ヘチマ2 の山 2 月 1 週
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○自由な題名
○マラソン
★緊張したこと、節分

○日本は、世界の中でも
 【1】日本は、世界の中でもきわめて安全な社会だといわれています。国民一人あたりの犯罪発生率も低いですし、ふだんスリや置き引きの心配をせずに生活できます。ハンドバッグをいすにかけたり、カバンを電車の網棚にのせたり、わきに置いたまま電話をかけたりといったことはあたりまえになっています。【2】こうしたことができるのは、もちろんたいへんいいことなのですが、ごみの視点で見たときに、この安全度の高さが困った問題の原因となっていることがあります。
 それは自動販売機の普及です。安全な社会でなければ自動販売機をだれも監視していない所に置いておくことはできません。【3】日本では、ジュースなどの清涼飲料からはじまって、酒、たばこ、週刊誌から乾電池にいたるまで、自動販売機は、いたるところに見られます。普及台数は全国で六百万台近く、国民二十人あたり一台の割合になります。【4】これが安全についての日本の特殊事情によることはいうまでもありません。
 ところが問題もあります。自動販売機はいつでも気軽に買えるために、清涼飲料の消費が大きくのび、その結果ごみも増えることとなりました。【5】また、屋外で飲まれることが多いため、容器がどうしても散乱することになります。道路わきや海岸、公園などに散乱する空き缶やペットボトルは、ごみ問題の一つの象徴的存在です。道徳心にうったえることも大切ですが、野放しの自動販売機にも一考の余地がありそうです。
 【6】日本人は働きすぎだといわれます。しかし、現在は週休二日制などが導入され、また労働時間の短縮もはかられていますから、これからは余暇利用はますますさかんになるでしょう。その代表は観光です。そこで観光で生きていこうとする地域では、どうすれば人が来てくれるか、知恵をしぼることになります。
 【7】先日、静岡県の伊東観光協会から、「伊東の観光のあり方を考える」というテーマで講演をたのまれたのを機会に、観光とはなんだろうか、人はなにを求めて観光地に行くのだろうか、観光客はどうすれば満ち足りた気分になるのだろうかと考えてみました。【8】そ∵の答えは一言でいえば、日常生活からの解放、つまりいつもとまったくちがう世界を楽しむということです。都会のオフィスで、毎日コンピュータとにらめっこしているサラリーマンにとって、人里はなれた渓流でヤマメを釣ること、【9】毎日食事のしたくにいそがしい主婦にとって、食事のしたくや後かたづけをせずに過ごせるということは、それだけでなんとなく豊かな気分になれます。
 【0】ところでごみですが、これは、私たちが生活していくうえで、いつでもどこでもかならず出てくるものですから、日常性の代名詞といってもいいものです。とすると、ごみが一つもない世界は、私たちの日常生活とはまったくちがった世界だということです。観光地からいっさいのごみをなくせば、そのことがそこを訪れた人の心をいつもとちがった新鮮なおどろきで満たし、またそこへ行きたいという気持ちをおこさせることになるでしょう。
 この原理を適用して大成功した観光地、それが東京ディズニーランドです。ここには自動販売機は一台もありません。食べもの、飲みものの持ちこみも禁止されています。どこを見わたしても、ごみが一つも落ちていません。もしだれかがごみを捨てたとすると、目にもとまらぬ速さで係員がちり取りに入れてしまいます。ちょうどウインブルドンのテニス世界選手権で、ネットにかかったボールがすばやく取り去られるような要領です。
 ミッキーマウスもシンデレラ城(じょう)も、確かに非日常の世界なのですが、ごみが散乱していたのではたちまち日常の世界に引きもどされてしまいます。ごみはそれほど日常を強く意識させ、私たちの日々の生活に深く結びついているのです。というわけで、伊東の海岸にまた行ってみようという気持ちにさせるには、この方法を応用したらどうか、道徳心にうったえる方法とはまったく逆の、つまりごみをすばやく拾い、砂浜にはごみが一つも落ちていないようにするという方法を考えてみたらどうかということを、お話したのです。
 このように、ごみは社会を考える切り口をあたえてくれます。ごみから社会を見ていくと、社会の新しい面が見えてきます。ごみは私たちの生活や社会と表裏一体の関係にあるからです。