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森リン2月のベスト5から
 小3「はじめて見た雪の帯」
 小6「ちょっと待って環境破壊」
ほかの生徒の作文を読むときの注意
言葉の森新聞 2004年3月1週号 通算第829号
文責 中根克明(森川林)

http://www.mori7.com/mori/
森リン2月のベスト5から
小3「はじめて見た雪の帯」
 森リンで高得点を取った作文を紹介します。
 最初は、小3、こと座さんの作文「はじめて見た雪の帯」です。
 字数774字、強力語彙6個57点、重量語彙16%55点、素材語彙136種77点で、総合点は65点です。(2月27日現在)
 小3以下でパソコンで作文を書いている生徒の平均得点は46点ですから、65点というのは、かなり高い点数です。中でも、素材語彙の136種77点というのは、全学年の平均116種を20種も上回っています。
 強力語彙と重量語彙は、年齢的な要素の強いもので、学年が上がり難しいテーマを書くようになれば、自然に増えてきます。小学校中学年のころは、強力語彙や重量語彙の点数はあまり気にせずに、素材語彙を増やすことを重点に書いていくといいと思います。
 では、その作文。
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 「ドイツの春は早いねえ。」
お母さんが、外の景色をながめながらつぶやきました。私の住むハイデルベルクは、ドイツでも南にあるので、他の所に比べて暖かいのです。特に最近では、最高気温が十五度くらいになることもあったので、道ばたのクロッカスが一辺にさき始めたのでした。
「あれっ?でもまた天気が変わってきたよ。雪だよ。」
私の声に
「うっそお。うわあ、何にも見えないじゃん。ものすごい風だね。スノーストームだよ。」
とお母さんもこうふんして叫びました。

 私のうちは、山のてっぺんにあります。部屋は六階にあるので、窓からの景色は、広い空と山の森が見えるだけです。風が大きな音を立ててますます強くなってきました。さっきまで、見えていた近くの大きな木でさえもまったく見えなくなりました。窓の色が真っ白に変わりました。しかも、よく見てみると、まるで雪がオーロラのように見えるのです。ぼたん雪から粉雪まであって、雪の大きさもちがっていて、強い風がふくたび、きものの帯びが空からたれ下がっているように見えるのです。それにしても、ほんの十分前までは、日もさしていたのに不思議な気持ちになりました。お父さんから前に聞いた話によると、山の天気はすぐに変わるらしいです。そういえば、学校からの帰り道のバスの中で、私の家の方を見上げると、すっかり雲の中で、真っ白になっていたことがありました。

「こんないろいろな種類の雪がふってきたのを見たのは初めてだね。写真にとっておこうか。」
お母さんが、デジカメを持って吹雪のベランダに出ていきました。
「私も行く。」
「らいらはあぶないから、ここで待ってて。」
「きゃあー。」
真っ白になったお母さんが部屋に飛びこんできました。さっそくいっしょに写真を見てみると、ただ真っ白なだけで、帯びのような景色はわかりませんでした。
「ざんねんだったね、お母さん。」
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 語彙が豊富で密度の濃い文章です。例えば、書き出しの部分「『ドイツの春は早いねえ。』お母さんが、外の景色をながめながらつぶやきました。」というところなどは、普通の小3の生徒であれば、「……と、お母さんが言いました。」で済ませてしまうところです。
 また、それに続く文「私の住むハイデルベルクは、ドイツでも南にあるので、他の所に比べて暖かいのです。特に最近では、最高気温が十五度くらいになることもあったので、道ばたのクロッカスが一辺にさき始めたのでした。」というところも、普通は、「私の住むハイデルベルクは、とても暖かいのです。」で終わってもやむを得ないところです。
 語彙が豊富な分だけ、ものの見方も豊かになっている例と言えるでしょう。
 このような語彙力は、作文を書いているときの努力だけでできるものではなく、やはり普段からの読む練習の蓄積によって育っていくものです。
 さて、このように上手に書ける生徒が、これからどういう勉強をしていったらいいかということですが、私は、この段階のままたっぷり上手な文章を書き続けて、小学生時代の記念となる作品をたくさん残していくといいと思います。
 小学生は、このあと小5から説明文や意見文の感想文中心の課題に移ります。そのころになると、作文で要求される語彙は大きく変化します。ある意味では、この小学5年生から上の作文が、将来の文章力に直接つながる重要な作文で、それまでの小学4年生までの作文は助走期間のような位置づけです。
 この助走期間を飛び越えて、小学校の3・4年生の時期に、その先の高学年で書くような作文を先取りすることはあまり意味がありません。それは、小学3・4年生のころは、自分の周囲の身近な事物に対する感動を深める時期で、ものごとを抽象的・一般的に思考する時期ではないからです。
 小学3・4年生のころは、書き出しの工夫や結びの工夫などの表現を工夫する力をつけ、作文については速く長く書くこと、読書についてを速くたくさん読むことを中心に勉強し、実力を蓄えていくことが重要です。
 これからも、たっぷり楽しい作文を書いていってください。
小6「ちょっと待って環境破壊」
 次は、小6のキティさんの作文「ちょっと待って環境破壊」です。
 2月の小6の作品は、1位が、かず君の「外見だけじゃない……」で、2位がキティさんの「ちょっと待って環境破壊」でしたが、今回は素材語彙の点数が141種79点と際立って高かったキティさんの作文を取り上げます。字数1383字、強力語彙15個68点、重量語彙38%72点、素材語彙141種79点で、総合点は74点です。(2月27日現在)素材語彙141種というのは、中学生や高校生でもなかなか書けないレベルです。引用するのは、要約の部分からあとの文章です。
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 母の実家は横浜市港南区野庭町にあった。母が子供の頃は、作者が住んでいた町のような風景だったらしい。静かで、ゆったりとしていて、緑と山がいっぱいあり、たまにはタヌキやモグラ、カエルなどが出て来たりして、ビルは一件も建っていなかったそうだ。私は二〇〇二年の夏に母の実家があった場所をたずねた。吉原小学校から通学路を歩いて昔の家のあたりについた。今は母の家の敷地には、小さなアパートが二軒も建っている。少し行くと余計なビルもたくさん建って、ゆったりとしていた緑もほとんどなくなっていた。動物達もきっともういないだろう。広い幹線道路もできて、車がたくさん走っていてとてもうるさかった。店も続々と並んで建っていた。母の子供の頃の写真と比べたら、昔の面影は全く無かった。この目の前の環境の変化を見て、少し恐くなってしまった。もしかしたら今私が住んでいるこの田舎町も、何年か経てば母の町のようになってしまうかもしれない。大きなビルが何件も建って、高速道路もできて、緑がなくなってしまうかもしれない。・・・しかし、私の住んでいる町の風景は、町ができた七百年前からほとんど変わっていない。道や家などの町並みは全く変わっていない。なぜ七百年も同じ風景を保てたのか。それは、この国には日本のように地震などの災害や梅雨などの厳しい気象条件がなかったからだ。

 なぜこんなに昔の風景を変えなくてはならないのだろう。緑を破壊してまで、余計なビルなどを建てるのだろう。しかし無意識にビルや幹線道路を作ったわけでもない。幹線道路があれば、車がたくさん通って、店などにとってはお客さんが来るのでよいだろう。つまり便利な方をとるか、環境を守るか。このどちらかをとるしかないのだ。私は環境を守りたい。なぜなら一度失ってしまった自然を元に戻すには、最低五十年はかかるからだ。一度山の緑をなくしてしまったら、こわした人は元に戻った山を見ることは不可能なのだ。
 母は何も変わっていないままの自分の故郷を私達に見せたかった、と言っている。私も母の勉強していた机や、集めていた自慢のマンガ、夜ヒョッコリ出てくる動物達を見たかった。しかし動物達は山がなくなってしまったので、もう二度と出てこないだろう。本当に残念だと思う。作者もいうように、また一つ地球のかけらが消えてしまったのだ。

 母には大きな夢がある。それは『年末ジャンボ宝くじ』で三億円を当てることだ。母は去年から宝くじを買っている。当たったら、昔住んでいた横浜市港南区野庭町の土地を買い戻す計画らしい。そしてアスファルトの道を全て土の道にして、花を咲かせるそうだ。環境を巻き戻しするらしい。母らしいなぁ。私も心から応援している。もし新聞でこのような記事を読んだら、みんな驚かないでくださいね。
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 環境破壊という堅いテーマに、自分らしい体験実例を入れています。また、後半の感想もよく考えて書いています。
 語彙の豊富さが感じられるのは、次のようなところです。後半で、自然の少なくなったことを述べたあとに、「本当に残念だと思う。作者もいうように、また一つ地球のかけらが消えてしまったのだ。」と書いています。普通に、「自然が少なくなったのだ」と書くのではなく、「また一つ地球にかけらが消えてしまったのだ」と書くところに、語彙力のセンスが感じられます。
 また、最後の「年末ジャンボ宝くじ」のユーモアを見ると、楽しんで書いていることがよくわかります。
 これからも、難しい課題に個性的な実例を組み合わせて、いい作文を書いていってください。
ほかの生徒の作文を読むときの注意
 ほかの人が書いた上手な作文を見せて、子供を励ます意味で、その作文を褒めるのは逆効果になります。それは、作文力の上達が長期間の努力を必要とするものだからです。上手な作文を見せられて、「こんなふうに書くといいよ」とアドバイスをすると、ほとんどの子供は書く意欲を失います。
 これは自分が逆の立場になればよくわかります。例えば、俳優の写真を見せられて、「こんなふうにきれいになったらいいね」とか「こんなふうに格好よくなったらいいね」と励まされて、やる気を出す人はまずいません。それは、きれいになることや格好よくなることが、その場でできることではないからです。
 子供を励ますいちばんいい方法は、その子が今書いている作文のいいところをたくさん褒めてあげることです。そして、その褒め言葉の一方で、毎日の長文音読や読書の自習をしっかりやっていくことです。
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