ケヤキ の山 2 月 2 週
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★じゆうなだいめい
○雪や氷、なわとび
○ゆきやこおり、すきな人
○ぼくは、べんとうを(感)
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【1】ぼくは、べんとうをとりだそうとして、ごそごそと、カバンの中をさがしました。
そのころは、きゅうしょくはありませんでした。
みんな、アルミニュームのべんとうばこに、ごはんとおかずをつめて、もってきていたのです。
【2】ところが、どんなにさがしても、べんとうばこはありませんでした。
わすれんぼうの名人だったぼくは、しゅくだいはもちろんのこといつだって、べんとうをわすれるくせがありました。
【3】かあさんが、毎朝つくってくれるのに、ぼくは、うっかりして、台所のすみっこだのつくえの上だのに、一しゅう間に、一かいや二かいは、かならずわすれました。
【4】そんなとき、ぼくはうちまでかけていっては、かあさんたちに、
「また、べんとうがないてるずら。」
なんて、からかわれながら、つめたくなったごはんを、口の中へながしこむようにいそいでたべたものです。
だから、その日も、そうすればよかったのです。
【5】ところが、その日は、となりの源(げん)ちゃんが、あわてたぼくのようすを、じっと見つめて、そして、やさしい声で、じしんありげに、そっと、ささやいたのです。
「そうか! のんちゃんわかったよ。おめんちは、お米(こめ)がないんだろ。【6】おらあ、おめえ、よくべんとうわすれるなあって、おもってたけど、そうじゃあなかったのか。そうだったのか。」
そういわれると、ぼくも、ほんとに、そんな気もちになってくるのでした。
【7】だから、源(げん)ちゃんの同情したことばにはなんにもこたえないで、あわてていすにすわりなおし、しょんぼりと下をむいていました。
ちょうどそのとき、前沢(まえざわ)先生が、はいってきたのです。
【8】「おおい、きょうは、みんなと会食するぞ。」
と、いわれてから、もじもじしているぼくに、気がついたのでしょう。
「代田(しろた)、どうした。」
と、たずねました。
ぼくはきゅうにかなしくなってきて、「ううっ。」と、しゃくりあげて、なきだしたのです。∵
【9】すると、源(げん)ちゃんが、
「先生、のんちゃんは、べんとうがないんです。」
と、べんかいしてくれたのでした。
先生は、気にもしないで、
「ああ、そうか、わすれたのか。」
と、いってから、教だんのつくえのほうにいこうとしました。【0】ところが、源(げん)ちゃんは、
「先生、そうじゃあないんです。のんちゃんは、べんとうがもってこられないんです。」
と、おもわせぶっていったのです。
ぼくは、ぎょっとしました。
いや、ぼくよりも先生のほうが、もっとおどろいたようでした。
「そうかあ!」
と、しばらくたちどまって、かんがえているようでした。
それから、おもいだしたように、
「ああ、きょうはつごうで、会食はやめだ。」
と、いわれてから、
「代田(しろた)、はなしがあるから、いっしょにこい。」
と、気のどくそうに、やさしい声でぼくにはなしかけるのでした。
先生は、ぼくを、ようむいん室のとなりのたたみのへやに、つれていきました。
それから、りょう手で、ぼくのかたをかるくたたいてから、
「おまえ、ずーっと、おべんとうをたべていなかったのか?」
と、ききました。
ぼくは、みょうにみじめな気もちになってきました。
――はい――、というかわりに「こくり」と頭をさげました。
すると、いよいよ売られていったあわれな東北の子どもにおもえてきました。
しゃっくり、しゃっくりをくりかえしながら、なきだしていました。
「ほらふきうそつきものがたり」『げんこつゴツン』(代田昇)より