クリ の山 11 月 4 週
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◎じゆうなだいめい
★清書(せいしょ)
○さばくのかいぶつ
○奈津は幼いころから
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奈津は幼いころからとても利発で、本を読むことや文を書くことが大好きな女の子でした。ひとたび本を読み始めると、友達が遊びに誘っても全く応じません。なぜなら、友達と遊ぶより本を読むほうがずっと楽しいのです。一冊の本を読み終わると、もう一度はじめから何度も繰り返して味わうように読むのです。まるで本の世界に入り込んでしまったかのように熱中してしまうのでした。
そんな奈津は、学校でも大変熱心に勉強に取り組みました。あまりに熱心なので、先生も驚いてしまうほどです。学ぶことが楽しくて仕方がないのです。砂が水を吸うように勉強を理解していくのですから、成績も大変優秀でした。
ところがある日、思いがけないことが起こりました。女の子は家の手伝いや針仕事をしたほうが役に立つのだから、学校はやめるようにと、お母さんが言うのです。
そのころは、学校へ通うことは恵まれた家庭の子だけが持つ特権でした。普通の家庭では、家計の足しにするために働くことが、学校で勉強することよりも優先されていました。東京に限ってみても、女の子の半数以上が小学校に通えなかったのです。学校へ行けない子たちは、家でお母さんの手伝いをしたり、小さな弟や妹の世話をして働きました。
奈津は、その時代の女の子たちと同じように、学校をやめました。しかし、勉強に対する熱い思いは一向に冷めません。冷めるどころか、ますます大きく、強くなってくるのでした。本が読みたくてたまらない奈津は、こっそりと蔵に入り込み、暗がりの中、小窓から差し込む光をたよりに、本を読みふけるようになりました。∵
今から百二十年ほど前の明治時代の話です。奈津はのちに樋口一葉(いちよう)という名前で作家になり、「たけくらべ」「にごりえ」といった名作を残しました。
言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会(ω)