シオン2 の山 8 月 1 週
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○自由な題名
○星空を見たこと
★おにぎりを作ったこと、セミをつかまえたこと
○虫をつかまえたこと
○ほう、なにがあるか(感)
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【1】「ほう、なにがあるか、いってみな。」
ねずみ小ぞうが、いかにもばかにしたようにいいました。
「金の茶がまだ。」
わたしは、おもってもいなかったことを、ついいってしまったのでした。
「そんなの、うそにきまってらあ。」
【2】たっぺがいいました。
ここで、わたしが、うそだというか、だまってさえおればよかったのです。
ところが、ねずみ小ぞうめが、
「とうちゃんの頭、ぴかぴかの金光りだもんな。」
と、いったから、もういじでもうそだというわけにはいかなくなってしまったのです。
【3】「見たけりゃ、見せてやるぞ。」
わたしは、ねずみ小ぞうをにらみながらいいました。
「じゃあ、見せてくれ。いつ見せてくれるんだ。」
ねずみ小ぞうは、もうけんかちょうしです。
「みんなのたからものを見たあとだ。」
【4】わたしは、できるだけときをかせごうとしました。
その日はそれですみましたが、さて、これからどうしたものか。
金の茶がまなんて、おもってもいないことを口にしてしまったのは、くらの中のたなにあるあかがね(銅)の茶がまからおもいついたものだったのです。
【5】うすぐらいくらの中で、いくらか光るものといえば、これだけでありました。
父と母と、すえっ子だったわたしの三人は、このくらの中でねていました。父と母が朝はやくでかけていってしまうから、わたしはひとりぼっちで、このくらのものを見まわしているのでした。【6】そして一つ一つのどうぐに、わたしのものがたりをつくっていました。
この茶がまは、ものがたりの中では、金になったり、ぶんぶく茶がまのおはなしになっていました。
わたしは、そっとたなから、茶がまをおろしてみました。【7】おばあさんが、ときどきこまかなはいでみがいていましたから、ほこりをはらうと、よく光りました。
「よし、うんとみがいてやろう。そしたら、金みたいに光るかもしれないな。」
【8】わたしは、おばあさんのいないときを見はからって、茶がまを外のいどばたにもちだしました。
そのころは、いろりでまきをもやし、ごはんをたいたりおしるを∵にたりするので、かまもなべも、すすけてしまいますから、はいやこまかなすなで、ごしごしみがきました。
【9】わたしは、おばあさんのまねをし、はいとすなをたわしにいっぱいつけて、ごしごし、ごしごしと力まかせにみがきました。
水をさあっとかけ、はいとすなをおとすと、茶がまは、見ちがえるほど光ってきました。
(中略)
【0】 わたしは、すっかりうれしくなり、はやくみんなをおどろかせてやろうとおもいました。
ねずみ小ぞうは、あれでなかなか目がきくからあとまわし、たっぺはきょろきょろだから、まずあいつからと、あくる日、おばあさんが、外にでかけたあと、大いそぎでたっぺをよんできました。
「いいか、ここで見るんだぞ。」
たっぺをくらの中にいれずに、あかりをいれる小まどをあけました。
うまいぐあいに、ちょうどいり日がさっとながれこんで、茶がまが、きらり、きらりと光りました。
(中略)
たっぺは、あした学校にいって、みんなにいうにきまってるとおもうと、その夜は、なかなかねつかれませんでした。
あくる日、やっぱりたっぺがいいふらしたので、みんなが「おれにも見せてな」と、よってくるのでした。
だが、このうその金の茶がまは、おもいがけないところからばれてしまったのです。
学校からかえってきたら、おばあさんが、茶がまをとりだし、目をつりあげておこるのでした。
「なんだって茶がまを、こんなひどいめにあわせるんだ。
この茶がまはな、おばあさんの母のかたみだから、だいじにだいじにしてきたものを。ほら、よく見ろ。」
おばあさんにいわれてよく見ると、茶がまには、こまかいきずあとが、いっぱいついているのでした。
あかがねというものはとてもやわらかですから、おばあさんは、きずがつかないように、はいをこまかなあみめのふるいになんどもかけて、こなのようにし、やわらかなきぬにすこしずつつけてみがくのでした。
それをわたしは、なべやかまとおなじように、ごしごしみがいてしまったのです。
「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編 フォア文庫より)