1「案ずるより産むがやすし」という言葉がある。あれこれ考えているよりも、まずやってみようということだ。行動によって新たに切り開かれていくものも多い。やってみないことには何も始まらないというのは確かに真理である。2「めくら蛇におじず」ということわざもある。蛇という知識がないために、怖がらずに歩いていく。その結果、結局蛇は行動の妨げにならなかったということである。
3このように考えると、知識は経験の障害になると言える。むしろ、知識がない方が話は進みやすい。明治維新を担ったのは、地方の下級武士の若者たちだった。中央の権力の伝統という知識から自由であったために、大胆に日本の未来図を描けたのだ。4知識が乏しかったことが日本の未来を切り開いたのだと言ってもいい。
しかし、その明治維新を発展させたのは、欧米に視察に行った若者たちの新しい知識でもあった。知識のなさは、混迷する事態を打ち破るエネルギーではあったが、新しい見取り図を作るには、そのための知識が必要だった。5そう考えると、知識にもまた重要な役割があることがわかる。
だから、問題は、経験か知識かということではない。経験も、知識も、物事を実現するためのひとつの方法である。6目的に到達するための手段として経験と知識があるのだとしたら、大事なことはその手段ではなく目的の方である。「案ずるより産むがやすし」ということわざで問われているのは、どう産むかということではなく、何を産むかということなのである。
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