エニシダ の山 2 月 3 週
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★じゆうなだいめい
○バレンタインデー、もうすぐ春が


★すごくきれいね!(感)(できるだけ自由な題名で)
 【1】すごくきれいね! トトが、かあさんをふりむいていいました。
 森の秋。森はきんいろとべにいろの色紙細工です。もっと、あっちへいこう、――トトは、かあさんにせがみました。あぶないわ。いまは、にんげんが山の中をあるきまわるときなのよ。【2】かあさんがとめました。だってこんなにきれいなんだもの。トトはピョコピョコ、シカのよこっとびでかけだしました。そして谷まへの道にでたとたん、
――おッ!
 たちすくんだのはトト。【3】たちどまってさっと鉄砲をかまえたのはにんげんです。わかいりょうしです。かあさんが、ひととびでトトのよこにならびました。そして頭で、トトをぐいと、おしていいます。トト、おにげ! トトはにげない。【4】トトは、とうさんのことをおもいだします。これがとうさんをいなくしちまったにんげんか! トトは夏にあったポロをおもいだします。ゾクッとからだじゅうをむしゃぶるいがはしり、トトは頭をぐっとさげ、するどい目つきで、りょうしをにらみつけました。【5】トト! かあさんが、またおします。けれどトトは、けんめいです。ポロとおなじかまえで、さっととびかかろうとしたとたん、
――あっはっは!
 にんげんがわらいました。
――うてねえな、おまえは……。
 【6】そのわかいりょうしは、鉄砲のつつさきをあげていいました。
――そのちびさんが、かあさんをまもろうってんだからな。
 トトはにんげんのいってることばは、わからない。ただ、かあさんがもうおさないので、きけんがさったことは、わかりました。
【7】――おれにゃ、うてねえよ。
 りょうしは白い歯をみせて、かあさんに話しかけるようにいいました。
――こんなきれいな目のこジカは、ころせねえ。
 かあさんはトトに、ぴったりよりそいました。∵【8】トトはきゅうにぐったりして、そこへすわりこみたくなりました。そのとき、にんげんが、どなるようにいいました。
――おい、早いとこにげてくれよ! また気がかわるかもしれないんだぜ。
 かあさんが、ぐいとトトをおしました。【9】こんどはトトもひととびです。あかるい栗色の二つのてんが森の中にきえたとき、りょうしは鉄砲をかまえて空にむけてうちました。
 グァアン! ……赤と黄のかれはが、パラパラと、りょうしにふりかかりました。【0】

「ぽけっとにいっぱい」『森のシカ、トト』より(今江 祥智)フォア文庫