a 長文 10.1週 su2
 日本と同じ車の左側ひだりがわ通行をしている国は、イギリスをはじめ、世界せかいやく三分の一あります。残りのこ の三分の二の国は、ヨーロッパやアメリカのように右側みぎがわ通行をしています。
 だい世界せかい大戦たいせん末期まっき沖縄おきなわ占領せんりょうしたアメリカは、沖縄おきなわでの車の通行を、それまでの左側ひだりがわ通行から右側みぎがわ通行に変えか ました。その後、沖縄おきなわは日本に返還へんかんされましたが、返還へんかんされたあとも、沖縄おきなわではアメリカしき右側みぎがわ通行が続いつづ ていました。
 しかし、返還へんかんから六年後の七月三〇日、右側みぎがわ通行を左側ひだりがわ通行に戻すもど ための大変革へんかくが行われました。
 切り替えき か は、前の日の夜から、すべての車をストップさせて行われました。すべての車がストップしていたのはわずか八時間の間でしたが、この間に、すべての道路どうろ標識ひょうしき表示ひょうじ切り替えき か られました。交通整理せいりなどのために、本土からも多くの警察官けいさつかん手伝いてつだ にかけつけました。
 しかしここで、一つの問題もんだいがありました。普通ふつうの車は、ハンドルが右でも左でも、道路どうろのどちらのがわでも走ることができますが、困るこま のは乗り合いの あ バスです。なぜかというと、バスは、歩道のがわ乗客じょうきゃく乗り降りの お するドアがついているので、新しい通行規則きそく従うしたが と、このドアを車両しゃりょう反対はんたいがわにつけなければならなくなるのです。
 そこで、沖縄おきなわ県内けんないにあったほぼ一〇〇〇台ものバスが、ほとんど新しくされることになりました。このために、日本国内のメーカーは総出そうでで、たくさんのバスを製造せいぞうしたのです。この時に製造せいぞうされたバスは、「730車」と呼ばよ れています。この「730車」は非常ひじょう頑丈がんじょうに作られていたため、数は少なくなりましたが、今でも走っているものがあるそうです。
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 こうして多くの人々の努力どりょくのかいあって、沖縄おきなわではたった一晩ひとばん右側みぎがわ通行から左側ひだりがわ通行への変更へんこう無事ぶじに行われたのでした。

 言葉ことばの森長文作成さくせい委員いいん会 τ
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a 長文 10.2週 su2
 エジソンが七さいになったとき、一家は、ミランからヒューロンのそばのポートヒューロンにうつりました。おとうさんのやっていた食料しょくりょうひん製材せいざい事業じぎょうが大きくなるにつれて、あたらしく鉄道てつどうえきができたポートヒューロンのほうが、べんりだったのです。
 エジソンは、この活気にあふれた町の小学校に入学しました。ところが、たちまちのうちに、教室のやっかいものになってしまったのです。きまぐれで、ごうじょうで、すきなことにはむちゅうになるくせに、きらいなことには見むきもしないのです。
 そのうえ、れいの好奇こうき心から、時と場所ばしょもかまわずだしぬけに、ちょいちょい、先生がかんがえてもいないような質問しつもんをしたりします。
 ことに、数学の時間はたいへんです。先生が、
「二たす二は四。」
とおしえます。すると、エジソンが、きゅうに立ちあがって、
「先生、どうして二と二をたすと四になるのですか?」
「かぞえてごらん。四になるじゃないか。」
「でも、なぜ四にならなければいけないのですか?」
「わからない子だな。二たす二は、四なんだ。よくおぼえておおき!」
 そんなわけで、エジソンは先生からすっかりきらわれてしまいました。そして、先生はとうとう、きみは低能ていのうであると、きめてしまいました。
 こんなことがかさなって、ある日、エジソンは、おかあさんにいいました。
「……ぼく……もう学校へいかないよ。」
「まあ、きゅうに、どうしたの?」
「先生がね、ぼくのことを、ばかだっていうんだもの。そうして……。」
「そうして?」
「なにをきいても、よけいなことをきくんじゃないって、しかるんだもの。」
 おかあさんは、じっとかんがえこんでいました。じぶんも、むかし、学校の先生をしたことがあり、そういう教育きょういくほうがとくべつの才能さいのうをもった子どもをみちびくのに、てきとうでないことをよく知っていました。
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「そう……。それではこれからは、おかあさんが先生になってあげましょう。そのかわり、いっしょうけんめい勉強べんきょうするんですよ。」
「うん、ぼく、いっしょうけんめいやるよ。ぼく、ばかじゃないもの、ね。」
 こうして、学校をやめたエジソンは、家庭かていでとくべつの教育きょういくをうけました。それはじつにおもいきった教育きょういくで、まだ八つか九つだというのに、母親のナンシーが先生になって、ギボンの「ローマ帝国   ていこく衰亡すいぼう」、ヒュームの「英国えいこく」、シアースの「世界せかい」、バートンの「ゆううつの解剖かいぼう」、「科学の辞典じてん」といった、むずかしい本を読んだのです。
 十二さいになると、ニュートンの「プリンキピア」という本の勉強べんきょうをはじめました。その中にでてくる数学は、先生のおかあさんでさえ、てこずるものでしたから、数学がにがてのエジソンには、どうにもくるしいたたかいでした。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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a 長文 10.3週 su2
 決心けっしんしたとおり、エジソンは、グランド=トランク鉄道てつどうの新聞うりになりました。それは、新聞のほかに、雑誌ざっし・くだもの・キャンデーなどを、列車れっしゃ内でうるのです。そのきょりは、ポートヒューロン――デトロイト間百キロメートル、三時間です。そこで、毎朝七時にポートヒューロンを発車はっしゃして、十時にデトロイトにつきます。
 デトロイトにつくと、この汽車は夕がたまでやすみ、そして、夜の九時半ごろ、ポートヒューロンにかえります。それは、エジソンにとって、ながいひまな時間でした。
 この列車れっしゃは、三りょう編成へんせいで、手荷物てにもつ車と喫煙きつえん車と婦人ふじん普通ふつう客車きゃくしゃからなっていました。手荷物てにもつ車は、荷物にもつ室・郵便ゆうびん室・喫煙きつえん室の三つにくぎってあり、この喫煙きつえん室はつかわれていませんでした。エジソンは、このへやをあてがわれたのです。かれは、そこへ、きゃくにうる品物しなものをもちこみました。
 こんな列車れっしゃですから、朝のりこんで、お客 きゃくに新聞やたべものをひととおりうると、もうひまです。十時から夕がたまでは、デトロイトの図書館としょかん勉強べんきょうします。けれども、列車れっしゃ内の往復おうふく六時間をぼんやりすごすなんて、そんなことは、エジソンにはできません。
 そこでかんがえついたのが、車内実験じっけんです。じぶんにあてがわれた車室を、化学かがく実験じっけん室にしようというわけです。
 しかし、こんなことは、しゃしょうにそうだんしたらおしまいです。そっとやらなければだめです。かんがえついたあくる日、じぶんの家の地下室から、薬品やくひん実験じっけん用具ようぐをこっそりもちこみました。
 じょうぶなからだをおじいさんから、事業じぎょう才能さいのうをおとうさんから、そして、勉強べんきょうへの熱情ねつじょうをおかあさんからうけついだのか、少年エジソンはつかれしらずに、しごとと勉強べんきょうをつづけるのでした。
 朝はやくから列車れっしゃうり子、化学かがく実験じっけん図書館としょかんがよいをするだけでなく、ポートヒューロンに、助手じょしゅのオーツをつかって、やさいとくだものの店をひらきました。デトロイトの市場でやすい品物しなものを見
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つけると、すかさず仕入れしい てきて、ポートヒューロンの店でうるのです。そうして、十二さいの少年が、一日八ドルから十ドルの収入しゅうにゅうをあげるのです。
 そのうちの一ドルを毎日おかあさんへ、そしてのこりは、本・薬品やくひん実験じっけん器具きぐ費用ひようにしました。実験じっけん室は、みるみる道具どうぐがそろってきました。
 いったい、いまエジソンがうちこんでいる化学かがく実験じっけんと、かれの商売しょうばいと、どんなつながりがあるのでしょう。
 なんのつながりもないように見えますが、じつは、エジソンという人物じんぶつにとっては、きりはなすことのできないかんけいがあるのです。それは、その後のかれの発明はつめいをかんがえればすぐわかるでしょう。
 電灯でんとう・電車・蓄音機ちくおんき映画えいが・ラジオ……そのほか、どれをとってみても、の人々にちょくせつやくにたつものばかりです。みんな社会と、ちょくせつむすびついています。そういうものが発明はつめいできたのは、エジソンがすぐれた事業じぎょう家の性質せいしつをもち、また、商売しょうばいというものをよく知っていたからです。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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a 長文 10.4週 su2
 イチゴが、赤色、水色、ピンク色のそれぞれのおさら盛らも れているとすると、ピンクのおさらのイチゴを選ぶえら 人がいちばん多いそうです。ピンクは甘いあま 感じかん させる色だからです。水色は塩味しおあじを、赤色は辛味からみ連想れんそうさせるといいます。見た目も、あじの大切な要素ようそなのです。
 あじは、緊張きんちょうとも関係かんけいがあります。緊張きんちょうするとあじ感じかん にくくなります。緊張きんちょう感じるかん  場所ばしょあじ感じるかん  場所ばしょは、のうの中の同じところにあるからです。緊張きんちょうした状態じょうたい食事しょくじをすると、緊張きんちょうの方が優先ゆうせんされてしまいます。だから、緊張きんちょうがなくなるにつれ、あじがはっきり自覚じかくされ、リラックスした状態じょうたいで食べるものはおいしく味わえるあじ   のです。
 味覚みかくは五種類しゅるい分類ぶんるいされています。甘味あまみ塩味しおあじ酸味さんみ苦味にがみ旨味うまみです。中でも甘味あまみは、太古のむかしから、エネルギーのもとであったため、何より好まこの れるあじとなっています。また、苦味にがみは五つの基本きほんあじの中で、もっとも薄いうす 濃度のうど感じるかん  ことができます。というのもむかしから「苦いにが ものにはどくがある」という認識にんしきが体にしみこんでいて、少しでも苦味にがみがあると敏感びんかん感じかん て、体が警戒けいかいするからです。苦味にがみのあるものと言えば、コーヒーやビール、カカオなどが思い浮かびう  ます。これらはいわゆる「大人のあじ」で、経験けいけん積むつ ことで好きす になっていくもののようです。
 また、渋味しぶみは五つの基本きほんあじには入っていませんが、最近さいきん健康けんこうめん注目ちゅうもくされています。渋味しぶみというのは口の中がひきつった感じかん したまくがはった感じかん のするものです。渋味しぶみ緑茶りょくちゃのカテキン、ワインのタンニンなどのあじで、これらは生活習慣しゅうかんびょう予防よぼう役立つやくだ とされています。
 ところで、動物どうぶつの中で最ももっと あじ感じるかん  ことのできるのはナマズだと言われています。というのも、ナマズは、口の中だけでなく、
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皮膚ひふ、エラ、など、全身ぜんしんあじ感じかん られるからです。ナマズの食事しょくじは、人で言えば、さだめしナマでズずっと味わうあじ  ようなものかもしれません。

 言葉ことばの森長文作成さくせい委員いいん会 α
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a 長文 11.1週 su2
 朝六時におきて、列車れっしゃにのりこみ、夜は十時にかえってきます。そのあいだじゅうが、うり子のしごとと、図書館としょかんでの勉強べんきょうと、化学かがく実験じっけんです。
 このようにしてすごす一日一日は、つらいことのようですが、エジソンにとっては、かけがえのないたのしみだったのです。
 こういうと、エジソンには、少年らしいたのしみというものが、まるでなかったようですが、たった一つ、エジソンをむちゅうにさせたあそびがありました。
 電信でんしんあそびです。
 そのころ、つまり、一八六〇年代ねんだいのアメリカでは、電信でんしんがようやく実用じつようされてきていました。このあたらしい器具きぐが、少年たちをとりこにしたのは、あたりまえのことで、それをまねた電信でんしんあそびは、大流行りゅうこうでした。
 もちろん、エジソンもその一人でした。
 かれは、ありあわせのものだけをつかって、電信でんしんをつくりました。電線の針金はりがねにぬのぎれをまき、それをてつのしんにまきつけて電磁石でんじしゃくとし、キーには、しんちゅうのばねをりようしました。あきびんを、絶縁ぜつえん用の碍子がいしにして立ち木にくぎでとめました。電池は地下化学かがく実験じっけん室でおぼえた方法ほうほうでつくりました。
 これらができあがったところで、エジソンはちかくの友だちの一人とのあいだに電線をひきました。
 交信こうしんは、うまくいきました。信号しんごうで、おもうことをつたえる、おもしろいあそびです。だが、エジソンは、夜の十時でなければ、家へかえれません。
 ところが、おとうさんのサムエルは、エジソンの健康けんこうをしんぱいして、十一時半よりおそくまでおきていることをゆるしません。なんとか、これをゆるめる作戦さくせんがひつようです。
 ところで、サムエルは、毎晩まいばん、エジソンがもってかえる新聞をたのしみにしていました。あるばん、エジソンは、その新聞をもたずにかえってきました。
「わすれた? そいつはがっかりだな。」
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「そうだ、友だちのところに新聞があるから、ニュースをきいてあげようか。」
「こんな時間にかい?」
「まあ、見ててごらん。」
 エジソンが電信でんしんにスイッチをいれて、キーをたたくと、それにこたえて、友だちが信号しんごうをおくってきます。エジソンは、その電文を文章ぶんしょうになおして、まちかまえているおとうさんにわたしました。
「なるほど、すばらしいことをやるもんだなあ。」
 夜おそくまで、ただ、いたずらあそびをしている、としかおもわなかったサムエルは、ほとほとかんしんしてしまいました。もう、「はやくねなさい。」といえなくなりました。
 おかげでエジソンは、夜おそくまで電信でんしんをたのしむことができるようになったのですが、やがて、このあそびから、かれのあたらしい道がひらけることになるのです。
 電信でんしん手というしごとです。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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a 長文 11.2週 su2
 エジソンの工場は、まるで、電気機械きかい発明はつめい工場でした。よいことをかんがえつくと、エジソンを中心に、工場の全員ぜんいんがそれに力をいれます。
「エジソンの工場のとけいには、はりがなかった。」ということばがあります。つまり、その工場では、みんな、時間をわすれてはたらいたのです。
 エジソン自身じしんが、時間などからはなれてしごとにうちこむ人でした。六十時間ぶっつづけでしごとにとりくんだことさえあります。みんな、エジソンをそんけいしていましたから、だれ一人もんくをいうものはなかったのです。
 エジソン工場の一室に、そこをかりて実験じっけん室にしている発明はつめい家がいました。かれは助手じょしゅを一人つかっていましたが、この助手じょしゅのはたらきぶりは、じつにたいへんなものでした。
 エジソンは、ある日、この助手じょしゅを、そっとよびました。
「きみ、いまいくらではたらいていますか。」
「週二十一ドル五十セントです。」
「どうだろう。六十ドルだすが、わたしのところの工場かんとくにきてもらえないだろうか。」
 男はためらいました。
「さあ、……わたしにつとまるかどうか……。」
 しかし、エジソンは、むりやりにしょうちさせて、二つの工場をかんとくさせました。
「わたしは、これほどの実行じっこう力のある人を見たことがない。」
と、エジソンはかたっていますが、かれは三か月のうちに、工場の生産せいさんを二ばいにあげてしまいました。べつに、あたらしい機械きかいや人手をふやしたわけではありません。ただ、機械きかいをはやくつかうことを実行じっこうしたのです。
 まだ二十五さいのエジソンでしたが、もう、これだけ、人を見ぬく力をもっていたのです。そうして、かれとその工員こういんたちは、つぎつぎに発明はつめいし、それを、つぎつぎに製品せいひんにして、町におくりだしたのです。
 アメリカの特許とっきょきょくでは、エジソンのことを、「特許とっきょきょくへの道があつくなるほどやってくる青年」とよびました。はじめて特許とっきょ
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申請しんせいした一八六八年から、一九一〇年の夏までに、エジソンの名でだされた特許とっきょねがいが千三百二十八。へいきんすると一年間に三十二、つまり、十一日ごとに一つの発明はつめいが生まれていたことになります。
 いちばんはげしかったのは、一八八二年でした。その一年間に、特許とっきょねがいが百四十一、許可きょかされたのが七十五。計算すると、三日に一つの新発明はつめいが生まれたことになります。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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a 長文 11.3週 su2
 その日も、実験じっけんにつかれて頭をかかえこんでいましたが、ふと、ゆかの上を見たエジソンは、おもわず、あっと声をあげました。
「そうか、そうか……どうして、こんなことに気がつかなかったのだろう!」
 それは、もめんの糸くずでした。
 エジソンは、もめんのぬい糸を手ごろのながさにきり、タールとすすをまぶしてニッケルにのせ、そうっとにいれてやきました。
 むねをおどらせながら、とりだしてみると、ああ、なんというよろこび! おもったようにほそい炭素たんそ線が、みごとにできていたのです。
 エジソンは、もうむちゅうでした。それから二日がかりで、この炭素たんそ線を、にしたり、ばてい形にしたりして、ガラスだまの中にふうじこみました。そして、ゆっくりゆっくり空気をぬき、百万分の一気圧きあつ真空しんくうにしました。
「できたぞ! できたぞ!」
 おもわずさけぶエジソンを、所員しょいんたちがとりかこみました。みんなが、じっといきをつめて見つめる中で、エジソンはその電球でんきゅう注意ちゅういぶかく電線につなぎ、ふるえる手でスイッチをいれました。
「わあっ!」
 それは、文明のあけぼのをつげる歓声かんせいでした。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
 みんなは、かわるがわるエジソンの手をにぎりしめました。エジソンは、ひとことも声がだせず、ただじっと、世界せかいさいしょの電灯でんとうを見つめていました。
 一八七九年の十月二十一日のことでした。十月二十一日――それはいまでも、「エジソン記念きねん日」とされています。
 この電灯でんとうは、四十五時間かがやきつづけてきえました。そのあいだ、だれもが、まる二日間、ねようともしなかったのです。エジソンは、くずれるようにたおれ、そのまま二十四時間ねむりつづけました。
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「メンロパークの魔術まじゅつが、とうとう電灯でんとう発明はつめいしたそうだよ。」
 世間せけんは、もう大さわぎです。新聞は、毎日のように大きくかきたてました。
 そして、この年の大みそか。研究所けんきゅうじょにわの木という木には、何百こという電球でんきゅうがつけられました。所員しょいんそうがかりでととのえた展覧てんらん会です。
 ニューヨークからは、臨時りんじ特別とくべつ列車れっしゃが人々をはこびました。そうしてあつまった何千という人たちの頭の上で、世紀せいきの光が、まばゆいばかりにかがやいたのです。
 やがて、新年をつげる教会のかねがなりはじめました。そのときだれからともなく、
「エジソン、ばんざい!」
という声があがりました。観衆かんしゅうのどよめきは、いつまでもいつまでも、こだましました。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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a 長文 11.4週 su2
 学問がくもん神様かみさまとして知られている天神てんじんさまは、平安へいあん時代じだいに生きた文人、菅原道真すがわらのみちざねのことです。
 道真みちざねは、すぐれた学者がくしゃ、文学しゃ、そして政治家せいじかでもありました。幼いおさな ころから優秀ゆうしゅうで、五さい和歌わか詠んよ だとされています。難しいむずか  試験しけんにも若くしてわか   合格ごうかくし、当時の天皇てんのうにたいそう気に入られて、家柄いえがらからすると異例いれい出世しゅっせをしました。ところが、この出世しゅっせ周囲しゅういのねたみを買い、告げ口つ ぐちによって北九州きたきゅうしゅう追いやらお   れてしまいました。
 道真みちざねみやこ去るさ ときに詠んよ だ歌は、よく知られています。
 東風こち吹かふ ば にほひおこせようめの花 あるじなしとて 春な忘れわす 
「なじみのうめの花よ、春を告げるつ  風が吹いふ たなら、いつものように咲いさ てそのかぐわしい香りかお を遠くに流さなが れたわたしにまで送っおく ておくれ。わたしがいないからといって春を忘れわす てはいけないよ」という意味いみです。
 道真みちざね失意しついの中、二年後に亡くなりな   ました。その死後しごみやこではさまざまな異変いへん起こりお  ました。道真みちざね陥れおとしい 政治家せいじかたちが次々つぎつぎ亡くなりな   疫病えきびょうがはやり、かみなり宮中きゅうちゅう落ちお ました。人々は道真みちざね怨霊おんりょうのしわざだと恐れるおそ  ようになりました。そして、その怒りいか 鎮めるしず  ために北野天満宮てんまんぐうが作られたのです。こうして道真みちざね神様かみさまとして祀らまつ れるようになりました。
 その後、道真みちざねは、学問がくもん神様かみさま天神てんじんさまとして信仰しんこう集めるあつ  ようになっていきます。庶民しょみんの間で学問がくもん神様かみさまとしての信仰しんこうが広まったのは、江戸えど時代じだい寺子屋てらこやがさかんになったころでした。寺子屋てらこやには必ずかなら 天神てんじんさまぞう掲げかか られていました。毎月の天神てんじんさま縁日えんにちには、寺子屋てらこや生徒せいとたちが近所きんじょ神社じんじゃお参り まい することになっており、正月のはつ天神てんじんの時の行事ぎょうじは、父兄参観さんかん文化ぶんかさいといったような
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大きなイベントでした。このころから、今の合格ごうかく祈願きがん神様かみさまとしての性格せいかく定まっさだ  てきたようです。
 早い春のころ、北野天満宮てんまんぐうにはたくさんのうめの花が香りかお 高く咲きさ ます。ちょうどその時期じき受験じゅけんシーズンで、多くの人々が訪れおとず ます。「学問がくもんに王道なし、日頃ひごろからまじめに勉強べんきょう取り組むと く ほか、道ざ、ねぇ」と、天神てんじんさまわたしたちを見守っみまも てくれているかもしれません。

 言葉ことばの森長文作成さくせい委員いいん会 α
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a 長文 12.1週 su2
 人類じんるい歴史れきしの中でも、くらべる人がないほど、たくさんの発明はつめいをなしとげたエジソンですが、そのしごとを成功せいこうさせたのは、いうまでもなく、エジソンをたすけたメンロパークの研究所けんきゅうじょの人々です。
 いいかえれば、エジソンは、これだけのすぐれた人を見つける才能さいのうと、それをあつめ、そだてる力と、そして、それをまとめていくとくとをそなえていたのです。それなしには、いくら天才てき頭脳ずのうや、おどろくべきにんたい、つかれを知らない体力をもっていたエジソンでも、あれだけのしごとをなしとげることはできなかったにちがいありません。
 研究所けんきゅうじょの中には、七つのたてものがあって、木造もくぞうの大きな二かいだての研究所けんきゅうじょを中心に、所員しょいんたちとその家族かぞくの家や、娯楽ごらく室・倉庫そうこなどが、ずらっとならんでいました。
 中心の研究所けんきゅうじょの中には、実験じっけん室のほかに事務じむ室があって、エジソンの電信でんしん時代じだいからの友だちのグリフィンがしごとをしています。
 グリフィンは、エジソンの秘書ひしょやくで、この人のいそがしさは、じつにたいへんなものでした。特許とっきょ事務じむ、山のような通信つうしん文、会計事務じむ――それらをぜんぶひきうけて、旧友きゅうゆうエジソンのために、ほねみをおしまず、はたらきつづけたのです。
 かいは、実験じっけん室です。おもな機械きかい実験じっけん器具きぐはぜんぶここにあって、エジソンとその助手じょしゅたちが、朝はやくから夜おそくまで、ねっしんにしごとをしていました。白熱はくねつ電球でんきゅうが生まれたのも、この実験じっけん室です。
 かいは、試験しけん室で、れんがづみの台があって、その上せいみつな測定そくていをする電流でんりゅう計やてんびんなどがのせられています。
 一すみは、化学かがく実験じっけん室にしきられ、ハイドがそのかかりです。
 研究所けんきゅうじょのとなりのたてものが機械きかい工場で、ボイラー室とエンジン室があってエジソンの設計せっけいするあらゆる機械きかいがつくられるので
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す。ドイツ生まれのクルージが主任しゅにんです。エジソンのさいしょの蓄音機ちくおんきを、みごとにつくりあげた人です。スイスでせいみつな技術ぎじゅつ教育きょういくをうけたクルージは、エジソンにとって、かけがえのないだいじな人でした。
 かけがえのない人といえば、数学しゃのアプトンもそうです。プリンストン大学をでて、ドイツでゆうめいな物理ぶつり学者がくしゃヘルムホルツについて勉強べんきょうした人ですが、数学がにがてだったエジソンですから、この人にどれだけたすけられたかわかりません。
 こうした専門せんもん家たちが、それぞれに助手じょしゅをひきいてしごとをすすめたのです。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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a 長文 12.2週 su2
 そこでエジソンは、とうとうかるい蓄電池ちくでんち研究けんきゅうにとりかかることになりました。
 さて、研究けんきゅうに手をつけてみると、いままでだれも手をださなかったわけです。それは、おそろしくむずかしいしごとでした。なまりいがいのあらゆる金属きんぞくをつかい、あらゆる薬品やくひんをつかって、実験じっけんをこころみてみましたが、どうしてもうまくいかないのです。
 ある日、友人のビーチという人がやってきました。この人はのちに、ゼネラル電気会社の電気鉄道てつどうのしごとをした人ですが、エジソンの蓄電池ちくでんち研究けんきゅうのことをたずねて、
「おもいのほかむずかしい問題もんだいらしいね。さすがのきみも、よわったろう。」
といいました。すると、エジソンがこたえました。
「ビーチくん、わたしは、よい蓄電池ちくでんちのひみつをあかしてくれないほど、神さまかみ  はふしんせつじゃないとおもうね。」
「じゃあ、このひみつのかぎは、どうしたら見つかるというんだね。」
「もうれつにかんがえたうえで、もうれつに実験じっけんをやってみることさ。」
 だが、エジソンの研究けんきゅうも、しっぱいのれんぞくでした。月日はどんどんと、たっていきます。それでもエジソンは、気をおとしません。
「きょうのしっぱいは、あすはとりかえせる。あすだめならあさってとりかえす……。」
 いつも希望きぼうをすてません。朝からばんまで、硫酸りゅうさん硝酸しょうさん化成かせいソーダなどのつよい薬品やくひんをいじるエジソンの手は、すっかりあれてしまいました。
 世界一せかいいちの天才発明はつめい家が、かんがえにかんがえぬき、たいへんな熱心ねっしんさで、しかも、だれもまねのできないほどのしんぼうづよさで研究けんきゅうをつづけ、それで一年たっても二年たっても発明はつめいできない、かるい蓄電池ちくでんちそんな研究けんきゅうは、はたの人々の目には、まったく不可能ふかのうなことととりくんでいるとしか見えなかったのもむりはあり
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ません。
 エジソンといつもいっしょに研究けんきゅうをつづけていた一人の所員しょいんなどは、
「この研究けんきゅうは、エジソンがいままでやりとげたぜんぶの研究けんきゅうをいっしょにしたのより、もっとたいへんだ。しかもエジソンは、一つの実験じっけんにしっぱいすると、『これで成功せいこうに一歩ちかづいた。』というのだ。これほどの努力どりょくには、いかなる自然しぜんも、こんまけせずにはいられまい。
 わたしは、エジソン蓄電池ちくでんちがうまくいくかどうか知らないが、いずれにしても、もうエジソンは、世界せかいてき発明はつめい家などというよりも、世界せかい偉人いじんだという気がしてきた。」
と、しみじみいったものです。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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a 長文 12.3週 su2
 エジソンの父の時代じだいにはアメリカ独立どくりつ戦争せんそうがあり、自身じしん南北戦争なんぼくせんそうのさいちゅうにそだち、戦争せんそうのしげきをうけることもおおかったエジソンが、兵器へいき研究けんきゅうをしなかったということは、たいへんりっぱな信念しんねんをもっていたことをしめすものといえるのです。
 エジソンは、いろいろな発明はつめいにつよいきょうみをもち、また、事業じぎょう心もなかなかさかんでしたが、じぶんの発明はつめいは、あくまで「人類じんるいのためにある」、という精神せいしんをすてなかったのです。また、その信念しんねんがあればこそ、むずかしい研究けんきゅうに、あれだけの努力どりょくもはらえたのでしょう。
 エジソンはほんとうに平和へいわ愛するあい  人でした。そうして戦争せんそうをきらっていました。
 エジソンは、いろいろなべんりな発明はつめいで、世界せかいの国々がゆたかになれば、戦争せんそうなどはなくなるものだ、というかんがえをもっていました。電灯でんとう蓄音機ちくおんき映画えいがなどといった発明はつめいには、そのことがよくあらわれています。
 一九一四年の七月に、ヨーロッパでだい世界せかい大戦たいせんがはじまりました。
 そのころ、科学や工業こうぎょう研究けんきゅうでは、世界せかいでドイツがいちばんすすんでいました。ことに化学かがく製品せいひんは、ほかのどの国より、とくにすぐれていました。ドイツの染料せんりょう医薬いやく・ガラス、マグネシウムなどの金属きんぞくるい、そういったものを、アメリカの産業さんぎょうかいでは、ドイツからたくさん輸入ゆにゅうしていました。
 それが、戦争せんそうがはじまると同時に、ぴったりはいってこなくなったのです。アメリカはまだ、ドイツと戦争せんそうはしていなかったのですが、イギリスの海軍かいぐんがドイツを封鎖ふうさして、ドイツの商船しょうせんのうごきをとめてしまったからです。
 アメリカの工業こうぎょうかいは、たいへんこまりました。ことにおりものぎょうやそめものぎょうは、ドイツの染料せんりょうがはいらなくなっては、どう
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しようもありません。そこでなんとかして、アメリカでその原料げんりょうをつくろうと、大いそぎで研究けんきゅうしはじめたのです。
 しかし、おいそれと、すぐにはとてもまにあいません。ことに、エジソンの蓄音機ちくおんき工場では、レコードの原料げんりょうにつかう石炭酸せきたんさんが、ぜひ必要ひつようなのですが、ほうぼうの薬品やくひん会社に注文ちゅうもんしてみましても、これから研究けんきゅうして製造せいぞうをはじめるのだから、すくなくとも一年ぐらいたたなければできないというへんじです。
 そこでエジソンは、
「よし、それなら、われわれの手でひとつつくってみることにしよう。」
というわけで、すぐ、蓄電池ちくでんちのニッケルをつくっていたシルバーレークの化学かがく工場をひろげて、その研究けんきゅうにとりかかりました。研究所けんきゅうじょの人たちは、はりきって、二十四時間三こうたいで、ぶっつづけのしごとととりくみました。その努力どりょくのけっか、それから二十日めには、はやくも石炭酸せきたんさんがとれるようになりました。

(「エジソン」 崎川さきかわ範行のりゆきちょ 講談社こうだんしゃ 火の鳥伝記でんき文庫ぶんこより)
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a 長文 12.4週 su2
 二十世紀せいき終わりお  ごろ、マダガスカルで、やく七〇〇〇万年前のものと思われるカエルの化石かせき発見はっけんされました。その化石かせきは、南米にいるツノガエルによくていて、しかも体長が五〇センチ、体重たいじゅうは四・五キロもあったと思われる大きなものでした。
 現在げんざい生息せいそくしている世界せかい最大さいだいのカエルは、アフリカに棲むす ゴライアスガエルです。「ゴライアス」というのは、旧約きゅうやく聖書せいしょに出てくる巨人きょじん、「ゴリアテ」の英語えいご風の読み方です。ゴライアスガエルは、種類しゅるいによっては、体長が三〇センチメートルくらい、体重たいじゅうは三キログラム近くになります。
 日本の水族館すいぞくかんでは、ゴライアスガエルに、えさとしてハツカネズミを与えあた ていますが、一飲みでの  食べてしまいます。このカエルは、現地げんちでは貴重きちょうなタンパクげんとして食用になっていますが、つかまえるのは大変たいへんそうです。
 さて、新しく見つかった巨大きょだい化石かせきのカエルには、「悪魔あくまのカエル」という意味いみの名前がつけられました。この「悪魔あくまのカエル」は、丈夫じょうぶなあごを持っも ていました。これによくたツノガエルが、大きな口で自分の体の半分ほどもあるネズミを飲み込むの こ こともあることから、このカエルもかなり大きめの生き物い ものをエサとしていたのではないかと考えられています。
 やく七〇〇〇万年前の地球ちきゅうは、白亜紀あきでした。ティラノサウルスやトリケラトプスといった恐竜きょうりゅうたちが、我が物顔わ ものがおに歩き回っていた時代じだいです。小型こがた恐竜きょうりゅうの赤ちゃんなら、このカエルに食べられてしまったかもしれません。
 このカエルが生きていた時代じだい、まだ人類じんるい出現しゅつげんしていませんでしたが、もしもいたとしたら、人がカエルに襲わおそ れる、などということもあったかもしれません。それとも、知恵ちえがあって何でも食用にしてしまう人間のことですから、ぎゃくにおいしく、「悪魔あくまのカエル」をいただいていたのでしょうか。
 言葉ことばの森長文作成さくせい委員いいん会 τ
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