タラ2 の山 4 月 1 週
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○自由な題名
○大事にしている物
★いたずらをしたこと、何かをきれいにしたこと

○一万年あまり前
 【1】一万年あまり前、人間の前に、大きな悲劇がせまってきました。運命が、はじめて、人類に対して、冷たく背をむけたのです。
 原因は、地球の気候の変化です。多くの地方で、温度がどんどんあがりはじめました。【2】氷河は、後退していきます。気候の変化は、植物に大きな影響をあたえました。植物を食べて暮らしている動物たちも、当然、大きな影響をうけます。
 その頃、地球上には、約百万人の人間が暮らしていたろう、と推定する学者がいます。【3】今日の地球上の人口からみれば、五千分の一という数です。
 しかし、彼らは、有能な狩人でした。肉食を主にする生きものとしては、すでにその数は、他の肉食獣に比べ、異常なほどに多くなりつつありました。
 【4】彼らの有能さの秘密は、石槍や石斧、棍棒などを使い、集団で行動することでした。寒い草原にすむ大形の草食獣、マンモスやトナカイに対して、とくにその戦法が有効だったのです。しかし、狩猟の方法が発達するにつれて、マンモスたちは人間に圧迫されていきます。【5】そこに気候の変化が加われば、大形獣はどんどん姿を消していくのです。人間の狩猟法はますます有効になっていくのに、頼りにしていた獲物が、いなくなってしまいました。
 多くの人が飢え死にしました。それでも、人類は滅びませんでした。【6】マンモスのように地球上から消滅してしまう前に、新たな生きる道を見出していったのです。
 人間という生きものが、その内に秘めている多様性、それが、人間を救いました。
 自分をとりまく状態が変われば、それに応じて自分も変わることができる。【7】いわば、何でも屋の人間のしぶとさです。
 (中略)
 多様な新しい暮らし方のなかでも、とくに大切なのは、植物を食べる、という生き方でした。のちになって、人間の生活に大きな∵革命をひきおこす芽が、そのなかで育っていったからです。
 【8】もともと、人間は、肉を食べるあいまに、食べやすい木の実、果実をつまんでいた、と思われます。しかし、肉がなかなか手に入りにくくなり、植物に頼って生きていくというのは、さぞかし大変なことだったにちがいありません。
 【9】葉を食べて栄養とするのは、人間の身体にとって無理でした。木の実や、木の根っこには、しばしば毒がありました。草の実、種は、かたい殻におおわれていて、そのままでは食べても消化しません。
 【0】私は、アフリカの奥地で、固くなったトウモロコシの粒を、二つの石を使って粉にして食べている人々の暮らしを見ました。そのままではダメなものを、粉に変えて食べる。これも大変な知恵です。それにしても、挽臼を知らない人々の労働のなんとつらいことか。一食分のトウモロコシを粉にするのに、女性は一日の半分近くを使っていました。
 当時の人々の遺体の多くは、やせていました。マンモスがいた頃の人々の遺体に、栄養の取りすぎのあとがのこっているのとは、まさに正反対です。また、草の種にふくまれている糖分のせいでしょう。虫歯がふえてきました。
 きびしい生活のなかで、人間の内に秘めた研究心が活動しはじめます。かつて、マンモスの行動を観察し、その弱点をついて成功した人間が、今度は、食べられる植物に、鋭い目をむけていきます。
 人類が、はじめて農業という新しい生活方法をあみ出した西アジア、いわゆるオリエントには、ムギが野生していました。アジアの山岳地帯では、イネの祖先が、野生していました。そのほか、中国のアワ、アメリカ大陸のイモやトウモロコシなど、まとまって収穫することができ、栄養が豊富な野生の植物に、当時の人間は注目して行ったのです。
 (羽仁進『羽仁進の世界歴史物語』)