ナツメ2 の山 6 月 1 週
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○自由な題名
○もう一人の私、たまごを使った料理
★楽しい先生、私の父(母)

○この国から一つの種が(感)
 【1】この国から一つの種が消えていくことは、たとえていえば私たち自身の未来へつながる糸が、一本切れてしまうことにほかなりません。裏返せば、種の多様性を大切にすることこそが、豊かで安全な人間の未来を約束しうるのです。【2】さらに、どれだけ多くの生きものがいるかということは、森林の生産力の豊かさを示す一つのものさしになります。森林の価値は、たんに木材などの経済的価値だけでなく、そこに暮らす生きものの種類や数も、そのものさしとして含めて考えるべきです。【3】これが、人間と自然の共存、共生をめざす新しい考え方です。
 人の思想・信条や価値観が画一化された時代が危険であったようにそれは自然についても同様のことがいえます。【4】たとえば、九州のスギノザイタマバエなどによるスギ枯れのように、単一(たんいつ)樹種(じゅしゅ)で構成されている人工林は一度病虫害が発生すると、いっきに広がり大きな被害をもたらします。とはいうものの、今や日本中の自然林が、スギ、ヒノキの単一経済林にとってかわろうという勢いです。【5】その土地の風土にあった自然林こそあらゆる危険に対して、実はもっとも強いのだということを忘れてはなりません。
 ブナの森にかぎらず、北海道の亜寒帯林から沖縄の亜熱帯林にいたるまで、多様な自然林を守り、健全な状態で次の世代に手渡していきたいというのが私たちの願いです。【6】そして、長い間こうした自然林が、風土に根ざした地方文化を育む一つの母胎ともなってきた歴史的事実も忘れてはらないでしょう。
 最近、日本中で、土地土地の固有の自然林が消え、その土地に縁もゆかりもない「緑」が造り出され、それが当り前の光景となっています。【7】そうしたことをなんの抵抗もなく受け入れてしまう自然観の欠如をおそろしいと思います。土地の固有の自然を大切にするということはそれを舞台にした土地の文化を守ることでもあります。裏返せば、この国の多様な自然こそが、多様な地方文化を支え∵ているのです。【8】その意味で、緑の量を増やすこともさることながら、むしろ、その土地の風土や歴史的必然性に根ざした緑の質、自然の質を問うことのできる眼を養いたいものです。
 【9】その上で、たとえば人知のなせる技ともいえる京都北山の人工スギ林もはるか縄文の昔から受けつがれてきたブナなどの自然林も、ともにすばらしいと言わしめるような、そんなしなやかな感性とバランス感覚を、しっかりと次の世代に伝えておきたいと願わずにはいられません。【0】
 ブナの森は遠い祖先からの贈りものであり、そして子孫からの借りものでもあります。私たちは二十一世紀へ手渡すべき遺産の一つとして、この森の将来に歴史的責務を負っていることを忘れてはならないと思います。この国が、母なる森――ブナ原生林を失ったとき、それは私たちが孤児になるときです。なぜならば人間もまた、自然の子なのですから。