1私の家では、大晦日に二つの「除夜の音」が聞こえる。一つは除夜の鐘、もう一つは「除夜の汽笛」だ。私は横浜に住んでいて、家は高台にある。2だから年末には、近所の寺から響く「ゴォーン、ゴォーン」という鐘の音と、港で鳴らされる「ブォーウ、ブォーウ」という汽笛の音が聞こえてくるのだ。ベランダに出て、そんな二つの音に耳を傾けるのが、毎年私のひそかな楽しみである。
3大晦日の夜の空気は、いつもと違う。普段なら「うう、寒い寒い、早くこたつに入りたい」と思うだけなのだが、この日ばかりはその寒さが、身も心も引き締めてくれる感じがする。4長かった一年が終わろうとしていることを、実感するからかもしれない。
ある友達は毎年、大晦日にはアイドルのカウントダウンコンサートに行っているらしい。しかも、お姉さんやお母さんまで一緒だというから驚きだ。5そして夜遅くまで開いているお店で、豪華な外食をして帰ってくるのだという。それはそれでたいへんにぎやかで、楽しそうだと思う。しかし私にとっては、そういう大晦日はなんだか落ち着かない。6どこかに出かけるわけでも、何かをするわけでもなく、静かに過ごしたいと思うのだ。食事だって年越しそばで満足である。
これも聞いた話だが、大晦日にそばを食べるのは「細く長く」生きていけるように、つまり来年も「大きな波乱なく、平穏に暮らせますように」という意味があるのだという。7母の手作りのそばをすすっていると、私もまさにそんな気分になる。
どのように過ごすかは、人それぞれだ。しかし人間にとって、大晦日が特別な日であることに違いはない。友達は「大晦日ぐらい、時間を忘れて大騒ぎしたい」と言っていた。8私は逆に、「大晦日ぐらい、時間が過ぎるのを大切に感じたい」と考えている。そうやって、新年を迎える心の準備ができるのは、大晦日という一日だけではないだろうか。「待てば海路の日和あり」というが、
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