シオン2 の山 7 月 3 週
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○自由な題名
○お父さんやお母さんとあそんだこと
○暑い日
★ぼくが小学校二年生のころ(感)
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【1】ぼくが小学校二年生のころ、もう三十年いじょうもまえのはなしです。
てい学年のじゅぎょうは午前中です。べんとうをたべおわると、ひるのそうじに上級生が、ぼくらの組にやってきます。
ぼくの組のうけもちは、わかい女の先生です。
【2】ぼくらは、「さようならっ。」と、大声をはりあげて、先生にあいさつすると、教室をすっとぶようにでていくのです。
冬のある日のことでした。
かえりじたくをして、さあ下校だというときになって、ぼくは、先生によびとめられました。
【3】「しみずさん、あなたはちょっとのこっていなさい。」
むこうがわのまどぎわの三、四人が、ほくそえみ、いみありげな顔をして、ぼくのほうを見ながらかえっていきました。
ぼくには、なんのことかわかりません。
【4】(やだなあ。またなんか、手つだいなさいなんていうのかなあ。きょうは、とおるくんと、うら山のどんぐりひろいにいくやくそくしてあるというのに。……)
【5】先生は、いままでも、ときどき、ほうかご、教室のけいじばんに絵をはりだしたり、うしろの黒ばんに絵をかいたりするのを手つだわせるのでした。ぼくがすこしばかりずががうまいからといって、ぼくのつごうもきかないで、先生はいつでも、
「ちょっと手つだってね。」なんていうのです。
【6】だけど、その日、ぼくをよびとめた先生の声には、いつにないきびしさがこもっていました。
みんなかえっていきます。とおるくんも、
「ぼく、さきにいってるよ。あとでこいよ。」といって、かえっていきました。
【7】だれもいなくなった教室。ぼくと先生ふたりだけになりました。すると、先生は、がたがたと、じぶんのつくえの上をかたづけながら、
「しみずくん、きみはろうかにたっていなさい。なにをしたかわかるでしょう。【8】じぶんのやったことがどんなことだか、よくかんがえてみなさい。」
そういって、すたすた教員室へいってしまいました。
ぼくには、まったくなんのことかわかりません。【9】わからないからといって、このままかえってしまったら、あしたまた、ひどくしかられるにきまっています。
「なにかしらないけど、ろうかにたっていろというんなら、たっていればいいだろう。」∵
【0】ぼくは、きょうのごごのあそびのよていがまるつぶれになるのにはらをたてながら、ろうかにたちました。
六年生のそうじとうばんの人たちがやってきました。
(中略)
ろうかをふきそうじしているかれらから、ぼくは、さんざんにいじめられ、からかわれました。
六年生は、そうじがおわって、ぼくの教室からひきあげていきました。
ひる休みがすぎて、ごごのじゅうぎょうがはじまったようです。
あれきり、先生は、教室にやってきません。二時間、三時間とすぎていきました。
(いったい、いつまでたってればいいんだ。なぜ、先生はこないんだ。)
冬の日ざしがずーっと長くなって、校しゃはすっかりさびしくなりました。夕ぐれです。あたりが、うすぐらくなってきました。
二年生の教室は、学校の西北のはずれのほうにあって、教員室ともとおいのです。
(さむいなあ。ぼくをほっといて先生はなにをしてるんだろう。)
とうとう、夜になってしまいました。
足がしびれてきます。たったりすわったりして、ろうかで、先生のくるのをまっていました。
まどがまっくらになり、まどガラスに、ほしがはりつくようにまたたきはじめました。
(もう家では、夕ごはんすんだころなのになあ。)
そんなことをおもって、なきべそかきそうになっているときでした。こつこつと足音がきこえてきました。かいちゅうでんとうの光が、ろうかをはうようにちかづいてきて、パッとぼくをてらしました。
「いったい、なにをしているのだ。そんなところで。」
しゅくちょくの男の先生でした。
「先生がたっていなさいというので、たっていました。」
「なんだ。西沢先生は、きょうはきゅうようで、ごぜんちゅうでかえったよ。きみをたたせて、わすれちゃったのかな。いそいでかえりなさい。」
先生のほうがあわてているみたいでした。ぼくは、くさりをとかれた犬のように、家にむかって、まるくなって、夜道をかけていきました。
「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編 フォア文庫より)