ケヤキ の山 1 月 3 週
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★じゆうなだいめい
○寒い朝、体がぽかぽか


★小学校一年生の三がっき(感)(できるだけ自由な題名で)
 【1】小学校一年生の三がっきのことです。こくごのべんきょうで、かん字が、十二、三字出そろい、それらを、三十かいずつ、ノートに書くしゅくだいがでました。【2】絵をかくとか、作文を書くというのなら、そんなにいやではなかったのですが、わかりきった字をなんかいも書いたり、たしざんやひきざんのけいさんもんだいを、たくさんやらされるしゅくだいは、とてもにがてでした。
 【3】(三十かいずつか。いやだなあ。日、日、日……。人、人、人……。山、山、山……。ああ、いやだなあ。わかっている字じゃないか。いやだなあ……。)とおもっているうちは、まだいやいやでも家にかえったら書こうとおもっていました。
 【4】ところが、学校の門をでて、山のすそをとおり、小川の土(ど)ばしをわたって家についたころには、すっかりわすれてしまいました。
 しゅくだいをわすれるのと、ひきかえのようにおもいだしたことがあります。【5】というのは、その日が、毎月買っているざっしの売りだし日だったのです。
 さっそく、ざっしを買うお金をもらって、やく二キロメートルはなれている、小さな町の本屋へでかけました。うめの花を道みち見ましたが、風はまだつめたかったようです。
 【6】そのころ、テレビなんてものはありませんでした。ラジオも、まだ町にしかありませんでしたから、毎月のざっしが、なによりのたのしみでした。
 ざっしを買って家にかえってくると、からだじゅうがほかほかしていました。【7】ときどき、グラビヤのところをのぞいてたちどまったり、小走りにあるいたりしてきたのです。
 夕食まえに、ふろへはいるように母にいわれましたが、「あとにする。」といって、まずざっしをよみつづけました。
 【8】ねるまえに、いちどカバンの中でも見ればしゅくだいをおもいだしたでしょうが、そのころのぼくは、本もどうぐも、みんなカバンにいれっぱなしで、学校と家とをおうふくしていました。しゅくだいをわすれなければ、けっして、カバンの中のものをとりだすひつようがなかったのです。∵
 【9】さて、もんだいはそのあくる日です。こくごの時間がはじまり、しゅくだいをしてきたノートを、つくえの上にひろげることになりました。
 (あっ、そうだった。あの、いやなしゅくだいがあったっけ。)と気づいたが、もうなんともなりません。【0】せめて、はじまるまえにでも気づいていたら、すこしは書いておけたのでしょうが。
 たんにんのわかい女の先生は、かくべつきびしかったのです。(さあ、どうしよう。しかたがない。しょうじきにいおう。わすれました。)と。そうおもって、先生に見てもらうばんを、びくびくしてまっていました。
「はい、どこにやってありますか?」
「わすれました。ぼくう、すっかりわすれてしまいました。」
「わすれた? どうしてわすれたの? わすれたといえばすむの?なまけたのでしょう?」
「なまけたんじゃありません。」
「なまけたのでしょう。」と、いわれて、きゅうにくやしくなりました。
「なまけたんじゃなかったら、どうしてやってないの?」
「わすれたのです。」
「わすれたといえばすむの? どうしてわすれたの? ただわすれたではゆるしません。」
 さあ、ぼくはこまってしまいました。ざっしのことでわすれたといえば、先生は、よけいおこるにちがいありません。(よし。家の用でやれなかったといおう。)と、とっさにおもいつきました。
「家に用があったのです。」
「どんな用?」
「となり村の水車小屋へ、米を一ぴょうついてもらいにいったのです。」
「あんたひとりで?」
「はい。」
 これは、とんでもないことをいってしまったなとおもいました。でも、そういってしまったいじょうは、それでとおさにゃならんとおもい、あることないこと、おもいつくままにならべました。
「ほらふきうそつきものがたり」(赤座憲久())より