タラ の山 4 月 2 週
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○自由な題名
○こわかったこと
★初めて何かを食べたこと、学校へ行く道

○地獄の沙汰も(感)
 地獄の沙汰も金しだい

 【1】「沙汰」とは、結果とか取りきめのこと。地獄でうけるえんま大王の裁判の結果でさえも、お金をだせば有利になるという意味。そこから、世の中はお金さえあれば、なにごとも思うがままになる、というたとえだ。
 【2】このように、世の中でお金がいちばん大切、と考える人はたくさんいる。たしかに人間が生きていくのに、お金は必要なものだ。けれど人には、お金よりもっと大切にしなくちゃいけないものが、あるんじゃないかな。【3】たとえば、人と仲よく平和にくらしていくこととか、まじめに働くこととか、正しいと信じることはつらぬくといったことなどだよ。大人になって、お金だけがすべて、という人間にはなってもらいたくないな。
 【4】地獄ってどんなところか知ってる? 地下の牢獄のことだ。この世でわるいことをした人間が、死んでからいく場所のこと。えんま大王は、地獄でいちばんえらい主だ。死んで地獄にきた人間の裁判をする。死者が生きていた時のおこないを裁いて、罰をきめる。【5】赤い血の色の衣装をまとって、冠をかぶり、目をいからせて、手には罪人をしばるなわをもっている。えんま大王が裁判をやる時、死んだ者がやったことをしらべるものを、えんま帳というんだ。そばには、命令をうけて罪人をこらしめる鬼がひかえている。
 【6】地獄のえんま大王がでてくる熊本県のむかし話がある。
 ――むかし、千五郎という役者がいた。芝居がとても上手で、〈千両役者〉といわれたほどだ。ある時、千五郎はきゅうな病でころっと死んでしまった。
 はだかにされた千五郎は、くらいところをずんずん歩いていく。【7】そして、地獄と極楽のわかれ道にきた。えんま大王が、こわい顔をしてすわっていた。
「こらあ、お前は、しゃばではなにをしていたか。」
大王に聞かれ、千五郎は役者をしていた、とこたえた。
「役者だったら、いまからこの前で、芝居をやってみろ。」∵
【8】「こんなはだかじゃ、芝居をやれません。」
 えんま大王が、どんな衣装でも貸してやるといったので、千五郎は、大王の衣装を借りたいと申しでた。大王は、しぶしぶ貸してくれた。
 千五郎は大王の衣装を着ると、こしから剣をひきぬき、大きな声でいった。
【9】「おおい、赤鬼、青鬼ぃ。こっちへきて、その男をつかまえろ。そして地獄へ追いやるんだあ。」
 大王はちがうちがうとさけんだが、鬼たちは大王をひっとらえて地獄へ追いやってしまったんだ。そのあと地獄の入り口では、千五郎がずっとえんま大王をやっているそうな。【0】

 「常識のことわざ探偵団」(国松俊英著 フォア文庫)より