言葉の森新聞
2013年6月3週号 通算第1277号
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森新聞 |
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■成績と学力と人間力の乖離(facebook記事) |
センター試験が廃止の方向に向かい、年数回の到達度テストが行われるようになるそうです。 何事もそうですが、ペーパー試験だけで評価しようとすると、対策がすぐに立てられるので、すぐに重箱の隅をつつくような試験になります。 すると、そういう重箱の隅のつつき方のコツを知る人が高得点を取るようになります。(言葉の森のセンター試験国語対策などももちろんそうですが。) そうして、成績と学力がどんどんかけ離れたものになっていくのです。 人生の大きなゴールは、いい仕事ができるかどうかです。いい大学に入れるかどうかではありません。 自分の好きな熱中できることがあり、基礎学力がしっかりついていればいいのです。 ところが、ペーパー試験で人間を評価するようになると、好きなことに熱中する時間は後回しにして、試験に出るところだけを勉強するようになります。 もちろん、受験の直前にそういう勉強をすることは大事です。勝負に勝つための勉強というものあるからです。 しかし、受験のはるか前からそういう勉強に取り組んでしまうと、成績だけはいいが学力の厚みがない人間になってしまいます。 例えば、読書をするよりも、読書の時間を削って作者と作品を結びつける知識を覚えた子の方がいい成績になるようなものです。 だから、今後の試験の方向は、ペーパー試験(到達度試験)は基礎学力をバランスよく測るだけのものにして、1点差を争うようなものにしないことです。 そして、そのかわりに、小論文と口頭試問と人望を中心とした評価をするべきです。 客観性には多少欠けますが、今のペーパー試験中心の選抜よりもずっと人間味のある、実態にあったものになるでしょう。 これからの試験は、成績よりも人間力を中心としたものになっていくと思います。 |
■公立中高一貫校の試験問題の解き方 |
受験とは、点数の差をつけるためのものですから、難しくなければなりません。 しかし、知識の詰め込みのような形でなく、考える力で難しくするためには、人間が考えにくい形で考えさせる問題を作る必要があります。 そこで、どんな問題が出るかというと、ひとつは、多数の短期記憶を必要とする問題です。 人間の頭は一度に7つぐらいのことしか同時に処理できないので、それ以上の変数がある問題が出せられると、途端に処理速度が落ちるのです。(パソコンに似ていますが) そのときの対応のコツは、多数の情報を圧縮して処理することです。 例えば、都立白鴎中の2012年の問題で、8つのタワーの並び方を問う問題が出てきます。 それは、 1.神戸ポートタワー 2.東山スカイタワー 3.横浜マリンタワー 4.銚子ポートタワー 5.さっぽろテレビ塔 6.福岡タワー 7.東京タワー 8.東京スカイツリー の8つです。 そして、それぞれのタワーの条件として、 A.電波塔であるかどうか B.関東地方にあるかどうか C.平成元年以降にオープンしたかどうか の3つがあります。 これらの組み合わせを考えるときに、いちいち「東京スカイツリーは、電波塔であって、関東地方にあって、平成元年以降のオープンで……」と考えていたら、それだけで短期記憶のメモリーをほとんど使ってしまいます。 |
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そこで、タワーの頭文字だけを操作すればいいようにするのです。 すると、「『す』は『でかへ』で……」となるので、思考の速度がぐんと上がります。 もうひとつの人間の脳に苦手な操作は、物事を立体的に思い浮かべることです。 人間の目は、平面的に見ることに慣れているので、立体的なものの向こう側を操作することがなかなかできません。日常生活では、実際に立体の後ろ側に回って処理すればいいので、頭の中だけで立体の処理をすることに慣れていないのです。 都立小石川中の2012年の立体図形の問題がちょうどそういう問題です。 図8の「1」の列の16個を「4」の列の16個とそっくり入れ換えたのが図9です。 |
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つまり、図8の「1」の「イ」の「B」に隠れていた「色のついた立方体」が、図9の「4」の「イ」の「B」に見えるようになったということです。 問題は、図9に何度か操作を行い、色のついた立方体4つのうち1つだけが見える状態にすることができるか、できるとしたらその方法はどうか、というものです。 日常生活では、こういう問題は実際に立方体を動かせば済むことなので、頭の中で考えて処理するようなことはありません。 だから、こういう問題は難しく感じるのです。 こういう問題に対応するコツは、フリーハンドで立体図をかいてみることです。そして、それを動かした図をまたかいてみるのです。 しかし、こういう図をかいてみようかと思いつくためには、普段から絵や図をかくことに慣れている必要があります。 それは、一見遊びのようなことですが、そういう時間の過ごし方が厚みのある学力になるのです。 厚みのある学力というと、太陽の動きや星座の動きのようなものも、立体的な上に球面で動くというわかりにくいところがあります。 天体の問題に対応するために、自分の家の周りで、どこから太陽が昇って、どこに沈むかということを感覚的に知っている必要があります。 こういうことも、生活の中で身につける学力なのです。 |
■■父母講座「国語力、作文力をつける家庭学習法」の資料(3) |
■資料:学力の中心は、国語力 |
http://www.mori7.com/an/4.html ●内田樹(たつる)さんの教育論「英語のまえに国語を勉強せよ」 ○英語教育は盛んだが、英語力は低下している。その原因は国語力の低下による。 ○創造的な考えは、母語でしか出てこない。(「喉元まで出かかったアイディア」は……) ○英語教育で大事なのは、読む力であって、会話力ではない。会話では、非ネイティブは常に二流。しかし読解力と思考力では対等に対峙できる。 ○母語の運用能力を上げるためには音読。 ●英語、算数・数学、国語、経験 ○幼児期からの英語教育のしすぎで、日本語も英語も不自由になるケースがある。 ○英語学習は中学生からでも充分間に合う。小4~小6は更によい。小1~小3はかえってマイナスに。 ○算数・数学のやりすぎもマイナスに。受験にはいいが、社会に出て役立つのは日本語の運用力。 ○就職活動も、国語的な説明力、表現力、文章力が要に。 ○大学生時代に身につける能力は、専門分野の学力の方向と、リーダーシップの経験。 ●読書力と勉強力の両立を ○厚みのある国語力は、読書でつく。それが学力の背景になる。 ○小学生の朝読書は、毎日15%、やっていない30%。しかし、毎日の場合もほとんどは学校での朝読書のこと。 ○学校での朝読書が、家庭で読書をしない理由になっていてかえってマイナスに。 ○中学生は、家庭での読書習慣と学力が相関。 ○ただし、読書は勉強の最後に。勉強の前にすると勉強ができなくなる。 ○朝は、読書よりも暗唱や音読を。 ○読書は、学校に出る前、夜寝る前、休みの日の退屈しているときなど。出かけるときはいつも本を持って。 ●学力は生活習慣によって作られる ○読書の好きな子で、意外と勉強の苦手な子もいる。それは、勉強に必要な決まったことを決まった時間にするという習慣が育たないため。 ○起床、就寝、勉強開始の時間で「3点固定」の生活を。平日でも、休日でも、長期休暇中でも。 ○勉強のできる子は、この3点固定と、基本となる教科書・参考書を1冊だけ反復の学習法。 |
■資料:国語力、作文力をどうつけるか |
http://www.mori7.com/an/5.html ●実力的国語力と受験的国語力の違い ○実力的国語力は、説明文読書と知的対話でつく。 ○受験的国後力は、解き方のコツを身につけることでつく。 ○しかし、実力が土台になる。 ●「塾不要 親子で挑んだ公立中高一貫校受験」の鈴木亮さんの勉強法 ○新聞のコラムをもとに、要約の練習。 ○最初は書き方の説明も必要。 ○時間と字数を設定。 ○新聞記事で問題を作る。 ○添削と対話を楽しむ。 ●言葉の森の勉強法 ○コラム、社説よりも、解説の囲み記事。更にいいのは問題集。言葉の森では課題の長文。 ○すぐ書く学習にすると時間がかかる。 ○繰り返しの読みが大切。傍線読書に復読、音読で。 ○その後、子供が親に説明。(ここで説明の仕方を注意しない) ○親子の対話。 ○(必要であれば親子で書く構成図を間に入れる) ○教室で先生に説明、そして対話。 ○それから作文を書く。 ○時間と字数を測定し記録する。 ●東大が新しく導入する反転授業の考え方 ○(昔の記事で)中学生のトップクラスは塾に行っていない。 ○高校生でも、実力のある子は予備校漬けにならない。 ○学力のある子は、聴くだけの講義に退屈する。 ○ある中学で、先生が長期間休み、その間宿題をやっていたクラスの成績が最もよくなった。 ○ある大学の言葉。「諸君、勉強せよ。しかし、勉強するとは必ずしも授業に出ることではない。」 ○2013年から試行する反転授業では、授業から講義をなくす。 ○説明はオンラインで宿題に。 ○応用課題を教室で対話。 ○従来は、これが逆だったので、反転授業。 ○スタンフォード大では2011年から試行。 ●言葉の森の反転授業 ○毎日音読、子から親への説明と家族の対話。 ○教室でも対話、そして作文。 ○今後は、森リン大賞や発表会にも力を。 ○同じ勉強法は、英語でも数学でもできる。 ○これからは勉強は家でするもの、学校はその応用の場に。 |
■小5から家庭でできる公立中高一貫校の受験対策 |
●公立中高一貫校の対策は,学習塾よりも家庭で |
公立中高一貫校の受験対策をする塾が増えていますが、そこで行われている勉強は実際の公立中高一貫校の適性検査の内容とは、かなりずれているようです。 公立中高一貫校の試験問題は、読む力、考える力、書く力が総合的に要求されますが、それは実際に、読み、書き、考える中で身につくものです。問題集を大量にこなすような勉強では、実力はつきません。 そこで、言葉の森では、「小5から家庭でできる公立中高一貫校対策」というオプションの自習講座を開くことにしました。これは、これまでの問題集読書の自習を発展させたものです。「家庭でできる」というタイトルになっていますが、公立中高一貫校の受験対策は、実は塾に任せるよりも家庭で行う方が能率よくしかも楽しくできるのです。 |
●家庭でできる公立中高一貫校に向いている家庭 |
公立中高一貫校の受験対策は家庭でできますが、それは問題集を黙々とこなすような勉強法ではありません。もっと人間的な関わりのある勉強法ですから、その勉強に向くような家庭を作る必要があります。 どういう家庭が公立中高一貫校の受験対策に取り組みやすいかというと、まず第一は、自分で考えることが好きな子であることです。第二は、お父さんお母さんが、子供と話をすることが好きな親であることです。 そういう家庭であれば、読み、書き、考えるという総合的な学習は、学習塾で行うよりもはるかに能率よく進みます。(つづく) |