ヒイラギ2 の山 9 月 4 週
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○自由な題名
○工作をしたこと
★清書(せいしょ)
○茶道や武道の世界には
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【1】茶道や武道の世界には、「守・破・離(り)」という教えがあります。これはその人のレベルに応じて、それぞれの段階でどのようなことを実践すべきかを示したものです。【2】三つの段階を簡単に説明しておくと、「守」は決まった作法や型を守る段階、次の「破」はその状態を破って作法や型を自分なりに改良する段階、そして、最後の「離(り)」は作法や型を離れて独自の世界を開く段階です。
【3】一般的には、すべての学習は真似から始まります。手本に従ってそれと同じようにすることを求められるのです。これがまさに「守」です。
決められていることを生真面目に守るこの段階は、繰り返しも多く非常に面倒だし、なによりもやっているほうは面白くもなんともありません。【4】そのためそこで我(が)を通して自己流でいきたがる人がいます。しかし、自分の土台をつくるためには、素直に手本を真似るほうが結果として早く進歩することができます。
【5】実際、初期の段階で我慢して手本の真似を徹底的に繰り返していると、そのうちに手本と同じようにやることの意義や、手本から外れたときに生じるデメリットが理解できるようになります。【6】ここまでくると「強制されて仕方なく守っている」というより、「自ら望んで守っている」という状態になります。やっていることの内容や価値を自分なりに理解しているので、自分の意思で率先して手本を守るようになるのです。
【7】ところで、世の中にはこの状態で満足してしまう人がたくさんいます。そのような人は、当然のことながらそれ以上の進歩はありません。
本当に楽しいのはここからです。【8】この段階まで来た人は、自分で創意工夫をしながらいろいろなことが試せるようになります。内容を理解しているため、従来の方法よりもっといい方法はないかと自分で探すことができるからで、そのような能力があるのに何もしないのはもったいないことです。
【9】そして、この状態がまさに作法や型を破る「破」の段階です。基本的には、作法や型を手に入れて、そこからさらに出ようと意識して行動した人だけが進歩を続けられるのです。【0】もちろん、この∵ときの試行錯誤はしっかりとした経験と根拠に基づくものなので、初心者があてずっぽうで行動するのとはまったく違います。決められた道から外れても、それによって致命的な失敗を犯す危険性は極めて低いし、むしろこのときの行動はより効率的で合理的な方法の創出につながる可能性も大です。
従来の作法や型を破るというのは、悪いことのように思えます。しかし、変化のあまりない業界ではともかく、現実の世界ではそのようにしなければいけない場合は意外にたくさんあります。
それは時代の変化とともに、周囲の条件の変化も必ず起こっているからです。こうした場合は従来の作法や型をそのまま使うことに無理が生じるわけですから、それに合わせて作法や型を変えていくのはむしろ当然といってもいいでしょう。何より条件が変わっているのに従来の作法や型をそのまま使い続けていることのほうが、問題であり危険なことなのです。
いずれにしても、このような試行錯誤を何度も繰り返した人は、理解と経験に基づいてこれまでとはまったく別のものを自分の力で新たに生み出すことができます。これが最後の「離(り)」の意味です。このレベルにある人は、従来の技術やシステムを常に効率よく運用できるだけでなく、制約条件の変化や外部からの新たな要求に合わせて全体をつくり変えることもできます。それゆえ「離(り)」に到達した人は「優れた創造力の持ち主」とされているのです。
(畑村洋太郎()『組織を強くする 技術の伝え方』(講談社)より)