サツキ2 の山 5 月 2 週
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○自由な題名
○何かを作ったこと、飼っている生き物のこと
★りょうりを作ったこと、ゴールデンウィーク

○ひとつの火(感)
ひとつの火

 【1】わたしが子どもだったじぶん、わたしの家は、山のふもとの小さな村にありました。
 わたしの家では、ちょうちんやろうそくを売っておりました。
 ある晩のこと、ひとりのうしかいが、わたしの家でちょうちんとろうそくを買いました。
【2】「ぼうや、すまないが、ろうそくに火をともしてくれ。」
と、うしかいがわたしにいいました。
 わたしはまだマッチをすったことがありませんでした。
 そこで、おっかなびっくり、マッチの棒のはしの方をもってすりました。【3】すると、棒のさきに青い火がともりました。
 わたしはその火をろうそくにうつしてやりました。
「や、ありがとう。」
といって、うしかいは、火のともったちょうちんを牛のよこはらのところにつるして、いってしまいました。
 【4】わたしはひとりになってから考えました。
 ――わたしのともしてやった火はどこまでゆくだろう。
 あのうしかいは山の向こうの人だから、あの火も山をこえてゆくだろう。
 【5】山の中で、あのうしかいは、べつの村にゆくもうひとりの旅人にゆきあうかもしれない。
 するとその旅人は、
「すみませんが、その火をちょっとかしてください。」
といって、うしかいの火をかりて、じぶんのちょうちんにうつすだろう。
 【6】そしてこの旅人は、よっぴて山道をあるいてゆくだろう。
 すると、この旅人は、たいこやかねをもったおおぜいのひとびとにあうかもしれない。
 その人たちは、
「わたしたちの村のひとりの子どもが、狐にばかされて村にかえってきません。【7】それでわたしたちはさがしているのです。すみませんが、ちょっとちょうちんの火をかしてください。」
といって旅人から火をかり、みんなのちょうちんにつけるだろう。【8】長いちょうちんやまるいちょうちんにつけるだろう。∵
 そしてこの人たちは、かねやたいこをならして、山や谷をさがしてゆくだろう。

 【9】わたしはいまでも、あのときわたしがうしかいのちょうちんにともしてやった火が、つぎからつぎへうつされて、どこかにともっているのではないか、とおもいます。【0】


「新美南吉童話作品集」