1陰謀理論とは、社会的現象はそれをひきおこそうとたくらんだ個人もしくは集団の陰謀から生じてくると主張する理論である。したがって、この理論にとっては陰謀家を探し出すことが主たる課題となる。2たとえば、戦争、不況、失業といった社会的現象は大企業とか帝国主義的戦争屋はたまたシオンの長老たちの陰謀の結果であるという。3悪の帝国による世界制覇の野望とそれに対して果敢に闘う主人公といった少年マンガのレベルにおいてのみならず、大の大人にとっても、CIAの謀略とかフリーメイスンの陰謀といったことで複雑な出来事が簡単に絵解きされるのは、耳に心地よいらしい。
4陰謀理論に対するポパーの批判はきわめて簡単である。つまり、われわれの社会において陰謀がそのまま成功することはほとんどないという事実が陰謀理論を反駁しているというのである。この点については少しばかり、説明が必要かもしれない。5われわれの社会では、意図と結果が大きく相違するのはむしろ当然である。行為は意図されなかった帰結や反発を引き起こす。それらは、当初の意図に跳ね返り、その修正を迫ることになるだろう。とすれば、陰謀がそのまま実現することはありそうにないことである。6しかし、こうした理論的な説明をおこなうよりも、具体的な例を挙げた方がわかりやすいかもしれない。
いま、ある人が家の購入を切望しているとしてみよう。彼はさまざまな住宅会社を訪ねたり、住宅フェアに顔をだしたりするであろう。7加えて、彼はできるだけ安い価格で家を購入したいと望んでいるにちがいない。しかしながら、彼が購入者として住宅市場に現れたという事実は、原理上、需要を高め、彼の意に反して価格を上昇させる。8ここにあるのは、まさに(資本主義)社会の特定のメカニズムである。他方で、需要の増大が価格の低落をもたらす場合があるとすれば、そこには大量生産といった別種の資本主義的メカニズムが働いている。
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