ツゲ2 の山 12 月 4 週
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◎自由な題名
★清書(せいしょ)
○私たちの細胞の隅々には(感)
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【1】私たちの細胞の隅々には遺伝子というものがあり、体をどう作り、体をどう動かすかの設計図の役割を果たしていることがわかっています。その遺伝子は、自分の親から半分ずつ手渡されます。【2】子どもたちの体の中には自分の両親からもらった遺伝子というバトンが入っているのです。そして、両親はその両親から、両親の両親はそのまた両親から…と数えていくと、一〇〇年間に四世代経過したとすれば、八人からバトンをもらうことになります。【3】二〇〇年前を考えたら何人でしょうか。
答えは八×八で六四人です。そうやってたどっていくと、五〇〇年前なら三二七六八人になり、九〇〇年前になると一億を超えてしまいます。【4】人類の歴史をひもとくと、今いる私たちの祖先として、何万年も前にアフリカに住んでいた一人の女性にたどり着きます。今の人類はみな等しく彼女の子孫であることがわかっているのです。
【5】そして、人類の歴史を最低で何万年、あるいはもっともっと長い何十万年、何百万年の単位で考えたときに、自分たちの体の中にはいったい何人の人のバトンが入っているか考えれば、とほうもない数になります。【6】そのとほうもない数のバトンは、ほかでもない自分の中にも入っています。その人たちがみんな生きていてくれたから、自分に命が受け渡されたのです。
(中略)
【7】自分が人類の何万年もの歴史を背負い、そのいちばん先端に立っていることが感覚としてわかった子どもたちは、おそらく自分や他人の命を粗末にすることは考えられなくなると思います。【8】自分という存在が、信じられないほどたくさんの人のバトンを受け継いだ、彼らの努力の結晶であり、目の前にいるだれかもまた、何億人ものバトンを受け継いでいる、彼らの願いが詰まった存在であると感じられます。【9】そう考えれば、命を大切にする感覚が自然にわき、人を殺そうなどという考えも頭に浮かばなくなるでしょう。子∵どもたちにそんな気持ちを抱かせることにこそ科学は使うべきだ、と私は思っています。
【0】また、この話を通じて私は子どもたちに、そのような長い時間の中で自分たちが生きてきたという大局観をぜひ持ってもらいたいと思っています。大局観を持つことは、結局、すべての科学者が今めざしているもの、すなわち、人はどこから来て、どこへ行くのかを知りたいという欲求にもつながります。なぜ自分が今、その何億人もの人のバトンをもらってこの場に立っているかということを、われわれ大人はぜひ考えるべきだし、子どもたちが自然に考えられるような環境を用意すべきです。(中略)
「人生の主役はあなた」といったキャッチフレーズを、最近街(まち)中でよく見かけます。一見、耳触りのいい言葉ですが、そこには大きな危険性が潜んでいます。
昔は、親と子どもは一心同体でした。子どもの痛みは親の痛みで、子どものために自分は頑張れるし、我慢できた。しかし、今は「主役は私」で、子供が自分の外に出ている感覚の親が非常に多いのです。「自分の幸せのために子どもがじゃまになる」と口にする人もいます。「人生の主役はあなた」という言葉は、裏を返せばそうした考えを肯定するものにもなりかねません。
これは、先ほどの大局観にもつながります。自分の願いを託したからこそ、子どもがいるはずです。だからこそ、子どもの幸せは自分の幸せで、自分の後ろに何百年もつながる、何億人もの人たちの幸せであるはずです。私たちが、多くの人からもらったバトンを後世に向かって渡していくことは、地球上の生命として生まれた私たちの義務とも言えるのではないでしょうか。
(川島隆太『現代人のための脳鍛錬』(文春新書)より 一部改変した)