シオン2 の山 8 月 3 週
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★自由な題名
○小さいころから大切にしているもの
○おかしかったこと
★わたしたちは、友だちを(感)
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【1】わたしたちは友だちを三つにわけていました。大すき、中すき、小すきです。
(中略)
わたしはすみちゃんのこと、中すきでしたが、おはじきのルビーいろに光るのを、六こもきまえよくくれたので、大すきになりました。
【2】すみちゃんのうちは、電車どおりから川べりのほうに、ほそ道をおりたところです。すみちゃんのうちの木のくぐり戸のところまでくると、すみちゃんの弟のだいちゃんが、門ばんみたいにつったっていました。
【3】「だめだ。はいっちゃだめ。」
「どうして?」
「かあちゃんがおつかいからかえるまで、だれもうちにいれちゃだめっていわれてる。ねえちゃんには、だれもあえない。」
「でもわたし、すみちゃん大すきだもん。すみちゃんもわたしのこと大すきだもん、いいの、いいの。」
【4】わたしは、だいちゃんをおしのけて、さっさとあがりました。
「すみちゃん。」
ふすまをあけると、すみちゃんはへやのまんなかで、ふとんをいっぱいかけてねていました。
「ウ……ウウ……ウ……。」
【5】へんな声でなにかいったとおもうと、きゅうに、頭までふとんをかぶってしまいました。ふとんの中でもまだ、「ウ……ウ……。」といっています。まるで山ばとが、森のおくでないているような声です。
「どうしたの、なにいってるの。」
【6】わたしはかまわずふとんをはぐって、すみちゃんの顔をのぞきました。
「なあに、その顔。」
びっくりしてしまいました。いつものすみちゃんとは大ちがいのへんな顔です。【7】ほっぺたのかたっぽが、むやみやたらにふくれあがり、あごからのどまでぶうーっとおまんじゅうみたいです。それがまた、ぶくぶくとゆがんでいます。目といえば、とろーんとして、おまけに赤目です。
【8】すみちゃんはへんな顔で、わたしをうらめしそうに見あげ、
「ウ……ウウ……ウ……。」
と、なきだしました。すると、ふくれたところがもっとふくれて、ぶるん、ぶるん、うごきます。見ていると、おかしくて、おかしくて、わらわずにはいられなくなりました。∵
【9】「あっはっはっは。」
と、わらっていると、だいちゃんがかけこんできて、いきなりわたしのカバンをなげとばしました。ふでばこもとびだして、げんかんのたたきの上で、ガシャッと大きな音をたてました。
「なにするのっ。」
【0】わたしは、げんかんにすっとびました。
「あーっ、赤えんぴつがおれたーっ。」
せっかくとんがらした、大せつな赤えんぴつもおれてしまったではありませんか。
「もう、大すきなんかやめた。すみちゃんも、だいちゃんも、小すき小すきの大っきらい。」
わたしは大いそぎでえんぴつをかきあつめ、カバンをつかんで、すみちゃんのうちをとびだしてしまいました。
つぎの日、わたしは学校でみんなにいいました。
「すみちゃんね、ぶっくぶくにふくれた顔になってね、わたしのこと、ウウ……ウ……ってにらんだの。」
「えっ? おばけみたいに?」
「そう、そう、おばけよ。ふくれおばけよ。」(中略)
みんな「ふうん」と、きいてくれたのに、まっちゃんがいじわるな声でいうのです。
「へーんな人、あんなにすみちゃんのこと、大すきっていってたくせに。」
「ちがうよ。もう、大すきじゃないよ。小すき、小すきの大きらいよ。」
「そう、それじゃすみちゃんからもらったルビーのおはじき、みーんなすてる?」
「うん、すてる。」
いってしまってからおしいな、とちらりとおもいました。でもこうなったらすてるんだ。へいき、へいき、とおもいなおしました。
「あきかんにいれて、おすなばにうずめるよ。」
それからなん日かして、わたしはのどがいたくなりました。高いねつがでて、からだじゅうこわれそうです。いきをするたびに、うなり声がでます。
おいしゃさんが、くすりのにおいをぷんぷんさせてやってきました。耳の下のところを、ふといつめたいゆびでおさえ、
「おたふくかぜに、やられましたな。」
と、いいました。
「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編 フォア文庫より)