長文集  8月1週  父の仕事  hi-08-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/06/09 09:48:24
 【1】「いってらっしゃい。」と妹、「早
く帰ってきてね。」とぼく、そして、「気を
つけてね。」と母の声。
「行ってくるよ。ゆうすけ、あっこちゃん、
学校がんばってな。」
毎朝、同じ会話が交わされ、静かな朝の道へ
オートバイが走り出していく。父の出勤だ。
 【2】父は、消防署に勤務している。いつ
、どこで発生するかわからない火災や事故を
相手にする緊張した仕事だ。朝出勤すると翌
日の朝まで帰らない。日曜も祭日もなく一日
おきに勤めている。非番で家にいる日も午前
中は寝ている。前日は勤務で寝ていないから
だ。【3】父が寝ている間は、家族も音を立
てないようにして歩かなければならない。「
いやだ。消防署なんてやめちゃえ。」と、父
の仕事を憎く思ったこともある。しかし午後
、目が覚めると僕と妹に本を読んでくれたり
、一緒に遊びに出かけてくれたりする。制服
を脱ぐと本当に優しい父だ。
 【4】三年生のとき、社会科で消防署の仕
事について習った。市民の安全を休みなく守
る消防士さん、それが僕の父なのだ、と思っ
たとき、僕は初めて父の仕事に感謝し、その
仕事を誇りに思った。
 無遅刻、無欠勤で働き続けたために、署の
招待で家族旅行に行ったこともある。【5】
新婚旅行をしなかった両親にとって、結婚十
周年を兼ねた旅行となり、とても楽しかった
そうだ。また、十五年勤務のお祝いには、母
も消防署に招かれ、感謝状を贈られた。
「火災出勤があるとね、神様に手を合わせて
、どうか無事に勤めが果たせますように、っ
て拝むのよ。」
と母は話してくれた。【6】冬の夜、緊急の
出動があるときも、母は飛び起きて父を送る
。そのあと風呂をわかしたり、布団をあたた
めたりして、寒くても父の帰りを待っている
。そんな母の心づかいを、きっと父も感謝し
ているに違いない。∵
 【7】父の頭の中はまるで市内の地図だ。
休みの日、車で街を走ってもらうと、いろい
ろな道を知っていることに驚く。地図で調べ
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たり、道を聞きながら走ったりしたのでは火
事が広がってしまうから、父にとっては当た
り前のことなのだろう。
【8】「消防士の仕事は、一秒が大切だ。だ
からといって、早ければいいわけじゃない。
失敗や事故は許されないから、正確でなくて
はいけない。だから、心にゆとりを持つこと
だ。そして、いつでもきちんと動けるように
、体を大切にしないとね。」
父はそう話す。【9】なんだか父の勤務への
心構えは、いつも僕たちに何かを教えている
ように思えてくる。
 健康な体。早く正確に。心にゆとりを。多
くの人の、仕事や日々の生活にとって、同じ
ように考えられると僕は思うのである。【0


(言葉の森長文作成委員会 ι)