1一万年あまり前、人間の前に、大きな悲劇がせまってきました。運命が、はじめて、人類に対して、冷たく背をむけたのです。
原因は、地球の気候の変化です。多くの地方で、温度がどんどんあがりはじめました。2氷河は、後退していきます。気候の変化は、植物に大きな影響をあたえました。植物を食べて暮らしている動物たちも、当然、大きな影響をうけます。
その頃、地球上には、約百万人の人間が暮らしていたろう、と推定する学者がいます。3今日の地球上の人口からみれば、五千分の一という数です。
しかし、彼らは、有能な狩人でした。肉食を主にする生きものとしては、すでにその数は、他の肉食獣に比べ、異常なほどに多くなりつつありました。
4彼らの有能さの秘密は、石槍や石斧、棍棒などを使い、集団で行動することでした。寒い草原にすむ大形の草食獣、マンモスやトナカイに対して、とくにその戦法が有効だったのです。しかし、狩猟の方法が発達するにつれて、マンモスたちは人間に圧迫されていきます。5そこに気候の変化が加われば、大形獣はどんどん姿を消していくのです。人間の狩猟法はますます有効になっていくのに、頼りにしていた獲物が、いなくなってしまいました。
多くの人が飢え死にしました。それでも、人類は滅びませんでした。6マンモスのように地球上から消滅してしまう前に、新たな生きる道を見出していったのです。
人間という生きものが、その内に秘めている多様性、それが、人間を救いました。
自分をとりまく状態が変われば、それに応じて自分も変わることができる。7いわば、何でも屋の人間のしぶとさです。
(中略)
多様な新しい暮らし方のなかでも、とくに大切なのは、植物を食べる、という生き方でした。のちになって、人間の生活に大きな
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