ユーカリ2 の山 10 月 1 週
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○自由な題名
◎石
★スポーツの勝ち負け、けんか
○流氷の底には(感)
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【1】流氷の底には、植物プランクトンがはりついています。このプランクトンをアイス・アルジーといいます。アルジーとは藻類のことで、アイス・アルジーは海氷の底にはりつく藻類の仲間です。この藻類で、流氷の底の部分が茶褐色になるほどです。【2】氷の中や氷の底について冬をすごしたアイス・アルジーは、氷が溶ける春に爆発的な大増殖をおこないます。春になり太陽の高度も上がって、日ざしは日一日とつよくなっていきます。【3】流氷が溶けていく一方、アイス・アルジーは海水中の豊富な栄養分(無機塩類)を得ながら、十分な日の光によって光合成をおこない、増殖します。こうして、大増殖する植物プランクトンは、海中の無機物を有機物に変えて生活し、ほかの生物の餌となります。
【4】なぜ、このような大増殖が、流氷の海でおこるのでしょうか。海の浅いところは、本来は栄養分が少ない場所なのです。太陽の光は、海の浅い部分にしかとどきません。浅い部分では、植物プランクトンは光合成をおこない、栄養を消費してしまいます。【5】そのため栄養分は少ないのです。一方、深海には光がとどかず、光合成ができないため、栄養分は蓄積されていきます。しかし、表層の植物プランクトンは、深海の栄養分を利用することができません。
【6】ところが、流氷の海のメカニズムは、深海にたまった栄養分を浅いところまで上げてくるのですから、驚きです。
海水が凍るときは、真水の部分だけが氷となって、濃い塩水が海氷から海中にはきだされます。【7】大部分の塩分ははきだされるのですが、一部は海氷の中に閉じこめられます。この閉じこめられた濃い塩水は、ブラインとよばれます。知床博物館の観察会で流氷を溶かして飲んでみたら、薄い塩味がしました。これは氷の中にブラインをふくんでいるからです。
【8】氷の中のブラインは、時間がたつとだんだん下に移動して、海水中に抜け落ちていきます。流氷からはきだされたブラインや氷が溶けた冷たい水は、表層の海水より重いので、海の底まで沈んでいきます。そして、入れかわりに、深層の海水が浮かび上がってくるのです。【9】これを湧昇(ゆうしょう)流とよびます。∵
流氷があることで、海の水が大きく循環するのです。それによって、海の底にある栄養分が浅いところまで上がってきて、植物プランクトンがこの栄養分を利用できるようになるのです。【0】湧昇(ゆうしょう)流のあるところでは、この栄養分と日光により植物プランクトンが増殖し、これを餌にする動物プランクトンや魚類も集まります。そして海鳥も海の哺乳類も集まってくるのです。
オホーツク海が豊かな海となっているもうひとつの理由は、シベリア大陸を流れてオホーツク海にそそぐアムール川にあります。アムール川はそれ自体が海氷をつくりだす役割をはたしているのですが、流域の湿原や森林から供給される栄養塩類や微量元素が、オホーツク海を豊かな海にしていることが、最近の研究でわかってきました。なかでも鉄は光合成には重要な元素で、春の植物プランクトンの大増殖をささえています。また、アムール川から供給された栄養物質や河口付近の大陸棚の栄養分は、オホーツク海の中層を流れる海流によって、北海道近海まではこばれます。
日本とヨーロッパをむすぶ航空路は、シベリア上空を通ります。日本を発った航空機は、日本海をぬけ、ロシア沿海地方のシホテーアリン山脈の大森林(ここも世界自然遺産です)上空を通って、アムール川流域を横断します。眼下には、大きく蛇行して流れる大河アムール川と、流域の大湿原地帯をのぞむことができます。
世界でも一〇本の指に入る大河アムール川がはぐくむオホーツク海。その南端に位置する知床の海は、シベリアの自然とも深くつながっているのです。
(中川元「世界遺産・知床がわかる本」による)