ワタスゲ2 の山 5 月 4 週
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○自由な題名
○他人を気にする
★清書(せいしょ)
○コミュニケーション・システムの場合も
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【1】コミュニケーション・システムの場合も、少し以前の交通システムは多分にツリー型だった。だから交通ストがあると社会問題になったわけですが、最近はあまり問題にならない。【2】スト慣れということもありますが、それだけではなく交通システム自体がだんだんネット状になり、代替経路が確保されるようになったということがあります。ツリー型のシステムでは、二つのセットのオーヴァーラップ、重なりあい、そこから生ずる両義性というものは本来許されない。【3】しかし実際のリヴィング・システムでは、あとでのべますように、ツリー型のシステムがそのままであることは珍しく、裏のシステムや補完システムが非公式に形成されます。
それにたいしてもう一つのシステム・モデルは網状交叉図式です。(中略)【4】たとえば3というメンバーは1、2、3を含むクラスに属すると同時に、3、4、5を含むクラスに属しているし、3、4、5、6を含むクラスにも属している。そういう点ではある意味での多義性がそこに生まれてくる。
【5】身の構造は、多分にこういう交叉型網状図式の構造をもっている。一般に人工的なシステムはツリー的な性格をもつものが多いのにたいして、自然発生的なシステムはセミ・ラティス的あるいはむしろネットワーク的である。【6】クリストファー・アレグザンダーという人は都市デザイナーですが、二〇世紀に考案されたル・コルビュジエからニーマイアー、丹下健三にいたるすべての都市計画は、全部ツリー型だということをはっきりさせた。【7】それにたいして自然に形成されてきた都市、あるいは最初は計画都市であっても歴史のなかで自然都市に近くなってきた都市(たとえば京都)は、セミ・ラティス的な構造をもっているということを指摘しています。
【8】またさまざまな芸術作品が構成する間テキスト空間とか文化空間というようなものを考えてみると、その構造は多分に交叉型の網状図式となっている。一般に人間の生世界にかかわるリヴィング・システムは、たえずクラスが重合し多義的になる。グラフでいえばネットワーク状の形式をもつようになります。(中略)∵
【9】組織図としては、こういう組織をとる会社はまだ少ないわけで、ほとんどの会社がツリー的な組織図をとっている。しかしよく考えてみますと、それでは成りたってゆかない。そこで無意識的にツリーを補完する非公式の制度として活用されているのが、たとえば広い意味での宴会政治である。【0】つまり一時的に裏の組織がつくられて、宴会の席ではこの上下関係や業務のなわばりがある程度破られるわけですね。これを〈シャドー・システム〉と呼びたいと思います。組織を考える上で重要なのは、組織図に現われたメインのシステムだけではなく、実際のはたらきの上で補構造をなしているシャドー・システムを含めた組織全体のはたらきをとらえることです。
宴会政治とまではゆかなくても、たとえば4のメンバーが6のメンバーの仕事と密接に関係することをやっていて、調整したいという場合、ふつうは上司を通して交渉しなければいけないけれども、前もって、まあ一杯やろうというわけで根回しをするというようなことが行われる。そういうツリー型のシステムの裏の補構造ともいうべきものが、タテ社会ではどうしても必要になってくるのではないか。
それを意識的に表面化し、公式に制度化する試みが最近盛んになってきました。たとえばプロジェクト・チームというのは、いろんな部署から専門家を選び、元の部署での上下関係はあるていど解体して、そのプロジェクトにふさわしい組織を一時的につくるというアド・ホック・システムです。松戸市に「すぐやる課」というのがあります。あれはツリー型の組織の不備を補い、ネットワーク型のはたらきをもたせるための制度化されたゲリラ型組織ということができます。
(市川浩『「身」の構造』)