言葉の森新聞 | ||||
2002年9月2週号 通算第765号
文責 中根克明(森川林) |
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■物理学者が経営学を文学として書く |
書店のビジネス書のコーナーで、「The Goal」という本が話題になっています。(サッカーの本ではありません)全体の流れは、物語です。しかし、書いたのは物理学者で、テーマは経営学です。 書かれている内容は、「ボトルネックとは何か」「部分最適と全体最適とは違う」という堅い話です。しかし、この堅い話が、柔らかいストーリーの間に自然に入っているので、無理なく読み進むことができます。 この本のユニークなところは、文学、物理学、経営学の三つの異なる分野が連携しているということです。 9月1週の小学5年生の作文課題は、「一番になったこと」でした。何かの分野で一番になるというのは大変なことです。勉強のどれかの科目でクラス一番になるにしても、国語、算数、理科、社会……と数えていくと、せいぜい8〜9分野でしか一番になることができません。 しかし、ここで考えを変えて、二つ以上の分野を組み合わせてみると、もっとたくさんの一番が生まれることがわかります。 世の中には、勉強の科目よりももっと多くの分野があります。それらの分野のうちで、異なる分野を組み合わせることによって、ほかの人にはできないような一番を作ることができる、というのが、私たちの人生のひとつの指針となります。つまり、工夫すればだれでも一番になれる可能性があるということです。 現在、高校の授業は学年の早い段階で得意科目を絞るような方向に進んでいます。しかし、あまりに若い時期から自分の得意分野を限定してしまうと、勉強の能率はいいかもしれませんが、かえって幅の狭い人間になってしまう気がします。すべてがオールラウンドにできる人間を目指す必要はありませんが、異分野を結びつけることのできるような幅の広さを持って勉強に取り組んでいくべきでしょう。理系に進む人でも、文学や哲学に関心を持つ必要があり、文系に進む人でも、数学や物理学に対する関心を持ちつづけていく必要があります。 物理学者が経営学を文学で表現するというような試みが、日本でもこれから生まれるためには、日本の高校・大学教育の仕組みを変えていく必要があると思います。 |