長文 4.1週
1. 【1】
昔、田んぼにはナマズやドジョウなどの
生き物がたくさんすんでいました。しかし、
戦後、これらの
生き物は
急速に
減ってしまいました。その
原因の一つは、田んぼの
水路がコンクリートなどで
固められたために
生き物がすみにくくなったことです。【2】もう一つの
原因は、田んぼに、強い
農薬がまかれたためにやはり
生き物がすみにくくなったことです。
2. 田んぼには、
稲を弱らせてしまう虫が
発生します。たとえば、ウンカです。【3】
梅雨のころ、雲に
乗って中国からやってくるウンカは、日本の田んぼで数を
増やし、
稲の
汁を
吸ってつぎからつぎへと
枯らしてしまいます。ひどいときは、田んぼの
稲が
全滅してしまうほどです。今年もウンカの大
発生か。【4】ウンカ
悪いなあなどと言ってはいられません。またヨコバイも、
稲に
病気をうつすやっかいな虫です。
農薬をまくことで、一時
的に
害虫の力を
抑えて
増え方を
横バイにすることはできますが、虫たちが
農薬に
抵抗性を
持ち、やがて前よりも
農薬に強くなってしまうという
問題があります。
3. 【5】また、
農薬をまいたあと、
逆にウンカが大
発生してしまうこともあります。その
理由は、
農薬によって、ウンカやヨコバイを食べるクモやアメンボなどの
天敵が
減ってしまうからです。
4. 【6】そこで、
農薬を
使わないで
稲を
育てる方法がいろいろと考えられてきました。その一つは、小ブナを田んぼに
泳がせることで、
害虫を食べてもらったり、
草取りを
手伝ってもらったりする
方法です。【7】
草取りは
農家にとってはたいへんな
重労働ですが、コイやフナが田んぼを
泳ぎまわっていると、水がかきまわされてにごるので、
雑草が生えにくくなるのです。小ブナのおかげで、
農薬もほとんど
使わずにすみます。
5. 【8】田んぼにアイガモを
飼って、
害虫を食べさせるという
方法もあります。アイガモは、
稲の
天敵であるウンカの
卵まで食べてし∵まうので、
殺虫剤は
不要です。
雑草は、水かきでけられたり、食べられたりして、生えてこなくなります。【9】その上、アイガモのふんは、とてもいい
肥料になるので、
化学肥料をやらなくてもすむのです。まさに一石二鳥。アイガモを
使う方法はいかがですか。「あ、いいカモ!」【0】
6.
言葉の森
長文作成委員会(κ)
長文 4.2週
1.あし
2. 【1】二ひきの馬が、まどのところでぐうるぐうるとひるねをしていました。
3. すると、すずしい風がでてきたので、一ぴきがくしゃめをしてめをさましました。
4. ところが、あとあしがいっぽんしびれていたので、よろよろとよろけてしまいました。
5.【2】「おやおや。」
6. そのあしに力をいれようとしても、さっぱりはいりません。
7. そこでともだちの馬をゆりおこしました。
8.「たいへんだ、あとあしを一本、だれかにぬすまれてしまった。」
9.「だって、ちゃんとついてるじゃないか。」
10.【3】「いやこれはちがう。だれかのあしだ。」
11.「どうして。」
12.「ぼくの思うままに歩かないもの。ちょっとこのあしをけとばしてくれ。」
13. そこで、ともだちの馬は、ひづめでそのあしをぽォんとけとばしました。
14.【4】「やっぱりこれは、ぼくのじゃない、いたくないもの。ぼくのあしならいたいはずだ。よし、はやく、ぬすまれたあしをみつけてこよう。」
15. そこで、その馬はよろよろと歩いてゆきました。
16.【5】「やァ、
椅子がある。
椅子がぼくのあしをぬすんだのかもしれない。よし、けとばしてやろう、ぼくのあしなら、いたいはずだ。」
17. 馬はかたあしで、
椅子のあしをけとばしました。
18.
椅子は、いたいとも、なんともいわないで、こわれてしまいました。
19. 【6】馬は、テーブルのあしや、ベッドのあしを、ぽんぽんけってまわりました。けれど、どれもいたいといわなくて、こわれてしまいました。
20. いくらさがしてもぬすまれたあしはありません。
21.「ひょっとしたら、あいつがとったのかもしれない。」
22.と馬は思いました。
23. 【7】そこで、馬は、ともだちの馬のところへかえってきました。そして、すきをみて、ともだちのあとあしをぽォんとけとばしました。∵
24. するとともだちは、
25.「いたいッ。」
26.とさけんでとびあがりました。
27.【8】「そォらみろ、それがぼくのあしだ。
君だろう、ぬすんだのは。」
28.「このとんまめが。」
29. ともだちの馬は力いっぱいけかえしました。
30. 【9】しびれがもうなおっていたので、その馬も、
31.「いたいッ。」
32.と、とびあがりました。
33. そしてやっとのことで、じぶんのあしはぬすまれたのではなく、しびれていたのだとわかりました。【0】
34.「
新美南吉童話作品集」
長文 4.3週
1.
狐のつかい
2. 【1】山のなかに、
猿や
鹿や
狼や
狐などが、いっしょにすんでおりました。
3. みんなはひとつのあんどんをもっていました。紙ではった四角な小さいあんどんでありました。
4. 夜がくると、みんなはこのあんどんに
灯をともしたのでありました。
5. 【2】あるひの夕方、みんなはあんどんの
油がもうなくなっていることに気がつきました。
6. そこでだれかが、村の
油屋まで
油を買いにゆかねばなりません。さてだれがいったものでしょう。
7. 【3】みんなは村にゆくことがすきではありませんでした。村にはみんなのきらいな
猟師と犬がいたからであります。
8.「それではわたしがいきましょう」
9.とそのときいったものがありました。
狐です【4】。
狐は人間の子どもにばけることができたからでありました。
10. そこで、
狐のつかいときまりました。やれやれとんだことになりました。
11. 【5】さて
狐は、うまく人間の子どもにばけて、しりきれぞうりを、ひたひたとひきずりながら、村へゆきました。そして、しゅびよく
油を一合かいました。
12. かえりに
狐が、月夜のなたねばたけのなかを歩いていますと、たいへんよいにおいがします。【6】気がついてみれば、それは買ってきた
油のにおいでありました。
13.「すこしぐらいは、よいだろう。」
14.といって、
狐はぺろりと
油をなめました。これはまたなんというおいしいものでしょう。
15.
狐はしばらくすると、またがまんができなくなりました。
16.【7】「すこしぐらいはよいだろう。わたしの
舌は大きくない。」
17.といって、またぺろりとなめました。
18. しばらくしてまたぺろり。∵
19.
狐の
舌は小さいので、ぺろりとなめてもわずかなことです。【8】しかし、ぺろりぺろりがなんどもかさなれば、一合の
油もなくなってしまいます。
20. こうして、山につくまでに、
狐は
油をすっかりなめてしまい、もってかえったのは、からのとくりだけでした。
21. 【9】
待っていた
鹿や
猿や
狼は、からのとくりをみてためいきをつきました。これでは、こんやはあんどんがともりません。みんなは、がっかりして思いました、
22.「さてさて。
狐をつかいにやるのじゃなかった。」
23.と。【0】
24.「
新美南吉童話作品集」
長文 4.4週
1. 【1】
冷蔵庫がまだあまり
普通の
家庭にはなかったころ、
冷蔵庫には、
毒があって
危険な
物質が
使われていました。この
物質は、
液体からガスに
変わるときに
周りを
冷やす性質を
持っていました。
2. 【2】しかし、このように
危険な
物質を、
家庭におく
冷蔵庫に
使うわけにはいきません。そこで、何かいい
方法はないものかと、
研究が行われました。その
結果、フロンという新しい
物質が見つかりました。
3. 【3】フロンは、色も
匂いもない
物質で、
安定した
性質を
持っています。
性質が
安定しているということは、ほかのものといっしょにしても、ほとんど
反応を
起こさないということです。また、
燃えることもないので、
火事の
心配がありません。【4】さらに、
簡単に
液体にしたりガスにしたりできるので、
取り扱いも楽です。そして、
安く作ることができるのも、大きな
長所でした。
4. こうして、フロンは「20
世紀最大の
発明」として
歓迎され、
世界中で
使われるようになっていきました。【5】フロンは、まさに
時代のフロンティア(
最前線)でした。
5. 日本では
特に、
精密機械の工場で、
部品を
洗うのに
使われました。
普通の水にはゴミやほこりが
溶けこんでいるため、
精密機械の工場では
使えなかったのです。
6. 【6】しかし、こんなに
長所ばかりがあると思われたフロンに、
意外な
欠点があることがわかってきました。
地球の上空にあるオゾン
層を、フロンが
破壊するということがわかってきたのです。
7. 【7】フロンの
長所である
安定した
性質が、
逆に
欠点にもなっていたのです。フロンは
壊れにくく、ほかのものと
反応もしないため、そのままガスとなって空気中に出て行きます。【8】そして空の高いところまで行くと、
太陽の強力な
紫外線によって
初めて分解されることになります。そのときに、フロンから出た
塩素がオゾン
層を
壊していくのです。∵
8. 【9】オゾン
層は、
太陽の強力な
紫外線から
地球上の
生き物を
守っているバリアのようなものです。このバリアが
壊されると、
紫外線が
地球上に
降り注ぎ、
生き物に大きな
害を
与えます。【0】こうして、ヒーローだったはずのフロンは、いつの間にか
悪者になってしまいました。
9. しかし、人間が
破壊したものは、人間の手によって
修復できるはずです。オゾン
層を
破壊することは、人間にとってオーゾン(
大損)ですから、今、
世界中でオゾン
層を
守る対策が
進められています。
10.「フロンさん、元気出してね。
君が
悪いわけじゃなく、たまたまオゾン
君と
仲が
悪かっただけなんだから。」
11.「うん、フロン、がんばる。フロンでも(ころんでも)ただでは
起きないわ。」
12.「そう。オゾン
君も、だんだん元気が出てきたようだから。」
13.「オイゾンも、これからがんばって、
紫外線からみんなを
守るでごわす。」
14. フロー、フロー、オゾン!
15.
言葉の森
長文作成委員会(τ)
長文 5.1週
1.
蟹のしょうばい
2. 【1】
蟹がいろいろ考えたあげく、とこやをはじめました。
蟹の考えとしてはおおできでありました。
3. ところで、
蟹は、
4.「とこやというしょうばいは、たいへんひまなものだな。」
5.と思いました。と
申しますのは、ひとりも
お客さんがこないからであります。
6. 【2】そこで、
蟹のとこやさんは、はさみをもって海っぱたにやっていきました。そこにはたこがひるねをしていました。
7.「もしもし、たこさん。」
8.と
蟹はよびかけました。
9. たこはめをさまして、
10.「なんだ。」
11.といいました。
12.【3】「とこやですが、ごようはありませんか。」
13.「よくごらんよ。わたしの頭に毛があるかどうか。」
14.
蟹はたこの頭をよくみました。なるほど毛はひとすじもなく、つるんこでありました。いくら
蟹がじょうずなとこやでも、毛のない頭をかることはできません。
15. 【4】
蟹は、そこで、山へやっていきました。山にはたぬきがひるねをしていました。
16.「もしもし、たぬきさん。」
17. たぬきはめをさまして、
18.「なんだ。」
19.といいました。
20.「とこやですがごようはありませんか。」
21. 【5】たぬきは、いたずらがすきなけものですから、よくないことを考えました。
22.「よろしい、かってもらおう。ところで、ひとつやくそくしてくれなきゃいけない。というのは、わたしのあとで、わたしのお父さんの毛もかってもらいたいのさ。」
23.「へい、おやすいことです。」
24. 【6】そこで、
蟹のうでをふるうときがきました。
25. ちょっきん、ちょっきん、ちょっきん。∵
26. ところが、
蟹というものは、あまり大きなものではありません。
蟹とくらべたら、たぬきはとんでもなく大きなものであります。【7】その上、たぬきというものは、からだじゅうが毛むくじゃらであります。ですから、
仕事はなかなかはかどりません。
蟹は口から
泡をふいていっしょうけんめいはさみをつかいました。そして三日かかって、やっとのこと
仕事はおわりました。
27.【8】「じゃ、やくそくだから、わたしのお父さんの毛もかってくれたまえ。」
28.「お父さんというのは、どのくらい大きなかたですか。」
29.「あの山くらいあるかね。」
30.
蟹はめんくらいました。そんなに大きくては、とてもじぶんひとりでは、まにあわぬと思いました。
31. 【9】そこで
蟹は、じぶんの子どもたちをみなとこやにしました。子どもばかりか、まごもひこも、うまれてくる
蟹はみなとこやにしました。
32. それでわたくしたちが道ばたにみうける、ほんに小さな
蟹でさえも、ちゃんとはさみをもっています。【0】
33.「
新美南吉童話作品集」
長文 5.2週
1.ひとつの火
2. 【1】わたしが子どもだったじぶん、わたしの家は、山のふもとの小さな村にありました。
3. わたしの家では、ちょうちんやろうそくを売っておりました。
4. ある
晩のこと、ひとりのうしかいが、わたしの家でちょうちんとろうそくを買いました。
5.【2】「ぼうや、すまないが、ろうそくに火をともしてくれ。」
6.と、うしかいがわたしにいいました。
7. わたしはまだマッチをすったことがありませんでした。
8. そこで、おっかなびっくり、マッチの
棒のはしの方をもってすりました。【3】すると、
棒のさきに青い火がともりました。
9. わたしはその火をろうそくにうつしてやりました。
10.「や、ありがとう。」
11.といって、うしかいは、火のともったちょうちんを牛のよこはらのところにつるして、いってしまいました。
12. 【4】わたしはひとりになってから考えました。
13. ――わたしのともしてやった火はどこまでゆくだろう。
14. あのうしかいは山の
向こうの人だから、あの火も山をこえてゆくだろう。
15. 【5】山の中で、あのうしかいは、べつの村にゆくもうひとりの
旅人にゆきあうかもしれない。
16. するとその
旅人は、
17.「すみませんが、その火をちょっとかしてください。」
18.といって、うしかいの火をかりて、じぶんのちょうちんにうつすだろう。
19. 【6】そしてこの
旅人は、よっぴて山道をあるいてゆくだろう。
20. すると、この
旅人は、たいこやかねをもったおおぜいのひとびとにあうかもしれない。
21. その人たちは、
22.「わたしたちの村のひとりの子どもが、
狐にばかされて村にかえってきません。【7】それでわたしたちはさがしているのです。すみませんが、ちょっとちょうちんの火をかしてください。」
23.といって
旅人から火をかり、みんなのちょうちんにつけるだろう。【8】長いちょうちんやまるいちょうちんにつけるだろう。∵
24. そしてこの人たちは、かねやたいこをならして、山や谷をさがしてゆくだろう。
25. 【9】わたしはいまでも、あのときわたしがうしかいのちょうちんにともしてやった火が、つぎからつぎへうつされて、どこかにともっているのではないか、とおもいます。【0】
26.「
新美南吉童話作品集」
長文 5.3週
1. 【1】ここに茶わんが一つあります。中には
熱い湯がいっぱいはいっております。ただそれだけではなんのおもしろみもなく
不思議もないようですが、よく気をつけて見ていると、だんだんにいろいろの
微細なことが目につき、さまざまの
疑問が
起こって来るはずです。【2】ただ一ぱいのこの
湯でも、
自然の
現象を
観察し
研究することの
好きな人には、なかなかおもしろい
見物です。
2.
第一に、
湯の
面からは白い
湯げが立っています。【3】これはいうまでもなく、
熱い水蒸気が
冷えて小さな
滴になったのが
無数に
群がっているので、ちょうど雲や
霧と同じようなものです。この茶わんを
縁側の
日向へ
持ち出して、日光を
湯げにあて、
向こう側に黒い
布でもおいてすかして見ると、
滴の
粒の大きいのはちらちらと目に見えます。【4】場合により、
粒があまり大きくないときには、日光にすかして見ると、
湯げの中に、
虹のような、赤や青の色がついています。これは白い
薄雲が月にかかったときに見えるのと
似たようなものです。【5】この色についてはお話しすることがどっさりありますが、それはまたいつか
別のときにしましょう。
3. 【6】すべて
全く透明なガス体の
蒸気が
滴になる
際には、
必ず何かその
滴の
心になるものがあって、そのまわりに
蒸気が
凝ってくっつくので、もしそういう
心がなかったら、
霧は
容易にできないということが
学者の
研究でわかって来ました。【7】その
心になるものは
通例、
顕微鏡でも見えないほどの、
非常に細かい
塵のようなものです。空気中には、それが
自然にたくさん
浮遊しているのです。【8】空中に
浮かんでいた雲が
消えてしまった
跡には、今言った
塵のようなものばかりが
残っていて、
飛行機などで
横からすかして見ると、ちょうど
煙が広がっているように見えるそうです。
4. 【9】茶わんから上がる
湯げをよく見ると、
湯が
熱いかぬるいかが、おおよそわかります。
締め切った
室で、人の
動き回らないときだと∵ことによくわかります。
熱い湯ですと
湯げの
温度が高くて、
周囲の空気に
比べてよけいに
軽いために、どんどん
盛んに立ちのぼります。【0】
反対に
湯がぬるいと、
勢いが弱いわけです。
湯の
温度を計る
寒暖計があるなら、いろいろ自分でためしてみるとおもしろいでしょう。もちろんこれは、まわりの空気の
温度によっても
違いますが、おおよその見当はわかるだろうと思います。
5.(寺田
寅彦 大正十一年五月、赤い鳥)
6.※「
通常は
芯という字が
遣われることが多いと思いますが原本は「
心」となっています。
長文 5.4週
1. 【1】
哺乳類の赤ちゃんは、母親からミルクを
与えられて
育ちます。
動物のミルクの
成分は、みな同じではなく、それぞれに
特徴があります。【2】たとえば、オランウータンやチンパンジーなどは、母親がいつも
子供のそばにいてミルクを
与えることができる生活をしているので、ミルクは
薄く、
たんぱく質と
脂肪が少なくなっています。
2. 【3】ところが、ライオンなどの
狩りに出かける
動物は、母親が何時間も
留守にするため、その間は
子供にミルクを
与えることができません。長時間
子供のお
腹を
満たしておく
必要があるので、ミルクは
濃く、
たんぱく質と
脂肪をたくさん
含んでいます。
3. 【4】また、
寒い地方や水中にすむ
動物は、
体温をうばわれないように、
皮膚の下にたくさんの
脂肪をたくわえています。この
仲間であるアザラシやアシカのミルクはとても
濃く、
脂肪がたくさん
含まれています。
4. 【5】クジラやイルカの赤ちゃんは、水中でミルクを
飲みますが、まだ赤ちゃんなので長時間もぐっていることができません。そこで、
短い時間でもたくさんの
栄養を
取れるように、やはり
濃いミルクになっています。
5. 【6】人間のお
腹の
中には、たくさんの
細菌がすんでいて、その中には
役に立つものと
病気のもとになるものがあります。赤ちゃんのお
腹の
中にも、生まれて間もなく、さまざまな
細菌がすみつきはじめます。【7】
母乳には、赤ちゃんにとって
役に立つ微生物が
増えるための
成分や、
病気のもとになる
細菌を
増やさないようにする
成分が入っていて、赤ちゃんの
健康を
保つ大きな
役割りを
果たしています。
6. 【8】赤ちゃんが生まれて間もないころの
母乳は、
初乳と
呼ばれています。人間の体には、外から入ってきた
病気のもとを
撃退するための
免疫というシステムがありますが、生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ
免疫を
十分に
持っていません。【9】
初乳には、お母さんが∵
持っている
免疫物質がふくまれていて、それが赤ちゃんの体の中で
吸収されて、いろいろな
病気から赤ちゃんを
守っているのです。
7. おっぱいには、このようにいろいろなものがいっぱい入っています。
8. 【0】しかし、赤ちゃんが大きくなり、自分で
ご飯が食べられるようになると、やがて赤ちゃんは自分の力で生きていくようになります。
9. そこで、「おっぱいさん、グッパーイ」となるわけです。
10.
言葉の森
長文作成委員会(κ)
長文 6.1週
1. 【1】
次に
湯げが上がるときにはいろいろの
渦ができます。これがまたよく見ているとなかなかおもしろいものです。【2】
線香の
煙でもなんでも、
煙の出るところからいくらかの高さまではまっすぐに
上りますが、それ
以上は
煙がゆらゆらして、いくつもの
渦になり、それがだんだんに広がり
入り乱れて、しまいに見えなくなってしまいます。【3】茶わんの
湯げなどの場合だと、もう茶わんのすぐ上から大きく
渦ができて、それがかなり早く回りながら上って行きます。
2. これとよく
似た
渦で、もっと大きなのが
庭の上なぞにできることがあります。【4】春先などのぽかぽか
暖かい日には、前日雨でもふって土のしめっているところへ日光が当たって、そこから白い
湯げが立つことがよくあります。そういうときによく気をつけて見ていてごらんなさい。【5】
湯げは、
縁の下や
垣根のすきまから
冷たい風が
吹き込むたびに、
横になびいてはまた立ち上ります。そして時々大きな
渦ができ、それがちょうど
竜巻のようなものになって、
地面から何
尺もある、高い
柱の形になり、
非常な
速さで
回転するのを見ることがあるでしょう。
3. 【6】茶わんの上や、
庭先で
起こる渦のようなもので、もっと大
仕掛けなものがあります。それは
雷雨のときに空中に
起こっている大きな
渦です。
陸地の上のどこかの一地方が日光のために
特別にあたためられると、そこだけは、
地面から
蒸発する
水蒸気が
特に多くなります。【7】そういう地方のそばに、
割合に
冷たい空気におおわれた地方がありますと、前に言った地方の
暖かい空気が上がって行くあとへ、入り
代わりにまわりの
冷たい空気が下から
吹き込んで来て大きな
渦ができます。そして
雹がふったり
雷が鳴ったりします。
4. 【8】これは茶わんの場合に
比べると
仕掛けがずっと大きくて、
渦の高さも一里とか二里とかいうのですからそういう、いろいろな∵
変わったことが
起こるのですが、しかしまた見方によっては、茶わんの
湯とこうした
雷雨とはよほどよく
似たものと思ってもさしつかえありません。【9】もっとも
雷雨のでき方は、今言ったような場合ばかりでなく、だいぶ
模様のちがったのもありますから、どれもこれもみんな茶わんの
湯に
比べるのは
無理ですがただ、ちょっと見ただけではまるで
関係のないような
事がらが、原理の上からは
お互いによく
似たものに見えるという一つの
例に
雷をあげてみたのです。【0】
5.
湯げのお話はこのくらいにして、
今度は
湯のほうを見ることにしましょう。
6.(寺田
寅彦 大正十一年五月、赤い鳥)
7.※一里は
約三・九キロメートル。
長文 6.2週
1. 【1】白い茶わんにはいっている
湯は、
日陰で見ては
別に変わった
模様も何もありませんが、それを
日向へ
持ち出して
直接に日光を当て、茶わんの
底をよく見てごらんなさい。【2】そこには
妙なゆらゆらした光った線や
薄暗い線が
不規則な
模様のようになって、それがゆるやかに
動いているのに気がつくでしょう。これは夜電
燈の光をあてて見ると、もっとよくあざやかに見えます。【3】夕食のお
膳の上でもやれますからよく見てごらんなさい。それも
お湯がなるべく
熱いほど
模様がはっきりします。
2.
次に、茶わんの
お湯がだんだんに
冷えるのは、
湯の
表面の茶わんの
周囲から
熱が
逃げるためだと思っていいのです。【4】もし
表面にちゃんとふたでもしておけば、
冷やされるのはおもにまわりの茶わんにふれた
部分だけになります。そうなると、茶わんに
接したところでは
湯は
冷えて
重くなり、下のほうへ
流れて
底のほうへ
向かって
動きます。【5】その
反対に、茶わんのまん中のほうでは
逆に上のほうへのぼって、
表面からは
外側に
向かって
流れる、だいたいそういうふうな
循環が
起こります。よく理科の
書物なぞにある、ビーカーの
底をアルコール・ランプで
熱したときの水の
流れと同じようなものになるわけです。【6】これは
湯の中に
浮かんでいる、小さな糸くずなどの
動くのを見ていても、いくらかわかるはずです。
3. しかし茶わんの
湯をふたもしないで
置いた場合には、
湯は
表面からも
冷えます。【7】そしてその
冷え方がどこも同じではないので、ところどころ
特別に
冷たいむらができます。そういう
部分からは、
冷えた水が下へ
降りる、そのまわりの
割合に
熱い表面の水がそのあとへ
向かって
流れる、それが
降りた水のあとへ
届く時分には
冷えてそこからおりる。【8】こんなふうにして
湯の
表面には水の
降りているところとのぼっているところとが方々にできます。
従って湯の中までも、
熱いところと
割合にぬるいところとがいろいろに∵
入り乱れてできて来ます。【9】これに日光を当てると
熱いところと
冷たいところとの
境で光が
曲がるために、その光が
一様にならず、むらになって茶わんの
底を
照らします。そのためにさきに言ったような
模様が見えるのです。
4. 【0】日の当たった
壁や
屋根をすかして見ると、ちらちらしたものが見えることがあります。あの「かげろう」というものも、この茶わんの
底の
模様と同じようなものです。「かげろう」が立つのは、
壁や
屋根が
熱せられると、それに
接した空気が
熱くなって
膨脹してのぼる、そのときにできる
気流のむらが光を
折り曲げるためなのです。
5.(寺田
寅彦 大正十一年五月、赤い鳥)
長文 6.3週
1. 【1】このような水や空気のむらを
非常に
鮮明に見えるようにくふうすることができます。【2】その
方法を
使って
鉄砲のたまが空中を
飛んでいるときに、
前面の空気を
押しつけているありさまや、たまの後ろに
渦巻を
起こして
進んでいる
様子を
写真にとることもできるし、また
飛行機のプロペラーが空気を切っている
模様を
調べたり、そのほかいろいろのおもしろい
研究をすることができます。
2. 【3】近ごろはまたそういう
方法で、
望遠鏡を
使って空中の高いところの空気のむらを
調べようとしている
学者もいたようです。
3. 【4】
次には
熱い茶わんの
湯の
表面を日光にすかして見ると、
湯の
面に
虹の色のついた
霧のようなものが
一皮かぶさっており、それがちょうど
亀裂のように
縦横に
破れて、そこだけが
透明に見えます。【5】この
不思議な
模様が何であるかということは、
私の
調べたところではまだあまりよくわかっていないらしい。しかしそれも前の
温度のむらと何か
関係のあることだけは
確かでしょう。
4. 【6】
湯が
冷えるときにできる
熱い冷たいむらがどうなるかということは、ただ茶わんのときだけの
問題ではなく、たとえば
湖水や海の水が冬になって
表面から
冷えて行くときにはどんな
流れが
起こるかというようなことにも
関係して来ます。【7】そうなるといろいろの
実用上の
問題と
縁がつながって来ます。
5.
地面の空気が日光のために
暖められてできるときのむらは、
飛行家にとっては
非常に
危険なものです。いわゆる
突風なるものがそれです。【8】たとえば森と
畑地との
境のようなところですと、
畑のほうが森よりも日光のためによけいにあたためられるので、
畑では空気が上り森ではくだっています。それで
畑の上から
飛んで来て森の上へかかると、
飛行機は
自然と下のほうへ
押しおろされる
傾きがあります。【9】これがあまりにはげしくなると
危険になるのです。これと同じような
気流の
循環が、もっと大
仕掛けに
陸地と海との∵間に行なわれております。それはいわゆる
海陸風と
呼ばれているもので、昼間は海から
陸へ、夜は
反対に
陸から海へ
吹きます。少し高いところでは
反対の風が
吹いています。
6. 【0】これと同じようなことが、山の
頂きと谷との間にあって、
山谷風と名づけられています。これがもういっそう大
仕掛けになって、たとえばアジア
大陸と
太平洋との間に
起こるとそれがいわゆる
季節風(モンスーン)で、われわれが
冬期に
受ける北西の風と、
夏期の南がかった風になるのです。
7. 茶わんの
湯のお話は、すればまだいくらでもありますが、
今度はこれくらいにしておきましょう。
8.(寺田
寅彦 大正十一年五月、赤い鳥)
長文 6.4週
1. 【1】七五三というのは年のことですが、
実際は六
歳や四
歳で
お祝いをすることがあります。七五三の年は、数え年というもので、
実際の年より一つか二つ上になります。どうしてこういう年の数え方をするのでしょう。
2. 【2】今は
誕生日がくると一つ年をとる
満年齢が
普通です。しかし、
昔はそうではありませんでした。新しい年がくると、みんないっせいに一つ年をとったのです。
3. 【3】お年玉というのは、もともと年の
魂のことで、お正月に年の
魂であるお
餅を食べて、年を一つとったというわけです。
4. この数え年の考え方は
東洋のもので、
西洋では
昔から今のような
満年齢の数え方でした。【4】
西洋では、赤ちゃんが生まれてきたときから、
年齢を数えます。しかし、日本では、お母さんのおなかにいるときから赤ちゃんの
年齢を数えるため、生まれた
瞬間に一
歳としました。【5】もし、十二月三十一日に生まれたとしたら、その赤ちゃんは生まれたときにもう一
歳です。そして、
次の日に
元旦を
迎えると、すぐに二
歳になるのです。
5. 【6】だれもが同じ一月一日に一つ年をとるというのは、それだけ年が
改まるお正月の
意味が大きかったからなのかもしれません。
6. 今の
満年齢の数え方になったのは、
第二
次世界大戦後のことです。【7】生まれた日から数える
満年齢の考え方は、それなりに
正確で
実用的です。しかし、お正月にお
餅を食べていっせいに年をとった古き
時代のやり方には、
等しく命を
大事にする
文化があったように思えます。
7. 【8】お正月は、お
雑煮のお
餅を食べながら、モチっと日本の
文化について考えてみるのもいいかもしれません。
8. 七五三は、三
歳五
歳七
歳で
お祝いをします。【9】どうして、
年齢の
順に三五七と言わないかというと、
次のようなことがあるからです。∵
9.「えーと、そろそろうちの子も、あれだな。あの三五、えーと三五……」
10.「十五でしょ」【0】
11.
言葉の森
長文作成委員会(α)