チカラシバ の山 8 月 1 週
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○自由な題名
○星空を見たこと
★虫をつかまえたこと、おにぎりを作ったこと
つまみ食いの天才
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【1】「うまっ」
どうしてこんなにおいしいのでしょう。私は、つまみ食いの常習犯です。つまみ食いは、お行儀が悪いとされていますが、実は大事な仕事なのです。これは、よく言えば「味見」です。【2】味の足りないところや、直した方がよいところを事前に料理人に知らせることができるのですから。今日の料理人である母にも、感謝してほしいくらいなのですが、なぜだかいつも逆に怒られてしまいます。もたもたしていると、手の甲をペチッと叩かれます。【3】ああ、こわい。それでも、私と弟は、懲りずに毎晩任務を遂行します。敵がマーボー豆腐やカレーの時は諦めますが、たいがいの料理には挑戦します。得意分野は、揚げ物類です。これは大好物でもあるのです。
【4】中でも、今夜のようにフライドポテトがある日は、腕が鳴ります。おなかも鳴ります。次々に揚がってくる黄色いポテトたち。胸がワクワクします。母が後ろを向いて、次のポテトを投入している時はねらい目です。【5】テーブルにそっと近づき、目にも留まらぬ速さで、ポテトをつかみます。その様子は、まるでワニが獲物を後ろからパクッとやるようです。弟は、あちっと言ってしまったり、落としてしまったりと失敗しやすいので、私が弟の分まで取ってあげます。【6】私はたいがい、気付かれずに取ることができます。数が決まっているおかずの時などは、取られたことを気付かない母が
「おかしいわねえ。」
と、数が合わないと首をかしげることもあるほどです。
【7】たまに、見つかってしまってもちゃんと作戦があります。怒られる直前に、
「す、ご、くおいしかったよ。」
と言うのです。口封じの術(じゅつ)です。気負いこんで、怒ろうとしていた母は、拍子抜けして
「そ、そう?」∵
となってしまいます。【8】私は心の中で大成功、と叫んでいます。
父も実は仲間です。ビール片手にさり気なく、テーブルの脇をすり抜け、見ると、しっかりつまみ食いのつまみを持っているというわけです。
【9】この間、母に聞いてみると、
「つまみ食いなんか、私はしたことないわよ。そんなはしたないこと。」
と言うので、こっそりおばあちゃんに電話しました。すると
「しょっちゅうしよったよ。揚げたてをつまんで、何度ヤケドしたことか。」
と笑っていました。【0】
(言葉の森長文作成委員会 φ)