a 長文 1.1週 se2
 1オリンピックのメダルが一位(い)から順に(じゅん )金、銀(ぎん)、銅(どう)でできているように、金は大昔(おおむかし)から、とても人気のある金属(きんぞく)でした。なにしろ他(た)の薬品(やくひん)におかされず、やわらかくてコインやアクセサリーにも加工(かこう)しやすく、そして何より美しかっ(うつく   )たからです。2しかし、金は、一トンの金鉱(きんこう)石の中から、わずか三グラムから五グラムくらいしか取れ(と )ないという貴重(きちょう)なものです。
 今から八百年くらい昔(むかし)、ヨーロッパの人々は、珍しい(めずら  )食べ物(た もの)や宝物(たからもの)を求め(もと )て、まだ知られていない海の向こう(む  )の国々へと出かけていきました。3その中の一人、マルコ・ポーロは、旅(たび)の途中(とちゅう)で見聞きしたことを集め(あつ )、のちに『東方見聞録(とうほうけんぶんろく)』という本を出しました。その中で、東洋(とうよう)には「ジパング」という名前の「黄金(おうごん)の国」がある、と書きました。
 4この「ジパング」というのは、実は(じつ )日本のことで、日本の英語(えいご)名である「ジャパン」はこれに由来(ゆらい)しています。マルコ・ポーロ自身(じしん)は、実際(じっさい)に日本を訪れ(おとず )たことはなく、中国で聞いた話として書いただけでした。5しかし、この本に「ジパングにはものすごい量(りょう)の黄金(おうごん)があり、国王の宮殿(きゅうでん)はすべて金でできている」と書かれていたため、コロンブスも、この黄金(おうごん)の国を求め(もと )て船出したのではないかと言われています。
 6ヨーロッパの人が夢見(ゆめみ)た「黄金(おうごん)の国」ほどではありませんが、日本にはかつて佐渡(さど)や鴻之舞(こうのまい)など、とてもりっぱな金鉱山(こうざん)があり、貴重(きちょう)な金がたくさんとれていました。しかし、これらの鉱山(こうざん)もやがて掘り(ほ )尽くさ(つ  )れ、今ではそれほどたくさんの金をとることはできません。
 7そこで、最近(さいきん)注目(ちゅうもく)されているのが、「都市(とし)鉱山(こうざん)」と言われるものです。実は(じつ )、パソコンや携帯(けいたい)電話、液晶(えきしょう)テレビなどの中には、「レアメタル」と呼ば(よ )れる貴重(きちょう)な金属(きんぞく)が、少量(しょうりょう)ずつですが使わ(つか )れています。8その中にはもちろん、金もあります。ですか
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ら、これらの機械(きかい)をうまくリサイクルして、その中の金属(きんぞく)を取り出し(と だ )て使お(つか )う、という試み(こころ )が始まっ(はじ  )ています。9家電製品(せいひん)などがたくさん使わ(つか )れている日本には、世界(せかい)有数(ゆうすう)の都市(とし)鉱山(こうざん)があると言われています。
 今も昔(むかし)も、大人気の金。リサイクルを進め(すす )て、日本は再び(ふたた )、「黄金(おうごん)の国」になれるでしょうか。0

 言葉(ことば)の森長(ちょう)文作成(さくせい)委員(いいん)会 τ
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a 長文 1.2週 se2
1(いないかなあ。いるにちがいない。)
 などと、心にいいきかせては、ふみちゃんのこいをむちゅうでおいつづけました。
 ふしぎなことに、いつのまにか、ぼくの頭の中をすばらしいにしきごいが、すいすいとおよぎはじめていました。2こがねいろ一しょくの目のさめるようなこいなのです。
 用水のどては、夏草がおおくて、やぶかがたくさんいます。「ぶわんぶわん」といっせいにとびだして、ぼくのからだを、ところかまわずさしまくりました。
 3けれども、それが、その日にかぎって、ふしぎと気にならないのでした。にしきごいにとりつかれてしまったぼくには、すこしぐらいのちを、やぶかにすわれても、それは、たいしたことではなかったのでしょう。

 4ふとみると、用水のそばに池がありました。池はあさくて水はきれいにすんでいました。(はてな、見たことのある池だな。)
 「ちらりっ」とそんなおもいがしました。
 でも、そのしゅんかん、ぼくは池の中の大きなこいたちのむれに、気をとられていました。
 5池には、赤・青・黒のたくさんのまごいたちが、ゆうゆうとおよいでいたからです。
 きれいにすんでいる水の中を五十センチほどもあるこいたちが、ひとつのかたまりになって、すいすいとおよいでいるようすは、ぼくをうっとりさせてしまいました。6なんだか、ゆめの国にいるみたいでした。
 そして、このゆめの中のぼくは、ふみちゃんにおそわったあのにしきごいが、この池の中にきっといるとおもいはじめたのです。すると、どうでしょう。7たくさんのまごいのあいだを、まるで女王さまのようにゆうゆうとおよいでいるあのにしきごいがいたのです。あかるい目のさめるような、こがねいろのこいでした。
 それは、さっきから、頭の中を、いったりきたり、ちらちらちらちら光って見せる、ふみちゃんにきいた、あのこいだったのです。
 8ぼくは、かかえていたカバンをなげすてました。ズックぐつをぬぎ、「すたすたっ」と、おもわず池の中にはいっていきました。
 ところが、どうしてどうして、こいはすばしっこいさかなです。ばさばさ! と大きな水音をたてて、いっせいににげはじめたのです。
 9たちまち池の水は、にごってしまい、もう、一ぴきのこいも見えなくなりました。それにぼくは水しぶきをあびて、ずぶぬれにされたのです。
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 ぼくは、きゅうにこうふんしてきました。からだの中で、むらむらっと、むちゃくちゃの虫がうごきはじめたのです。
0(ええ! どうにでもなれ。ようし、一ぴきはかならずつかまえるからな。)
と、むちゅうになって、むちゃくちゃ虫のいうままにうごきはじめたのです。
 まず、池のかたほうのはじから、こしをかがめ、りょう手を水の中にいれて、すばやくひらいたりちぢめたりしながら、こいの大軍(たいぐん)をもういっぽうのはじに、「じわじわっ」と、おいつめていきました。
 おいつめられたこいたちは、びっしりとせをかさねあいながら、「ばしゃばしゃ、ばしゃばしゃっ」と、大きな音をたてています。
 ぼくは、
(えい!)
と、気あいをかけて、むちゃくちゃにこいの中へつっこんでいきました。
 ところが、それがいけなかったのです。おいつめられた数百ぴきのこいたちが、なんといっせいに、ぼくにむかってたいあたりをしてきたからたまりません。水の中へ「ずでん」とあおむけにひっくりかえされ、そのうえ、あっぷあっぷと、どろ水をたんまりとのまされてしまいました。
 さあ、ぼくのはらの虫がおさまりません。
「ちくしょう、やったな。」
と、おもわずさけんでいたのです。
 もう、にしきごいなどどうでもよくなりました。いまは、ただ、このぶざまなまけいくさのめいよばんかいのために、こいたちを、めっちゃくちゃに、やっつけたくなりました。

『いたずらわんぱくものがたり』「まぼろしのにしきごい」(代田(しろた)昇(のぼる))より
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a 長文 1.3週 se2
 1はたけは、麦をかりとったあとで、すっぺりとしていました。わたしは、いっしょうけんめいはしりました。みなもおってきます。
 ところが、そのうち、わたしは、足のうらがあつくてたまらなくなりました。2そのころのわたしたちは、みんなはだしでしたから、夏の日ざしにやけた土は、ちょうどすなはまとおなじように、あつかったのです。
 それで、わたしは、はしりながら、草がすこしかたまってはえているようなところをえらんで、ふむようにしました。
3(しめた、これならあつくないぞ。)
 そうおもいながら、五、六ぽもいったでしょうか。お神明(しんめい)さんは、すぐそこです。
 そのとき、
「あいたあっ!」
 右足のうらに、ひどいいたみをかんじて、わたしはとびあがりました。きりでもズブリとさしとおしたようなかんじです。
 4一ぽ、二ほ、たたらをふむと、土の上にころがりました。かずまくんやいくおくんたちは、すぐにとんできました。
「どうした。」
「へびか。」
 わたしは、しりもちをついたまま、右足を見ました。なにか、つきささっています。5くぎです。赤くさびた、五寸くぎ(ごすん  )です。ブッスリとはいりこんでいます。いたみが頭のしんまでつきとおります。
「すぐにぬいてしまわなきゃなんねえど。」
 かずまくんは、そういうと、いきなりわたしの足をかかえ、つきささっているふるくぎをつかむと、おもいきりつよく、グイとひきぬきました。
6「ああっ!」
 おもわずひめいをあげましたが、もうそのときには、くぎはとれていました。
「三センチぐれえも、へえってたな。」
 いくおくんが、まゆをひそめてわたしを見ています。わたしは、りょう手でその足くびをにぎりしめました。7ちがすこしでてきましたが、ぬいたあとはすぐふさがりそうにも見えます。
「あるけるか。たってみろよ。」
 左足に力いれて、そっとたってみました。いたみはたしかにかんじますが、つまさきをちょっとつけるようにすれば、あるけないこともなさそうです。
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8「かたなをつえにすればいい。」
 いわれたとおりやってみると、いかにもちゃんばらでやられたゆうしのような気になりました。
 ちゃんばらごっこは、それでちゅうし。みんなでお神明(しんめい)さんのまえで、しばいごっこなどをして夕方まであそび、家へもどるときには、もうそのけがのことは、ほとんどわすれていました。
 9さて、これですんでいればなんということもなかったのですが、つぎの日になって、この足が、いたみだしたのです。赤くはれだした足のうらは、すこしずつ、いたみをましてきました。
 0しかられるかもわからないとおもったわたしは、いつかいたみがひくことをねがって、こらえていましたが、どうにもこうにも、がまんしきれなくなりました。ズキンズキンと、ほねでもきられるようないたさです。
 たぶん、その夕方だったでしょう。足をおさえてころげているのを、兄かあねが見つけ、母にしらせました。母は、いそいでやってくると、赤くはれた足のうらを見るなり、さけびました。
「なにをしたんだえ、この足は。」
 わたしは、いたみになみだをながしながら、けがをしたときのことをはなしました。とたんに、母は、いきなりわたしのほおを、パシッとたたきました。
「なんで、すぐさまいわなんだがや!」

『いたずらわんぱくものがたり』「ちゃんばらごっこのけが」(かつおきんや)より
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a 長文 1.4週 se2
 1そろばんのもとになるものは、エジプトのピラミッドができるころから発明(はつめい)されたと言われています。日本にそろばんが入ってきたのは、中国からでした。2中国のそろばんは、中国式(しき)計算にあうように、上のたまが二つ、下のたまが五つあり、そのたまは、丸い球形(きゅうけい)をしていました。3しかし、丸いたまはつるつるして、ずれることがあります。日本人は、ぱちぱちと動かし(うご  )やすく、また動かし(うご  )た位置(いち)でずれにくくするために、上から見ると円で横(よこ)から見るとひし形という今の形にしました。4また、十以上(いじょう)になると、となりのたまに移る(うつ )ように、上のたまを一つにし下のたまを四つにしました。こうして、中国のそろばんよりもすばやく計算ができる日本のそろばんができました。今世界中(せかいじゅう)に広がっているそろばんは、日本の形のものになっています。
 5そろばんと電卓(でんたく)とをくらべてみると、電卓(でんたく)のいいところは、使い方(つか かた)がかんたんで、まちがえることがないことです。そろばんは、すばやく計算できるようになるためには、毎日の練習(れんしゅう)が必要(ひつよう)です。それに、動かし(うご  )方をまちがうと、計算まちがいをすることもあります。
 6けれど、毎日練習(れんしゅう)することで、計算する力が身(み)につきます。指先(ゆびさき)を動かす(うご  )ことで、指(ゆび)が器用(きよう)になり、脳(のう)の働き(はたら )もよくなります。また、計算している数字を、たまのかたまりの動き(うご )として目でつかめるようになります。7何よりも、美しい(うつく  )木でできているたまをはじき、自分がどんどん上手になっていくことで、達成(たっせい)感(かん)や気持ち(きも )の良(よ)さが味わえ(あじ  )ます。8世の中(よ なか)には、簡単(かんたん)であるからいいというものもありますが、そろばんのように身(み)につけるまで時間がかかるからいいというものもあるのです。
 9そろばんは、鳴らすといい音がするので、楽器(がっき)のかわりにして遊ぶ(あそ )人もよくいます。でも、床(ゆか)をすべらせて遊ぶ(あそ )ことは絶対(ぜったい)におすすめできません。すぐにこわれてしまうからです。実は(じつ )こんなことを書くのも、そうやって遊ん(あそ )でしまういたずらっ子がけっこういる
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からなのです。0

 言葉(ことば)の森長(ちょう)文作成(さくせい)委員(いいん)会 λ
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a 長文 2.1週 se2
 1ところが、千曲川(ちくまがわ)のいきは、はやくはやく川へいきたいばっかりでしたが、かえりに、この目のさめるような赤ナスばたけのそばをとおるときは、子どもたちの心は、大きくゆらぎました。だいいち、さんざ水をあびてつかれていました。2いきはよいよいかえりはこわいのうたのように、子どもたちは、身(み)も心もだれきっていました。一休みして水がほしかった。そこへもってきてさかをのぼりつめたとたん、この赤ナスばたけのふうけいは、たまらなかったのです。
 3その日はどういう日だったか、がまんしきれないで、はるきち、よしお、ちよの三人で、ちよはわたしでした。とうとう、一つとってたべてみようということになって、はるきちがはたけへはいり、よしおとちよが、見はりばんでした。
4「すみのほうのをもいで、すぐにげだせばいいぞ。」
 はるきちは、こしをこごめて、わたしたちからはなれていきました。よしおは、家へはいる道のトマトの木にかくれ、ちよは、すこしはなれたところにたって、家のほうを見つめて、見はりをしていました。
 5ここで三人は、ちょっとけいさんちがいをしていたのです。家の中から人がでてくるということばかりかんがえて、見はりばんをしていて、うしろからだれかくるかもしれないということは、かんがえてもみなかったことです。6それだけ、人どおりのないところだったせいもあったかもしれません。
赤ナスの木の葉(こ は)のかげに、はるきちの頭が見えていましたが、すぐ見えなくなりました。
「とったなーっ。」
 ちよは、むねがどきんとしたけれど、こんなにあるんだから、一つや二つわかるものかと、気を大きくしていたときです。7まったくおもいがけないことになりました。わたしのたっているうしろから、
「これこれ、赤ナスがほしいのかね。」
 わらい顔でひんのいいおばあさんがふろしきづつみをかかえて、こうもりがさをさしかけたまま、よびかけたのです。
 8わたしは、はっとしたまま、にげだせません。はるきちとよしおは、それっ! とばかり、ふたたび千曲川(ちくまがわ)のほうへ、ころげるようににげだしました。わたしは、こまってしまいました。
「女の子がこんなことをすると、家の人がかなしがりますよ。」
 9やさしいことばでした。
「どこのむすめさんだね。」
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 わたしの顔を、しげしげとながめています。
(おまえは、男の子ばかりとあそんでいて、らんぼうでこまったものだ。)
 おかあさんの顔といっしょに、毎日のようにいわれていることばが、すーっと頭の中をとおりすぎました。

 0それからあとは、そのおばあさんが、
「赤ナスの、とったのがうちにあるからあげるで、ふたりをよんでおいで。」
といって、家の中へはいりました。おばあさんが、家へはいるのを見とどけると、わたしは、ふたりのあとをおって、いっきにさか道をおりていくと、谷のほうへ、えだぶりがよくでている大きなまつの木のねもとに、ふたりともしょんぼりこしをおろしていました。
わたしを見ると、
「じゅんさがきたかよ。」
 はるきちの大きな声でした。よしおのほうは、とおまわりだが、三の門のほうから家へかえろうと、あるきだしました。三人はさっきの元気はどこへやらで、日はくれかかるし、心ぼそかったし、それよりも、はるきちが赤ナスをとったのか、とらなかったのか、そんなはなしもひとこともでないで、とおまわりの道のほうへ、おもくなった足をはこびました。

『いたずらわんぱくものがたり』「赤ナスとおまわりさん」(宮口(みやぐち)しづえ)より
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a 長文 2.2週 se2
 1母まで、まるでわたしのことなどわすれたように、白いまえかけのひもをきゅっとむすぶと、もうながしばのほうにいってしまいました。
 わたしはしかたなく、かつよねえちゃんを、よこ目でひとにらみしてから、うらにわのむこうのはなれにいきました。
 2はなれでは、太郎(たろう)くん、みっちゃん、としぼうたち、ちびすけばかり五、六人が、ひとかたまりであそんでいました。
「あ、ゆう子ちゃんだ。」
と、みっちゃんがとびついてきました。みっちゃんは、わたしより一さい年下のなかよしです。3でもわたしは、ぶすっとつったっていました。このままはなれでちびすけたちのあいてをするなんて、じつにつまらないことにおもえてきたからです。
「ねえ、あそぼうよ。」
 みっちゃんがわたしの手を、しきりにひっぱります。4そのとき、いいことをおもいつきました。家の中のたんけんをしてやろう、とおもったのです。
「みっちゃん、おいで。」
 わたしはみっちゃんをつれて、いそいではなれをとびだし、うらにわのしげみにかくれて、ざしきのようすをうかがいました。
5「なにするの。」
「しっ、だまって、たんけんよ。」
「たんけん?」
「うん、そうっと家の中にはいってなにかいいものさがしだそう。かあちゃんたちに見つからないようにね。」
「見つかったらいけないの?」
「そうよ、見つかったら、たんけんにならないよ。」
「うん、おもしろそうだね、たんけんって。」
 6みっちゃんはすぐにうなずきました。みっちゃんは、いつもわたしのいうなりになるのです。
 ふたりはざしきのよこにまわり、ろうかのすみっこから家の中にしのびこみました。そしてまず、ふろばにとびこみました。
 7ざしきのほうからきこえてくる、おじいさんたちのはなし声やわらい声。だいどころの水の音、おさらのふれあう音や足音。いろんな音に耳をすましながら、ふたりは、かがみのまえでくびをすくめてくすりとわらいました。
8「あ、かあちゃんの声だ。」
みっちゃんが、とびだそうとしました。
「だめ、みっちゃん。見つかったら、また、はなれにつれもどされるよ。」
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 それからふたりは、かべにそって、そうっと、そうっと、せ中をまるめてあるきました。
 9だいどころのそばの、小べやのまえまできたときです。
「あれ、なに?」
と、みっちゃんがゆびさしました。
 せまいへやじゅうには、おさらをだしたあとの木ばこなどが、ほうりだしてありました。0そのまん中にテーブルが一つ、そしてテーブルの上に、なんだか大そうおいしそうなものが、どんぶりに山もりにおいてあるのです。
 だれもいません。ふたりはテーブルにかけよりました。
 どんぶり山もりのおいしそうなもの、それは金いろにつやつやともりあげた、きんとんでした。見ているだけで、ツバがでてきそうです。
 みっちゃんがぶすりとゆびをつっこんで、ひとなめしました。
「わっ、おいしーい。」
 わたしも、やわらかい金いろの中に、おもいっきり人さしゆびをつっこんで、きんとんをすくいました。
 あまくてあまくて、とろりと口いっぱいにとけそうです。すくってはなめているうちに、気がとおくなりそうな、おいしいきんとんです。

『いたずらわんぱくものがたり』「きんとんきんとんくりきんとん」(山口勇子(ゆうこ))より
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a 長文 2.3週 se2
1「ゆるりばたではしるでねえ!。」
 ねどこの中で、おこっている母の声です。そのひょうしに、兄がちょっとひるみました。そこでわたしは、いっきにおいつめようとしたとき、おもわず、お茶ぼんを、けっとばしたのです。
「あっ!」
 2わたしは、からだじゅうから、ちのけがひいていくほど、びっくりしました。やっと、つやのでてきた、ばんこやきのきゅうすを、父が、どんなにだいじにしているか、よくしっていたからです。
 はいの中にころげおちたきゅうすを、そっとひろいあげました。3こわごわと、さし口や、ふたにさわってみました。兄も、しんぱいそうにのぞきこみました。
 こわれては、いませんでした。ひびもはいっていないようです。あわてて、ながしへもっていって、はいをあらいおとし、もとのところへおいて、ふきんをかぶせました。
 4兄も、だまって、もちをやきはじめました。
 そこへ、父のほうが、さきにおきてきたのです。だまって、たばこを一ぷくすうと、いつものように、いればをもって、顔をあらいにいこうとしました。
 お茶ぼんのふきんを、めくりました。はがありません。
 5わたしは、どきっとしました。きゅうすのことばかりがしんぱいで、それまで、いればのことは、わすれていたのです。それでも、だまって下をむいていました。
「おーい。ゆうべは、はをどっかへしまったか?」
 6父は、まだおきてこない、母のほうへいいました。はのない父のことばは、声がもぐって、よくききとれません。
「ちっとゆっくりしてえのに、みんなでうるせえだから。」
 母はぶつぶついいながら、おきてきました。
7「おぼんの上には、ねえだかい。」
 そういいながらも、母は、戸だなの戸を、しめたり、あけたりして、さがしはじめました。
(あってくれますように――。)わたしは、からだをかたくして、いのるおもいでした。兄もだまっています。
8「おまえたちは、さっき、おぼんをけとばしたんじゃあ、あるまいなあ。」
 くるりとこちらをむいた、母は、おそろしいまでに、こわい顔になっていました。
 いろりばたにひざをつくと、長い火ばしで、はいの中を、かきまわしはじめたのです。9父もさがしましたが、ありません。
 しまいに、もえているマキをくずし、火の中までもさがしまし
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た。すると、小さくしぼんで、もとのかたちなどなくなっている、いればらしいものが二つ、まっかなおきの中からでてきたのです。
 0わたしも兄も、もういろりばたからは、とおくさがった、いたのまに、ひざをそろえて、すわっていました。
「ゆるりばたでさわいじゃあ、なんねえって、あれほどゆってることが、わからねえだか。いればをつくるには、たんと、金がかかるだよ、金をだしたって、いまいって、すぐ買えるものじゃあなかんべあ。はがなかったら、けさっから、なにもかめねえだよ。おまえたちも、なにもくわずにいるといい。」
 母は、こまったのはとおりこして、もうやけっぱちのように、おこりちらしました。
 そのころ、わたしの村には、まだ、はいしゃさんはありませんでした。町までは、とまりがけでなければ、いかれなかったじだいです。
 はのない父は、おこりたいことばさえ、うまくはしゃべれなかったのでしょう。こわい顔で、たばこだけをすっていました。

 じぶんでも、もういればのせわになる年になりました。あの朝の父のかなしさや、母のはらだたしさがとてもよくわかって、すまなく、それでも、なつかしくおもうのです。

『いたずらわんぱくものがたり』「父のいれば」(宮川(みやがわ)ひろ)より

おき(すみがほのおを上げないでもえているじょうたい)
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a 長文 2.4週 se2
 1ダイヤモンドの美し(うつく )さは、さまざまな色の輝き(かがや )を複雑(ふくざつ)に放っ(はな )ているところにあります。
 光は透明(とうめい)なようですが、実は(じつ )いろいろな波長(はちょう)の光が集まっ(あつ  )ています。だから、プリズムに通すと曲がり(ま  )方の違い(ちが )からさまざまな色が見えます。2空気中の水分に日の光が当たって、虹(にじ)が見えるのもこの原理です。
 ダイヤモンドは光の屈折(くっせつ)率(りつ)が高く、光を大きく曲げる(ま  )性質(せいしつ)をもっています。そうすると、短い(みじか )波長(はちょう)の紫(むらさき)は強く曲がり(ま  )、長い波長(はちょう)の赤色は弱く曲がり(ま  )ます。3その間の色もそれぞれの曲がり(ま  )方をするので、ダイヤから出てきた光はさまざまな色に分かれて見えるのです。
 ダイヤモンドは、最も(もっと )硬い(かた )石と言われています。硬(かた)さの調べ(しら )方は、ある鉱物(こうぶつ)と他(た)の鉱物(こうぶつ)をこすり合わせ、傷(きず)のついた方がやわらかい、という方法(ほうほう)で行います。4ダイヤモンドは、どの鉱物(こうぶつ)よりも傷つき(きず  )にくいのです。
 では、ダイヤモンドは割れ(わ )ないのかというと、金づちでたたいただけで砕け(くだ )てしまうこともあります。それは「へき開(  かい)」と言って、割れ(わ )やすい特定(とくてい)の方向(ほうこう)があるからです。5鉱物(こうぶつ)はその内部(ないぶ)の原子の配列(はいれつ)によって、結合(けつごう)のとても弱い方向(ほうこう)ができる場合があります。植物(しょくぶつ)を切る時、その繊維(せんい)の向き(む )により、縦(たて)にさくのは簡単(かんたん)でも横(よこ)にちぎるのは難しい(むずか  )、ということがありますが、その場合と似(に)ています。
 6鉄(てつ)はすぐにさびますが、ダイヤモンドはさびることはありません。日光にさらされても変色(へんしょく)せず、酸(さん)に溶ける(と  )こともないので、とても安定(あんてい)した物質(ぶっしつ)です。ただ熱(ねつ)には弱く、高温(こうおん)で熱し(ねっ )た場合、気化(きか)して二酸化炭素(にさんかたんそ)になってしまいます。7つまり、火事(かじ)にまきこまれると、あとかたもなく消え(き )てしまうことがあるのです。
 ダイヤモンドの価値(かち)は、重(おも)さ、品質(ひんしつ)、色、カットの仕方(しかた)によって大きく変わり(か  )ます。珍しい(めずら  )青やピンクのダイヤなどはとても価値(かち)の
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高いものです。8しかし、実際(じっさい)は宝石(ほうせき)としては適さ(てき )ないものの方が多くあり、それらは価格(かかく)も安く(やす )、その硬(かた)さゆえに工業(こうぎょう)用として広く利用(りよう)されています。たとえば回転(かいてん)する工具(こうぐ)の刃先(はさき)にダイヤモンドがまぜられていると、金属(きんぞく)でもコンクリートでも削り(けず )とることができます。9これは、道路(どうろ)工事(こうじ)でアスファルトを切るのに使わ(つか )れたり、歯医者(はいしゃ)さんの歯(は)を削る(けず )ドリルに使わ(つか )れたりしています。家庭(かてい)の電化(でんか)製品(せいひん)や車も、ダイヤモンドの助け(たす )を借り(か )て作られたものが実は(じつ )たくさんあります。
 ダイヤは宝石(ほうせき)としてもてはやされているだけなく、身近(みぢか)な生活の中でも活躍(かつやく)しているのです。0

 言葉(ことば)の森長(ちょう)文作成(さくせい)委員(いいん)会 α
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a 長文 3.1週 se2
 1小屋(こや)の中には、なん十頭ものブタがいます。もし、それらのブタがバクチクにおどろいて、小屋(こや)をとびだしたらどうなるでしょう。町じゅうは、ブタだらけになってしまいます。どうろというどうろにブタがあふれ、家の中にまで、ブタがとびこんでくるでしょう。2ブタは、おひつをひっくりかえしてごはんをくうかもしれません。ちゃだんすから、おかずをくわえだすかもしれません。もしかしたら、ねている赤んぼうにかみつくかも……。
 ぼくのひざこぞうは、がくがくしてきました。
3(にげちゃおう!)と、おもったときです。
コウちゃんが、
「火をつけろ!」
と、めいれいしました。小さいけれど、力のこもった声です。
 ふたり一組になって、ひとりがバクチクをもち、もうひとりがマッチをするのです。4ぼくは、サブちゃんと組でした。ぼくがマッチをするやくですが、なかなか火がつきません。マッチぼうを三本もおってしまいました。やっと火がついたら、こんどはサブちゃんの手がふるえるので、うまくバクチクに火がつきません。5いや、ほくの手だって、ふるえていたのです。
 そのうらに、シュルシュルシュルという音がきこえました。コウちゃん、ヘイちゃん組のバクチクのどうかせんに、火がついたのです。つづいて、チヨちゃん、クンちゃん組のバクチクにも火がつきました。
6「それっ。」
 コウちゃんが、バクチクをさくの中になげこみました。クンちゃんもほうりました。すると、サブちゃんはあわてて、まだ火がついてもいないのに、ほっぽりだしました。
 ぼくらは、もうあとも見ないでかけだしました。7ブタ小屋(こや)のつうろはじめじめしていて、よくすべるので、あまりはやくかけれません。サブちゃんが、すてんところびました。
「ゲンちゃん、まってえ。」
 サブちゃんのなき声がうしろできこえましたが、たすけてやるどころではありませんでした。
 8ぼくらは、ブタ小屋(こや)をとびだそうとしたとき、ばったり社長とはちあわせしてしまいました。おもいがけないことだったので、たまげてしまいました。
 社長のほうも、とつぜん子どもたちがとびだしてきたので、目をまるくしていました。9そのすきに、ぼくらはにげだしてしまいました。
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「こらっ、まてえ!」
 社長のどなる声がおいかけてきましたが、みんないちもくさんにかけました。
 やっとじぶんの家のちかくまでにげてきて、ほっとしたとたんにぼくらはサブちゃんがいないことに気がつきました。
 0ぼくは、どきんとしました。ころんだサブちゃんをおいてきぼりにしてきたことが、きゅうにすまなくなりました。
「社長に、くびのほねをへしおられたかしら。」
と、チヨちゃんがいったので、みんなしんぱいになりました。
「まさか。」
と、クンちゃんがうちけしました。
「そんなばかなことするもんか。」
 ぼくもじぶんにいいきかせました。
「コウちゃん、バクチクの音きいたかい?」
と、ヘイちゃんがいいました。
「いや、おれもへんだとおもってるんだ。」
 バクチクがはれつしたのを、きいたものはありませんでした。あとでわかったのですが、ブタ小屋(こや)のゆかがぬれていたので、火がきえてしまったのです。
 しばらくすると、サブちゃんが、にやにやしながら、もどってきました。
 社長は、サブちゃんから、ぼくらがあそびばをとられた、しかえしをしたことをきくと、
「わっははは……、がきどもやりおるな。」
と、わらったそうです。そして、どろだらけのサブちゃんを、水道までつれていって、あらってくれたそうです。そして、
「もっと、元気になれよ。」
といって、かたをたたいてくれたそうです。
「とってもやさしかったよ。」
と、サブちゃんはいいました。
 きっと、社長も子どものころわんぱくぼうずだったのでしょう。

『いたずらわんぱくものがたり』「バクチクをなげろ」(長崎(ながさき)源之助(げんのすけ))より
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a 長文 3.2週 se2
 1しんがっきが、はじまりました。
 ぼくたちの四年男子組のうけもちは、となり町からうつってきた森先生にかわりました。
 森先生は、はじめてのじゅぎょうのとき、
「きょう女子組の先生から、男子組のせいとが、ヘビのようなものをつかって、女子をおどしたり、なかせたりするものがいるから、げんじゅうにちゅういしてくれといわれた。2よわいものいじめはよせ! 男子らしくないぞ。」
といって、口をきつくむすんで、こわい顔をして見せました。ぼくたちの組の男子は、そのはん人が、だれであるか、ひとりのこらずしっていましたが、みんなしらん顔をしてだまっていました。
 3そのとき、ガキだいしょうの勝五郎(かつごろう)が、「ふん」と、はなをならしました。勝五郎(かつごろう)は、よくないことをけいかくするまえに「ふん」とはなをならすくせがありました。(で、あいつ、なにかやるつもりだな。)と、ぼくはすぐかんじたのです。
 4この小学校でも、あたらしい先生がきたときは、なにか、いたずらをして、先生をびっくりさせたり、おこらせたり、おおわらいをして、からかったりするのが、しきたりのようになっていました。5いたずらのさしずをするのは、ずうっとまえから、まえのガキだいしょうが、つぎのガキだいしょうにひきつぐとりきめになっていたのです。
「おい、みんな、ひる休みに校ていのサクラの木の下にあつまれ、省(しょう)ちゃんは、ぞうりぶくろをもってくるのだぞ。」
 6勝五郎(かつごろう)のめいれいが、耳から耳へまたたくまにつたわりました。
 ぼくが、ぞうりぶくろをもってサクラの木のところへいくと、もう、勝五郎(かつごろう)の子分いちどうが、顔をそろえてまっていました。
 7勝五郎(かつごろう)は、ぼくから、ぞうりぶくろをうけとると、じぶんのふところから、ぼくのヘビをひっぱりだしてふくろの中にいれました。
「いいか、みんな、このふくろを、教卓(きょうたく)の上にのせておくんだ。8先生が、だれだ、このようなけがらわしいものをここにおいたのは、とかなんとかいいながら、ふくろの中に手をいれる……、それからは、見てのおたのしみだぞ。」
 勝五郎(かつごろう)は、そこでまた、「ふふ」と、とくいのはなをならしました。
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 9いたずらがうまくなければ、ガキだいしょうにはなれないというけれど、まったく、そのとおりでした。
 いよいよ、午後のじゅぎょうはじめのかねの音が、きこえてきました。
 四年男子組のきょうしつの中は、しいーんと、しずまりかえっています。0これから、なにがおきるか、みんな、おもいおもいのばめんを頭にうかべて、いきをのみこんでまっていたのです。
 やがて、ろうかのむこうから、先生の足音がきこえてきました。ガラッと、音をたてて、ドアがひらき、一ぽ一ぽ、先生が教卓(きょうたく)にちかづいてきます。それから(なんだこれは?)とふくろに手をかけるまでの、はらはらどきどきのスリル……、このすばらしい気もちを、なににたとえていったらよいのでしょう。
 先生は、勝五郎(かつごろう)がかいた、げきの台本(すじがきの本)をそっくりそのまま、じつえんするように、ふくろをもちあげ、口をひらいて中に手をいれました。
「なにがはいっているんだ。けったいなものだぞ、これは……。」
 そこまでのことばは、ふつうのおちついたちょうしでした。が、つぎのしゅんかん!
「うわっ?」
 先生は、せいとが目のまえにいるのもわすれ、はじもがいぶんもふっとばしたような、さけびをあげながら、手にもったヘビを、まどをめがけてなげつけました。
 ほんもののヘビだとおもって、びっくりぎょうてんしている先生を見て、ぼくたちは、わあ!と、かんせいをあげました。なんだか、むねの中にたまっていたものが、ふっとんでいくようなふしぎな気もちがしました。
 が、先生は、まどガラスにぶつかって、ゆかいたの上におちてきたヘビを見て、はじめて、これがもんだいのヘビのおもちゃとわかりました。すると、おそろしさが、はずかしさにかわったのでしょう。青くなった顔が、まっかないろにかわりました。そして、ぞうりぶくろにかいてある名まえをよむと、すぐ、ぼくのまえにきて、
「人間は感情(かんじょう)のどうぶつだぞ! おれだって、人間だぞ! ばかにするな!」
と、大声でどなりながら、ぞうりぶくろで、ぼくのほおを力まかせになぐりつけました。
 ぼくが、うるんだ目で、勝五郎(かつごろう)のほうを見ると、かれは、しらん顔で、「ふん」とよこをむきながら、また、はなをならしているのが、なみだににじんで見えていました。
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長文 3.2週 se2のつづき
 ぼくは、そのとき、はじめて「人間は感情(かんじょう)のどうぶつだぞ!」ということばをおぼえたのでした。そうして、六十年もたったいまでも、そのことばが、なぐられたいたさとともに、ぼくの心の中にいきつづけてきたことを、わすれることができません。

『いたずらわんぱくものがたり』「先生だって人間だぞ!」(猪野(いいの)省三(しょうぞう))より
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a 長文 3.3週 se2
1「なにか、ないかなァ。」
と、家じゅうの戸だなをあけてみましたが、きょうにかぎって、いつもよういしておいてくれる四人分のおやつがありません。
 そのとき、おもいだしたことがありました。2せんだっての夕方、うちへ、大きなブリキかんをとどけにきた人がいて、かあさんが、
「なにしろ、たべざかりが、こんなにおおくちゃ、このせつ、おやつ代(だい)だって、ばかになりませんからね。」
といいながら、お金をはらっていたのです。
3「そうだ、あれはきっと、おかしの買いだめにちがいない。あれだ!」
と、気づいたまではいいけれど、さて、どこにしまったのかな? みんながるすなのをさいわい、あっちこっち、おしいれや戸だなをさがしているうちに、ありました! 4しんさつしつの入り口のかげがかいだんになっている、そのふくろ戸だなの、ふるしんぶんがつんであるかげに、そのかんが見つかったのです。
「なんだ、こんなところに。」
ふたをあけてみると、やっぱり! あの、さかなのかたちをした、小さい、あめいろのおせんべいが、ぎっしりつまっています。
 5わたしは、はっと、いきをのみました。いつもなら、十つぶぐらいずつ、かぞえてわけてもらうおいしいおかしが、こんなにたくさん、目のまえで「たべてください」といっています。それにぷーんと、いいにおい。
 6わたしは、金貨(きんか)の山をまえにしたよくばりじいさんみたいに、手ですくってはあけ、またすくって、たのしんでいましたが、おもいきって、りょう手をおさらにして、山もりすくうと、たちあがりました。さて、かんのふたが、しめられません。7そこで、いったんぜんぶ、かんの中にあけて、こんどは、おでこで、ふたをおさえ、すくってからそーっとおでこをはずしてみます。うまくいきました。こんどは、戸だなの戸をしめるばん。りょう手がつかえないから、足でしめるしかありません。8おもいガラス戸なので、ガラガラッと大きい音がします。大いそぎでこれだけやると、べんきょうべやにもどって、一つずつ口にほおばります。そのおいしいこと。たべおわるころは、おなかがいっぱい。
 それからかんがえました。9おかしが、きゅうにへったと、かあさん、気がついて、おこるかな? いや、あんなにあるんだから、わかりっこない。いもうとたちに、おしえてあげようか。いや、三人のうち、だれかがつげ口するかもしれない。0それに、みんながまねをしたら、たちまちかんがからっぽになって、すぐバレてしま
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う。だまっていよう。
 この日からわたしは、おやつどろぼうのあじをおぼえました。しけんべんきょうのときなんか、ま夜中にもやりました。
 わたしは、このときのことを、ずっと大きくなっても、だれにもいいませんでした。だって、ふだんねえさんぶっていながら、こんな、しょうのないくいしんぼだと、しられたくなかったからです。ところが、あとで、とんでもないことをしりました。いいえ、あたりまえといったほうがいいのかもしれません。
 とうさんが七十八さいでなくなり、初七日(しょなのか)もすんで、みんながあつまったときのことです。しごとも、とうにやめて、さびしくなったかあさんをかこんで、いまはおとなになったきょうだい四人がこたつにはいり、とうさんのむかしばなしや、じぶんたちの子どものころのおもいでを、はなしあっていました。そのとき、わたしが、「じつは、とってもはずかしいはなしだけれど」と、おやつどろぼうのことをはくじょうしました。
 そしたら、
「あらっ、ねえさんも?」
「わたしもよ。」
「わたしだけかとおもった。」
と、いもうと三人が、いっしょにわらいだしました。そして、めいめい、「わたしはこうして」「わたしは、こんなふうに」と、そのときのまねをして見せました。
 かあさんの顔を見ると、しわだらけの顔がわらっています。
「そうそ、そんなことがあったね。おさげやら、おかっぱやらの、頭の黒いネズミどもが、四ひきも、かわるがわるしゅうげきするんだものね。なんでもまとめて買えば、やすくつくとおもったけど、おかしだけは、あてがはずれたよ。とんだかんがえちがいさ。」
「なあんだ、かあさん、しってたの。」
「しらないもんかね。」
「どうして、おこらなかったの。」
「どんなにびんぼうしていたときでも、たべもののことで、かあさんおこったことが、あったかね。」
 ほんとに、そうでした。さすがに、かあさん、むすめたちより、なんまいも上でした。

『いたずらわんぱくものがたり』「おやつどろぼう」(増村(ますむら)王子)より
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a 長文 3.4週 se2
 1私(わたし)たち日本人にとって、海苔(のり)はとてもなじみ深い(ふか )ものですが、外国の人たちにはそうでもないようです。
 明治(めいじ)時代(じだい)に日本にやってきた西洋(せいよう)人は、「日本人は黒い紙を食べる」と言って不思議(ふしぎ)がったようですが、今でも海苔(のり)が苦手(にがて)な外国人は多いようです。2外国人のパーティーに、巻きずし(ま   )を作って持っ(も )ていったら、その美し(うつく )さには感心(かんしん)されたが、海苔(のり)をはがして食べるので、せっかくの巻きずし(ま   )がぐちゃぐちゃになってしまったという話も聞きます。どうして海苔(のり)をはがしたのかというと、「皮(かわ)だと思った」のだそうです。
 3あまり知られていませんが、二月六日は「海苔(のり)の日」です。なぜこの日が「海苔(のり)の日」になったのかというと、今から千三百年くらい前の日本最古(さいこ)の法律(ほうりつ)である「大宝(たいほう)律令(りつりょう)」が広められた日だからです。奈良(なら)時代(じだい)のすぐ前、飛鳥(あすか)時代(じだい)の終わり(お  )頃(ごろ)のことです。4その「大宝(たいほう)律令(りつりょう)」の中には、朝廷(ちょうてい)に納める(おさ  )税金(ぜいきん)として、二十九種類(しゅるい)の海産物(かいさんぶつ)がのっていました。そのうち八種類(しゅるい)が海藻(かいそう)で、その中の一つが海苔(のり)でしたが、その海藻(かいそう)の中でも、海苔(のり)は一番の高級(こうきゅう)品(ひん)でした。
 5その後の時代(じだい)も海苔(のり)は貴重(きちょう)品(ひん)として扱わ(あつか )れてきましたが、ただ、この頃(ころ)食べられていたのは生海苔(のり)で、今私(わたし)たちが食べているような乾物(かんぶつ)の海苔(のり)ではありませんでした。6のちに、江戸(えど)時代(じだい)になってから、浅草(あさくさ)で紙の漉き(す )方にヒントを得(え)た「漉き(す )海苔(のり)」が登場(とうじょう)し、「浅草海苔(あさくさのり)」として全国(ぜんこく)に広まりました。この頃(ころ)、海苔(のり)巻き(ま )も大流行(りゅうこう)し、人気の食べ物(た もの)となったようです。
 7海苔(のり)の養殖(ようしょく)は江戸(えど)時代(じだい)から始まっ(はじ  )ていましたが、まだ失敗(しっぱい)も多く、海苔(のり)の生産(せいさん)は不安定(ふあんてい)で、値段(ねだん)も一定(いってい)しませんでした。しかし、昭和(しょうわ)二十四年、イギリスのドゥルー女史(じょし)が、海苔(のり)の一生を細かく調べる(しら  )ことに成功(せいこう)しました。8この知識(ちしき)を基(もと)に、ようやく海苔(のり)は人工的(てき)に養殖(ようしょく)できるようになったのです。
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 海苔(のり)のサイズは、切る前の基本(きほん)となる「全形(ぜんけい)」が横(よこ)十九センチメートル、縦(たて)二十一センチメートルという、とても中途半端(ちゅうとはんぱ)なサイズに統一(とういつ)されています。9これを、各(かく)メーカーが色々な枚数(まいすう)にカットして、食べやすい大きさにして売っています。このサイズは、海苔(のり)を漉く(す )ときに使わ(つか )れていた木枠(わく)のサイズの名残(なごり)なのです。
 0海苔(のり)を作るときには、紙を漉く(す )ときのようにこの簾(す)の上にどろどろになった生海苔(のり)をすくいとり、乾かし(かわ  )て作ります。乾い(かわ )たらやはり紙のように、この簾(す)をぺりっとはがしてできあがりです。だから、のりは乾かし(かわ  )たときの表面(ひょうめん)にあたる表(ひょう)がつるっとしていて、簾(す)からはがした裏面(りめん)がでこぼこになっているのです。

 言葉(ことば)の森長(ちょう)文作成(さくせい)委員(いいん)会 τ
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