a 長文 7.1週 ti
1「ほら、えさがなくなりかけているぞ」
 父の声が響き(ひび )ます。ぼくは、おととしから、フェレットを飼っ(か )ています。フェレットというのは、イタチの仲間(なかま)で、長い体をしています。ぼくのうちのは、タヌキのような顔をして、茶色とグレーの間のような毛の色です。2セーブルという種類(しゅるい)で、最も(もっと )多く飼わ(か )れているそうです。どうして飼い(か )始めたかというと、前に、動物病院の近くで、だれかがジャンパーの中に入れて歩いているのを見て、ほしくてたまらなくなったからです。お年玉やお小遣い(こづか )を使わずに貯め(た )、半分は父がお金を出してくれました。3父は、農家で育ったので、子どものころから動物に囲ま(かこ )れていたそうで、ぼくが生き物を飼う(か )のは大賛成(さんせい)なのです。
 最近(さいきん)、サッカーの朝練で世話をさぼりがちなぼくに、父は言います。
4「お父さんは学校に上がる前から、ヤギの世話を任さ(まか )れていたんだ。きちんと毎日、乳(ちち)搾り(しぼ )をしないとヤギの具合が悪くなる。絶対(ぜったい)に休めない仕事だったんだよ。牛小屋の掃除(そうじ)も大変(たいへん)だった。夏なんかむんむんしてなあ。5ほかの友達(ともだち)が誘い(さそ )に来ても、仕事が終わっていないと学校にも行けなかったんだよ。でも、飼わ(か )れている動物は、人間が世話をしてやらないと生きていけないのだから、しんどくてもがんばったよ。」
 6ぼくより小さいころから、たくさんの仕事をしていた父はすごいなあと思いました。もしぼくだったら、寒い朝は起きられなかったかもしれません。父は、動物が好き(す )だからこそ毎日がんばったのだろうなあと思いました。
7「お父さん、いやになったことないの?」
 父は笑い(わら )ながら、
「まあ、いやになることもあったけど、動物は慣れ(な )てくるとかわいいもんだからなあ」
と、フェレットのえさを継ぎ足し(つ た )ながら言いました。8そして、
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「お前は自分が飼い(か )たいと言って飼い(か )始めたんだから、どんなことがあっても、世話をさぼっちゃだめだな。」
と、ぼくの方を見ました。ぼくは、ちょっと反省(はんせい)しました。朝はきついから、今日から、夜寝る(ね )前に必ず(かなら )世話をしようと心の中で誓い(ちか )ました。
 9父は、フェレットに指を舐め(な )させながら、
「お父さんの田舎(いなか)では、こういうのを『めんこいなあ』と言うんだ。このイタチはどういう生い立ちなんだろな、なあんて。」
と、目を細めました。
 ぼくは、もっともっと父の子どものころの話を聞きたくなりました。

(言葉の森長文作成(さくせい)委員会 φ)
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a 長文 7.2週 ti
 煙突(えんとつ)の上のほうが、ぜんぶ燃え(も )あがっていました。芯(しん)にしてあった棒(ぼう)が燃え(も )ているのです。つよい風にあおられた炎(ほのお)が、いまにも屋根にうつりそうに長い舌(した)をのばしていました。かあさんは、長い棒(ぼう)をひっつかむと、ゴーゴーと燃え(も )あがる火をむちゅうでたたきつづけ、炎(ほのお)をあげている木ぎれが、かあさんのまわりにどんどんおちていきました。
 ローラはどうしていいかわかりませんでした。自分も棒(ぼう)をひっつかみましたが、かあさんにそばへよってはいけないととめられました。火は、ものすごいいきおいで、ゴーゴー音をたてて燃え(も )ています。いまにも家が燃え(も )つくすかもしれないのに、ローラにはどうすることもできないのです。
 ローラは家にかけこんでいきました。燃え(も )ている木や石炭が、煙突(えんとつ)からおちてきて、炉辺(ろへん)にころがりでています。家のなかはけむりでいっぱいでした。まっかに焼け(や )た大きな木ぎれが、床(ゆか)にころがりでてきました。メアリイのスカートのすぐそばです。メアリイは動くこともできません。すっかりおびえきっているのです。
 ローラは、考えるひまもないほど、こわさでいっぱいでした。いきなり重いゆり椅子(いす)の背(せ)をひっつかむと、力のかぎりひっぱりました。椅子(いす)は、メアリイとキャリーをのせたまま、床(ゆか)をすべるようにあとへさがりました。ローラが、燃え(も )ている木ぎれをひっつかんで暖炉(だんろ)にほうりこむのと同時に、かあさんが家へはいってきました。
「えらい、えらい、ローラ。火のついたものが床(ゆか)におちたとき、ほっといてはいけないといったのをよくおぼえていて」
かあさんはそういうと、バケツをとって、手早く、でも静か(しず )に、暖炉(だんろ)の火に水をかけました。水蒸気(すいじょうき)がもうもうとあがります。
「手にやけどをした?」かあさんはローラの手をしらべましたが、ローラは燃え(も )ている木ぎれをおおいそぎで投げこんだので、やけどはしていませんでした。
 ローラは、もう大きいから泣い(な )たりはしないので、ほんとに泣い(な )ているわけではありませんでした。ただ、両ほうの目からひとつぶ
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ずつ涙(なみだ)がこぼれ、のどがきゅっとつまっているだけで、それは泣い(な )ているのとはちがいます。ローラはかあさんにしがみついて、ぴったり顔をくっつけてかくしてしまいました。かあさんが、火事でけがをしなかったのが、ローラはうれしくてたまらないのです。
「泣か(な )ないのよ、ローラ」かあさんはローラの頭をなでながらいいます。「こわかったかい?」
「ええ」ローラはいいます。「メアリイとキャリーが焼け(や )ちまうんじゃないかと思ってこわかったの。家が焼け(や )てしまって、住む所がなくなるんじゃないかと思って。あたしーあたし、いまのほうがこわい」
 メアリイもやっと口がきけるようになっていました。そして、かあさんに、ローラが椅子(いす)をひっぱって、火が燃え(も )うつらないようにしたのだと話しました。ローラはまだ小さく、メアリイとキャリーがすわったままでは、ただでさえ大きくて重い椅子(いす)がどんなに重かったろうにと、かあさんはびっくりしました。いったいどうやってローラがそれを動かせたのか、信じ(しん )られないとかあさんはいいます。
「ローラ、おまえはとても勇気(ゆうき)があったんだね」かあさんはいいました。でも、ローラは、ほんとうは、とてもこわかったのです。

(ローラ・インガルス・ワイルダー「大草原の小さな家」)
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a 長文 7.3週 ti
 1母屋はもうひっそり寝(ね)しずまっていた。牛小屋もしずかだった。しずかだといって、牛は眠っ(ねむ )ているかめざめているかわかったもんじゃない。牛は起きていても寝(ね)ていてもしずかなものだから。2もっとも牛が眼(め)をさましていたって、火をつけるにはいっこうさしつかえないわけだけれども。
 巳之助(みのすけ)はマッチのかわりに、マッチがまだなかったじぶん使われていた火打ちの道具を持ってきた。3家を出るとき、かまどのあたりでマッチを探し(さが )たが、どうしたわけかなかなか見つからないので、手にあたったのをさいわい、火打ちの道具を持ってきたのだった。
 巳之助(みのすけ)は火打ちで火を切りはじめた。4火花は飛ん(と )だが、火口(ほくち)がしめっているのか、ちっとも燃え(も )あがらないのであった。巳之助(みのすけ)は、火打ちというものは、あまり便利(べんり)なものではないと思った。火が出ないくせにカチカチと大きな音ばかりして、これでは寝(ね)ている人が眼(め)をさましてしまうのである。
 5「ちぇッ」と巳之助(みのすけ)は舌打ち(したう )していった。「マッチを持ってくりゃよかった。こげな火打ちみてえな古くせえもなア、いざというとき間にあわねえだなア。」
 そういってしまって巳之助(みのすけ)は、ふと自分の言葉をききとがめた。
6「古くせえもなア、いざというとき間にあわねえ、……古くせえもなア間にあわねえ……」
 ちょうど月が出て空が明るくなるように、巳之助(みのすけ)の頭がこの言葉をきっかけにして明るく晴れてきた。
 7巳之助(みのすけ)は、今になって、自分のまちがっていたことがはっきりとわかった。――ランプはもはや古い道具になったのである。電灯(でんとう)という新しいいっそう便利(べんり)な道具の世の中になったのである。8それだけ世の中がひらけたのである。文明開化が進んだのである。巳之助(みのすけ)もまた日本のお国の人間なら、日本がこれだけ進んだことを喜ん(よろこ )でいいはずなのだ。9古い自分のしょうばいがうしなわれるからとて、世の中の進むのにじゃましようとしたり、なんのうらみも
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ない人をうらんで火をつけようとしたのは、男としてなんという見苦しいざまであったことか。0世の中が進んで、古いしょうばいがいらなくなれば、男らしく、すっぱりそのしょうばいは棄(す)てて、世の中のためになる新しいしょうばいにかわろうじゃないか。
 巳之助(みのすけ)はすぐ家へとってかえした。

(新美南吉(なんきち)著(ちょ) 「おじいさんのランプ」より)
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a 長文 7.4週 ti
 授業(じゅぎょう)参観(さんかん)日だといって、こんなにきんちょうしたことは、いままでになかった。亜紀(あき)は、国語の教科書をつくえの上にだして、大きく深呼吸(しんこきゅう)した。それから、ちらりとうしろをふりかえった。
 教室のうしろには、もう五、六人のお母さんたちがたっていた。
(あ、エミーのパパだ)
 ちょうど、うしろのドアからはいってきた背(せ)の高い男の人が、絵美のパパだった、亜紀(あき)は、この日のために国語の特訓(とっくん)につきあって、なんどか絵美の家へいっていたので、すぐにわかった。
 きょうの授業(じゅぎょう)は、絵美がこのまま桜本(さくらもと)小学校にのこるか、アメリカンスクールへいかなければならないかがきまるだいじな授業(じゅぎょう)だ。
(どうか、エミーのパパのまえで、特訓(とっくん)の成果(せいか)がでますように)
と、亜紀(あき)はいのるような気もちだった。
『ことわざと生活』のところは、声をだして何回よんだだろう。きのうは、亜紀(あき)も声がかれるくらい、絵美といっしょに練習した。ことわざも、たくさんおぼえた。
 亜紀(あき)は、絵美が気になって、なんどもふりかえってみた。絵美は、しんけんな顔つきで教科書をひらいていた。あまり亜紀(あき)がうしろをむくのでいつのまにかきていた亜紀(あき)のママが、黒板をさして、「まえをむいていなさい」というしぐさをした。
 教室のうしろが、お父さんやお母さんでいっぱいになったころ、パリッとした背広(せびろ)をきた先生が入ってきた。
「えー、きょうは、十三ページの『ことわざと生活』を勉強します。みんな、どんなことわざを知っているかな?」
 いつもは、わかっていても手をあげない人がおおいのに、授業(じゅぎょう)参観(さんかん)の日は、みんながいっせいに手をあげる。亜紀(あき)も手をあげた。それから、もういちど、絵美をふりかえると、絵美もまっすぐに手をあげていた。
 何人かが、知っていることわざを発表したあと、先生は、
「そうだね、それでは、教科書をよんでみようか」
と、教室をみまわした。
「中山さん、よんでみて」
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 まず、亜紀(あき)があてられ、それから、くぎりのよいところできりながら、六人が順番(じゅんばん)によみすすめた。そして、やっと、
「それでは、つぎは、高田さん」
と、絵美の名まえがよばれた。
「はい」
 絵美は、はっきりとへんじをしてたった。そして、大きな声でゆっくりと教科書をよんでいった。はじめは、少し声がふるえた。
 亜紀(あき)は、自分のときよりハラハラして、教科書の文字を目でおった。
「ですから、ことわざは……」
 絵美の声がつまった。
「ことわざは……」
 亜紀(あき)は心の中で、
「ニチジョウ、ニチジョウ!」
と、漢字のよみかたをさけんでいた。絵美が、ちょっと考えて、
「日常(にちじょう)の生活のなかに……」
と、つづけたときは、ほっとした。

(松浦(まつうら)とも子「ライバルは転校生」)
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a 長文 8.1週 ti
1「うまっ」
 どうしてこんなにおいしいのでしょう。私(わたし)は、つまみ食いの常習犯(じょうしゅうはん)です。つまみ食いは、お行儀(ぎょうぎ)が悪いとされていますが、実は大事な仕事なのです。これは、よく言えば「味見」です。2味の足りないところや、直した方がよいところを事前に料理(りょうり)人に知らせることができるのですから。今日の料理(りょうり)人である母にも、感謝(かんしゃ)してほしいくらいなのですが、なぜだかいつも逆(ぎゃく)に怒ら(おこ )れてしまいます。もたもたしていると、手の甲(て こう)をペチッと叩か(たた )れます。3ああ、こわい。それでも、私(わたし)と弟は、懲り(こ )ずに毎晩(まいばん)任務(にんむ)を遂行(すいこう)します。敵(てき)がマーボー豆腐(とうふ)やカレーの時は諦め(あきら )ますが、たいがいの料理(りょうり)には挑戦(ちょうせん)します。得意(とくい)分野は、揚げ物(あ もの)類(るい)です。これは大好物(こうぶつ)でもあるのです。
 4中でも、今夜のようにフライドポテトがある日は、腕(うで)が鳴ります。おなかも鳴ります。次々に揚がっ(あ  )てくる黄色いポテトたち。胸(むね)がワクワクします。母が後ろを向いて、次のポテトを投入している時はねらい目です。5テーブルにそっと近づき、目にも留まら(と  )ぬ速さで、ポテトをつかみます。その様子は、まるでワニが獲物(えもの)を後ろからパクッとやるようです。弟は、あちっと言ってしまったり、落としてしまったりと失敗(しっぱい)しやすいので、私(わたし)が弟の分まで取ってあげます。6私(わたし)はたいがい、気付か(きづ )れずに取ることができます。数が決まっているおかずの時などは、取られたことを気付か(きづ )ない母が
「おかしいわねえ。」
と、数が合わないと首をかしげることもあるほどです。
 7たまに、見つかってしまってもちゃんと作戦(さくせん)があります。怒ら(おこ )れる直前に、
「す、ご、くおいしかったよ。」
と言うのです。口封じ(ふう )の術(じゅつ)です。気負いこんで、怒ろ(おこ )うとしていた母は、拍子抜け(ひょうしぬ )して
「そ、そう?」
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となってしまいます。8私(わたし)は心の中で大成功(せいこう)、と叫ん(さけ )でいます。
 父も実は仲間(なかま)です。ビール片手(かたて)にさり気なく、テーブルの脇(わき)をすり抜け(  ぬ )、見ると、しっかりつまみ食いのつまみを持っているというわけです。
 9この間、母に聞いてみると、
「つまみ食いなんか、私(わたし)はしたことないわよ。そんなはしたないこと。」
と言うので、こっそりおばあちゃんに電話しました。すると
「しょっちゅうしよったよ。揚げたて(あ   )をつまんで、何度ヤケドしたことか。」
と笑っ(わら )ていました。0

(言葉の森長文作成(さくせい)委員会 φ)
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a 長文 8.2週 ti
 むかし、からからにかわいた砂漠(さばく)で、ある男が、十頭のラクダを水飲み場につれていこうとしていました。
 しばらくあるいたところで、男は一頭のラクダの背(せ)にのり、あとなん頭いるか、かぞえてみました。ラクダは九頭しかいませんでした。男はあわててラクダの背(せ)からおりると、いなくなった一頭をさがしに、いまきた道をてくてくあるいてもどりました。
 けれども、どこにも姿(すがた)が見えません。きっといなくなってしまったんだ。男は、そう思ってさがすのをやめ、大急ぎでラクダたちのところへもどりました。
 がっかりして、もどってきてみると、これは、またどうしたことでしょう。ラクダはちゃんと十頭いるではありませんか。大よろこびで、男は、そのうちの一頭の背なか(せ  )にのりました。
 ところが、しばらくすると、もういちど、数をかぞえてみたくなりました。九頭しかいない!男は、とほうにくれて、ラクダの背(せ)からおりると、またいなくなった一頭をさがしにいきました。どこにもいません。
 男は、群れ(む )のところにとんでかえって、数をかぞえてみました。すると、おどろいたことに、十頭ぜんぶそこにいて、ぶらぶらあたりをあるきまわっています。
 男は、これは砂漠(さばく)の暑さのせいだと、もんくをいいながら、こんどは、いちばんうしろのラクダにのりました。そして、三度めの正直とばかりに、もういちど、のこりのラクダをかぞえました。さっぱりわけがわからない。また一頭たりなくなっている! 男は、悪魔(あくま)をののしりながら、ラクダからとびおりました。そして、のろのろと群れ(む )のあいだをあるきながら、一頭ずつかぞえていきました。ちゃあんと十頭います。
「わかったよ、わかったよ、この根性(こんじょう)まがりの悪魔(あくま)め。」
と、男は吐き(は )すてるようにいいました。
「のって一頭をなくすくらいなら、十頭つれてあるくほうがましさ!」

(ユネスコ文化センター編(へん)「アジアの笑いばなし(わら    )」)

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 国家試験(しけん)を目前にひかえた三人の受験生(じゅけんせい)が、結果(けっか)をうらなってもらいに、ある占師(うらないし)のところへいきました。
 すると、占師(うらないし)は、なにもいわず、ただだまって指を一本立ててみせました。
 結果(けっか)が発表されてみると、三人のうちひとりだけが合格(ごうかく)しており、おかげで、この占師(うらないし)の評判(ひょうばん)はぐんとあがりました。
 占師(うらないし)のわかい弟子は、どうしてそれがわかったのか知りたがりました。
「成功(せいこう)の秘訣(ひけつ)は、ものをいわぬことじゃ。」
と、占師(うらないし)はいいました。そして、それをきいた弟子がぽかんとしているのを見て、こうつけくわえました。
「いいかね、おまえは、わしが指を一本だしたのを見ておったろう。それは、三人のうちひとりだけが合格(ごうかく)するという意味にも取れる。事実、そうなった。だが、もし、ふたり合格(ごうかく)しておったとしても、わしの見立ては、やっぱりただしい。指一本は、ひとりおちるという意味にとれるからな。三人ともとおっていたとしても、指一本は、三人そろっていちどに合格(ごうかく)という意味にとれる。その反対もおなじこと。どんなばあいも、わしはただしいんじゃ。」

(ユネスコ文化センター編(へん)「アジアの笑いばなし(わら    )」)
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a 長文 8.3週 ti
 1次の朝早く、海蔵(かいぞう)さんは、また地主の家へ出かけていきました。門をはいると、昨日(きのう)より力のない、ひきつるようなしゃっくりの声が聞こえてきました。だいぶ地主の体がよわったことがわかりました。
2「あんたは、また来ましたね。親父はまだ生きていますよ。」
と、出てきた息子さんがいいました。
「いえ、わしは、親父さんが生きておいでのうちに、ぜひおあいしたいので。」
と、海蔵(かいぞう)さんはいいました。
 3老人(ろうじん)はやつれて寝(ね)ていました。海蔵(かいぞう)さんは、枕(まくら)もとに両手をついて、
「わしは、あやまりにまいりました。昨日(きのう)、わしはここから帰るとき、息子さんから、あなたが死ねば息子さんが井戸(いど)を許し(ゆる )てくれるときいて、悪い心になりました。4もうじき、あなたが死ぬからいいなどと、恐ろしい(おそ   )ことを平気で思っていました。つまり、わしはじぶんの井戸(いど)のことばかり考えて、あなたの死ぬことを待ちねがうというような、鬼(おに)にもひとしい心になりました。5そこで、わしはあやまりにまいりました。井戸(いど)のことは、もうお願い( ねが )しません。またどこか、ほかの場所をさがすとします。ですから、あなたはどうぞ、死なないでください。」
といいました。
 6老人(ろうじん)は黙っ(だま )てきいていました。それから長いあいだ黙っ(だま )て海蔵(かいぞう)さんの顔を見上げていました。
「お前さんは、感心なおひとじゃ。」
と、老人(ろうじん)はやっと口を切っていいました。
7「お前さんは、心のええおひとじゃ、わしは長い生涯(しょうがい)じぶんの欲(よく)ばかりで、ひとのことなどちっとも思わずに生きてきたが、今はじめてお前さんのりっぱな心にうごかされた。お前さんのような人は、いまどき珍しい(めずら  )。8それじゃ、あそこへ井戸(いど)を掘(ほ)らしてあげよう。どんな井戸(いど)でも掘(ほ)りなさい。もし掘(ほ)って水が出なかったら、どこにでもお前さんの好き(す )なところに掘(ほ)らしてあげよう。あのへん
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は、みなわしの土地だから。9うん、そうして、井戸(いど)を掘(ほ)る費用(ひよう)がたりなかったら、いくらでもわしが出してあげよう。わしは明日にも死ぬかもしれんから、このことを遺言(ゆいごん)しておいてあげよう。」
 海蔵(かいぞう)さんは、思いがけない言葉をきいて、返事のしようもありませんでした。0だが、死ぬまえに、この一人の欲ばり(よく  )の老人(ろうじん)が、よい心になったのは、海蔵(かいぞう)さんにもうれしいことでありました。

(新美南吉(なんきち)著(ちょ) 「牛をつないだ椿(つばき)の木」より)
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a 長文 8.4週 ti
 アフリカ・オーストラリア・南アメリカの三大陸(たいりく)には、肺魚(はいぎょ)というさかながいて、真水の中に住んでいます。肺魚(はいぎょ)という名まえからもわかるように、うきぶくろが、たいへん肺(はい)によく似(に)ています。
 肺魚(はいぎょ)も、ふだんは、えらで呼吸(こきゅう)をしていますが、雨のない季節(きせつ)に水が干あがっ(ひ   )てくると、肺(はい)、すなわち、うきぶくろで、呼吸(こきゅう)をするようになります。
 南アメリカの肺魚(はいぎょ)は、自分の住んでいるぬまがかわいてくると、まず土にあなをほってはいりこみ、からだが水から出るにしたがって、うきぶくろで呼吸(こきゅう)を始めます。土がすっかりかわいてしまいますと、からだがからからにかわかないように、ねばっこい液(えき)でからだをくるんで、ふたたび、雨の季節(きせつ)になるまで、じっとしています。
 このように肺(はい)で呼吸(こきゅう)することのできるさかなが、だんだん水から陸(りく)に上がってきて、やがて、すっかり陸上(りくじょう)動物になってしまうことが、想像(そうぞう)されないでしょうか。実際(じっさい)に三億(おく)年ぐらいのむかしに、空気を呼吸(こきゅう)するさかなが、陸上(りくじょう)と水中と両方で生活するようになって、両生類(りょうせいるい)のなかまが生まれ出ました。
 動物が陸上(りくじょう)で生活するためには、陸上(りくじょう)に植物がはえている必要(ひつよう)があります。たとえ肉食の動物でも、そのえじきになる動物は、植物を食べているのだし、すみかや、かくれがとしても、植物が必要(ひつよう)だから、植物がはえていなければ、動物は生活できません。
 だから、どう考えても、陸上(りくじょう)生物が生まれる前に、陸上(りくじょう)植物が生まれているはずなのです。動物は、植物のあとをついて、水中から陸上(りくじょう)に上がりました。
 陸地(りくち)に植物が大いにしげって、動物が住めるようになったときに、さかなから両生類(りょうせいるい)が生まれたばかりでなく、それと前後して、サソリやこん虫、そのほかいろいろの陸上(りくじょう)動物ができました。それが、今から三億(おく)年ぐらい前のことなのです。
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(八杉(やすぎ)龍一(りゅういち)「進化の道しるべ」)
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a 長文 9.1週 ti
 1「するってえと何かい?」
 今日もそんなことを言って友だちを笑わせ(わら  )ます。大うけです。
 私(わたし)は歴史(れきし)の勉強が大好き(だいす )です。最初(さいしょ)におもしろいと思ったのは、テレビで江戸(えど)時代の風俗(ふうぞく)のことを紹介(しょうかい)しているのを見た時です。2四畳半(よじょうはん)一間の長屋に、家族四人が暮らし(く  )ていて、トイレは共同(きょうどう)、お風呂(ふろ)は銭湯(せんとう)へ行く生活でした。とにかくご飯( はん)をたくさん食べて、おかずは朝、棒手振り(ぼてふ )の売りに来る、あさりや豆腐(とうふ)、納豆(なっとう)などです。3私(わたし)の好き(す )なコロッケや焼肉(やきにく)はありません。長屋は、何軒(けん)かの家がつながっていて、そこの人たちはみんな仲良し(なかよ )です。私(わたし)は、その番組を見ているとき、江戸(えど)時代にタイムスリップしたような気持ちになり、すっかりとりこになりました。
 4六年生のお姉ちゃんは、学校でも歴史(れきし)の勉強をしているので、とてもうらやましいです。いつも社会科の資料集(しりょうしゅう)を見せてもらっています。土器(どき)の写真やお城(しろ)の写真、歴史(れきし)上の有名な人物の写真などが載っ(の )ていて、いつまで見ていても飽き(あ )ません。5原始人と言われる人々のいたころから、たくさんの時代がありますが、私(わたし)がいちばん興味(きょうみ)を持っているのはやはり江戸(えど)時代です。現代(げんだい)に近いということもあるのかもしれませんが、とても身近に感じられ、江戸(えど)時代の雰囲気(ふんいき)がよくわかるような気がするのです。6中でも、私(わたし)は、お城(しろ)にいるお殿様(とのさま)やお姫様( ひめさま)よりも、最初(さいしょ)にテレビで見た町人の暮らし(く  )が好き(す )です。当時、流行っていたものとか、普通(ふつう)の暮らし(く  )はどんなだったかとか、知りたいことが次々に出てきます。7一つわかると、また一つ疑問(ぎもん)がわく、ということの繰り返し(く かえ )です。
 お父さんは、
「好き(す )な勉強があるなんてすごいじゃないか。どんどん調べて、博士(はかせ)になるといいよ。」
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 と励まし(はげ  )てくれます。8お母さんは、ちょっと心配そうに
「でも、歴史(れきし)の本ばかり見て、学校の勉強を全然(ぜんぜん)しないのは困る(こま )わねえ。」
 と言います。そんなときもお父さんは、
「何かに一生懸命(いっしょうけんめい)になれる人は、他のこともできるものだ。心配いらないよ。」
 と言ってくれます。9そして私(わたし)には
「将来(しょうらい)、大好き(だいす )な歴史(れきし)を勉強するためにも、今の学校の勉強は基礎(きそ)になるからしっかり授業(じゅぎょう)は聞いておけよ。」
と、まじめに言った後、ニヤニヤして
「江戸(えど)はえーどー。」
とダジャレを飛ばし(と  )ました。私(わたし)も負けずにお気に入りの本を見せて
「ここに宝(たから)があったから」
とやり返しました。0

(言葉の森長文作成(さくせい)委員会 φ)
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 わたしがおもしろいとおもったのは、「テレビで、現実(げんじつ)にはできない経験(けいけん)があじわえるか」という質問(しつもん)にたいして、「そうおもう」があきらかに半数をこえ、「そうおもわない」のは四人に一人くらいでした。わたしたちが直接(ちょくせつ)に体験(たいけん)できることは、かぎられているので、テレビがわたしたちにかわって体験(たいけん)させてくれること、また、テレビが現実(げんじつ)以上(いじょう)に現実(げんじつ)を劇的(げきてき)につくりあげて体験(たいけん)させてしまうことに、人びとはおそらく気づいていて、このような回答がでてきているのだとおもいます。
 しかし、「テレビがあることで、生きかたや行動の手本がえられる」とこたえた人は過半数(かはんすう)にとどかず、「そうおもわない」とこたえた人は三人に一人で、テレビで生きかたの手本をとかんがえているひとはおおいとはいっても二人に一人になりません。テレビを人の生きかたのうえでぜったいに重要(じゅうよう)なものとはかんがえていないといえるかもしれません。
 この点は、「テレビはひとことでいえば、どんな感じのものですか」という質問(しつもん)にたいして、「あれば便利(べんり)という程度(ていど)のもの」というこたえが過半数(かはんすう)をこえ、「なくてはならないもの」というこたえを二〇パーセントぐらいうわまわっていることからもこのことはうらづけされているようにおもわれます。
 テレビの影響(えいきょう)については人びとはどのように感じているのでしょうか。
 テレビ、新聞、ラジオ、週刊(しゅうかん)誌(し)などをひっくるめて、マスコミというよびかたがされていますが、そのようなマスコミ全体のなかでテレビの影響(えいきょう)はどんな位置(いち)をしめているのでしょう?
 まず、「衣食住(いしょくじゅう)など、人びとの生活のしかたに、いちばん影響(えいきょう)をあたえているものは、どれだとおもいますか」という質問(しつもん)にたいしては、テレビをあげる人がまさに圧倒的(あっとうてき)におおく、それぞれ十パーセント以下(いか)の新聞、週刊(しゅうかん)誌(し)、ラジオをはるかにひきはなしています。ところが、「政治(せいじ)や社会問題についての世論(せろん)」については、
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テレビとこたえるものが約(やく)半数で、新聞とこたえるものとほとんどかわりません。この点では新聞の影響(えいきょう)もおおきいと感じられているわけです。なお、週刊(しゅうかん)誌(し)とラジオはたった一パーセント台でした。
 さらに「マスコミがつたえていることは、ほぼ事実どおりだとおもうか」という質問(しつもん)にたいして、「そうおもう」が「そうおもわない」よりすくなくなっています。マスコミへの不信(ふしん)がかなりおおくみられているわけです。この点は、「どちらかといえば、いろいろな情報(じょうほう)がありすぎて、まどわされることがおおい」という回答が三人に一人ぐらいはいるのと合致(がっち)しているようです。
 マスコミの報道(ほうどう)がかならずしも事実をつたえていないとすれば、それにふりまわされるようなことがあってはならないということになります。いかがわしいとすれば、事実や真実をみきわめる必要(ひつよう)があります。
 人びとはマスコミへの不信(ふしん)をもちつつ、さらにそれにのせられる――うごかされる――ことに不安(ふあん)ももっているのです。
「人びとの意見は、知らないうちにマスコミのいうとおりにうごかされていることがおおいか」という質問(しつもん)にたいして、「そうおもう」が四人に三人ぐらいで、「そうおもわない」をはるかにしのいでおおくのこたえをよせています。
 人びとがマスコミにたいして意外とおおく、批判(ひはん)的(てき)な意識(いしき)をもっていることがわかります。これはだいじにしなければならない意識(いしき)だとおもいます。
 近年、テレビの社会的(てき)影響(えいきょう)力についての専門(せんもん)的(てき)な研究の分野でも、テレビの影響(えいきょう)が「強力」であるということがほぼ定説(ていせつ)となってきています。わたしたちは、やはり、ひとりひとりがまず「テレビをみる目」をつくり、やしなうことが必要(ひつよう)なのです。

(佐藤(さとう)毅(たけし)「テレビとわたしたち」)
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1「くッくッくッ。」
とかしらは、笑い(わら )が腹の中(はら うち)からこみあげてくるのが、とまりませんでした。
「これで弟子たちに自慢(じまん)ができるて。きさまたちが、ばかづらさげて、村の中をあるいているあいだに、わしはもう牛の仔(こ)をいっぴき盗ん(ぬす )だ、といって。」
 2そしてまた、くッくッくッと笑い(わら )ました。あんまり笑っ(わら )たので、こんどは涙(なみだ)が出てきました。
「ああ、おかしい。あんまり笑っ(わら )たんで涙(なみだ)が出てきやがった。」
 ところが、その涙(なみだ)が、流れて流れてとまらないのでありました。
3「いや、はや、これはどうしたことだい、わしが涙(なみだ)を流すなんて、これじゃ、まるで泣い(な )てるのと同じじゃないか。」
 そうです。ほんとうに、盗人(ぬすびと)のかしらは泣い(な )ていたのであります。――かしらは嬉しかっ(うれ   )たのです。4じぶんは今まで、人から冷たい(つめ  )眼(め)でばかり見られてきました。じぶんが通ると、人々はそら変(へん)なやつが来たといわんばかりに、窓(まど)をしめたり、すだれをおろしたりしました。5じぶんが声をかけると、笑い(わら )ながら話しあっていた人たちも、きゅうに仕事のことを思いだしたように向こうをむいてしまうのでありました。6池の面(おもて)にうかんでいる鯉(こい)でさえも、じぶんが岸に立つと、がばッと体をひるがえしてしずんでいくのでありました。あるとき猿回し(さるまわ )の背中(せなか)に負われている猿(さる)に、柿(かき)の実をくれてやったら、一口もたべずに地べたにすててしまいました。7みんながじぶんを嫌っ(きら )ていたのです。みんながじぶんを信用(しんよう)してはくれなかったのです。ところが、この草鞋(わらじ)をはいた子どもは、盗人(ぬすびと)であるじぶんに牛の仔(こ)をあずけてくれました。じぶんをいい人間であると思ってくれたのでした。8またこの仔(こ)牛も、じぶんをちっともいやがらずおとなしくしております。じぶんが母牛ででもあるか
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のように、そばにすりよっています。子どもも仔(こ)牛も、じぶんを信用(しんよう)しているのです。こんなことは、盗人(ぬすびと)のじぶんには、はじめてのことであります。9人に信用(しんよう)されるというのは、なんといううれしいことでありましょう。……
 そこで、かしらはいま、美しい心になっているのでありました。子どものころにはそういう心になったことがありましたが、あれから長い間、わるい汚い(きたな )心でずっといたのです。0久しぶり(ひさ   )でかしらは美しい心になりました。これはちょうど、垢(あか)まみれの汚い(きたな )着物を、きゅうに晴れ着にきせかえられたように、奇妙(きみょう)なぐあいでありました。
 かしらの眼(め)から涙(なみだ)が流れてとまらないのはそういうわけなのでした。

(新美南吉(なんきち)著(ちょ) 「花のき村と盗人(ぬすびと)たち」より)
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 空気のよごれ、つまり大気汚染(おせん)を実感できるのは、まずお天気がいいのに見はらしが悪く、遠くが見えないとか、空が青くないというときでしょう。これは空気中をただようこまかいチリやスス(浮遊(ふゆう)粒子(りゅうし)状(じょう)物質(ぶっしつ)といいます)が原因(げんいん)です。この状態(じょうたい)がひどいときはスモッグといわれます。
 スモッグは目にみえる大気汚染(おせん)ですが、目にみえない物質(ぶっしつ)によってもたらされる大気汚染(おせん)もあります。みなさんは光化学スモッグということばを聞いたことがあるでしょう。こちらは硫黄(いおう)酸化(さんか)物とかチッ素(そ)酸化(さんか)物という目にみえない物質(ぶっしつ)が原因(げんいん)です。
 かつてはこうした大気汚染(おせん)の原因(げんいん)となる物質(ぶっしつ)は、主に工場の煙突(えんとつ)から出るけむりの中にふくまれていました。それで工場を中心とした都市では、ひどい大気汚染(おせん)が発生し、ぜんそくなどの病気がおこりました。
 これはたいへんだということで、工場の煙突(えんとつ)からはきれいなけむりしか出してはいけないということがきめられました。いまでは、煙突(えんとつ)の下にけむりをきれいにする機械(きかい)がついています。
 それで、以前(いぜん)よりはましになったのですが、それでも都市の空気はよごれていますね。そうです、問題は自動車の排気(はいき)ガスです。
 もちろん、自動車の排気(はいき)ガスも、きれいにして出すようにきめられています。ですから自動車の排気(はいき)ガスは、昔とくらべるときれいになっています。
 けれども、排気(はいき)ガスは二酸化(にさんか)チッ素(そ)と呼ば(よ )れる物質(ぶっしつ)がふくまれていて、これがいまの都市部の大気汚染(おせん)の主な原因(げんいん)となっています。また、トラックやバスなどの大型(おおがた)のディーゼル車から出る黒いけむりも問題になっています。
 自動車一台一台の排気(はいき)ガスをきれいにする技術(ぎじゅつ)的(てき)なくふうはどんどん進められています。でも、自動車の数は、どんどんふえています。たとえば、一九九二年(平成(へいせい)四年)度末(まつ)では、全国で六、四五○万台(トラックやバス、バイクをふくみます)にもなっています。
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 その自動車の多くは、住宅(じゅうたく)街(がい)から都市の中心部への通勤(つうきん)に利用(りよう)されたり、都市の中での移動(いどう)に使われたりしています。また、人の移動(いどう)のためだけではなく、さまざまな品物をお店などに納める(おさ  )ことや、宅急便(たっきゅうびん)などでも使われています。
 コンビニエンス・ストアなどは、大きなスーパーやデパートなどとちがって、それぞれの店の倉庫(そうこ)が広くないので、品物を補充(ほじゅう)する納品(のうひん)のための車が、一日に何回もまわっています。
 こうしたこまめな配送のおかげで、わたしたちはつくりたてのおべんとうを買ってたべることができるのですが、その分、たくさんの自動車が走りまわっていることになります。
 その結果(けっか)、都市の中心部はもとより、住宅(じゅうたく)街(がい)の大きな道路でも、いつも渋滞(じゅうたい)がおこっています。渋滞(じゅうたい)がおこると、自動車は動いたり、とまったりをくりかえすことになります。
 自動車は動きはじめるときにエンジンの回転数があがり、排気(はいき)ガスが多く出ます。特に(とく )、トラックやバスなどの大型(おおがた)のディーゼル車ですと、ブワーッという感じで黒いけむりが出ます。ですから、スムーズに走っているときにくらべると大気汚染(おせん)がひどくなるというわけです。

(阿部(あべ)治(おさむ)・市川智史(さとし)「ふくれあがる大都市」)
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