合わせて、「自己中心性を脱却するような歴史の学ばれ方がされていないのではないか」と問題提起をしてもいいです。
11.3週
●クリントンの(感)
内容:クリントンの税制案は、公平さを装っているが人生の真実は、自己責任である。努力した人は報われるし、先に楽しむ人と後に楽しむ人がいても、その選択はその人の責任である。
解説:貧富の差が激しくなっている米国では、貧しい人を助ける税制が必要になっているのかもしれませんが、いつの世の中にも自分の責任を社会のせいにする人はいます。また、ある結果を得るためのその人の努力を評価せずに、結果の違いだけを見てやきもちを焼くという風潮は、どこの世界にもあるようです。
高校生の場合は、勉強や成績などが身近な話になると思いますが、この長文にあるように経済の問題で論じていってもいいでしょう。機会の平等は正当な競争の前提ですが、結果の平等を求めると、正しい競争を歪めてしまうことがあるようです。
高3 11.3週のヒント ●クリントンの(感)
対策の考え方に、自分なりのいくつかの得意分野を作っておくと書きやすい。一つの例としては、「自主・民主・公開・発明」。つまり、「自主的にできるようにする」「民主的な環境でできるようにする」「公開した形で行う」「新しい発想を発明する」。
第一段落は、要約と予測問題の主題。「見せかけの公平さで結果の平等を目指すべきではなく、努力の価値を評価すべきだ、と筆者は述べている。しかし、この考え方が行き過ぎれば、際限のない貧富の格差拡大という新たな問題が出てくることが予想される。努力の価値を認めつつ、貧富の格差を拡大しないようにするためにはどうしたらよいだろうか。」
第二段落は、対策1と体験実例。「第一の対策としては、個人の努力が正当に評価される仕組みを作ることだ。例えば、親の七光りなどという状態がありすぎると、自由な競争という前提そのものが崩れる。私も……。」
第三段落は、対策2と読書実例。「第二の対策としては、不平等を蓄積しない社会にすることだ。人類は、富というものが一部に偏りやすいというこれまでの歴史の経験から独占禁止法などの制度を発明してきた。『福翁自伝』の著者、福沢諭吉は、「門閥制度は親の敵(かたき)でござる」と言ったが……。」
第四段落は、反対理解と自作名言。「確かに、平等や福祉という言葉に甘える社会は活力をなくす。しかし、自助努力を求めるならば、それにふさわしい社会制度を用意しておく必要がある。平等の目的は平等そのものにあるのではなく、その平等を基盤として自由な競争ができるというところにあるのである。
12.1週
●われわれが日常(感)
内容:本を貸すとなかなか返ってこないことがある。現実にその本を持っていることが、本当の所有権とに近いものになってしまうのである。役得という現象も、公けのものを私的な利益に用いるという点で似ている。しかし新聞などでは、所有権の侵害という最も重要なことがあまり取り上げられていない。
解説:日本ではまだ役得やコネという不透明なものが社会のあちこちに残っています。最近起きた警察の不祥事も同じ文脈で考えることができそうです。国民に委託されている警察の権限を、自分の身内には甘く適用したということです。外からの批判が届かない組織は、いくら内部浄化と言ってもやはり浄化しきれないところが残るのでしょう。警察に限らず、日本の会社や組織は風通しの悪いところが少なくありません。風通しの悪さと役得の多さは比例すると言えるかもしれません。
日本の社会の問題として考え、その原因と対策を論じていきましょう。
高3 12.1週のヒント ●われわれが日常(感)
日本に根強い役得文化は、ある意味では近代化の後れと考えられます。途上国では、警察官による賄賂の要求などが日常茶飯事であると聞くことがありますが、この場合は、公私の区別という近代的観念が育っていないためでしょう。しかし、日本の役得文化の背後にあるものは、人間関係で物事が運営される日本独自のシステムと考えられないこともありません。
社会問題として、この長文のまま「役得文化が問題だ」と書いてもいいですし、将来の予測問題として、「ドライな人間関係が逆に日本の社会をぎすぎすしたものにするのが問題だ」と書いてもいいでしょう。例えば、「すまん。今日は見逃してくれ」「なんだ。○○か。しょうがないなあ。今日だけだぞ」「サンキュー。今度おごるからな」などという会話は、みなさんもよくしているでしょう。しかし、「テストの点数を10点上げておくぞ」「ありがとうございます。今度お礼を持ってきます」となると、贈収賄です。
第一段落は要約と予測問題。「確かに役得文化は問題だ。しかし、人間関係中心に動いている日本のシステムがなくなることにも問題がある。」
第二段落は、対策と体験実例。「第一の対策としては、役得の範囲を公開することだ。例えば、コネによる入学は不正だが、『定員の何パーセントまでは次のような基準でコネによる入学を認める』となれば、世間は納得するだろう。」
第三段落は、対策と読書実例。「第二に、役得が固定化しないような人材の流動化が対策として考えられる。勝海舟はその著書「氷川清話」の中で、アメリカに行って驚いたことの一つに、建国の父であるワシントンの子孫がどうなっているかアメリカ人のだれもが関心を持っていなかったことを挙げている。人材の流動化が当時からそれほど進んでいたのである。」
第四段落は、反対理解と自作名言。「確かに、不明朗な役得文化は腐敗の温床となる。しかし、その文化の根本にある人間関係中心のシステムのよさはまた別に評価するべきではないだろうか。役得とは……ではなく……である。」
12.2週
●現代は高度情報化社会で(感)
内容:現代は高度情報化社会であるといわれる。情報量の増大は、意思決定を単純化するであろうか。まず、情報システムの複雑化、ネットワークの錯綜化の進行によって、情報スラックが増大する。結果として真の情報がよりあいまいになる。さらに情報操作というやっかいなものが存在する。情報操作は、国家による情報統制のみならず、株の仕手戦、商品広告、あるいは個人レベルでの学歴詐称など、ありとあらゆるレベルで行なわれている。
解説:情報の増加ということは、日常生活で頻繁に感じると思います。高校生のみなさんは、いろいろな参考書や問題集があるので、どれにしたらいいか迷うことも多いでしょう。中には「参考書の選び方」のような本もあります。こういう多すぎる情報の中で、人間のとる行動は逆に退化していくことがあります。一つは、情報をシャットアウトして判断を放棄しまうこと、もうひとつはクチコミのような情報だけに頼るようになることです。「こんなにたくさんあるとどれが本当にいいかわからないから、色のいちばんきれいなのにしておこう」「友達のYさんと同じのにしよう」というような選び方です。
情報の増大に対する対策は、自分なりの視点を確立しておくこと、信頼できるクチコミを提供してくれる友達を作ること、情報機器を活用することなどになるでしょう。
高3 12.2週のヒント ●現代は高度情報化社会で(感)
第一段落は要約と意見(予測問題)。「多すぎる情報の中で、かえって正しい情報が伝わなくなりつつある。高度情報社会を維持しつつ、その情報をコントロールするには何が必要か。」
第二段落は、対策と体験実例。「第一の対策としては、自分なりの情報ソースを開拓することである。私も、テストの前のノート写しはAさん、数学の勉強の質問はB君、うまいものの情報はCさんと、情報源を使い分けている。」
第三段落は、対策2と読書実例。「第二の対策は、情報を受信するだけでなく、高度情報社会を利用して自ら情報を発信することである。そのためには、自分の生きる目的がはっきりしている必要がある。福沢諭吉はその著書の中で、若いときは朝から晩までオランダ語を勉強したと述べている。しかし、大量に流入するヨーロッパの情報に流されなかったのは、自分たちが日本の国作りをするという明確な目標があったからだろう。」
第四段落は、反対理解と自作名言。「確かに、多すぎる情報を遮断してじっくり考える時間を持つという生き方が有効なときもある。しかし、……。情報とは、それ自体に価値があるのではなく、それをどう生かすかによって価値が出てくるものである。」
12.3週
●今日ほとんどの人々は(感)
内容:今日ほとんどの人々は、民主主義と市場経済、すなわち資本主義のことを、まるで兄弟であるかのように語っている。しかし、民主主義は極端な平等を肯定しているのに対して、資本主義そのものには、平等化のメカニズムは組み込まれていない。民主主義と資本主義が、基本的な次元で正反対であるにもかかわらず共存が可能になったのは、社会福祉と教育への公共投資である。しかし、社会福祉も社会投資も、グローバル経済、および国民経済の変化によって、脅威にさらされている。
解説:平等を志向すると、自由な競争が阻害されます。しかし、市場経済にまかせているだけでは、弱肉強食の世界になってしまいます。福祉の行き過ぎが、スカンジナビア諸国では問題になっているようです。日本でどのような問題がいま起きているか具体的な事例を通して考えてみましょう。
高3 12.3週のヒント ●今日ほとんどの人々は(感)
第一段落は、要約と予測問題の主題。「平等を志向する民主主義と競争を前提とする資本主義の対立がますます激しくなっていくことが予想される。」
第二段落は、対策1と体験実例。「第一の対策としては、資本主義が民主主義に歩み寄りを見せる仕組みを作ることだ。例えば、独占禁止法、外部監査などは、資本主義の中に民主主義の要素を取り入れたものだということができる。外からの強制がなければ、人間は自然に自分の都合のいい状態に安住してしまうものである。私も、年末にでもならないとなかなか大掃除などをする機会がない。」
第三段落は、対策2と読書実例。「第二の対策としては、逆に、民主主義の中にも、競争の原理を取り入れることである。例えば、日本では相続税が高いために、どんなお金持ちでも三代は続かないと言われている。このような平等志向は、かえって働く意欲を阻害する面もあるのではないだろうか。福沢諭吉は(いつも登場するけど)、その著書の中で、『学問をするのは立身出世のためである』と述べている。このような明確な実学志向を持てる人が多い社会はやはり健全なのではないだろうか。」
第四段落は、反対理解と自作名言。「確かに、資本主義と民主主義が両立した昔の社会に戻るのがよいという考えもある。しかし、それは、経済が右肩上がりに成長していることが条件となる。これからの低成長の時代には、民主主義と資本主義が互いに歩み寄る工夫をすることが必要になる。」