1コンピュータは、あることを覚えさせれば一度で間違いなく記憶します。しかし、生き物はそうではありません。
2記憶の実験で、ネズミを、ブザーが鳴ったときにレバーを押すと餌をもらえるような仕組みの箱に入れておきます。3ネズミは、ブザーとレバーと餌の関係に気がつくまで、何十回も何百回も試行錯誤を繰り返します。そして、やがて、ブザーが鳴ったときにレバーを押せばよいのだということを記憶します。4正しいやり方を覚えるまでに、間違ったやり方を何回も繰り返して失敗することが必要なのです。
生き物のこの記憶の仕方は、実は生きるために役立っています。5もし、ブザーとレバーの関係を記憶した人間が、ブザーのかわりにサイレンが鳴り、レバーのかわりにボタンが置いてあるような場所に置かれたとすると、人間はブザーとレバーの関係から類推して、サイレンとボタンの関係にやがてすぐに気がつくでしょう。6しかし、機械は、いつまでたってもブザーとレバーの関係から新しい考えに移ることができません。
7生き物は、高等になるほど曖昧な記憶の仕方ができるようになります。私たちは、ある人が別の服を着て現れても、それが同じ人だということがわかります。8もし記憶が、機械のように正確なものであったなら、違う服を着ている人は違う人だと思ってしまうでしょう。9そのような記憶では、生き物は変化の激しい世界の中で生き続けることができなかったはずです。数多くの失敗を通して覚えるところに、生き物の記憶の秘密があるのです。0
言葉の森長文作成委員会 Σ
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