ケヤキ の山 1 月 2 週
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★じゆうなだいめい
○新学期、冬休みの思い出
○体がぽかぽか、けんかをしてしまったこと

○そうじがおわって(感)
 【1】そうじをおわって、わたしがかえろうとすると、運動場から、バラバラと男の子たちがやってきて、わたしをとりかこみました。
 (こりゃ、ひとあばれけんかをしなけりゃならなくなったぞ。)わたしはそう思いました。【2】でも、けっして、その男の子たちがにくらしかったわけではありません。ほんとうは、はやく、その子たちといっしょになってあそびたかったのです。めいわくだったのは、むしろしんせつにしてくれる女の子でした。
 【3】(あの子がこなければよいが。)みんなにかこまれて、わたしがそうおもったとき、もう女の子は見つけて、こちらにかけてくるのがわかりました。
 【4】と、わたしは、いちばんちかくにいた男の子を、ポカンとぶっていました。それから、とっくみあいになりました。ほかの男の子たちは、わたしの先手に、いささかあきれたかっこうです。
 【5】女の子は、それを見ると、わたしがさきに手をだしたこともしらずに、先生をよびにいきました。とっくみあいになると、なかなかしょうぶがつきません。
「おい、先生がきたぞ。」
 だれかがいいました。そして、ほかの男の子たちが、学校の外へにげだしました。【6】わたしも、とっくみあいをちゅうしして、みんなといっしょに、にげました。
 わたしは、ごくしぜんにみんなといっしょににげだせたのがうれしくてたまりませんでした。わたしたちは、学校が見えなくなるまで、フーフーいいながら走りました。【7】そして、ひとりが草の中へ、
「ああ、しんど。」
とたおれこむと、みんなも草の中へころがりました。わたしは、いまさっきけんかをしたこともわすれていました。ところが、あいてはわすれていなかったのです。とつぜん、おかしなことをいいだしました。
【8】「おまえ、へびつかめるか。」
「つかめらい。」
 わたしは、そうこたえずにはいられませんでした。それに、へびなど、そうかんたんにいるものとはおもっていませんでした。
「大阪の天王寺の動物園には、こんなふといへびがいるぞ。【9】おら、そいつにさわらせてもらった。ぬるっとして、手がぬれたぞ。」
 なぜ、じぶんのいちばんおそれていることを、わたしはわざわざしゃべってしまったのでしょう。もちろん動物園で、にしきへびに∵さわれるわけがありません。【0】へびがぬるっとしていて、手がぬれるなんて、まったくでたらめです。いいえ、わたしはそんなゆめを見て、いく夜(よ)うなされたかしれません。
 ところが、あいての男の子は、そのとき、まったく手じなのように、草むらの中から、へびをみつけだしたのです。しっぽをつかむがはやいか、バン、バンと、土の上にたたきつけました。小さなしまへびではありましたが、わたしはもうぶるぶるとふるえていました。
「さあ、つかめ。もうかみつきよらん。」
 みんなは、わたしがどうするか見まもっていました。
「はよう、つかまんか。こわいのか。」
 わたしはだまってつかみました。つかむとどうじに、それをぶんぶんふりまわしました。とても、じっとなどつかんでいられませんでした。へびは、すこしもぬるっとなんかしていませんでした。むしろざらっとしたかんじです。これはほんとうにいがいでした。
 わたしはへびをふりまわしながら、みんなにちかづけました。さすがにみんなにげました。ふと気がつくと、むこうのほうから、さっき学校でいっしょにそうじをしていた、女の子たちがふたりでかえってきます。わたしはへびをふりまわしながら、その子たちのほうへ走りました。
 女の子は、わたしがそんなことをしているのを見ると、ハッとしたようにたちどまってから、それがへびであることがわかると、キャッとさけんで、にげだしました。
 なんでそんならんぼうをしたのか、じぶんでもふしぎでした。
 あくる朝、先生からたいへんおめだまをいただきました。
「なにもわるいことをしないへびをころして、おまけに、女の子をいじめるなんて、いちばんひきょうもののすることだぞ。」
 先生にそういってしかられました。つくえをならべた女の子は、わたしをよけるように、つくえのはしっぽにすわり、口もきいてくれなくなりました。
 へびをつかむなんて、ほんとうにつまらぬことです。でたらめのうそをいったばかりに、じぶんのいちばんきらいだったへびをつかんでみせなければなりませんでした。
 でも、そんなことがあってから、わたしは、すぐ山の友だちとなかよしになりました。へびもこわくなくなりました。二年ほどしかいませんでしたが、たのしい山の小学校でした。
「ほらふきうそつきものがたり」(今西祐行())より