1流氷の底には、植物プランクトンがはりついています。このプランクトンをアイス・アルジーといいます。アルジーとは藻類のことで、アイス・アルジーは海氷の底にはりつく藻類の仲間です。この藻類で、流氷の底の部分が茶褐色になるほどです。2氷の中や氷の底について冬をすごしたアイス・アルジーは、氷が溶ける春に爆発的な大増殖をおこないます。春になり太陽の高度も上がって、日ざしは日一日とつよくなっていきます。3流氷が溶けていく一方、アイス・アルジーは海水中の豊富な栄養分(無機塩類)を得ながら、十分な日の光によって光合成をおこない、増殖します。こうして、大増殖する植物プランクトンは、海中の無機物を有機物に変えて生活し、ほかの生物の餌となります。
4なぜ、このような大増殖が、流氷の海でおこるのでしょうか。海の浅いところは、本来は栄養分が少ない場所なのです。太陽の光は、海の浅い部分にしかとどきません。浅い部分では、植物プランクトンは光合成をおこない、栄養を消費してしまいます。5そのため栄養分は少ないのです。一方、深海には光がとどかず、光合成ができないため、栄養分は蓄積されていきます。しかし、表層の植物プランクトンは、深海の栄養分を利用することができません。
6ところが、流氷の海のメカニズムは、深海にたまった栄養分を浅いところまで上げてくるのですから、驚きです。
海水が凍るときは、真水の部分だけが氷となって、濃い塩水が海氷から海中にはきだされます。7大部分の塩分ははきだされるのですが、一部は海氷の中に閉じこめられます。この閉じこめられた濃い塩水は、ブラインとよばれます。知床博物館の観察会で流氷を溶かして飲んでみたら、薄い塩味がしました。これは氷の中にブラインをふくんでいるからです。
8氷の中のブラインは、時間がたつとだんだん下に移動して、海水中に抜け落ちていきます。流氷からはきだされたブラインや氷が溶けた冷たい水は、表層の海水より重いので、海の底まで沈んでいきます。そして、入れかわりに、深層の海水が浮かび上がってくるのです。9これを湧昇流とよびます。
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