1997年10−12月 第10週号 通算第549号

言葉の森新聞

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  教育のコスト

教育は、人間が人間らしく生きていく上で欠かすことのできないものです。今世界に今生じている政治的経済的な問題の多くは、無知と貧困をその原因としています。。

教育は、本来無償であるべきだと思います。しかし、それは、国が財政的な援助をして無償にするというようなやり方ではなく、もっと本質的にコストを引き下げて無償にしていくという意味においてです。

勉強が楽しくなって、子供たちがみずから勉強に取り組むようになり、その自学自習を助けるシステムが用意されていれば、今かかっているコストのかなりの部分は削減できると思います。

   教えすぎる先生

学校などの授業でときどき感じる疑問は、先生が教えすぎているのではないかということです。塾や予備校でも、授業で生徒を引き付けられる先生が「いい先生」と思われているようです。子供たちは実際に楽しい授業のもとでは勉強に興味を持つものですが、先生が授業の主人公で、生徒は観客という仕組みが、実は大きな非能率を生み出しているように思います。

大学の授業で私語の多いことが今問題になっていますが、先生が一方的に話して生徒は黙って聞いているという授業を理想とすること自体に問題があると思います。生徒もひとりの人間として「聞いているだけでなく話したい」のです。その話を私語という方向にではなく授業を生かす方向に向けられればいいのではないでしょうか。

今は、資料も参考書もふんだんに手に入る時代です。先生の役割は、昔のように、先生しか持っていない知識を切り売りするようなところにあるのではありません。先生の持っている知識は、生徒もまた、書物やインターネットから自由に手に入れることができます。先生の役割とは、生徒が進む方向について的確なアドバイスをすることです。先生が生徒の手を引っ張って山に登るのではありません。

子供の作文にこういうのがありました。「わたしの先生は『社会』が得意なので、わたしは『社会』の授業がゆううつです」。『社会』の欄に『国語』や『算数』を入れても当てはまると思います。先生が主人公で、生徒が観客であるとき、生徒は自分の人間としての主体性が奪われていると感じるのです。

   基礎学力は自学自習で

しかし、それでは基礎学力が身につかないと考える人も多いでしょう。確かに、米国などで行われている、生徒の発表や経験を重視した授業は、基礎学力の不十分な生徒を大量に生み出し、逆に米国では日本の知識詰め込み教育に学べという声さえ起こっています。しかし、その基礎学力となる知識は、先生が授業で詰め込むのではなく、生徒が自学自習で学んでいくべきものなのです。

子供たちは、ポケモンの歌の歌詞にしろ、ゲームの裏技にしろ、かなり複雑な知識も興味があればやすやすと理解してしまいます。こういう興味をうまく生かせないところに今の教育システムの弱点があると思います。

   家庭学習の理想の姿

成績のいい子の共通点は、家庭で勉強をする習慣があるということです。それも、お母さんやお父さんが先生代わりになって、子供に教え込むというような勉強ではなく、毎日の自習を子供が自分の意志でやっていくというような勉強です。お母さんやお父さんの役割は、先生ではなくコンサルタントです。

生徒が自分の力で勉強していき、親はときどき、「もっとこうしたらいいよ」というアドバイスをして軌道修正を促すという役割です。子供にまかせっぱなしではなく、かといって子供を引っ張っていくというのでもなく、子供の自学自習を静かに見守りときどき必要なアドバイスをするという姿勢です。

この家庭学習の姿を学校や塾で系統的に実現していければ、今までかかっていたコストは大きく削減できるでしょう。このことによって、低コストで良質の教育をより広範に普及させることができるようになると思います。

  読書が育てる問題意識

大学生になると、小学生と同じように「書くことがない」という人が増えてきます。

小学生時代の「書くことがない」は、おもしろい体験実例がないことが主な原因ですが、大学生や社会人の「書くことがない」は問題意識が乏しいことが原因です。問題意識は、読書と対話によって形成されます。

書くことがないという人は、読書に力を入れていきましょう。

そのためには、何しろ毎日、本屋さんに寄ってみるという方法が一番です。毎日立ち寄れば必ず読みたくなるような本に出合います。そして、本を読み出すと、その本に関連して次々とほかの本にも興味がわいてきます。

   原典を最初に読もう

大学生のころは、手軽に読める入門書や概論書に手を出しがちですが、できるだけ原典を読んでいくようにしましょう。「○○入門」などという本から入るのではなく、直接○○の本を読んでいくということが大事です。入門書や概論書は、何冊読んでもクイズ番組的な知識が増えるだけです。本当に自分の血となり肉となるのは、原典を自分なりに咀嚼したときです。

高校の倫理社会や政治経済の授業で習った、名前だけは知っている著者がたくさんあるはずです。デカルト、ヘーゲル、ルソー、マルクス、ケインズなど。こういう本が読めるのは、大学生のうちだけです。社会人になると日々の仕事に追われてなかなか原典まで読めなくなります。時間のある大学生のうちにパソコンをマスターし、原典を読んでいきましょう。

  第10週の課題のヒント

   小学1・2年生 「自由な題名」

小学1・2年生は、いつも自由な題名ですが、これはいつも書くことを見つけておくという意味です。毎週、作文に書くことを決めておくということを習慣にしていきましょう。

   小学3・4年生 「おどろいたこと」

驚いたことの中には、うれしかったことも悲しかったこともあると思います。漠然とした題名ですから、人によっていろいろに取り上げ方が違ってくると思います。題名の工夫を練習している人は、「おどろいたこと」ではなく「○○な○○」という題名で自分なりの工夫した題名をつけていきましょう。 

   小学5・6年生 「噴水は(感)」

 要約:噴水は役に立たないところに意味がある。日本では水不足などになると噴水を停めろという議論がでるが、それは噴水の役割を否定するものだ。噴水は、ただ水を噴き上げていればよいのである。

 似た例:文化が発達すると役に立たないものが出てきます。食べ物なども、原始時代はつかまえてきたイノシシやクマをただ焼いて食べていればよかったのでしょうが、だんだんと味付けをしたり見た目をよくしたりするようになってきました。コショウやトウガラシなどの味付けも栄養面から考えればそれほど役に立つものではないでしょう。お茶やタバコなどの嗜好品(しこうひん)も特に役に立つものではありません。ファッションや流行なども、役に立たない分野ほど活発です。子供たちが飼っているザリガニやハムスターなどのペットにしても、ただ餌を食べるだけで特に何かの役に立つというものではありません。(^_^;) この役に立たないことをするというのが文化の本質的な一面です。

 感想:「文化というものは……」と考えてみましょう。「噴水とは……」でもよいでしょう。

ことわざ:役に立たないからと言って切り捨ててしまうと本当に大切なものを見失うという意味で「95、角を矯めて……」。「11、衣食足りて……」など。「無用の用」などという言葉も使えそうです。

   中学生 「外国人に日本語を(感)」

内容:欧米人は「いいえ」をはっきり言うが、日本人は「いいえ」をはっきり言うことをためらう。欧米人の「いいえ」は事実に対して向けられているが、日本人の「いいえ」は話し手の意向に対して向けられている。日本人の表現の仕方は外国人には理解しがたい。

意見は、「文化の違いを理解することの大切さ」。又は、「これからの国際化時代では、日本人も事実に基づいて『いいえ』をはっきり言うことが必要だ」という意見でもよいでしょう。あるいは、「相手の気持ちを配慮して『いいえ』を控えめに言う日本人の感覚をこれからも大切にしていきたい」でもよいと思います。中学2年生の総合化は「欧米人の考えもわかる」「日本人の考えもわかる」「だから大事なことは……だ」というかたちで考えてみましょう。中学3年生は、上に述べた意見のいずれかをそのまま自分の生き方に関連させて考えてみましょう。

名言は、「45、短所をなくすいちばんよい方法は……」「57、人間は強くなるほど……」「77、やさしさが性格の弱さで……」「89、悪いことそのものが……」など。

   高校生 「そうした中で」

内容:戦後の日本は経済を優先した発展をしてきた。科学技術も産業に奉仕するかたちで発展した。しかし、これからは、自分の利益のためでなく、途上国への援助などの理想のために発展する必要がある。村上陽一郎は、決して悪いことは言っていませんが、文章がまわりくどくて読みにくいと思います。もっとわかりやすく書けばいいのにね。(^_-)

「産業の利益に貢献するための科学ではなく、人間の幸福に貢献する科学を」というあたりが主題になりそうです。戦後は、産業の発展=人間の幸福だったのですが、今は単純にそうとも言えなくなっています。これも理科系の問題ですが、よく出るテーマですからじっくり考えていきましょう。

   大学生・社会人 「私たちはよくテイストと」

テイスト、センス、カン、運。こういう点数で測れないものが、人生では重要なのかもしれません。それでは、どうしたらテイストを身につけることができるのでしょうか。または、その人のテイストをどうやって見分けることができるのでしょうか。答えのないテーマですが、できるだけ具体的な実例をもとに自分で考えてみましょう。

  合格速報

ユミママさんが女子美術大学芸術学部に合格しました。今年は腕試しで来年を目標にと考えていたそうですが、受かってしまいました(^o^)。社会人入試の第1期生になるそうです。小論文の題名は「大学で何を学ぶか(1000字)」「最近行った美術展(2000字)」でした。予想していた字数より長かったので苦労したそうですが、それでもひととおり書いたということでした。4月に入学式があるそうです。

昔の生徒の河手さんがある日突然、「高校の書道の先生の募集があったので、志望理由を書いたのですが」とたずねてきました。数日後、「やっぱり、だめでした」と鳩サブレーを持ってきてくれました。その晩、先生が自宅で電子メールを開くと、「あのあとうちに帰ったら、欠員が出たので面接に来てほしいという連絡が入っていました」ということでした。書道の先生になれるといいですね。