a 長文 7.1週 si2
 1江戸(えど)時代(じだい)は、戦争(せんそう)の多かった当時のヨーロッパとはちがい、犯罪(はんざい)も少ない平和(へいわ)な時代(じだい)でした。大都会(とかい)の江戸(えど)で二百年以上(いじょう)もお風呂(ふろ)屋(や)さんの料金(りょうきん)が変わら(か  )ないという、とても安定(あんてい)した時代(じだい)だったのです。
 2多くの人が、長屋(ながや)というせまい家に身(み)をよせあって暮らし(く  )ていましたが、ぜいたくを言わなければ食べ物(た もの)は充分(じゅうぶん)にあり、貧しく(まず  )とも心豊か(ゆた )に生きることができる時代(じだい)でした。そこでいろいろな庶民(しょみん)の文化(ぶんか)が生まれ育っ(そだ )ていきました。3なかでも園芸(えんげい)はとてもさかんでした。
 広い庭(にわ)はなくても、鉢植え(はちう )の植物(しょくぶつ)ならだれでも楽しむことができます。たくさんの人々が鉢物(はちもの)のおもしろさに熱中(ねっちゅう)し、やがてそれぞれの時代(じだい)の流行(りゅうこう)も生まれました。4カラタチの小さな鉢植え(はちう )一つに、今で言えば数億(おく)円の値段(ねだん)がついたこともあったということですから、その熱中(ねっちゅう)の度合(どあい)がよくわかります。
 ところで、江戸(えど)時代(じだい)にはまだ電灯(でんとう)がなく夜は早く寝(ね)たので、多くの人が早起き(はやお )でした。5そこで早起き(はやお )で美しく(うつく  )見られる花、アサガオが親しまれ、大流行(りゅうこう)しました。江戸(えど)時代(じだい)以前(いぜん)には、アサガオは淡い(あわ )青色のものだけで、道のすみなどに咲い(さ )ている地味(じみ)な花でした。6それが江戸(えど)時代(じだい)の後期(こうき)になると、花も葉(は)も実に(じつ )さまざまな変わっ(か  )た種類(しゅるい)のものが栽培(さいばい)されるようになりました。カラーで印刷(いんさつ)されたアサガオの専門(せんもん)書まで何冊(さつ)も出されました。町中では、天秤棒(てんびんぼう)をかついだ植木(うえき)売りが歩いている姿(すがた)がよく見られました。7アサガオの優劣(ゆうれつ)を競う(きそ )花合わせ、コンクールもさかんに行われ、お寺や神社(じんじゃ)の境内(けいだい)などには、自慢(じまん)の珍しい(めずら  )鉢植え(はちう )がたくさん持ち寄ら(も よ )れました。
 アサガオは色や形が変化(へんか)しやすい植物(しょくぶつ)なので、いろいろなもの
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が作られました。8当時のカラーの本の中に、濃い(こ )黄色のアサガオがあります。濃い(こ )黄色のアサガオを咲かせる(さ   )ことは、現代(げんだい)の技術(ぎじゅつ)でもまだできていません。
 花の色や形だけでなく、葉(は)も花に合った形のものが珍重(ちんちょう)されました。9中でも好ま(この )れたのが牡丹(ぼたん)咲(ざ)きと言われるもので、これは雄しべ(お  )や雌しべ(め  )までが花びらと同じような色や形になったものです。しかし、苦労(くろう)を重ね(かさ )た末(すえ)、やっと満足(まんぞく)のいく色や形のものができても、変化(へんか)の進ん(すす )だ花ほど種(たね)ができないのが普通(ふつう)です。0牡丹(ぼたん)咲(ざ)きのものは、種(たね)をつくるのに必要(ひつよう)な雄しべ(お  )や雌しべ(め  )までが変化(へんか)したものになっているのでなおさらです。そこで、牡丹(ぼたん)咲(ざ)きの花と同じ親を持つ(も )兄弟で普通(ふつう)に咲い(さ )た花から種(たね)をとり、その種(たね)から芽(め)を出したものからまた牡丹(ぼたん)咲(ざ)きのものを選ぶ(えら )という、気の遠くなるような手間をかけて、新しい品種(ひんしゅ)を作っていったのです。
 こんなに手間のかかることでは、「アサガオ」そい人には、とてもできなかったでしょう。

 言葉(ことば)の森長(ちょう)文作成(さくせい)委員(いいん)会 α
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a 長文 7.2週 si2
 1六人きょうだいの、下から二ばんめ。
 わたしは、あまたれでなき虫のすえっ子でした。
 それに、うまれたときから、めんどうをみてくれた、お手つだいのばあやが、わたしを、たっぷりあまやかしてしまったのです。
 2ころんでないたら、にいさんたちが、ころばしたのだろうと、ばあやは、にいさんをしかりました。
 ひとりでおきたら、「おお、つよいこと、つよいこと。」と、ほめました。
 にいさんたちにしてみると、おもしろくないことばかりでした。3にいさんたちがころんでも、「気をつけるんだよ。」とか、「おとこの子のくせに、なくなんて。」と、せりふが、まるでちがいましたから。
 そこで、いまいましいにいさんたちは、だれもいないるすになると、わたしをいじめました。

  4雨だれポッツリさん
  ポッツリ ポッツリ ポッツリさん

と、いううたを、かえうたで、

  あまたれ ポッツリさん

と、うたいはやしては、からかいました。そうして、わたしのほっぺたに、ポッツリと、雨がふりはじめると、それっと、うたは、ますます元気づいてきます。
 5なさけなくてかなしくて、わたしの目からポツリポツリおちるしずくは、やがて、とめどもない大雨になってしまうのでした。
 ある雪の日など、にわにつくった雪の馬にのせてくれたままどっかへいってしまったことがあります。6高い馬のせなかから、小さなわたしは、おりられません。
「にいさん、にいさぁん。」
 よんでも、きてくれないので、ながいこと、馬の上にのっかっていたことがあります。白い白い雪の馬が、夕やけでももいろになるまで──
 7そんなことがあったのに、ある日、またまた、わたしはにいさんにだまされたのです。にわには、雪がいっぱいでした。長ぐつをはいて、外へでたわたしに、大きいにいさんがいいました。
「あっ、ゆびわ!」
 8なんのことかしら。見ると、にいさんは雪の上をゆびさしています。
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「ほら、きれいなゆびわが、おちてる!」
「えっ、どこ?」
 びっくりすると、にいさんはゆびさして、
「ほら、そこ、そこにあるじゃないか。」
 9そこといったって、見えやしません。わたしは、むちゅうで、ゆびさされたところへかけよりました。そのとたん、足もとの雪がバシャン! とおっこち、わたしはふかいふかいあなの中にころげおちてしまいました。0おとしあなでした。シャベルであなをほって、あなの上に、小えだや、まつの葉(は)をかぶせて、雪をかけておいたのです。そこへ、おいでおいでと、ひとをおびきよせて、うまくおっことしたのです。
 雪まみれになって、わたしはようやくおきあがりました。まあ、なんてふかいあなでしょう。せいもとどかないあなです。頭の上に青い空があるばかり……、
 ひどいよう、にいさんのいじわる!
 もう、はんなきでした。
「うえーん、だしてよう。」
 よんだのに、見えないところで、にいさんがわらっています。
 うれしそうな声で、わらっています。
 大きいにいさんのほかに、小さいにいさんの声もします。にいさんたちは、こんな大きなあなをふたりでほってひとりはかくれて、わたしのおちるのを見てたのです。
 頭の上に、にいさんのにくらしいとくい顔が、ちらとのぞいて、きえました。

「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編(へん) フォア文庫(ぶんこ)より)
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a 長文 7.3週 si2
 1ぼくが小学校二年生のころ、もう三十年いじょうもまえのはなしです。
 てい学年のじゅぎょうは午前中です。べんとうをたべおわると、ひるのそうじに上級生(じょうきゅうせい)が、ぼくらの組にやってきます。
 ぼくの組のうけもちは、わかい女の先生です。
 2ぼくらは、「さようならっ。」と、大声をはりあげて、先生にあいさつすると、教室をすっとぶようにでていくのです。
 冬のある日のことでした。
 かえりじたくをして、さあ下校だというときになって、ぼくは、先生によびとめられました。
3「しみずさん、あなたはちょっとのこっていなさい。」
 むこうがわのまどぎわの三、四人が、ほくそえみ、いみありげな顔をして、ぼくのほうを見ながらかえっていきました。
 ぼくには、なんのことかわかりません。
4(やだなあ。またなんか、手つだいなさいなんていうのかなあ。きょうは、とおるくんと、うら山のどんぐりひろいにいくやくそくしてあるというのに。……)
 5先生は、いままでも、ときどき、ほうかご、教室のけいじばんに絵をはりだしたり、うしろの黒ばんに絵をかいたりするのを手つだわせるのでした。ぼくがすこしばかりずががうまいからといって、ぼくのつごうもきかないで、先生はいつでも、
「ちょっと手つだってね。」なんていうのです。
 6だけど、その日、ぼくをよびとめた先生の声には、いつにないきびしさがこもっていました。
 みんなかえっていきます。とおるくんも、
「ぼく、さきにいってるよ。あとでこいよ。」といって、かえっていきました。
 7だれもいなくなった教室。ぼくと先生ふたりだけになりました。すると、先生は、がたがたと、じぶんのつくえの上をかたづけながら、
「しみずくん、きみはろうかにたっていなさい。なにをしたかわかるでしょう。8じぶんのやったことがどんなことだか、よくかんがえてみなさい。」
 そういって、すたすた教員(きょういん)室へいってしまいました。
 ぼくには、まったくなんのことかわかりません。9わからないからといって、このままかえってしまったら、あしたまた、ひどくしかられるにきまっています。
「なにかしらないけど、ろうかにたっていろというんなら、たっていればいいだろう。」
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 0ぼくは、きょうのごごのあそびのよていがまるつぶれになるのにはらをたてながら、ろうかにたちました。
 六年生のそうじとうばんの人たちがやってきました。
(中略(ちゅうりゃく))
 ろうかをふきそうじしているかれらから、ぼくは、さんざんにいじめられ、からかわれました。
 六年生は、そうじがおわって、ぼくの教室からひきあげていきました。
 ひる休みがすぎて、ごごのじゅうぎょうがはじまったようです。
 あれきり、先生は、教室にやってきません。二時間、三時間とすぎていきました。
(いったい、いつまでたってればいいんだ。なぜ、先生はこないんだ。)
 冬の日ざしがずーっと長くなって、校しゃはすっかりさびしくなりました。夕ぐれです。あたりが、うすぐらくなってきました。
 二年生の教室は、学校の西北のはずれのほうにあって、教員(きょういん)室ともとおいのです。
(さむいなあ。ぼくをほっといて先生はなにをしてるんだろう。)
 とうとう、夜になってしまいました。
 足がしびれてきます。たったりすわったりして、ろうかで、先生のくるのをまっていました。
 まどがまっくらになり、まどガラスに、ほしがはりつくようにまたたきはじめました。
(もう家では、夕ごはんすんだころなのになあ。)
 そんなことをおもって、なきべそかきそうになっているときでした。こつこつと足音がきこえてきました。かいちゅうでんとうの光が、ろうかをはうようにちかづいてきて、パッとぼくをてらしました。
「いったい、なにをしているのだ。そんなところで。」
 しゅくちょくの男の先生でした。
「先生がたっていなさいというので、たっていました。」
「なんだ。西沢(にしざわ)先生は、きょうはきゅうようで、ごぜんちゅうでかえったよ。きみをたたせて、わすれちゃったのかな。いそいでかえりなさい。」
 先生のほうがあわてているみたいでした。ぼくは、くさりをとかれた犬のように、家にむかって、まるくなって、夜道をかけていきました。
「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編(へん) フォア文庫(ぶんこ)より)
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a 長文 7.4週 si2
 1西洋(せいよう)には「トマトが赤くなると医者(いしゃ)が青くなる」ということわざがあります。真っ赤(ま か)に実っ(みの )たトマトを食べると、お医者(いしゃ)さんが困る(こま )ほど、だれも病気(びょうき)にならない、という意味(いみ)です。2これは少々大げさな言い方だとしても、トマトの赤さのもと、リコピンには病気(びょうき)を予防(よぼう)する働き(はたら )があります。また、トマトには、ビタミンCも多くふくまれています。
 3このことわざとそっくりなもので、日本には「柿(かき)が赤く色づくと医者(いしゃ)の顔が青くなる」という言葉(ことば)があります。柿(かき)にはビタミンやミネラルが豊富(ほうふ)に含ま(ふく )れています。また、柿(かき)の葉っぱ(は  )や渋(しぶ)にも多くの栄養素(えいようそ)が備わっ(そな  )ています。4おもしろいのはカキのヘタの部分(ぶぶん)で、しゃっくりを止める働き(はたら )があるということです。
 イギリスには、「一日にひとつのリンゴは医者(いしゃ)を遠ざける」ということわざがあります。5リンゴには病気(びょうき)を予防(よぼう)したり、回復(かいふく)に役立っ(やくだ )たりする作用があるからです。「サンマが出ると医者(いしゃ)が引っ込む(ひ こ )」などというのもあります。このように身近(みぢか)な食べ物(た もの)がことわざになっているものは少なくありません。
6「秋ナスは嫁(よめ)に食わすな」ということわざがあります。これはおいしい秋ナスを、お姑(しゅうとめ)さんがお嫁さん(よめ  )にわざと食べさせない、と考える人もいます。7しかし実は(じつ )、秋にとれるナスは体を冷やす(ひ  )ので、これから子どもを生み育てる(そだ  )お嫁さん(よめ  )には食べさせすぎないように、という心遣い(こころづか )がこめられているとも言われています。さて本当はどちらでしょうか。
 8このほかにも、ヨーロッパでは、「レタスは恋(こい)の炎(ほのお)をしずめる」という言い方があります。レタスの切り口から出てくる白い汁(しる)には、精神(せいしん)を安定(あんてい)させたり、眠気(ねむけ)をさそったりする働き(はたら )があるのを、しゃれた言い回しで表し(あらわ )ているのです。
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 9変わっ(か  )たところでは、「ミョウガを食べると物忘れ(ものわす )をする」というのもあります。これは次(つぎ)のような話から伝わっ(つた  )たとされています。昔(むかし)、お釈迦様( しゃかさま)の弟子で物忘れ(ものわす )の激しい(はげ  )人がいました。0その人は自分の名前も覚え(おぼ )られなかったので、お釈迦様( しゃかさま)が名札(なふだ)を首にかけてあげました。やがて、その人が亡くなっ(な   )たあと、お墓(はか)のまわりに見知らぬ植物(しょくぶつ)が生えました。それが「茗荷(みょうが)」と名づけられた、というお話です。しかし、ミョウガを食べると物忘れ(ものわす )をするということはありません。逆に(ぎゃく )ミョウガの香り(かお )には集中(しゅうちゅう)力を高める効果(こうか)があるそうです。
 「大豆(だいず)は畑(はたけ)の肉」「アボカドは森のバター」「カキは海のミルク」などなど、簡潔(かんけつ)なたとえにされているものも数多くあります。どれも実に(じつ )うまく食べ物(た もの)の効用(こうよう)を表し(あらわ )ています。

 言葉(ことば)の森長(ちょう)文作成(さくせい)委員(いいん)会 α
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a 長文 8.1週 si2
1「ほう、なにがあるか、いってみな。」
 ねずみ小ぞうが、いかにもばかにしたようにいいました。
「金の茶がまだ。」
 わたしは、おもってもいなかったことを、ついいってしまったのでした。
「そんなの、うそにきまってらあ。」
 2たっぺがいいました。
 ここで、わたしが、うそだというか、だまってさえおればよかったのです。
 ところが、ねずみ小ぞうめが、
「とうちゃんの頭、ぴかぴかの金光りだもんな。」
と、いったから、もういじでもうそだというわけにはいかなくなってしまったのです。
3「見たけりゃ、見せてやるぞ。」
 わたしは、ねずみ小ぞうをにらみながらいいました。
「じゃあ、見せてくれ。いつ見せてくれるんだ。」
 ねずみ小ぞうは、もうけんかちょうしです。
「みんなのたからものを見たあとだ。」
 4わたしは、できるだけときをかせごうとしました。
 その日はそれですみましたが、さて、これからどうしたものか。
 金の茶がまなんて、おもってもいないことを口にしてしまったのは、くらの中のたなにあるあかがね(銅(どう))の茶がまからおもいついたものだったのです。
 5うすぐらいくらの中で、いくらか光るものといえば、これだけでありました。
 父と母と、すえっ子だったわたしの三人は、このくらの中でねていました。父と母が朝はやくでかけていってしまうから、わたしはひとりぼっちで、このくらのものを見まわしているのでした。6そして一つ一つのどうぐに、わたしのものがたりをつくっていました。
 この茶がまは、ものがたりの中では、金になったり、ぶんぶく茶がまのおはなしになっていました。
 わたしは、そっとたなから、茶がまをおろしてみました。7おばあさんが、ときどきこまかなはいでみがいていましたから、ほこりをはらうと、よく光りました。
「よし、うんとみがいてやろう。そしたら、金みたいに光るかもしれないな。」
 8わたしは、おばあさんのいないときを見はからって、茶がまを外のいどばたにもちだしました。
 そのころは、いろりでまきをもやし、ごはんをたいたりおしるを
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にたりするので、かまもなべも、すすけてしまいますから、はいやこまかなすなで、ごしごしみがきました。
 9わたしは、おばあさんのまねをし、はいとすなをたわしにいっぱいつけて、ごしごし、ごしごしと力まかせにみがきました。
 水をさあっとかけ、はいとすなをおとすと、茶がまは、見ちがえるほど光ってきました。
(中略(ちゅうりゃく))
 0 わたしは、すっかりうれしくなり、はやくみんなをおどろかせてやろうとおもいました。
 ねずみ小ぞうは、あれでなかなか目がきくからあとまわし、たっぺはきょろきょろだから、まずあいつからと、あくる日、おばあさんが、外にでかけたあと、大いそぎでたっぺをよんできました。
「いいか、ここで見るんだぞ。」
 たっぺをくらの中にいれずに、あかりをいれる小まどをあけました。
 うまいぐあいに、ちょうどいり日がさっとながれこんで、茶がまが、きらり、きらりと光りました。
(中略(ちゅうりゃく))
 たっぺは、あした学校にいって、みんなにいうにきまってるとおもうと、その夜は、なかなかねつかれませんでした。
 あくる日、やっぱりたっぺがいいふらしたので、みんなが「おれにも見せてな」と、よってくるのでした。
 だが、このうその金の茶がまは、おもいがけないところからばれてしまったのです。
 学校からかえってきたら、おばあさんが、茶がまをとりだし、目をつりあげておこるのでした。
「なんだって茶がまを、こんなひどいめにあわせるんだ。
 この茶がまはな、おばあさんの母のかたみだから、だいじにだいじにしてきたものを。ほら、よく見ろ。」
 おばあさんにいわれてよく見ると、茶がまには、こまかいきずあとが、いっぱいついているのでした。
 あかがねというものはとてもやわらかですから、おばあさんは、きずがつかないように、はいをこまかなあみめのふるいになんどもかけて、こなのようにし、やわらかなきぬにすこしずつつけてみがくのでした。
 それをわたしは、なべやかまとおなじように、ごしごしみがいてしまったのです。
「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編(へん) フォア文庫(ぶんこ)より)
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a 長文 8.2週 si2
1「ほんとに、たからものがあるのか!」
 竹ちゃんが、ぼくにむかってねんをおすようにいいました。
 そういわれると、ぼくもあとにはひけません。
「うそじゃない。おじいちゃんが、いったんだ、ほらあなの中に、千りょうばこにはいった大ばん小ばんが、ごっそりうずめてあるって。」
 2ぼくのうそはますます大きくなり、とりかえしのつかない大ぼらになっていきました。
「よし、いってみよう。だけど、おまえがいちばんさきにはいるんだぞ。いいな。」
 竹ちゃんが、だめおしをするように、ぼくの顔を見つめていいました。
3「ああ、いいとも。」ぼくは、むねをはってこたえました。
 でも、ほんとうのところ、ぼくの心は、(こまったぞ。どうしよう……。)と、おろおろしていました。
 やがて、ローソクやマッチなどをもったぼくたち五人は、ドンドンあなへむかいました。
 4あなの入り口は、やっと人がとおれるだけのせまさです。
「さあ、おまえからはいるんだ!」
 竹ちゃんがぼくの心を見すかすようにせきたてました。ぼくは、とたんに、ぶるるる……と、からだがふるえました。
5「おい、さっきいったの、あれみんなうそっぱちなんだ!」
 ぼくは、のどのあたりまでそんなことばがでかかったのですが、またゴクン、とのみこんでしまいました。
 みんなから「大うそつき、大ぼらふき」と、いわれるのがしゃくだったからです。
 6ぼくは、ローソクに火をつけてまっさきにあなにはいりました。
 正ちゃん竹ちゃん、六ちゃんとあとにつづき、いちばんしんがりは竹ちゃんの弟で、二年生の清(きよし)ちゃんでした。
 7はいったとたんに、しめっぽくかびくさいいやなにおいが、ぷーんとはなをつき、ローソクの光におどろいたコウモリが、パタパタ……と、とびたちました。
(ばか、ばか、ばか! おまえって、なんてばかなんだ。なぜ、つまらないうそなんかついたんだ!)
 8ぼくの心が、しきりにぼくをせめたてました。
「おい、たからのありかはどのへんだ!」
 うしろから、竹ちゃんがたずねました。
「もっとさきだ。」
 ぼくは、かぼそい声でこたえました。
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 9しばらくすすむうちに、てんじょうから、大きな石がぐーっとおちかかったりして、ゆくてをふさぎました。
 やっと、はらばいでいけるようなところもあります。
 声をだすと、ウォーン、ウォーンと、ぶきみにあなの中でひびきます。
 0はじめは、たがいにわらったり、はなしたりしていたなかまは、しぜんにだまりこんでしまいました。
「おい、どこだ、千りょうばこのあるところは!」
 うしろから、みんながおこったような声で、さけびました。
 どこまでつづいているかわからないほらあな。石が上からおちかかっていきうめになったら……と、おもったしゅんかん、ぼくはもう、一ぽもすすめなくなりました。
 父や母のしんぱいそうな顔が、目のまえにちらちらして、なきだしたくさえなったのです。
(はやくあやまれ、みんなにあやまって、あなの中からでろ!)
 ぼくの心がさけびました。
 そのときです、いちばんしんがりにいた清(きよし)ちゃんが、とつぜん大声でなきだしました。
 こわいから、かえるというのです。とたんに、ぼくはすくわれたような気もちになって、
「だめだなあ、こんなときに小さい子をつれてくるからだ……。」
と、うしろの竹ちゃんをなじるようにいいました。
「おい、みんなかえろうぜ。どうせ、たからものなんか、ありっこないんだ。」
 竹ちゃんは、ぼくの心の中をみすかしたように、いいかえしました。
「そ、そ、そんな、おじいちゃんが、ちゃんといったんだぞ。」
 ぼくはあわてぎみに、いっしょうけんめいべんかいをしました。
 やがて、ぼくたち五人は、ぶじにほらあなの外へ、はいだしました。
 あなの中からでたとたんに、ぼくはすくわれたように、ほっと大きないきをつきました。
 それでも、なかまたちの顔を、まっすぐ見ることができず、まだなきじゃくっている清(きよし)ちゃんのそばへいって、
「ごめんよ。」
と、小さな声でいいました。

「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編(へん) フォア文庫(ぶんこ)より)
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a 長文 8.3週 si2
 1わたしたちは友だちを三つにわけていました。大すき、中すき、小すきです。
 (中略(ちゅうりゃく))
 わたしはすみちゃんのこと、中すきでしたが、おはじきのルビーいろに光るのを、六こもきまえよくくれたので、大すきになりました。
 2すみちゃんのうちは、電車どおりから川べりのほうに、ほそ道をおりたところです。すみちゃんのうちの木のくぐり戸のところまでくると、すみちゃんの弟のだいちゃんが、門ばんみたいにつったっていました。
3「だめだ。はいっちゃだめ。」
「どうして?」
「かあちゃんがおつかいからかえるまで、だれもうちにいれちゃだめっていわれてる。ねえちゃんには、だれもあえない。」
「でもわたし、すみちゃん大すきだもん。すみちゃんもわたしのこと大すきだもん、いいの、いいの。」
 4わたしは、だいちゃんをおしのけて、さっさとあがりました。
「すみちゃん。」
 ふすまをあけると、すみちゃんはへやのまんなかで、ふとんをいっぱいかけてねていました。
「ウ……ウウ……ウ……。」
 5へんな声でなにかいったとおもうと、きゅうに、頭までふとんをかぶってしまいました。ふとんの中でもまだ、「ウ……ウ……。」といっています。まるで山ばとが、森のおくでないているような声です。
「どうしたの、なにいってるの。」
 6わたしはかまわずふとんをはぐって、すみちゃんの顔をのぞきました。
「なあに、その顔。」
 びっくりしてしまいました。いつものすみちゃんとは大ちがいのへんな顔です。7ほっぺたのかたっぽが、むやみやたらにふくれあがり、あごからのどまでぶうーっとおまんじゅうみたいです。それがまた、ぶくぶくとゆがんでいます。目といえば、とろーんとして、おまけに赤目です。
 8すみちゃんはへんな顔で、わたしをうらめしそうに見あげ、
「ウ……ウウ……ウ……。」
と、なきだしました。すると、ふくれたところがもっとふくれて、ぶるん、ぶるん、うごきます。見ていると、おかしくて、おかしくて、わらわずにはいられなくなりました。
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9「あっはっはっは。」
と、わらっていると、だいちゃんがかけこんできて、いきなりわたしのカバンをなげとばしました。ふでばこもとびだして、げんかんのたたきの上で、ガシャッと大きな音をたてました。
「なにするのっ。」
 0わたしは、げんかんにすっとびました。
「あーっ、赤えんぴつがおれたーっ。」
 せっかくとんがらした、大せつな赤えんぴつもおれてしまったではありませんか。
「もう、大すきなんかやめた。すみちゃんも、だいちゃんも、小すき小すきの大っきらい。」
 わたしは大いそぎでえんぴつをかきあつめ、カバンをつかんで、すみちゃんのうちをとびだしてしまいました。
 つぎの日、わたしは学校でみんなにいいました。
「すみちゃんね、ぶっくぶくにふくれた顔になってね、わたしのこと、ウウ……ウ……ってにらんだの。」
「えっ? おばけみたいに?」
「そう、そう、おばけよ。ふくれおばけよ。」(中略(ちゅうりゃく))
 みんな「ふうん」と、きいてくれたのに、まっちゃんがいじわるな声でいうのです。
「へーんな人、あんなにすみちゃんのこと、大すきっていってたくせに。」
「ちがうよ。もう、大すきじゃないよ。小すき、小すきの大きらいよ。」
「そう、それじゃすみちゃんからもらったルビーのおはじき、みーんなすてる?」
「うん、すてる。」
 いってしまってからおしいな、とちらりとおもいました。でもこうなったらすてるんだ。へいき、へいき、とおもいなおしました。
「あきかんにいれて、おすなばにうずめるよ。」
 それからなん日かして、わたしはのどがいたくなりました。高いねつがでて、からだじゅうこわれそうです。いきをするたびに、うなり声がでます。
 おいしゃさんが、くすりのにおいをぷんぷんさせてやってきました。耳の下のところを、ふといつめたいゆびでおさえ、
「おたふくかぜに、やられましたな。」
と、いいました。
「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編(へん) フォア文庫(ぶんこ)より)
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a 長文 8.4週 si2
 1ふだん、歩行者(しゃ)は、道路(どうろ)の右側(みぎがわ)を歩くことになっています。そして、自動車(じどうしゃ)やバイクは左側(ひだりがわ)通行です。ですから、日本で作られる自動車(じどうしゃ)の大部分(ぶぶん)は、ハンドルが右についている右ハンドル車です。2しかし、外国から輸入(ゆにゅう)された車は、ハンドルが左側(ひだりがわ)についている左ハンドル車が多いのです。これは、外国では、車が日本とは逆(ぎゃく)の右側(みぎがわ)通行であることが多いからです。
 3日本と同じ左側(ひだりがわ)通行をしている国は、イギリス、アイルランド、オーストラリア、インド、南アフリカなど、かつてイギリスの植民(しょくみん)地であった国か、イギリスと深い(ふか )関係(かんけい)にあった国々です。4アジアでは日本のほか、タイやシンガポール、インドネシアなども左側(ひだりがわ)通行ですが、全体(ぜんたい)として右側(みぎがわ)通行の国の方が多く、左側(ひだりがわ)通行の国は世界(せかい)の三分の一くらいです。
 5イギリスや日本がなぜ左側(ひだりがわ)通行なのかというと、これは昔(むかし)、イギリスの騎士(きし)や日本の武士(ぶし)が、腰(こし)の左側(ひだりがわ)に剣(けん)や刀を差し(さ )ていたため、すれ違う(  ちが )ときにその剣(けん)や刀がぶつからないようにしたからではないかと言われています。
 6日本は昔(むかし)、道があまり整備(せいび)されておらず、通行のルールもはっきりとは定まっ(さだ  )ていませんでした。しかし、明治(めいじ)政府(せいふ)がイギリスをお手本として社会の仕組み(しく )を整え(ととの )ていったため、ある時期(じき)から人も車も左側(ひだりがわ)通行と定め(さだ )られました。7その後、人だけは、車と対面(たいめん)通行となる右側(みぎがわ)通行とするように変更(へんこう)されました。
 不思議(ふしぎ)なことに、都会(とかい)の人の流れ(なが )を見ていると、誰(だれ)が決め(き )たわけでもないのに、自然(しぜん)と左側(ひだりがわ)通行になっていることが多いようです。8これは、人間は右利き(き )の人が多いため、右手で他人(たにん)に対し(たい )たいからではないかと言われています。
 ヨーロッパでも、昔(むかし)は左側(ひだりがわ)通行がよく見られたようです。9しかし、ヨーロッパ全土(ぜんど)を支配(しはい)したナポレオンが、軍隊(ぐんたい)を右側(みぎがわ)通行と
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し、それを広めたため、ほとんどの国で右側(みぎがわ)通行が行われるようになりました。ナポレオンがどうして右側(みぎがわ)通行を好ん(この )だかというと、彼(かれ)が実は(じつ )左利き(ひだりき )だったから、という説(せつ)があります。
 0ナポレオンの左利き(ひだりき )説(せつ)が正しいとすると、もしもナポレオンが大多数の人と同じ右利き(き )だったら、世界(せかい)にはイギリスや日本と同じ左側(ひだりがわ)通行の国が多数を占め(し )ていたかもしれません。そうすれば、日本人である私(わたし)たちが、海外旅行(りょこう)で車の流れ(なが )にとまどうことはなかったでしょう。
 ところで、船と飛行機(ひこうき)は、安全(あんぜん)性(せい)のために世界中(せかいじゅう)で右側(みぎがわ)通行に統一(とういつ)されています。国によって通行の方法(ほうほう)が違う(ちが )と、国際(こくさい)航路(こうろ)で大混乱(こんらん)が起き(お )てしまうからです。

 言葉(ことば)の森長(ちょう)文作成(さくせい)委員(いいん)会 τ
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a 長文 9.1週 si2
 1うちにはいると、おかあさんは、ヤッちゃんをおふろにいれてくれました。
 あついくずゆをたべて、ヤッちゃんは、ふとんにはいりました。
 すると、もうねてしまったとおもっていたチイちゃんが、むくむくおきあがりました。
2「おにいちゃん、さむかった?」
 そういいました。チイちゃんは、もうおこった顔をしていませんでした。
「さむかったさあ。こごえて死ん(し )でしまいそうだった。」
「ごめんね。」
 チイちゃんにあやまられて、しかたなくヤッちゃんは、にこっとわらいました。
3「へいきさ、おふろにはいったから。あのね、チイちゃん、あの手ぶくろ、さがしたんだけど、見つからなかったんだ。」
「ふーん、そうなの。でも、いいや、ぼくがまんする。」
 ヤッちゃんは、なんだかチイちゃんがかわいそうになりました。4それで、つくりばなしをすることにしました。
「うーんと、あのね、あの手ぶくろ、じつは、なくしたんじゃなくて、かしてやったんだよ。」
「かしてあげたって、だれに?」
「あのね、小人にさ。」
「小人? ほんとう?」
5「うん、ほんとうだよ。夕がた雪がふってきたろ。おにいちゃんがうちへかえろうとおもって、あるいてくると、もしもしってよぶんだ。だれかなって見ると、小人じゃないか。小さい、小さい、とっても小さい、雪の小人。まっ白いふくをきてね、白い三かくぼうしをかぶった、小人が天からふってきた。」
6「ほんとう? それ、ほんとうのはなしなの?」
「ほんとうとも。小人が五人、おにいちゃんのかたに、ぽんと立って、おねがいです、おねがいですっていうじゃないか。なんだいっていうとね、すみませんが、その手ぶくろをかしてくれませんか、そういった。」
7「へへえー、小人が、そんなこといったの!」
「うん。それで、どうしてってきくと、じつは……、ぼくたち天からふってきたので、とまる家がないんです。どうか、しばらく、その手ぶくろ、かたっぽうおかりできませんでしょうか。」
8「へえー、そんなこといったの。手ぶくろかたっぽうだけ……。ははあ、わかった。その小人、手ぶくろにはいってねるんだ。ゆびのところに、ひとりずつ。そうだ、きっと。それで、どうしたの、おにいちゃん。」
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9「それでね、チイちゃんの手ぶくろだけど、ぼくかしてあげちゃったのさ。」
「ふーん、そうだったの。その小人よろこんだ?」
「よろこんだとも……。大よろこびさ。」
「じゃあ、かしてあげて、よかったね。でも、その小人、どこにすんでいるんだろう?」
0「さあね……、雪の中にあなをほって、すんでいるんじゃないか……。」
「春になって、あったかくなったら、手ぶくろかえしてくれるかなあ。」
「もちろんさ……。」
 そういうと、ヤッちゃんは、ことんと、ねむってしまいました。
      ☆
 それから一か月半ばかりたって、あたたかい日が五、六日つづいて、雪がとけはじめました。雪がとけてどろんこ道になりました。
 ある日、ヤッちゃんのうちの、おとなりの犬が、赤いきれをくわえて、ふりまわしてあそんでいました。
 それを見て、チイちゃんが、大声をあげました。
「ぼくのだっ、ぼくの手ぶくろだ。ゾウの手ぶくろがかえってきたあ。」
 それは、チイちゃんの手ぶくろでした。
「わあーい。小人にかした手ぶくろだあーい。小人が、かえしてくれたんだあ。」
 チイちゃんは、大よろこびしました。
 手ぶくろは、長いあいだ雪の下にあったので、ちぢんで、小さくなっていました。それに、おとなりの犬がふりまわしたからでしょう、ところどころあながあいて、もうつかえなくなっていました。
 それでも、チイちゃんは、その手ぶくろを、小人にかした手ぶくろだといって、いつまでも、だいじにしていました。

「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編(へん) フォア文庫(ぶんこ)より)
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a 長文 9.2週 si2
 1わたしは、そのとき一つのわるだくみをかんがえついたのです。
「ところで、ヘイキチ、まんじゅうをくいたくねえか。」
 わたしがいうと、ヘイキチは、あんのじょう目をかがやかしました。
「そりゃあ、くいてえさ。」
2「だったら、バスのしりにのれよ。そして、県道(けんどう)にでるちょっとてまえの、ダルマ屋(や)のところでおりるんだ。ダルマ屋(や)へいくと、おじさんが、よくバスにのった、かんしんだ。おまえはゆうきがあるぞって、ダルマまんじゅうを一つくれるぞ。」
3「えっ、ほんとうかあ。」
 ヘイキチは、からだをのりだしました。
「ああ、ほんとうとも。あそこのおじさんは、元気な子どもが大すきなんだ。」
 わたしは、わらいたくなるのをがまんして、まじめな顔でいいました。4ヘイキチをだますことなんか、わけはありません。たべもののことをもちだせば、すぐくいついてきます。というわけで、ヘイキチはうそともしらず、バスのうしろにのったのですが、そのかっこうったらありませんでした。まるでヤモリがしがみついてるようでした。
 5ところが、どうしたわけか、ヘイキチはいつまでたってももどってきませんでした。あほうのヘイキチのことですから、もしかしたら、県道(けんどう)にでるまえにバスからおりそこなったのではないかしら。6のりおりの人がなくて、バスは、ていりゅうじょをいくつもとまらずに、とおくのほうまでいってしまったのかもしれない。そうおもうと、わたしはきゅうにふあんになってきました。そこで、わたしはダルマ屋(や)かし店へいってみました。7もし、主人(しゅじん)に見つかって、「おまえだな、ヘイキチにでたらめをいってそそのかしたのは。」と、とっちめられてはいけないので、そっと店の中をのぞいてみました。さいわいなことに主人(しゅじん)もいませんでしたが、ヘイキチのすがたも見あたりませんでした。
 8さては、やっぱり……そうおもうと、むねがどきどきしてきました。しんぱいになったわたしは、ヘイキチをさがしに県道(けんどう)をあるいていったのです。しょうてんがいをはずれると、道は田んぼのあいだをどこまでもつづいていました。9だが、そのどこにも、ヘイキチのすがたは見えなかったのです。
(ヘイキチののろまめ!)
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 わたしは、じぶんがうそをいって、ヘイキチをとんだめにあわせたこともわすれて、へイキチのへまをうらみました。
 0秋の日が、まっかなホオズキのように、ゆく手の山の上にしずもうとしていました。風がつめたくなってきました。ススキのほが、ぎんいろにかがやきながらゆれていました。(中略(ちゅうりゃく))
 日はすっかりくれて、くらくなってしまいました。わたしはこわくなりました。なきたいのをいっしょうけんめいこらえていそぎました。ぱたぱた、だれかがうしろからついてくるような気がしましたが、ふりかえると、だれもいませんでした。まっくらな道があるだけでした。わたしは、ぞっとしました。
 だから、町のあかりが、とおくのほうにちらちら見えたときは、ほんとうにほっとして、おもわずかけだしてしまいました。
 うちでは大さわぎして、わたしをさがしにいこうとしているところでした。そこへ、わたしがもどっていったので、おかあさんは、ほっとするとどうじに、かんかんになっておこりました。
「みんなにしんぱいをかけて、このばかが……。」
と、おかあさんは、わたしの頭をいやっていうほどたたきました。そのいたいのなんのって、おもわずなみだがあふれたほどです。いや、もしかしたら、それは、やっと家にもどれたという、よろこびのなみだだったかもしれません。
 そのとき、わたしはなみだごしに、ヘイキチを見つけたのです。ヘイキチは、わたしを見ながら、にたにたわらっているではありませんか。
(おれがあんなにしんぱいしてたのに、おれが、あんなにわるいことをしたとこうかいしてたのに、ああ、なんてことだ。とうのヘイキチが、のんきな顔をしてうちにいたなんて。こんちきしょう!)
 わたしは、わっとなきだしながら、ヘイキチめがけてむしゃぶりついていきました。ところが、わけをしらないおかあさんは、わたしがただヘイキチにわらわれたので、おこったのだとおもったのでしょう。ますますわたしをしかりつけました。
 あとできいたのですが、ヘイキチはこわくなって、百メートルもいかないうちにバスをおりてしまったのだそうです。そうしたら、ちょうどろじで、紙しばい屋(や)がやっていたので、見てしまったというのです。
 なんのことはありません。わたしはじぶんがついたうそに、だまされたようなものです。まったくばかなはなしです。

「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編(へん) フォア文庫(ぶんこ)より)
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a 長文 9.3週 si2
 1それは、「わたくしのおにんぎょう」というだいで、いまもおぼえていますが、こんないみのことを書いたのです。
 「わたくしのおにんぎょうは、いつか、るすをしたごほうびに、おかあさんから、かっていただいたのです。2きれいなフランスにんぎょうで、赤いぴかぴかしたようふくをきています。きせかえあそびもできるのです。あんまりかわいいので、ときどき、だいてねることもあります。
 わたくしは、このおにんぎょうがだいすきです。3これからも、いつまでもだいじに、かわいがってやろうとおもっています。」
 じぶんでも、はじめにしては、わりとじょうずにかけたとおもいました。じっさい、あとでかえしてもらったのを見ると、大きな三じゅうまるがついていたのです。4そのときからずっと、つづりかたは、わたしのいちばんとくいな科目になったのでした。
 さて、はじめてつづりかたを書いた日から、なん年かたったある日のこと。5うちへ友だちがあそびにきたので、トランプかなにかをさがして、つくえのおくをかきまわしていたら、だいじにしまっておいた、このふるいつづりかたが、でてきたのです。友だちは、おもしろがって、それをよみました。
6「へーえ、いいにんぎょうがあったんだね。このにんぎょう、いまもあるの?」
「うーん、あるような、ないような……。」
「なによ、あるような、ないようなって……。あるの、ないの、どっち?」
 7やれやれ、どうも、このへんで、はくじょうしなくてはならないようです。
「えヘヘ。じつは、それ、うそなの。」
「うそ? あらやだ。あんたったら、はじめてのつづりかただっていうのに、うそを書いたの?」
8「うーん、まるっきり、うそでもないよ。あのねえ……。」
 わたしは、おもちゃばこのすみっこにおしこんであった、おんぼろの、小さなにんぎょうをとりだしました。
「ほら、これ。」
「これ? こんなちっぽけなの? これがフランスにんぎょう?」
9「しらない。だけど、まあ、スカートがぱっとひろがってるから、フランスにんぎょうにしとくの。」
「ふうん。ええと、赤いようふく……は、たしかに、きてるわね。だいぶ、いろがさめてるけど。」
「ほらね、まるっきり、うそでもないでしょ。」
0「まあね。だけど、きせかえもできるって書いてあるわ。きせかえなんて、できそうもないじゃない。」
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 わたしは、だまって、にんぎょうのかぶっている大きなぼうしをスポッとぬがせました。ぼうしといっしょに、金いろの、カールしたかみの毛も、みんなスポッととれて、つるつるのぼうず頭があらわれました。
「あーら、やだあ。これで、きせかえのつもり?」
「そう。ほかのぼうしをかぶせれば、きせかえって、いえないこともないでしょ。」
「あきれた、あきれた。こんなの、だいてねてたの?」
「まさか。こんなの、ごつごつしてつめたいばっかしじゃないの。だいてねたのは、こっち。」
 わたしは、おもちゃばこから、もう一つ、手のもげた、ぬいぐるみのだきにんぎょうをだして見せました。
「なあんだ。二つのにんぎょうを一つのことにしちゃったんだね。じゃあ、るすばんのごほうびにもらったのは、どっちなの?」
「あれ、うそ。だいいち、そんな小さいときに、ごほうびをもらうほど、長いるすばんなんて、したことないもん。」
 わたしがけろっとしていったので、友だちは、あきれかえった顔になり、それから、ふたりいっしょに、わっとわらいだしてしまいました。
 と、いうわけで、わたしのはじめてのつづりかたは、ほんとは、大うそだったんです。どうして、あんなうそを書いたのか、じぶんでもわかりません。
 でも、ふしぎでした。うそをつくのはわるいことだとしっていたのに、つづりかたにうそを書いたことは、ちっともわるいとおもわなかったのです。もしかしたら、わたしは、つづりかたと、おはなしをつくることとを、ごっちゃにしていたのかもしれません。それからあとも、はなしをおもしろくするためなら、人にめいわくをかけないていどで、ちょいちょい、つづりかたにうそをまぜていたのですから。
 そんなら、このはなしも、うそじゃないのかって?
 いえいえ、そんなことありません。これは、ほんとにほんとのはなし。わすれられない、はじめてのつづりかたのおもいでです。

「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編(へん) フォア文庫(ぶんこ)より)
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a 長文 9.4週 si2
 1アメリカのモンタナ州(しゅう)は、ジュラ紀(   き)や白亜紀(あき)の恐竜(きょうりゅう)の化石(かせき)がたくさん発見(はっけん)される場所(ばしょ)です。このあたりで、タマゴの殻(から)の破片(はへん)のようなものがたくさん見つかり、これが大発見(だいはっけん)につながりました。2タマゴの殻(から)の周辺(しゅうへん)をさらに調査(ちょうさ)すると、直径(ちょっけい)三メートルほどもある、クレーターのような形の巣(す)が見つかったのです。この巣(す)の中から、赤ちゃん恐竜(きょうりゅう)の化石(かせき)がたくさん出てきました。3これは、この場所(ばしょ)でカモノハシ竜(りゅう)のタマゴが孵化(ふか)したことを示し(しめ )ています。また周辺(しゅうへん)からは、大人のカモノハシ竜(りゅう)の化石(かせき)が見つかりました。
 4タマゴの殻(から)が細かく割れ(わ )ている理由(りゆう)は、赤ちゃん恐竜(きょうりゅう)が足で踏みつけ(ふ   )たからでしょう。つまり、タマゴからかえった赤ちゃんは、しばらく巣(す)の中で生活していたということになります。5巣(す)の中から見つかった赤ちゃんの骨(ほね)は、大きさがさまざまで、いちばん小さいものは全長(ぜんちょう)二十五センチメートル、大きなものは一メートルほどありました。6恐竜(きょうりゅう)の親は、赤ちゃんが生まれてから一メートルの大きさに成長(せいちょう)するまで、エサをあげて子育て(こそだ )をしていたのでしょう。これは、親鳥が巣(す)の中のヒナにエサを運ぶ(はこ )のとよく似(に)ています。7このカモノハシ竜(りゅう)の仲間(なかま)には、「よいお母さん恐竜(きょうりゅう)」という意味(いみ)のマイアサウラという学名がつけられました。
 更に(さら )、巣(す)の中をよく調べ(しら )てみると、植物(しょくぶつ)の破片(はへん)の化石(かせき)が数多く見つかりました。これは、親が子に運ん(はこ )だエサの植物(しょくぶつ)とは違う(ちが )ものです。8なぜエサでもない植物(しょくぶつ)が、たくさん発見(はっけん)されたのでしょう。
 鳥はタマゴを生むと、タマゴの上に乗っ(の )て温め(あたた )つづけます。タマゴがかえるには、一定(いってい)期間(きかん)決まっ(き  )た温度(おんど)を保つ(たも )必要(ひつよう)があるからです。恐竜(きょうりゅう)の場合はどうでしょう。9マイアサウラの親の大きさは八メートル近くあり、体重(たいじゅう)は何トンもあったと考えられます。こ
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れでは、タマゴの上に乗っ(の )て温める(あたた  )わけにはいきません。そこで、自分が温める(あたた  )代わり(か  )に、タマゴの上を植物(しょくぶつ)でおおって温度(おんど)を保っ(たも )たのです。0こうしておけば、直射(ちょくしゃ)日光で暑く(あつ )なりすぎたり、夜間に冷え(ひ )すぎることもありません。また、植物(しょくぶつ)は発酵(はっこう)によって熱(ねつ)を出すので、それによってタマゴを少しずつ温める(あたた  )ことができます。
 このような巣(す)は、同じ場所(ばしょ)から複数(ふくすう)見つかっています。マイアサウラは集団(しゅうだん)で子育て(こそだ )をしていたのでしょう。生まれたばかりの赤ちゃん恐竜(きょうりゅう)は弱く、敵(てき)にねらわれやすいのですが、集団(しゅうだん)を作って生活をしていれば、いつも大人のマイアサウラが赤ちゃんを守る(まも )ことができます。
 発見(はっけん)された化石(かせき)は、これまでわからなかった恐竜(きょうりゅう)の行動(こうどう)を、私(わたし)たちに教えてくれるものでした。化石(かせき)をくわしく調べる(しら  )ことで、私(わたし)たちは大昔(おおむかし)の恐竜(きょうりゅう)の生活の仕方(しかた)まで知ることができたのです。

 言葉(ことば)の森長(ちょう)文作成(さくせい)委員(いいん)会 κ
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