フジ の山 12 月 1 週
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○自由な題名

★朝寝坊、おいしかったことまずかったこと

初めての遅刻
 【1】私は朝寝坊などしたことがない。いつも早寝早起きを心がけ、時間的余裕を持って行動している。それはなぜかというと、以前、父から「会社に遅刻して上司を激怒させた」という話を聞いたことがあるからだ。
 【2】父はそのことをまるで笑い話のように語るが、私は、とてもそんなのん気にはなれない。私の学校の先生は、みんな厳しいのだ。そんな先生たちに叱られて、震え上がるような思いをするのは絶対に嫌である。
 【3】理由はもう一つある。そうした生活パターンのおかげで、私は六年生になるまで、ずっと皆勤賞を続けていた。卒業まであと数ヶ月。六年間の皆勤は、私の大きな目標でもあった。
 しかし、私のそんな頑張りがあっさりと無駄になる出来事が、つい最近起こってしまった。【4】その日も私は寝坊をしなかった。定刻に起きて、家を出発したのである。それなのに、乗り込んだ電車が止まってしまったのだ。
 車内アナウンスが、電線に異常があり走行できなくなった、と伝えていた。私は呆然とした。【5】このままでは遅刻はまぬがれない。それも、ひどい大遅刻だ。せっかくこれまで気をつけてきたというのに、しかも自分の責任ではないのに!
 携帯で母に電話をかけると、速報が出ているから学校も分かっているはずだ。【6】あなたは怪我をしないように気をつけなさい、と優しく言ってくれた。そうやって落ち着かせてもらうまで、私の頭は焦りと苛立ちで混乱していた。
 しばらく待っても電車は動く気配がない。ついに、私たちはその場で電車を降ろされ、次の駅まで歩く羽目になった。
【7】「今からドアを開きます。お体をお離しください。お降(お)りになる際は、押し合わずゆっくりとお願いいたします。」∵
 そんなアナウンスを聞いて、私は「いつもは乗るときに同じことを言っているのにな」と少し面白くなった。【8】このころには、普段のペースから外れた特別な状況を、どこか楽しめるようになっていたのである。
 長々と続く線路。普段なら決して見ることができない光景だ。その上を歩いていると、昔見た古い映画のワンシーンが思い出されて、思わずうきうきしてしまった。
 【9】学校に到着したのは、一時間目の授業が終わるころだった。教室に入った私を、担任の先生は気の毒そうに見た。母の言ったとおり、遅刻の理由も、そして私が皆勤を目指していたことも知ってくれていたのだろう。今日、遅刻したのは自分のせいではない。【0】しかし私は不思議と、素直に「すみません」と謝ることができた。
 人間にとって、たまには時間に縛られず、解放的な気分を味わうのもいいのかもしれない。皆勤賞の夢は途絶えたが、代わりに貴重な体験をすることができた。「急がば回れ」ということわざもある。私は一度くらい、のんびり朝寝坊をしてみるのもいいかな、とふと思った。

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 ι)