ヒイラギ の山 9 月 1 週
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○自由な題名
○私の好きな日
★私の長所短所、一番になったこと
○私の祖父母
おばあちゃんの伝記
【1】「まあ、ありがとう。」
 祖母は目を細めた。今日は、祖母の七十歳の誕生日。古希(こき)と言う、おめでたい節目の年齢だ。私は、小さいころから大好きだった祖母にどんなお祝いをしようかずっと頭を悩ませていた。【2】一つ前の六十歳のお祝いのときは、小さくてまだ何もわからなかったので、特別な年の誕生日はこれが初めてである。最初はお小遣いを貯めて、喜ぶものを買ってあげようかと思っていたのだが、お年寄りの気に入るものを選ぶのはなかなか難しいし、お金も足りない。【3】そこで、私は自分にしか作れない手作りの贈り物をすることにした。作文、詩、手紙、絵、私は自分が得意なもので勝負しようと考えた。親友のちかちゃんのように手芸が得意だったらさらによかったのだが。
 【4】私は、いろいろなアイディアを頭にめぐらせた。祖母がびっくりするようなもの、記念になるようなもの、そして何より私らしいものがいいと思った。私は書くこと、創作が大好きだが、とりわけ、物語を作るのが好きだ。【5】そうだ、祖母の登場する物語、いや、いっそのこと、祖母の伝記を作ってみよう。私は自分の壮大な企画に驚いたけれど、まだ時間はあるし、ぜひやってみようと思った。祖母にわからないように、母や親戚のおばさんたちから話を集め、少しずつ書き溜めた。【6】祖母が若いころのモノクロの写真も手に入れた。父の手も借りて、パソコンを使って編集した。字は祖母に読みやすいように大きなフォントにした。きれいな色のかわいいイラストも入れた。∵
 【7】お祝いの会直前に仕上がった「おばあちゃんの伝記」は、予想以上のできばえで、大人たちの豪華なお祝いの品にも見劣りがしない気さえした。うれしいことに祖母は、会の間中、何度もそれを手にとって見ていた。【8】私は、正直なところ、自分がここまでできると思わなかったので、どうしてこんなにがんばれたのかを考えてみた。そして、作っている間中、いつも祖母の喜ぶ顔を思い浮かべていたことに気付いた。【9】今までは、祖母からしてもらうことばかりだったけれど、今度は祖母を喜ばせることができるかもしれないという思いが原動力となっていたのだ。私は、この体験を通じて、人間にとって贈りものとは、贈る相手のことを考え、それを形にするという行為なのだなあと思った。【0】

(言葉の森長文作成委員会 φ)