長文が二つある場合、音読の練習はどちらか一つで可。
1緑の豊かな草原に、シカやウサギと一緒に人間が穏やかにたたずんでいる。空には小鳥が飛び交い、日は暖かく周囲を照らしている。何かのパンフレットで見た天国の光景は、このようなものだった。2そのとき、私はふと天国というのは意外に退屈なところかもしれないと思った。私たちの描く未来の社会は、何の矛盾もない平和な世の中ではない。もっと溌剌と、生きるエネルギーに溢れたものであるべきだ。3それを、私は自由な自己実現の可能な社会と呼びたいと思う。
個人が自由に自己実現を図るための条件として、戦争や暴力のない平和な社会はもちろん必要だ。だが、ここでは、最も重要な条件として二つのことを挙げたい。4その第一は、豊かさだ。これまでの社会の豊かさは、主に奪う豊かさから成り立っていたように思う。安く仕入れて高く売るという考え方に基づいた豊かさは、より安く仕入れ、より高く売るために、ライバルを蹴落とすという考えにも結びついていた。5競争によって社会は豊かになるという考えに、私たちは長い間慣らされてきた。しかし、自然界に見られる豊かさはこれとは反対のものだ。それは、いわば、それぞれの生き物が個性を生かして作り出した豊かさを分かち合うということで成り立っている。6人間社会も、この分かち合う豊かさの仕組みを生かすことができるはずだ。
個人が自由な自己実現を図るための条件の第二は、自分自身の目標を見つけるための教育だ。7これまでの教育は、言わば与えられた一本道で序列をつけるための教育だった。そこで優先されたのは、個人の目標よりも、社会の目標に合わせることだった。学びたいものよりも、学ぶべきものが優先される教育では、学ぶ意欲はわきにくい。8しかも、その学ぶべきものの多くは、何かの役に立つというよりも点数をつけるために役に立つということで学ばされてきたのではないか。これからの社会では、一人ひとりが各人の適性にあった教育を自ら選ぶことができるようになる必要がある。それは、もちろん適性の差が格差に結びつかない社会を前提にしている。
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