ネコヤナギ の山 2 月 1 週
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○自由な題名
○マラソン
★節分、ランニングをしたこと

鬼は内、福も内
【1】「今年の恵方は、南南東だから、窓の方を向いて食べるのよ。」
そう言って、母は、恵方巻きを家族みんなに配った。父は、
「恵方だか阿呆だか知らないけど、昔は、こんなことはやらなかったなあ。」
などとぶつぶつ文句を言っている。【2】そんな父を横目で見ながら、母は、
「さあ、始めるわよ。用意、スタート。」
と、威勢のいいかけ声をかけた。そのかけ声に後押しされるようにみんなで恵方巻きを食べ始める。恵方巻きを食べるときには笑ってはいけない。【3】「笑う門には福が来る」ということわざも、節分には通用しないらしい。
 私はいつも、なぜか笑いをこらえきれなくなり、くすくすと笑ってしまう。だから、今年こそは、最後まで笑わずに食べようと決心していた。しかし、スタートと同時に、もう笑いが込み上げてくる。【4】しばらくは、必死にその笑いをこらえていたが、こらえればこらえるほど、おかしさがつのり、私は思わず吹き出してしまった。それをきっかけに、姉が笑い出し、私たちを横目で見ていた父の表情も崩れた。気づくと、父は、目に涙を浮かべながらくっくっくっと笑いをこらえている。【5】そんな中、ただ一人冷静なのは、母だ。顔色一つ変えず、南南東を向いて、黙々と恵方巻きを食べている。姉も私も、母の、この強靭な精神力を受け継がなかったようだ。
 恵方巻きを食べた後は、これも恒例の豆まきだ。【6】父も、豆まきには積極的に参加する。いちばん大きな声を張り上げているのは父だ。我が家では、毎年「鬼は外、福は内」と言いながら豆をまくが、地方によっては、「鬼は内」とかけ声をかけるところもあるそうだ。【7】私は、みんなの幸せを願う節分の日に、鬼だけ外に追い出すという発想に、かねてから疑問を抱いていた。鬼も幸せになれば悪さをしないと思うからだ。だから、「鬼は内」とかけ声をかけるように父に提案してみた。【8】父は、∵
「昔から、鬼は外、福は内と決まっているんだ。鬼はお庭にお逃げなさいってなもんだ。」
と取り合ってくれない。習慣とは恐ろしいものだ。仕方がないので、私は、心の中で「鬼は内、福も内」と言いながら豆まきをした。
 【9】豆をまいた後は、みんなで年の数だけ豆を食べるのだが、姉も私も年の数だけでは足りず、年の数の何倍も豆を食べてしまう。年の数以上の豆を食べるとどうなるのか心配だったので、調べてみると、自分の年の数より一つ多く食べると、体が丈夫になって、風邪をひかないという説もあることを知り、ほっとした。【0】年の数の何倍も食べれば何倍も丈夫になるに違いない。さらに調べてみると、豆は「魔滅(まめ)」に通じ、鬼に豆をぶつけて、邪気を追い払うという意味があるらしい。私は、ますます鬼がかわいそうになった。せめて、豆をぶつけた後は、家に入れて、介抱してあげてもよいのではないだろうか。
 節分のような日本独特の行事は、そのいわれを正しく理解し、後世に伝えていくことも大事だが、それ以上に大切なのは、家族そろって季節ごとの行事を楽しみ、温かい時間を過ごすことだと思う。
「しょうがない。鬼も中に入れてやろう。鬼は内、福も内。」
父の声が響いている。

(言葉の森長文作成委員会 Λ)