a 長文 10.1週 su
「おかえりなさあい。」
水曜日の朝のあいさつは、おはようではありません。わたしのお母さんは看護かんごです。夜勤やきんと言って夕方から夜の間、病院びょういん働くはたら ことがあるのです。入院にゅういんしている患者かんじゃさんは、ている間も具合ぐあい悪くわる なったり、どこか痛くいた なったりするので、一晩ひとばん中、ナースステイションには看護かんごさんが起きお ています。ベッドのそばのブザーを押すお と、飛んと できてくれるのです。だから、安心あんしんして入院にゅういんできるのです。
 お母さんの夜勤やきんばんは、お父さんと二人です。夕ご飯 はんも、お父さんが作ってくれます。お父さんの作るご飯 はんは、お母さんのときと少し違いちが ます。あじが少し塩辛くしおから て、野菜やさいやお肉の切り方が大きいです。お母さんのときは、おかずの種類しゅるいもたくさんありますが、お父さんのときは、あまりありません。お父さんの作るメニューの中で、いちばんおいしいのはカレーライスです。
 お母さんは、お父さんと結婚けっこんする前からずっと看護かんごです。子供こどものときからなりたかった職業しょくぎょうだそうです。看護かんごになるための学校は、勉強べんきょうがとても大変たいへんで、普通ふつうの学校のような勉強べんきょうだけでなく、実際じっさいにやってみる看護かんご実習じっしゅうというのがあったそうです。でも、お母さんは、看護かんごになる日を夢見ゆめみて、いっしょうけんめいがんばったと言っていました。
 わたしが生まれるときだけお休みしましたが、あとはずっと今も看護かんごです。お友だちに
「うちのお母さん、看護かんごなんだ。」
と話すと、みんなびっくりして
「いいなあ。」
とうらやましがります。女の子の中では、人気のある職業しょくぎょうだからです。でも、実際じっさい夜勤やきんもあるし、とても忙しいいそが  大変たいへん仕事しごとなのだということを知らないんだなあとわたしは心の中で思います。
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 お母さんは、時々、
「ゆきちゃん、かたをもんでくれる?」
と言います。そんなときのお母さんのかたは、力こぶを入れたようにかたくなっています。わたしは、ちょうどよい力でもみほぐしてあげます。すると、お母さんは、
「ああ、気持ちいいきも   最高さいこう。」
喜びよろこ ます。かたのほかに、首や足のふくらはぎをやってあげることもあります。長い時間やっていると、お母さんはうたた寝   ねしてしまうこともあります。
 そんなに大変たいへん仕事しごとだというのに、お母さんは今まで一もやめたいと思ったことがないそうです。この間、わたし
「どうして看護かんごをずっと続けつづ たいと思うの?」
と聞いてみたら、お母さんは、
「そうねえ。患者かんじゃさんから、ありがとうって言われたとき、人のやくに立てたんだなあって思えるからかな。」
と言ってにっこり笑いわら ました。

言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会 φ)
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a 長文 10.2週 su
 ダーウィンのお父さんとおじいさんは、医者いしゃでした。ダーウィンも最初さいしょは大学の医学部いがくぶに入れられて勉強べんきょうをしていました。しかし、ダーウィンは、成績せいせき悪くわる 、やる気が見られませんでした。見かねたお父さんは、ダーウィンを医者いしゃにすることをあきらめて、牧師ぼくしになるための大学に入れなおしました。しかし、ダーウィンはここでも牧師ぼくし勉強べんきょうには関心かんしんがなく、博物学はくぶつがくという動物どうぶつ植物しょくぶつ勉強べんきょうにばかり夢中むちゅうになっていました。
 やっと大学を卒業そつぎょうしたダーウィンは、今度こんど海軍かいぐん測量そくりょう船に乗っの 世界中せかいじゅうを見て回ることにしました。お父さんは、船で世界せかい一周いっしゅうすることなどはもちろん大反対はんたいです。しかし、周りまわ の人の助けたす 借りか て何とかお父さんを説得せっとくしたダーウィンは、それから五年間、ビーグルごう乗っの 世界中せかいじゅう探検たんけんしました。
 南米のガラパゴス諸島しょとうで、ダーウィンは不思議ふしぎなことに気づきました。ガラパゴス諸島しょとうしましまの間には速いはや 海流かいりゅう流れなが ていて、動物どうぶつたちが行き来することができません。そのような閉ざさと  れたしまにすむ動物どうぶつたちは、しまごとに姿すがた形が変わっか  ていたのです。例えばたと  、ヒワという鳥のくちばしが、あるしまでは昆虫こんちゅうを食べるのに都合つごうよくできているのに対し たい 、ほかのしまでは植物しょくぶつを食べるのに都合つごうよくできているというようなことです。
 ダーウィンは、この観察かんさつをもとに、自然しぜん淘汰とうたという考えを作り上げました。つまり、それぞれの環境かんきょう適してき たものが生き残りい のこ 適さてき ないものが淘汰とうたされることによって、だんだんとしゅ進化しんかしていくという考え方です。
 当時の人々は、生物せいぶつしゅ神様かみさまが作ったもので最初さいしょから完全かんぜんな形であり、進化しんかすることなどはありえないと考えていたので、ダーウィンは多くの人から批判ひはんされました。更にさら 、ダーウィンが、進化しんかろんを人間にあてはめて、「人間もサルから進化しんかした」と述べるの  と、
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批判ひはん更にさら 大きく広がりました。人間が神様かみさまから作られたものだという考えと、サルから進化しんかしたものだという考えでは、天と地ほどのがあったからです。
 しかし、ダーウィンの考え方は科学てきで、だれもが納得なっとくせざるをえない根拠こんきょ持っも ていたので、次第にしだい 多くの人が認めるみと  ようになりました。
 ところが、この進化しんかろんにも弱点がありました。それはだい一に、環境かんきょう適してき たものが生き残るい のこ という考え方で説明せつめいするには、生物せいぶつ種類しゅるいがあまりにも多いということです。もし、ライオンが地球ちきゅう環境かんきょう最ももっと 適してき ていたとすれば、ほかの動物どうぶつ全部ぜんぶライオンとの生存せいぞん競争きょうそう負けま て、地球ちきゅう上にはライオンしかいなくなってしまってもおかしくありません。地球ちきゅう環境かんきょう最ももっと 適してき ているものがラッコだったらもっと大変たいへんです。右を向いむ てもラッコ、左を向いむ てもラッコで、どこを見てもラッコラッコラッコラッコラーッと、いつの間にか怒らおこ れているようです。
 進化しんかろんだい二の弱点は、自然しぜん淘汰とうただけで進化しんか説明せつめいしようとすると、鳥のくちばしの変化へんかぐらいまでは説明せつめいできても、アメーバが魚になり、魚が爬虫類はちゅうるいになり、爬虫類はちゅうるい哺乳類ほにゅうるいになるというような大きな変化へんか説明せつめいしにくいということです。
 進化しんかろんだい三の弱点は、進化しんかろんそのものよりも、その進化しんかろん利用りようした社会の問題もんだいでした。進化しんかろんは、欧米おうべい諸国しょこくがアジアやアフリカを植民しょくみん地にするときに、その裏づけうら  となる考えとして利用りようされました。つまり、白人は最ももっと 優れすぐ ていて、有色ゆうしょく人種じんしゅはそれよりも劣りおと 、その有色ゆうしょく人種じんしゅよりも更にさら 劣っおと ているのがサルだという考え方が、白人の支配しはいを正当したのです。
 このような弱点はあったものの、ほぼ一人で進化しんか全体ぜんたいぞうを考え出したダーウィンは、人間のものの見方を大きく前進ぜんしんさせたのでした。 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会(Σ)
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a 長文 10.3週 su
「でもね、お母さん、小学校って、まるで軍隊ぐんたいみたいなんだ。だからぼく、いやなんだよ。」
 なるほど、そのころのドイツの小学校は、規則きそくだい一で、暗くくら 重苦しいおもくる  ふんいきに満ちみ あふれていました。授業じゅぎょうも、暗記あんきばかり。自分で考えることは、いっさい許さゆる れません。先生にさからうことはもちろん、質問しつもんすることさえ禁じきん られていたのです。おさないアルバートが「軍隊ぐんたいそっくり。」というのも、もっともでした。
 おまけに、無口むくち体育たいいくがにがてなアルバートには、なかなか友だちもできません。一か月もしないうちに、学校がすっかりいやになってしまいました。
 とはいえ、勉強べんきょうまできらいになったわけではありませんでした。下校してくると、ヤコブおじさんに助けたす てもらいながら、辞書じしょをひき、本を読み、自分の好きす 勉強べんきょう深めふか ていきました。
 数学に興味きょうみをもったのも、そのころのことです。
 ある日、アルバートはヤコブおじさんにたずねました。
「ねえ、おじさん、『代数だいすう』ってなんのこと?」
 おじさんは、待っま ていましたとばかりに、説明せつめいをはじめました。
「『代数だいすう』とは、わからない数をさがしだす数学だよ。まず、わからない数を、文字の『X(エックス)』とよぶ。そして、問題もんだいでいわれたとおりに、計算しきをつくっていくと、さいごに、『X』がどんな数かが、ちゃんとわかるんだ。」
「なんだか、おもしろそうだね。」
「おう、頭の体操たいそうみたいなものだからな。」
 こうして、アルバートは、小学生ではとても理解りかいできないような数学を、どんどん、自力で学んでいったのです。
 勉強べんきょうにあきると、こんどはバイオリンを取り上げと あ 、小さな手で器用きように、モーツァルトやベートーベンのきょくをかなでます。
 そういえば、バイオリンも、ほとんど独習どくしゅうでした。
 六さいになったとき両親りょうしん連れつ ていかれたバイオリンの先生
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は、小学校の先生と同じように、かたくるしくて、いばりくさっていました。はじめのうち、アルバートは、レッスンがいやでたまりませんでした。けれども、家に帰って、自分で工夫くふうしながら練習れんしゅうをつづけているうちに、ある日とつぜん、モーツァルトのソナタがひけるようになったのです。
 それからは、しめたもの。すっかりバイオリンのとりこになったアルバートは、一生、この優雅ゆうが複雑ふくざつ楽器がっきと、親友のようにつきあいました。
 父のへルマンからは文学、母のパゥリーネからは音楽、そしてヤコブおじさんからは科学……。この三つの世界せかいは、アインシュタインの一生の大きなはしらとなりました。
 
(「アインシュタイン」岡田おかだ好恵よしえちょより)
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a 長文 10.4週 su
 「寝るね 子は育つそだ 」ということわざがあります。むかしの人は理屈りくつでなく経験けいけん理解りかいしていたのでしょうが、このことわざのとおり、寝るね 子が育つそだ のには科学てき根拠こんきょがあるのです。日の出とともに起きお 、日の入りとともに眠るねむ ような時代じだい異なりこと  現代げんだいの人々は夜も活動かつどう続けつづ ています。ですから、大人はもちろん、子供こども眠りねむ につく時間も年々遅くおそ なる一方です。しかし、夜更かしふ  健全けんぜん成長せいちょうのためにも勧めるすす  ことはできません。たとえ遅くおそ たとしても、ある程度  ていど睡眠すいみん時間を確保かくほできればいいのだろうと思うかもしれませんが、そうではありません。睡眠すいみんも、りょうよりしつ問題もんだいになってくるのです。睡眠すいみんの場合、眠りねむ 就くつ 時間が重要じゅうようなポイントになります。「早起きはやお は三文のとく」ということわざがあるのも、実はじつ 納得なっとくできる理由りゆうがあるのです。 
 それでは、どうして遅くおそ 寝るね のはいけないのでしょうか。睡眠すいみん中には大切なホルモンが分泌ぶんぴつされます。成長せいちょうの子どもたちに最ももっと 重要じゅうようなのが成長せいちょうホルモンです。このホルモンは夜九時から二時くらいの間に盛んさか 分泌ぶんぴつされます。ホルモンは夜中に出るもん(出るもの)なのです。ですから、この時間には眠りねむ 就いつ ている必要ひつようがあります。成長せいちょうホルモンのおも働きはたら は、ほね成長せいちょう促しうなが 筋肉きんにくを作るたんぱく質    しつ合成ごうせい助けたす 、日中活動かつどうして痛んいた 細胞さいぼう修復しゅうふくすることです。名前のとおり、体の成長せいちょう欠かか せないものと言えます。
 ほかにメラトニンというホルモンも忘れわす てはなりません。このホルモンは暗くくら なると分泌ぶんぴつされる性質せいしつがあり、電気を煌々こうこう灯しとも た明るい部屋へやで夜更かしふ  をしていると分泌ぶんぴつりょう減少げんしょうしてしまいます。メラトニンには人間の自然しぜんな生活のリズムを整えるととの  働きはたら や、酸素さんそ毒性どくせいから体を守るまも 働きはたら 、それに加えくわ 免疫めんえき強化きょうかする働きはたら があります。
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 遅くおそ た場合、これらのホルモンが十分に分泌ぶんぴつされず、体に支障ししょうをきたす恐れおそ があります。このことから、健康けんこうな体を維持いじするためには、早く眠りねむ 就きつ 十分な睡眠すいみん時間を確保かくほすることが大切だとわかります。 
 睡眠すいみんには深いふか 眠りねむ 浅いあさ 眠りねむ があることが知られています。浅いあさ 眠りねむ ではのうはまだまだ活動かつどうしています。日中のできごとを思い出し、記憶きおくとして定着ていちゃくさせています。ですから、日中いっしょうけんめい勉強べんきょうしたことが、浅いあさ 眠りねむ を通して記憶きおくとして定着ていちゃくするわけです。
 浅いあさ 眠りねむ 深いふか 眠りねむ は九十分ごとに入れ替わるい か  と考えられていますが、眠りねむ 就くつ 時間が遅くおそ 睡眠すいみん時間が少なくなった場合は、眠りねむ のほとんどを深いふか 睡眠すいみん占めし てしまいます。というのも、のう休養きゅうよう与えるあた  という、人が生きていくうえで重要じゅうよう眠りねむ 深いふか 眠りねむ だからです。睡眠すいみん時間が足りなくなった場合は、浅いあさ 眠りねむ の出番はなくなってしまうのです。
 毎日深夜しんやまで勉強べんきょうしていると、かえってのう痛めつけるいた    ことにもなりかねません。せっかくの努力どりょく無駄むだにしないためにも、また効率こうりつよく学習がくしゅう成果せいかをあげるにも、早い時間にとこ就きつ 能率のうりつのよい睡眠すいみんをとりましょう。

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a 長文 11.1週 su
 ぼくは、二年生のとき、初めてはじ  一人で電車に乗りの ました。夏休みにおばあちゃんのうちへ行くためです。えきのホームで、お母さんは、心配しんぱいそうに何回もぼくの顔を見て、
「いい? 港南台こうなんだいでおりるんだからね。二つめだからね。」
と言いました。ぼくは、うなずきました。でも、お母さんは、まだ心配しんぱいそうで、
港南台こうなんだい、だからね。おばあちゃんがそこでまってるからね。」
と言いました。
 青い電車が入ってきて、いよいよ乗り込みの こ ました。ぼくは、ドキドキしてきました。お母さんを見たら、いっしょうけんめい手をふっています。ぼくは、それを見て、手をふるのはまだ早いよ、と思いました。そのとき、プルルルルーとベルが鳴って、びっくりしているうちに、電車のドアが閉まりし  ました。
 ぼくは、ドアに顔をくっつけて、お母さんを見ました。お母さんが、何か言いながら手をふっています。ぼくもふろうとしたけれど、あっというまに電車は発車はっしゃして、お母さんは見えなくなってしまいました。
 ぼくは、きゅうに心細くなって、あたりを見回しました。すると、近くのせきにぼくぐらいの年齢ねんれいの子がゲーム遊んあそ でいるのが見えました。そのとなりには、もう少し大きいその子のお兄さんのような子もいて、やはりゲームをやっていました。二人は、大きな声で笑っわら たり、たたきあったりしながら、夢中むちゅう遊んあそ でいます。ぼくは、何のゲームかなあと思いながら、ずっとそちらを見ていました。
つぎ洋光台ようこうだい洋光台ようこうだい。」
とアナウンスが聞こえました。ぼくは、はっとしました。いくつえきをすぎたか数えていませんでした。でも、「台」がつくから、合っているなと思いました。やっとついたと思って、電車をおりてホームをさがしても、おばあちゃんはいませんでした。
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 ぼくは、ドキドキしてきましたが、自分に、「落ち着けお つ 。よく考えろ」と言い聞かせました。そこで手ににぎっていた紙を思い出して、よく見たら、「二つめ、港南台こうなんだい」と書いてありました。ぼくは、どうしたらいいかわからなくなって、紙を持っも たまま立っていました。そうしたら、知らないおばあさんが来て、紙をのぞきこんで
「一つ先まできちゃったね。港南台こうなんだいでおりたかったんでしょ。あっちがわにきた電車にのって、一つもどればだいじょうぶ。」
と教えてくれました。急いいそ 反対はんたい方向ほうこうの電車に乗るの と、その電車はすぐに発車はっしゃしました。
 電車がつぎえきに近づくと、
つぎ港南台こうなんだい港南台こうなんだい。」
と、アナウンスが聞こえました。今度こんどはしっかり紙を見ていたので、合っているなと思いました。電車が止まり、ホームにおりたら、おばあちゃんが遠くからぼくを見つけて、こっちに走って来るのが見えました。

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a 長文 11.2週 su
 ミツバチの群れむ は、一ぴき女王蜂じょおうばちと数千びきから数万びき働き蜂はたら ばち繁殖はんしょく現れるあらわ  二千びきから三千びき雄蜂おすばち構成こうせいされています。それぞれの役割やくわり分担ぶんたん明確めいかくで、高度こうど巨大きょだい社会を形成けいせいしていると言ってもよいでしょう。 
 ミツバチは、規則正しいきそくただ  六角形を組み合わせて巣板すばんを作ります。ばん構成こうせいする六角形の小部屋こべや巣房すぼう呼ばよ れます。ぼうは、育児いくじ花粉かふん貯蔵ちょぞう、花みつ貯蔵ちょぞう、ハチミツの加工かこうなど、さまざまな目的もくてき利用りようされています。それぞれの作業さぎょう効率こうりつよく行えるように、ぼう配置はいち考慮こうりょされています。 
 では、ミツバチは、なぜ六角形のを作るのでしょうか。もしミツバチのが丸だったら、上下左右に並べなら ていくとき、無駄むだなスペースができてしまいます。もし四角だったら、の間に隙間すきまはなくなりますが、ミツバチがに入ったときに無駄むだなスペースができてしまいます。ミツバチの体型たいけいから考えると、六角形がいちばん効率こうりつがよいのです。 
 ミツバチの材料ざいりょうは、働き蜂はたら ばち腹部ふくぶから分泌ぶんぴつされるろうへんです。働き蜂はたら ばちは、そのろうへんを、後肢あとあし内側うちがわにあるブラシじょうの毛を使っつか 抜き取りぬ と あしについたろうへんを大あごでくわえ、それをかみ砕きくだ ながらはりつけていきます。この根気こんきのいる作業さぎょう続けるつづ  だけでも大変たいへんなことですが、定規じょうぎ分度器ぶんどきもコンパスも持たも ずに六角形の規則正しくきそくただ  並べなら ていくのですから、まさに神業かみわざとしか言いようがありません。 
 以前いぜんは、ミツバチが最初さいしょに丸い形のを作り、それが周囲しゅういから押しつぶさお    れて自然しぜんに六角形になると考えられていました。しかし実際じっさいにミツバチのづくりの様子ようす観察かんさつしたところ、初めはじ から六角形を作っていることが分かったのです。 
 一九六六年、ドイツの二人の学者がくしゃは、ミツバチの横向きよこむ に作られていることから、六角形のを作る秘密ひみつは、重力じゅうりょく関係かんけいある
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のではないかと考えました。を作るとき、ミツバチは、頭を上下左右に向けむ たいろいろな姿勢しせい取らと なければなりません。そのときに体にかかる重力じゅうりょく絶えずた  変化へんかします。そこで、二人が注目ちゅうもくしたのが、働き蜂はたら ばちの首とはらにある感覚かんかく毛です。二人は、実験じっけんから、ミツバチは首の感覚かんかく毛が頭に触れるふ  ことによって重力じゅうりょく方向ほうこう感知かんちしていることをつきとめました。ミツバチは、感覚かんかく毛の接触せっしょくによって、自分の体の向きむ を知り、六角形のを作っていたのです。
 ミツバチのがいかに巧妙こうみょうに作られているかは、数学しゃたちの研究けんきゅうによっても証明しょうめいされています。三つの菱形ひしがたからなる中央ちゅうおうのそれぞれの角度かくどは一〇九二八分ですが、この数字は、使うつか ろうりょう最小さいしょうにしてを作った場合の角度かくどなのです。数学しゃたちが微分びぶん学の理論りろん使っつか たむずかしい計算をして出した数字をミツバチは生まれながらに知っていたことになります。 
 ハニカム構造こうぞう呼ばよ れる六角形の組み合わせは、効率こうりつがよいだけではなく、安定あんていした形でもあります。外部がいぶから力が加えくわ られたとき、うまく力を分散ぶんさんすることができるのです。ダイヤモンドや雪の結晶けっしょうは、このハニカム構造こうぞうになっています。また、建築けんちく材料ざいりょう航空機こうくうきつばさ内部ないぶ、サッカーゴールのネット、スキーいた内部ないぶなどにもこのハニカム構造こうぞう応用おうようされています。ハニカム構造こうぞうがこんなにも幅広くはばひろ 採用さいようされていることをミツバチが知ったら、はにかんでしまうかもしれません。

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a 長文 11.3週 su
 かれはすぐ、プリンストンの名物めいぶつ教授きょうじゅになりました。世界せかいてきな大科学しゃということもありますが、そのすなおで、あたたかい性格せいかく教授きょうじゅ仲間なかまや学生たちをとらえたのです。
 博士はかせは、決まっき  講義こうぎは行いませんでしたが、研究けんきゅう室にくる学生たちを、たいへん親切に指導しどうしました。
 学生ばかりではありません。たのまれれば、小学生の勉強べんきょうだって見てあげたのです。
 じっさい、プリンストンの町には、ある十さいの女の子が毎日のようにアインシュタイン家に行って、博士はかせに算数の宿題しゅくだいを教えてもらったという話が残っのこ ています。
「あんなえらい先生に、宿題しゅくだいを見てもらうなんて!」
 女の子のお母さんが、びっくりしておわびに行くと、博士はかせは、
「とんでもない。わたしのほうこそ、おじょうさんから教わることが、たくさんあったんですよ。」
といったそうです。
 ライオンのたてがみのような白髪はくはつをなびかせ、町を散歩さんぽする博士はかせを、だれもがあたたかい目で見守りみまも ました。
 アインシュタイン博士はかせは、この町でだれからも愛さあい れうやまわれました。ただひとつ、あまりにも身なりみ  をかまわないことだけは、人々のじょうだんのたねになりました。古いセーターに、サンダルばき。くつしたをはかず、さんぱつも大きらい。
 こんな博士はかせに、「すこし服装ふくそうに気をつかわれたらどうですか。」と、だれかが忠告ちゅうこくすると、「肉を買って、包みつつ 紙のほうがりっぱだったら、わびしくないかね。」と、やりかえされてしまいました。人は外見ではない、ということでしょう。
 しかも、人生というのは限らかぎ れています。ものは、すべて必要ひつよう最低限さいていげんにきりつめ、おしゃれをする時間があれば、一分でも研究けんきゅうのほうにまわしたい――アインシュタイン博士はかせは、心からそう思っていたのです。
(「アインシュタイン」岡田おかだ好恵よしえちょより)
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a 長文 11.4週 su
 食虫植物しょくちゅうしょくぶつとは、などで虫や小動物しょうどうぶつをつかまえて消化しょうかし、栄養分えいようぶんとして吸収きゅうしゅうする植物しょくぶつのことです。食虫植物しょくちゅうしょくぶつと言っても、しょっちゅう虫をつかまえているわけではありません。食虫植物しょくちゅうしょくぶつ普通ふつう植物しょくぶつと同じように、日光から栄養分えいようぶんを自分で作っているので、虫を食べなくても枯れるか  ことはないからです。ただ、育ちそだ が少し悪くわる なることはあります。食虫植物しょくちゅうしょくぶつは、世界せかいには、五百しゅあまり、日本にも、二十しゅあまりが自生しています。数ある食虫植物しょくちゅうしょくぶつの中から、ハエトリグサ、ウツボカズラ、モウセンゴケの三種類しゅるい紹介しょうかいしましょう。 
 ハエトリグサのには、片側かたがわに三つずつ、合計六本の小さな毛が生えています。虫がこの毛に二回さわると、すぐに閉じと て虫をつかまえます。虫があたふたしているうちにふたが閉まっし  てしまうわけです。なぜ二回さわるまで閉じと ないかというと、一回だけでは虫が葉っぱは  のまん中に入っていないかもしれないからです。二回ならほとんど間違いまちが なく虫が真ん中ま なかに入っているだろうというわけです。ハエトリグサは用心深いようじんぶか 性格せいかくなのかもしれません。
 閉じと てからもしばらくは、の中に虫が動けるうご  隙間すきまがあります。しかし、虫をつかまえてから一日経つた と、をぴたりと閉じと て虫を押しつぶしお    てしまいます。そして、消化しょうかえきを出して虫をどんどんとかしてしまいます。虫を完全かんぜんにとかすまでには十日ぐらいかかります。その後、また開いひら て、つぎ餌食えじきとなる虫を待つま のです。 
 ウツボカズラのふくろにはふたがあります。このふたのうらやふくろの口のまわりから甘いあま ミツを出して虫をおびきよせます。ふくろの表面ひょうめんはロウのようになっていてとてもすべりやすいので、虫たちがいくらもがいても徒労とろう終わっお  てしまいます。ミツを目当てにやってきた虫たちは、結局けっきょくは足をすべらせてふくろの中に落ちお 
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しまいます。ふくろの下にはいつも消化しょうかえきがたまっています。ウツボカズラは、ふくろの内側うちがわにあるぶつぶつから虫の栄養分えいようぶん吸い取っす と ています。一方てき栄養分えいようぶん取ると だけですから、物々交換ぶつぶつこうかんとはいかないようです。ふくろについているふたですが、このふたは雨を防ぐふせ ためのもので、虫をつかまえた後も閉まりし  ません。 
 モウセンゴケの仲間なかまは、北極ほっきょく南極なんきょく砂漠さばくをのぞく、ほぼ世界中せかいじゅう分布ぶんぷしています。日本でも北から南までどこでもよく見ることができます。モウセンゴケのにはせん毛が生えていて、その先からねばねばしたえきを出して虫を捕えとら ます。赤いせん毛の先にねばねばがきらきらと光り、まるでダイヤモンドダストのようです。の上に虫がとまると、毛が素早くすばや 動きだしうご   ます。毛だけでなくも虫をつつみこむように動きうご 、虫をとかす消化しょうかえきを出します。十時間もすると、は虫をくるくる巻きま にして、ゼンマイのような姿すがたになります。そして、消化しょうかえきでとかされた虫の栄養分えいようぶん吸い取りす と 、その後、まるで何事なにごともなかったようにまた開いひら つぎの虫を待ちま ます。「モウセンゴケ」とは名ばかりで、「もう、せん。」と言いながらも次々つぎつぎに虫をつかまえてしまうようです。

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a 長文 12.1週 su
 わたしが小さいころから大切にしているものは貝殻かいがらです。大切にしているだけではなくて、今も集めあつ ているので、大切にしているものはどんどん増えふ ていきます。 
 最初さいしょ貝殻かいがらをもらったのは、たぶん幼稚園ようちえんの年中のときです。伊豆いずにあるお父さんの会社の保養所ほようじょでお泊まりと  をしたときです。きれいな伊豆いずの海には広い砂浜すなはまがあって、わたしは、そこでよくすなの山を作って遊びあそ ました。すなの山を固めかた たあと、真ん中ま なか掘っほ てトンネルにするのが大好きだいす でした。
 わたしは、浮輪うきわをしてもなみ怖かっこわ  たので、あまり海には入らないで砂遊びすなあそ ばかりしていました。すな掘っほ ていたら、小さい貝や貝のかけらがたくさんみつかりました。わたしはそれを洗っあら たアイスのカップに集めあつ ました。
 そのときもわたしすな掘っほ ていたら、赤い水着みずぎたお姉さんがやって来て、 
「たくさん集めあつ たね。これきれいでしょう。桜貝さくらがいというのよ。」 
と、ピンクの二枚貝にまいがいをくれました。すけて見えそうなうすい貝で、まるで貝のお姫様 ひめさまのようでした。わたしはうれしくて、ありがとうと言いたかったけれどはずかしくて言えませんでした。代わりか  よこにいたお父さんがお礼 れいを言いました。 
 夕ごはんのとき、お母さんにそのことを話しながら桜貝さくらがいを見せました。お母さんは、 
「あら、ほんと。こんなにきれいな桜貝さくらがいってあんまりないのよねえ。よかったわね。」 
と言って、そっと桜貝さくらがいを手に乗せの ました。そして、 
「これねえ、うすくてわれやすいから、何かでつつんでおいた方がいいね。」 
と、ティッシュを出して、そっとつつんでくれました。
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 わたしは、ちょっと緊張きんちょうしながら、何もそのティッシュをあけて、桜貝さくらがいを見ました。寝るね までに三十回ぐらいは見たと思います。ほんとうにきれいで、何回見てもあきませんでした。その夜は、うれしくてなかなか眠れねむ ませんでした。
 大事だいじ持っも て帰った桜貝さくらがいですが、いつだったかティッシュから出して、ほかの貝といっしょにテーブルに並べなら 遊んあそ でいるとき、つまみあげた指先ゆびさきにちょっと力が入りすぎて、片方かたほうのはしが欠けか てしまいました。 
 その後、自分で海で拾っひろ たり、誰かだれ におみやげでもらったり、鎌倉かまくらのお店で買ったりして、貝殻かいがらはどんどん増えふ ていきました。でも、やっぱりいちばん大切にしているのは、はしが少し欠けか たあの桜貝さくらがいです。わたしは、今も時々、桜貝さくらがいの入った宝石ほうせきばこ開けあ て見ています。

言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会 φ)
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a 長文 12.2週 su
 『しゅ起源きげん』の著者ちょしゃチャールズ・ダーウィンがミミズの研究けんきゅう始めはじ たのは、二十八さいのときでした。それ以来いらい、ダーウィンは四十年以上いじょうもミミズの観察かんさつ続けつづ ました。ダーウィンが最初さいしょに目をつけたのは牧草ぼくそう地です。最初さいしょはでこぼこで石ころだらけだったはずの牧草ぼくそう地の土が細かくしっとりとした土になり、地面じめん平らたい になっていくのは、ミミズが土を食べて、土のフンをするからではないかと考えたのです。つまり、ミミズが長い年月をかけて、土を耕したがや ているのではないかと思いついたのです。 
 ダーウィンは、十年ほど前に土をよくするために石灰せっかいをまいたという牧草ぼくそう地に行ってみました。すると、石灰せっかいは、地表ちひょうから七・五センチぐらいのところに埋まっう  ていました。ダーウィンはミミズが石灰せっかいの上にフンをして、十年の間にこれだけ埋めう てしまったに違いちが ないと考えました。しかし、もしかしたら、その十年の間に、だれかが土をまいたのかもしれません。ほかの動物どうぶつや風が土を運んはこ できたということも考えられます。そこで、ダーウィンは、これがミミズの仕事しごとだったということを自分の目で確かめよたし   うと決意けついしました。 
 ある年の冬、三十三さいのダーウィンは、自宅じたくうらに広がる牧草ぼくそう地に石灰岩せっかいがん破片はへんをばらまきました。この場所ばしょなら毎日観察かんさつすることができます。しかし、石灰岩せっかいがん破片はへん埋まっう  て見えなくなるまでに数年、ミミズが耕すたがや 土のりょうをほぼ正確せいかくに計算できるようになるまでに数十年かかります。ダーウィンは、来る日も来る日も牧草ぼくそう地をながめながら、この気の遠くなるような年月を待ちま 続けつづ ました。
 もちろん、この間、ダーウィンはただ待っま ていただけではありません。ミミズにガラスやれんがのかけらを食べさせたらどうなるか、地面じめんの下に何ひきくらいミミズがいるか、ミミズのフンはどのように移動いどうするのかなど、ミミズに関する かん  さまざまな実験じっけんを行いました。まさにミミズづけの数十年間だったのです。ミミズのフンの研究けんきゅうばかりしているダーウィンに、もう青年になっていた子供こども
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ちは憤慨ふんがいしました。それでも、ダーウィンは実験じっけん続けつづ ました。
 最初さいしょ石灰岩せっかいがん破片はへんをまいてから二十九年たち、ダーウィンは六十二さいになっていました。その年の十一月、ついに牧草ぼくそう地を掘るほ 日がやってきました。ダーウィンは、牧草ぼくそう地にざくっとスコップをさしこみます。土を持ち上げるも あ  と、白いものが見えます。それは、言うまでもなく、二十九年前に牧草ぼくそう地にばらまいた石灰せっかいでした。ふかさ五十センチほどのあな掘るほ と、周囲しゅういの土のかべ一筋ひとすじ石灰せっかいそうが見えます。石灰せっかいは、地表ちひょうから十七・五センチぐらいのところに埋まっう  ていました。二十九年間で十七・五センチということは、毎年やく六ミリずつ埋めう られていたことになります。これは、もちろんミミズのはたらきによるものです。 
 ダーウィンは、この研究けんきゅうを三百ページをこえる一さつの本にまとめ上げました。進化しんかろん提唱ていしょうしゃとして有名ゆうめいなダーウィンですが、その一方でミミズのような小さな生き物い もの研究けんきゅうにも生涯しょうがいをささげたのです。みんなが見向きみむ もしないような小さな生き物い もの注目ちゅうもくし、その生態せいたいを明らかにしたダーウィン。そのダーウィンが亡くなっな   たのは、ミミズの本を書き上げてから半年後のことでした。

 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会(Λ)
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a 長文 12.3週 su
 その日から、アインシュタインの、かく廃絶はいぜつ戦争せんそう反対はんたいへの努力どりょくがはじまりました。
「われわれは、戦争せんそうには勝ちか ました。けれども平和へいわ勝ちか とったわけではない。」
 博士はかせはまず、アメリカ国民こくみんに対して たい  、こう忠告ちゅうこくします。
 原子力は、人間の手にあまるほど危険きけんな力です。つぎの戦争せんそう使わつか れたら、世界せかい破滅はめつするでしょう。だから、ぜったいに戦争せんそう起こらお  ないように努力どりょくしなければなりません。アメリカ人は、世界せかいに先がけて原子兵器へいきのひみつをにぎった国民こくみんとして、このことをぜひ自覚じかくしてほしいとうったえたのです。
 博士はかせは、終戦しゅうせん直後にできた、国際こくさい連合れんごうの原子力委員いいん会の会長を引き受けひ う ました。一九四六年には国際こくさい連合れんごうに、世界せかい政府せいふをつくることを提唱ていしょうします。つまり、世界せかいから国境こっきょうをなくし、国家どうしの争いあらそ 永久えいきゅうになくそうというのです。
 けれども、そのときすでに、ソ連 れんをはじめ世界せかい各国かっこくで、アメリカに負けま じと、かく開発かいはつ競争きょうそうがはじまっていました。
 こうなると、アメリカもだまってはいられません。一九四八年、トルーマン大統領だいとうりょうによって、こんどは「水爆すいばく水素すいそ爆弾ばくだん)」の開発かいはつ命令めいれいされました。
 かく開発かいはつ合戦がっせんはいよいよ過熱かねつし、世界せかいはアメリカがわソ連 れんがわにわかれて、にらみあうようになりました。
 人間のおろかさに、博士はかせ深くふか むねをいためました。そして、あるときたずねてきた日本人の記者きしゃに、「敗戦はいせん国日本の国民こくみんには、心から同情どうじょうします。けれども、勝っか た国々もいま、それ以上いじょう苦しいくる  道を歩んでいるのです。」と、しみじみ語りました。博士はかせは、原子力発電はつでんしょをはじめとする、原子エネルギーの平和へいわ利用りようについても、かなり慎重しんちょうな考えをもっていました。
 一九四五年『アトランティック=マンスリー』という雑誌ざっし
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は、つぎのように書いています。「……原子力が将来しょうらい人類じんるいに大きな恵みめぐ をもたらすとは、いまのわたしには、考えにくいのです。原子力は脅威きょういです。」
 人間は、原子力を発見はっけんできたのに、どうして、それを管理かんりできないのでしょう、ときかれると、「それは、政治せいじ物理ぶつり学よりむずかしいからですよ。」と、皮肉ひにくをこめて、答えています。
 
(「アインシュタイン」岡田おかだ好恵よしえちょより)
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a 長文 12.4週 su
 駄洒落だじゃれ(ダジャレ)とは、音が同じかそっくりな言葉ことばをならべて遊ぶあそ 言葉ことば遊びあそ です。江戸えど中期ちゅうき雑俳ざっぱい呼ばよ れる短いみじか のひとつと言われています。地口じぐちとも呼ばよ れます。この雑俳ざっぱい詠わうた れる内容ないようは、みんなの知っている言葉ことばや、芝居しばい有名ゆうめいなせりふをもとにした機知きち富んと だおもしろいことがらです。いろいろな言葉ことばをよく知っていて、世の中よ なかのことに精通せいつうし、センスがよいと気の利いき たじょうずなシャレができるのです。ですから、江戸えど時代じだいでは、シャレのうまい人を教養きょうようがあるとみなしたようです。立派りっぱ庶民しょみん文化ぶんかだったわけです。地口じぐちに合った絵を行灯あんどん描いえが て、秋のお祭り まつ 使っつか たという「地口じぐち行灯あんどん」は、最近さいきん復活ふっかつして関東かんとう地方のあちこちで、作られているようです。 
 しかし、正統せいとう俳人はいじん文化ぶんか人と言われる人たちの中には、ばかばかしいおふざけと見る人もあり、シャレに「」がつけられてしまったのです。もともとは「洗練せんれんされている」「洒落しゃれていておもむきがある」という意味いみだったシャレですが、つまらない・粗末そまつな・でたらめといった意味いみ表すあらわ 不名誉ふめいよな「」がつけられてしまいました。 
 さて、ダジャレにはどんなものがあるのでしょう。いろいろな種類しゅるいがありますが、まずはちょっとした語呂合わせごろあ  で作る「同じ読み方の言葉ことば使っつか たもの」。これには、「電話にはでんわ」、「アルミかんの上にあるミカン」などがあります。全くまった 同じ音なのに全然ぜんぜん違うちが ものを表しあらわ ているという意外いがいせいのおもしろさがあります。ダジャレといえば、このようなものを思い浮かべるおも う   人も多いでしょう。少し発展はってんさせると、「とかげとかげ」「つくえにくっつく絵」「たからがあったから」などができます。 
 次につぎ 、「たような音を持つも 言葉ことば使っつか たもの」があります。「とこやはどこや」「めじろのねじろ」「迷子まいご舞妓まいこ」などがそれにあたります。気軽きがるにひょいと口をついて出るような軽いかる ダジャレ
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です。少し無理むりがあると、またそれがおもしろくなることもあります。 
 三つめは、ニつの言葉ことばをくっつけて作ったやや上級じょうきゅうへんです。「布団ふとんがお山の方まで吹っ飛んふ と だ!」「おやまぁ。」ちょっとしたストーリーができあがります。 
 さらに、一つの文にニつの意味いみをもたせるものがあります。「風林火山ない?」と「風鈴ふうりん飾んかざ ない?」、「倒産とうさん辛かっつら  たな」と「父さんカツラ買ったな」、「わたしてください」と「渡しわた といてください」などです。ダジャレのつもりでなく、口にして、「あれ、勘違いかんちが 」ということもあるかもしれません。 
 江戸えど時代じだいには文化ぶんかだったダジャレですが、最近さいきんでは若者わかものたちに親父ギャグなどと呼ばよ れて、肩身かたみのせまいところです。しかし、日本語独特どくとくの音のおもしろさ、言葉ことばから広がるイメージなどを共有きょうゆうすることで、場が和みなご 、楽しい気分になるものです。ダジャレを最ももっと よく言うそうは、小学校高学年の男子と四十だい以上いじょうのサラリーマンだそうです。語彙ごい増えふ て、ユーモアを解するかい  ようになったダジャレ入門しゃの小学生と、忙しいいそが  生活や仕事しごと疲れつか 、つかのまの癒しいや をダジャレに求めるもと  ダジャレ世代せだいのお父さんたちというわけです。 
 欧米おうべい人は冗談じょうだん好きす で、ユーモアとウィット(機知きち)に富んと だ会話を楽しむ、とよく言われます。ユーモアのセンスというのは、言っている本人はもちろん、相手あいても楽しくなり、円滑えんかつな人間関係かんけい結ぶむす 上で大変たいへん重要じゅうようなものです。
 ダジャレの特徴とくちょうは、子供こどもから大人までだれでも気軽きがるに言えることです。「日本じゃだれでも、ダジャレを言える」となったら、ダジャレは日本の伝統でんとう文化ぶんかの一つとして世界せかい誇れるほこ  ものになるかもしれません。

 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会(φ)
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