ネコヤナギ2 の山 1 月 2 週
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○自由な題名
○新学期、冬休みの思い出
○忘れ物をしたこと、寒い朝

★(感)私たちはヒトという
 【1】私たちはヒトという動物である。この動物は何故かやたら自分だけが他の動物と違うと思いたがる。いわく、理性をもつのはヒトだけだ、他の動物は本能のおもむくままに生きているに過ぎない、いわく、言語をもつのはヒトだけだ、【2】他の動物の声は情動のおもむくままに発せられているに過ぎない、いわく、自分のしていることがわかるのはヒトだけだ、他の動物はそんなことを意識していない、うんぬん。こういうヒトだけに与えられた特権のおかげで、ヒトは全地球を支配するに至った、ヒトは偉い、と。
 【3】本当にこんなに自信満々でいいのだろうか。
 ヒトは確かに他の動物とはいろいろな点で異なっている。四足動物なのに二本脚で歩く。体に比べて妙に頭が大きい。ほ乳類の一種なのに、体毛が極めて薄い。体に似合わない巨大な巣を作る。【4】動物界の中では確かに変わり種かもしれない。しかし、だからといってヒトは偉いということにはなるまい。動物界を探せば、変わり種なんぞ、それこそゴマンといる。
 なぜヒトは自分たちだけが他の動物と隔絶した存在だと思いたがるのだろう。
 【5】私が小学生だったとき、クラスに双子の転校生がやってきた。一卵性双生児で、とてもよく似ている。いつも同じ服を着ており、どうにも区別がつかない。担任の先生も、座っている席で区別していただけだ。向こうがその気になれば、だますのはいとも簡単である。【6】ところが、一ヶ月もすると、二人の微妙な違いがわかるようになり、そのうちに、一瞬で見分けられるようになった。別にホクロのありなしとか、そんな特徴で覚えたわけではない。毎日一緒に遊んでいるうちに、なんとなくわかってきたのである。【7】いったんそうなってしまうと、今度は二人を見分けられない人の方が不思議に思えるようになった。
 同じような経験はたぶん誰にもあるのではないだろうか。慣れた∵目でみると、どんな小さな違いでも大きくみえる。【8】逆に見慣れないものはどんなに大きな違いがあっても区別のつかないことがある。
 ヒトが自分たちだけが隔絶した存在だと考えたがるのは、結局これと同じことではなかろうか。自分たちは自分たちの仲間の微妙な違いがわかる。【9】そういう目でみれば、サルや類人猿は、ヒトとはとんでもなく違っている。逆に他の動物相互間の違いはほとんど見過ごされてしまう。チンパンジーとゴリラの区別のつかない人は多い。きっとチンパンジーからみれば、逆にチンパンジーだけが他の動物たちと隔絶して見えるに違いない。
 【0】そういう問題じゃない、ヒトは賢いのだ、というかもしれない。ヒトが自分たちは偉い、と自慢するとき、決まって引き合いに出すのがこの「頭の良さ」である。だがこれとて怪しいものだ。たとえばもし知能検査の項目に、問題に答えるまでの時間があったとしたら、ヒトは絶対にチンパンジーには勝てない。チンパンジーの反応時間はヒトに比べると圧倒的に速いのである。ヒトにはほとんど区別のつかない二枚の写真の微妙な違いを、ハトはすぐに見つけることができる。何をもって「頭が良い」とするかによって、順位は当然変わってくる。ヒトは自分たちに都合の良い項目を「頭の良い」の指標に選ぶからこそ、一番でいられるのだ。
 ミツバチは生まれたときから自分の仕事を知っている。働きバチは生まれてからの日齢(にちれい)に応じて巣の掃除や幼虫の世話や食物調達などの仕事を次々とこなしていく。ヒトはといえば、いい年にもなって、いまだに自分の仕事が見つけられずにブラブラしている輩もいる。生まれてから大量の情報を吸収して、学習に学習を重ねてやっと半人前になれる動物と、何もしなくても自然にその種としての行動を始める動物と、どちらが賢い生き方なのか、判断は難しい。
(藤田和生の文章による)