セリ2 の山 3 月 2 週
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○自由な題名
○種まき
★春を見つけた、おどろいたこと
○先生だって人間だぞ!
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【1】しんがっきが、はじまりました。
ぼくたちの四年男子組のうけもちは、となり町からうつってきた森先生にかわりました。
森先生は、はじめてのじゅぎょうのとき、
「きょう女子組の先生から、男子組のせいとが、ヘビのようなものをつかって、女子をおどしたり、なかせたりするものがいるから、げんじゅうにちゅういしてくれといわれた。【2】よわいものいじめはよせ! 男子らしくないぞ。」
といって、口をきつくむすんで、こわい顔をして見せました。ぼくたちの組の男子は、そのはん人が、だれであるか、ひとりのこらずしっていましたが、みんなしらん顔をしてだまっていました。
【3】そのとき、ガキだいしょうの勝五郎が、「ふん」と、はなをならしました。勝五郎は、よくないことをけいかくするまえに「ふん」とはなをならすくせがありました。(で、あいつ、なにかやるつもりだな。)と、ぼくはすぐかんじたのです。
【4】この小学校でも、あたらしい先生がきたときは、なにか、いたずらをして、先生をびっくりさせたり、おこらせたり、おおわらいをして、からかったりするのが、しきたりのようになっていました。【5】いたずらのさしずをするのは、ずうっとまえから、まえのガキだいしょうが、つぎのガキだいしょうにひきつぐとりきめになっていたのです。
「おい、みんな、ひる休みに校ていのサクラの木の下にあつまれ、省ちゃんは、ぞうりぶくろをもってくるのだぞ。」
【6】勝五郎のめいれいが、耳から耳へまたたくまにつたわりました。
ぼくが、ぞうりぶくろをもってサクラの木のところへいくと、もう、勝五郎の子分いちどうが、顔をそろえてまっていました。
【7】勝五郎は、ぼくから、ぞうりぶくろをうけとると、じぶんのふところから、ぼくのヘビをひっぱりだしてふくろの中にいれました。
「いいか、みんな、このふくろを、教卓の上にのせておくんだ。【8】先生が、だれだ、このようなけがらわしいものをここにおいたのは、とかなんとかいいながら、ふくろの中に手をいれる……、それからは、見てのおたのしみだぞ。」
勝五郎は、そこでまた、「ふふ」と、とくいのはなをならしました。∵
【9】いたずらがうまくなければ、ガキだいしょうにはなれないというけれど、まったく、そのとおりでした。
いよいよ、午後のじゅぎょうはじめのかねの音が、きこえてきました。
四年男子組のきょうしつの中は、しいーんと、しずまりかえっています。【0】これから、なにがおきるか、みんな、おもいおもいのばめんを頭にうかべて、いきをのみこんでまっていたのです。
やがて、ろうかのむこうから、先生の足音がきこえてきました。ガラッと、音をたてて、ドアがひらき、一ぽ一ぽ、先生が教卓にちかづいてきます。それから(なんだこれは?)とふくろに手をかけるまでの、はらはらどきどきのスリル……、このすばらしい気もちを、なににたとえていったらよいのでしょう。
先生は、勝五郎がかいた、げきの台本(すじがきの本)をそっくりそのまま、じつえんするように、ふくろをもちあげ、口をひらいて中に手をいれました。
「なにがはいっているんだ。けったいなものだぞ、これは……。」
そこまでのことばは、ふつうのおちついたちょうしでした。が、つぎのしゅんかん!
「うわっ?」
先生は、せいとが目のまえにいるのもわすれ、はじもがいぶんもふっとばしたような、さけびをあげながら、手にもったヘビを、まどをめがけてなげつけました。
ほんもののヘビだとおもって、びっくりぎょうてんしている先生を見て、ぼくたちは、わあ!と、かんせいをあげました。なんだか、むねの中にたまっていたものが、ふっとんでいくようなふしぎな気もちがしました。
が、先生は、まどガラスにぶつかって、ゆかいたの上におちてきたヘビを見て、はじめて、これがもんだいのヘビのおもちゃとわかりました。すると、おそろしさが、はずかしさにかわったのでしょう。青くなった顔が、まっかないろにかわりました。そして、ぞうりぶくろにかいてある名まえをよむと、すぐ、ぼくのまえにきて、
「人間は感情のどうぶつだぞ! おれだって、人間だぞ! ばかにするな!」
と、大声でどなりながら、ぞうりぶくろで、ぼくのほおを力まかせになぐりつけました。
ぼくが、うるんだ目で、勝五郎のほうを見ると、かれは、しらん顔で、「ふん」とよこをむきながら、また、はなをならしているのが、なみだににじんで見えていました。∵
ぼくは、そのとき、はじめて「人間は感情のどうぶつだぞ!」ということばをおぼえたのでした。そうして、六十年もたったいまでも、そのことばが、なぐられたいたさとともに、ぼくの心の中にいきつづけてきたことを、わすれることができません。
『いたずらわんぱくものがたり』「先生だって人間だぞ!」(猪野省三)より