ナツメ の山 5 月 1 週
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○自由な題名
○私と友達、家族で遊んだこと
★大笑いしたこと、家族でスポーツをしたこと
もしも、レオナがほんとうに宇宙人だとしたら、ぐずぐずしてるとたいへんなことになっちゃうぞ。レオナが、ぼくたちそっくりの宇宙人を送りこみ、学校が基地になる前に、なんとかしなくちや。
五時間目がはじまっても、ぼくの頭の中は、そればっかり。
だれかに相談しようか。でも、だれに?
あらためて考えてみると、ぼくにはなやみや心配を打ちあけるような友だちは、ひとりもいないんだ。
そりゃあ、友だちはおおぜいいるよ。いっしょにカンケリをしたり、サッカーをしたりする友だちは。だいたい、ぼくは、これはうちのお母さんがいうんだけど、だれとでも、よく遊ぶんだ。
でも、ほんとうに、心をゆるせる友だちはひとりもいないのさ。
それに、こんなこと、どうせはなしたって、だれも、信じてくれないだろうし……。
そんなある日。
それは、五月にはいったばかりの、ぽかぽかとあたたかい日だった。
昼休み、ぼくとしオナは、いつものように、校庭の花だんのわきの、青いベンチに腰をおろしていた。レオナは女みたいに花が好きで、昼休みはたいていここですごすんだ。
「ああ、いいかおりだなあ。バラのかおりほどすばらしいものが、この世にあるだろうか。」なんていいながら、レオナは赤いバラに顔をよせて、くんくん、くんくん。
そのそばで、ぼくはぼんやり、校庭をながめていた。ドッジボールをしているやつ、サッカーをしているやつ、キックベースをしているやつ。みんなの声が、わーんとひとつになって、青空にすいこまれていく。
ああ、ぼくもみんなといっしょに、思いっきり、遊びたいなあ。
すると、そこへ、ボールかた手に、矢田が通りかかった。
「よう、テツヤ。きょうもふたりでなかよく、お花見かよ。」
といって、矢田はおどかすように、ぐっとぼくに顔を近づけて、
「おまえなあ、ばかとつきあうと、ばかがうつるぞ。そうか、もううつったか。ならいいや。あばよ。」
「おい。ちょっとまてよ。」
ぼくはさっと立ちあがった。ちくしよう、人の気も知らないで。ぼくだって、好きでこんなことしてるわけじゃないんだぞ。
「ちょっとこいよ。話があるんだ。」
ぼくはぐいぐい、矢田のうでを引っぱって、少しはなれた木の下につれていった。そして、レオナに聞こえないように小さな声で、
「いいか。これはひみつだぞ。ぜったいにだれにもいうなよな。じつは、ぼくがレオナとつきあっているのは、わけがあるんだ。そのわけっていうのは……あいつ、宇宙人かもしれないんだよ。」
ところが、矢田のやつ、でっかい声で、
「レオナが宇宙人!?あはは……そいつはいいや。あはは……。」
レオナが、さっとこちらをふりかえった。その時、ぼくは、たしかに見たんだ。レオナの目が、まるでねこみたいに、キラッとみどり色に光るのを……
「宇宙人のいる教室」(さとうまきこ)より
○「時間」は比較的最近になって(感)
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【1】僕の机は、兄からもらったものだ。しっかりした作りで茶色く光っている。よく見ると、何かのシールをはってはがした跡がある。
ぼくがそれまで使っていた机は、小さくて、机の上に資料を並べきれないことがよくあった。【2】すると、それを見ていた母が、「お兄ちゃんの机と交換したら」と言ってくれた。兄は、近所にいる人が遠くの学校に行くようになったので、その机をもらうようになったらしい。
こうして、僕は、兄の大きい机を使うことになった。【3】大変だったのは、これまでの机の引き出しの中にある細々としたものを移す作業だった。引き出しの中身を出してみると、いろいろ懐かしいものが出てきた。いちばんの収穫は、なくしたとばかり思っていたキラカードが出てきたことだ。【4】これは、小学校二年生のころに熱中したもので、もう今では遊ばないが、ぼくにとっては大切な宝物(たからもの)だった。中身を移したこれまでの机は、もう古くなっていたので、粗大ゴミに出すことになった。
その晩、父が帰ってきて、ぼくの机を見て言った。
【5】「おお、お兄ちゃんの机にしたのか。今の子は、いいなあ。お父さんのころは、みんな、食卓で勉強をしたんだぞ。」
父が小学生のころ、食事のあとのテーブルで学校の宿題の作文を清書していたらしい。【6】最後の一枚を仕上げて、「やっとできた。万歳(ばんざい)」と手を上げたときに、近くの醤油を作文の上にこぼしてしまった。それを見た祖母が、「一度はきれいに書いたんだから、いいんじゃない」と言ってくれたので、父は醤油を拭いてそのまま提出することにした。【7】翌日、担任の先生はその作文を見ると、「これは味のある作文だ」と言って大笑いしたらしい。ぼくは、その話を聞いて、何だか昔ののどかな映画を見ているような気がした。∵
数日後、粗大ゴミとなった昔の机の回収日が来た。【8】朝早く、ぼくと母は、机を指定の場所に運んだ。中身が空っぽになった机は、仕事をすっかり終えたおじいさんのようだった。ぼくが学校に行くときも、机はまだそのままだった。
その日の授業を終えて家に戻るとき、朝、机を置いた場所を見ると、そこにはもう何もなかった。【9】そのとき、僕は、その机は僕の友達だったのだなあと分かった。
家に入ると、兄からもらった新しい茶色の机があった。それを見ていると、昔の机が遠くからこう語りかけてくるようだった。【0】
「これまで長い間、ありがとう。僕の仕事は新しい机君に引き継いだから大丈夫。」
ぼくは、うんとうなずくと、新しい机の上に静かにカバンを置いた。
(言葉の森長文作成委員会 Σ)