ムベ2 の山 10 月 4 週
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◎自由な題名
★清書(せいしょ)
○「ボランティアってのは(感)
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【1】「ボランティアってのは、自分にとって一銭の得にもならないことを一生懸命やっているみたいだ。だから、ボランティアは偉い、感心だ」。こんなふうにいう人は好意的な人だ。【2】その気持ちが少し皮肉な側に傾けば、ボランティアは「変わった人だ」、「物好きだ」となるかもしれないし、反発心が混じれば、ボランティアは「偽善的だ」となりかねない。
「偽善的だ」と言われたとき、ボランティアは考え込んでしまうかもしれない。【3】自分がしていることが「見返り」を求めない「尊い」行為だと言う自信はない。もしかすると自分は、自分の力を誇示したいだけなのではないか、弱いものと接することで優越感を感じたいだけではないか、「こんないいことをしましたよ」と周りの人に自慢したいだけなのではないか……と考え出すと、自分でも不安になってしまう。
【4】私は、ボランティアが行動するのはある種の「報酬」を求めてであるからに違いないと考える。私自身の限られた経験からもそう思うし、考え方の枠組みとして、とりあえずそのような想定をしてから出発することが有効なアプローチであると思う。
【5】ボランティアにとっての「報酬」とは、もちろん、経済的なものだけとは限らない。その人によっていろいろなバリエーションが可能なものである。私は、ボランティアの「報酬」とは次のようなものであると考える。【6】その人がそれを自分にとって「価値がある」と思い、しかも、それを自分一人で得たのではなく、だれか他の人の力によって与えられたものだと感じるとき、その「与えられた価値あるもの」がボランティアの「報酬」である。
【7】ボランティアはこの広い意味での「報酬」を期待して、つまり、その人それぞれにとって、自分が価値ありと思えるものをだれかから与えられることを期待して、行動するのである。その意味で、ボランティアは、新しい価値を発見し、それを授けてもらう人なのだ。
【8】ボランティアの「報酬」についてわかりにくいところがあるとしたら、その本質が「閉じて」いてしかも「開いて」いるとい∵う、一見相反する二つの力によって構成されているからではないだろうか。
人が何に価値を見いだすかは、その人が自分で決めるものである。【9】他人に言われて、規則で決まっているから、はやっているからとかいう「外にある権威」に従うのではなく、何が自分にとって価値があるかは、自分の「内にある権威」に従って、つまり、独自の体験と論理と直感によって決めるものだ。その意味で、価値を認知する源は「閉じて」いる。
【0】「内なる権威」に基づいていること、自発的に行動すること、何かをしたいからすること、きれいだと思うこと、楽しいからすること、などが「強い」のは、それらの力の源が「閉じて」いて、外からの支配を受けないからだ。しかし、ボランティアが、相手から助けてもらったと感じたり、相手から何かを学んだと思ったり、だれかの役に立っていると感じてうれしく思ったりするとき、ボランティアは、かならずや相手との相互関係の中で価値を見つけている。つまり、「開いて」いなければ「報酬」は入ってこない。このように、ボランティアの「報酬」は、それを価値ありと判断するのは自分だという意味で「閉じて」いるが、それが相手から与えられたものだという意味で「開いて」いる。
「外にある権威」だけに基づいて行動すること、つまり「開いている」だけの価値判断によって行動するのは、わかりやすいことであるとともに、楽なことだ。うまくいかなくとも、自分のせいではないし、いつでも言い訳が用意されているのだから。また、自分の独自なるものを賭ける必要がないから、傷つくこともない。しかし、「外にある権威」だけに準拠して判断をするということは、物事をある平面で切り取り、それと自分との関係性をはじめから限定してしまうことになる。それでは、何も新しいものは見つけられないし、だいいち、楽しくない。
一方、「閉じて」いるだけのプロセスも、複雑なところはなくはっきりしているし、周りのことを考えなくていいわけだから楽なことである。しかし、そこからは排他性とか独善しか生まれない。つまり、「開いている」だけ、または「閉じているだけ」の行動は、わかりやすく、楽であるかもしれないが、力と魅力に欠けるということだ。新しい価値は「閉じている」ことと「開いている」ことが∵交差する一瞬に開花する。
ボランティアの「報酬」は「見つける」ものであると同時に「与えられる」ものであるということは、新しい価値が「報酬」として成立するには、ボランティアの力と相手の力が出会わなければならない、つまり、つながりがつけられなければならないということだ。
(金子郁容(いくよう)『ボランティア――もうひとつの情報社会』による。本文を改めたところがある)