ヌルデ2 の山 10 月 1 週
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○自由な題名
◎はじめてできたこと
★私の好きな遊び、お父(母)さんの仕事

○英語の「コンピュータ」を(感)
 【1】英語の「コンピュータ」を無理矢理日本語にすると、「電子計算機」ということになるだろう。しかし今どき「コンピュータ」で単純な計算だけしている人はあまり居ない。「コンピュータ」とは、計算はもちろんのこと、さまざまな情報を入れたり出したり保存したり整理したりするものだ。【2】フランス語の造語である「ordinateur(オーディナトゥール)」とは、英語の「orderオーダー」と同じく、「命令、指図する」とか「順序、順番」「整理、整頓」「注文」といったような意味合いになる。【3】これこそ「コンピュータ」を意味する言葉として最適ではないか。その証拠にスペインでも英語の「コンピュータ」という単語は使わず、フランスの「オーディナトゥール」に似た綴りの「ordenador(オルデナドール)」という単語を使っている。
 【4】このように、現代の日本でも、英語をそのまま安易にカタカナ語にして使用するのではなく、ちゃんと意味が分かるような日本独自の造語を作ればいいのだ。そして外国語の仕入れ先として、米国だけに頼ってしまっていては駄目だ。【5】世界中の言葉を見回して、単語の意味を吟味する。その中で、一番よいと思われる外国語を参考にして日本語の造語を作るようにしなければならない。
 過去に遡れば、日本でも明治維新の頃には外国語に対する日本語の造語が数多く作られていたのだ。
 【6】政治でも経済でも学問でも、世界から遅れをとっていた日本は、国際化に向けてさまざまな努力をした。その一環として、まずは外国語を日本語に変換する作業を始めたのだ。考えに考えて、日本ならではの言葉を作った。【7】その良い例が「経済」や「経営」などといった単語だ。これらは日本で作られた単語だが、今では漢字の本場である中国に逆輸入され、中国でも普通に使われるようになった。僕の専門分野である数学に関する中国での専門用語も、日本人が考えて作ったものが多いのである。
 【8】こうしてざっと調べるだけでも、明治時代には最先端の技術や∵科学、医学などが輸入されると同時に、それに伴う日本語の考案にも尽力していたということが分かる。それらの言葉は、決して安易なカタカナ語のようなものではなかった。【9】だからこそ、当時日本で作られた言葉の大多数が、今の中国でも使われるほどになったのだ。
 ところがその後、言葉を作る努力を怠り、ついには完全に放棄してしまった。僕が思うには、それは戦前の頃からだろう。【0】医学の世界ではドイツ語を使うために、医者は「カルテ」や「メス」などという言葉を使うようになった。それが、医学界だけではなく広く一般に流通し、やがてカタカナ語として定着してしまったのだ。
 これだけカタカナ語が氾濫している現代だからこそ、明治維新の頃の日本に戻り、日本語の大掃除をすれば面白いと思う。今のカタカナ語の半分でも日本語に作り直す。定義作業に関しては多くの専門家などに意見を聞き、造語の候補をいくつも出してもらう。その大本として、国語審議会が大いに働けばよいのである。
 日本人の固有の発想で新しく言葉を作る。これはとても素晴らしいことだと思うのだが、皆さんはどう思われるだろうか。

 (ピーター フランクル『美しくて面白い日本語』(宝島社)より)