タラ の山 6 月 2 週
◆▲をクリックすると長文だけを表示します。◆ルビ付き表示▲
○自由な題名
○私の夜(よる)
★水や土で遊んだこと、カタツムリを見つけたこと
○どんぐりの背比べ(感)
◆
▲
どんぐりの背(せい)比べ
【1】どんぐりは、どれも形や大きさがおなじようで、一つ一つのちがいはよくわからない。そこから、人間をくらべる時に、みんなおなじようでとくにすぐれたものがいないことをいう。
このことわざは、平凡なものばかりをくらべる時に使い、すぐれたものをくらべる時には使わない。【2】クラスの成績で、上位のものは力がそろっていて、だれが一位か二位かわからないような時には、「どんぐりの背(せい)比べ」とはいわない。どうしてことわざに「どんぐり」がでてきたんだろう?
それは、どんぐりがとてもありふれた木の実だからだ。【3】どんぐりは、特定の木の実じゃない。ブナ科ナラ属(ぞく)の木になる実は、みんなどんぐりだ。つまり、カシ、クヌギ、コナラ、ミズナラ、カシワ、といった木になる実はぜんぶ「どんぐり」とよぶんだ。【4】木の種類はちがい、幹や葉の形などはちがっても、その木にできたどんぐりをくらべてみると、みんな似ているように見える。そこから、このことわざがうまれたと思われるよ。
ところで、宮沢賢治という人が書いた童話に「どんぐりと山猫」というのがある。【5】作品のなかみは、このことわざとつながるところがあるよ。
――ある日、一郎のところに、おかしなはがきがきた。それは山ねこからのもので、あした、めんどうな裁判をするからきてくれ、と書いてあった。
【6】つぎの日、一郎は、谷川にそって、くりの木、滝、きのこ、りすなどに道を聞きながら、どんどん山の中に入っていった。そしてかやの森への坂道をのぼると、ぽっかりと草地がひらけていて、そこに山ねこがあらわれた。
【7】そこへ、赤いズボンをはいたどんぐりが、いっぱい飛びだしてきた。どんぐりたちは、だれがいちばんえらいかをあらそっていて、山ねこに裁判してもらっていたのだ。頭がとがったのがいちばんえらいとか、丸いのがえらいとか、大きいのがえらいとか、口ぐちにいいはる。【8】もう三日も裁判をやってるのに、ちっともおさまらないのだった。∵
その日も、みんな自分がいちばんえらいといい、わけがわからなくなってしまった。山ねこはどうしたらいいかをたずね、一郎はこたえた。
【9】「この中で、いちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなってないようなのがいちばんえらい、といったらどうでしょう。」
山ねこは、そのとおりどんぐりたちに申しわたした。すると、どんぐりたちはしいんとして、だれもなにもいわなくなった。【0】裁判はおわった。山ねこは大よろこびで、お礼に金のどんぐりを一升くれたのだった。
「常識のことわざ探偵団」(国松俊英著 フォア文庫)より