ケヤキ の山 3 月 1 週
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★じゆうなだいめい
○ひなまつり
○すきなばんぐみ、こまったこと
小林先生のこと
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【1】「あ、宿題忘れてた。」
学校に着いて、教室に入ったぼくは、宿題を忘れたことに気がつきました。昨日は三丁目公園に遊びに行って遅くまで鬼ごっこをしました。三月になってからずいぶん日が延びたので六時まで遊んでいいことになりました。【2】家(いえ)に帰ったらやろうと思っていたのに、すっかり忘れてしまったのです。
先生が来(く)る前に終わらせてしまおうと大急ぎでランドセルから宿題のプリントを出しました。ぼくがプリントをやろうとすると、
「中田君。もしかしたら、それ、宿題?」
と、ダイちゃんが、小林先生の真似をしてやってきました。【3】小林先生というのは、ぼくたちの担任の先生です。まるでお笑い芸人みたいな面白い先生です。
ダイちゃんが先生の真似をしたので、周りにいたみんながげらげら笑いました。ぼくたちは調子に乗って次々と先生の真似をしました。【4】突然、ゆきちゃんが、
「三年生になったら、どの先生が担任になるのかな。」
と言いました。ぼくは、いすから滑り落ちそうになりました。
「小林先生じゃないの?」
と、思わず叫んでしまいました。【5】みんなは、ちょっとあきれた顔で、
「知らないの? 三年になったら先生変わるって、お母さんが言ってたよ。」
と、口々に言いました。ぼくは全然知りませんでした。考えたこともありませんでした。ずっと先生と一緒のような気持ちでいたのです。
【6】先生の机の後ろに貼ってあるポケモンカレンダーを見ました。春休みまであと何日あるのか知りたくて、ぼくは数え始めました。∵
「一、ニ、三、四、五、六、七、八、九、十。あと十回!」
あと十回学校に来たら小林先生とお別れなのだと思うと、急に寂しくなってきました。【7】どうして大事なことを言ってくれないのかとお母さんに文句を言いたくなってきました。今日の夜、絶対に言ってやるぞと思いました。
ぼくがテレビを見ていると、買い物袋をぶら下げたお母さんが仕事から帰ってきました。
【8】「もう春だね。まだ明るいもんね。春になると、なんだかうきうきしちゃうね。」
なんて嬉しそうに言います。ぼくはお母さんの顔を見ないで、
「三年になったら小林先生じゃなくなるんだって。」
と不機嫌そうに言いました。【9】お母さんは買い物袋を置いてぼくの横に座りました。
「そうだね。お母さんも小林先生のファンだったから寂しいよ。ずっと小林先生だったらいいのにね。でも、そんないじけた顔をしていると、小林先生も元気がなくなっちゃうよ。」
と言って、ぼくの背中をぽんとたたきました。【0】小林先生は楽しいことが大好きです。寂しいけれど、最後まで元気な顔でいようとぼくは思いました。
(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 ω)