言葉の森新聞
2019年1月2週号 通算第1546号 https://www.mori7.com/mori |
森新聞 |
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■実験・研究・創造・発表の学習で新しい学力を育てる |
これまでの勉強は、聞く勉強でした。 聞いて理解して、覚えたことをテストで確認するような勉強を、長い間人類は続けてきました。 しかし、そういう勉強で得た知識は、これからの社会ではだんだん出番がなくなります。 知識は、基本的なものと、自分が特に興味があるものだけに絞られるようになり、あとは必要に応じていつでも外にあるものを利用すればよいという考え方になるのです。 以前、海外の大学入試で、受験生がスマホを使って外部と通信しカンニングするという事件がありました。 対策は、試験会場へのスマホ持ち込み禁止と考えるのではなく、カンニングできるような知識はもうテストする必要がないと考えることなのです。 では、そのかわり何が必要になるかというと、これからは「聞く知識」ではなく、「作る知識」や「発表する知識」が必要になるということです。それは知識というよりも、「作る学力」「発表する学力」です。 寺子屋オンラインのクラスでは、いろいろな生徒が、自分のオリジナルな実験や工作をもとに、関心を持ったことを調査し研究し発表しています。 その過程で、準備をしたり失敗をしたりやり直しをしたりするので、作る勉強は、聞くだけ勉強よりもずっと時間がかかります。 しかし、その時間の中で残るものが、これから必要になる本当の学力なのです。 ところで、小学校低中学年の場合は、ここに親の関わりが必要になります。 子供が何かに興味を持っても、その興味を「作る勉強」や「発表する勉強」に発展させるためには、親が準備を手伝ったりアドバイスをしたりすることが出てくるからです。 現在は、共働きで遅くまで仕事をして帰る親御さんが多いので、子供の「作る勉強」の手伝いは、時間的にかなり負担がかかります。 しかし、この時間を捻出して、子供と知的で創造的な時間を共有することが、あとになって必ず生きてきます。 これからの勉強は、能率よく知識を覚えることではなく、時間をかけて自分なりに考えることになるからです。 点数を上げるための勉強の秘訣は、出題範囲を繰り返し読むことです。 しかし、これはあまり面白い勉強ではありません。 だから、必要なときに集中して取り組めばいいのです。 日常的に行う勉強は、もっと楽しいものであるべきです。 楽しむための勉強の秘訣は、その勉強する対象の事物と関わり、親と関わり、友達と関わることです。 これは、勉強を楽しむことであるとともに、その子の今の人生を楽しむことなのです。 その楽しさがあるからこそ、途中の過程の苦しさも乗り越えられるのです。 これは、苦しいことを我慢するのが勉強だという考えではありません。 |
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我慢してやるようなことは、我慢する必要がなくなればやらなくなるからです。 ▽参考動画 はんこ作りの研究と発表(寺子屋オンラインクラスの発表の例) https://www.youtube.com/watch?v=-MphgJ3c4Zw |
■ほかの子がやっていると自然に自分もできるようになる |
寺子屋オンラインの少人数クラスでは、集団の力学がよい形で働くことがあります。 例えば、あるクラスで、一人の子が暗唱をすらすら言うと、それを見たほかの子が感心して、その後みんなが暗唱をするようになったということがあります。 親子の関係だけで暗唱を続けようとすると、無理なくできる子もいますが、場合によっては親が強制し子供が反発するという関係になってしまうこともあります。 みんなでやっていると、それが無理なくできるようになるのです。 しかし、これは、少人数クラスの力学と家庭での習慣の両方がなければうまく行きません。 家庭では、毎日の暗唱時間を確保することが大事で、その習慣を成果として引き出し、やる気を高めるのが集団の力学です。 また、作文のアドバイスでも、ある子に、直接、「もっとこう書いた方がいい」とアドバイスをすると、その子の元の作文を否定するような形になってしまうことがあります。 しかし、ほかの子の作文のよいところをみんなの前で褒めると、ほかの子もそのよいところを身につけるようになるということがあります。 よく、「よいところを褒めるか、悪いところを直すか」ということが作文指導の二つの方法論として論議されることがありますが、グループで作文指導をしていると、どの子も全部よいところを褒める形で、ほかの子も自然に悪いところを直すようになるという理想的な形になることがよくあるのです。 作文以外でも、ほかの子のよいところにみんなが影響を受けて、グループ全体がよくなるということがあります。 例えば、みんなの作文を発表したあと、順にほかの子に対する質問や感想を言ってもらうことがあります。 そのとき、最初はほとんどの子がうまく質問や感想を言えません。 それは、相手の作文や発表を注意して見ていないからです。 だから、うろ覚えで、直前の発表についてとってつけたような感想を言ったり、中には、感想が「ありません」と済ませてしまう子も出てきます。 ところが、中に、ほかの子の発表すべてについて簡単なメモをつけておき、全員についてひとことずつ簡潔な質問や感想を言えるような子が出てきます。 すると、みんながその感想の言い方に感心して、やがてどの子もそのような感想の言い方ができるようになるのです。 入試の作文課題などで、放送を聞いて答えるという問題が出されるところがあります。 こういう問題のときは、聞いたことを的確にメモしておくことが必要になります。 ところが、多くの生徒は日常的な学習の中で、人の話をメモしながら聞くという習慣を持っていません。 ですから、少人数クラスでの感想の発表は、勉強にも将来の社会生活にも役立つコミュニケーション力をつける機会になっているのです。 昔の子供は、年上の子と一緒に遊ぶ中でいろいろなことを身につけました。 親に言われても難しく感じてなかなかできないことが、友達が一緒だと自然にできるようになったのです。 子供の成長には、そういう集団の力が欠かせないのだと思います。 |
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現在、寺子屋オンラインクラスは、担当できる講師がまだ少ないせいもあり、本格的な募集を行っていません。 しかし、今後は、個別指導でも、集団指導でもない、5、6人の少人数クラス指導というものが広がってくると思います。 そのために、今後、寺子屋オンライン講師育成講座に力を入れていく予定です。 |
■「聞く勉強」から「話す勉強」へ |
小学5年の生徒が、発表学習クラスで発表を行ってくれました、 時間はわずか3分ほどですが、この準備のために1時間以上かかっているはずです。 これと同じ知識を、先生の話を聞いて授業を受ける形で理解するのであれば、しばらくたつとすぐに忘れてしまうでしょう。 だから、学校では、それを忘れさせないようにテストをするのです。 しかし、もともと自分で興味があって覚えた知識ではありませんから、その知識もテストが終わればすぐに忘れてしまうのです。 大人になってから子供時代を思い出してみると、覚えているのは、先生に聞いたことではなく、自分が言ったことやしたことばかりです。 今は情報機器が発達しているので、優れた教材がふんだんに手に入ります。 しかし、そこで見たり聞いたりしたことは、やはりテストがなければすぐに忘れてしまうでしょう。 そのかわり、自分が調べて考えたことを発表し、ほかの人からの質問を受けたり感想を聞かされたりすることは、そのときの情景ととともにずっと記憶に残ります。 そして、大事なのは、知識が残ることばかりではなく、その過程で自分から進んで考える力が育つことなのです。 2020年の入試改革に象徴される、これから求められる学力は、覚えた知識中心の学力ではありません。 その知識を使って自分なりにどう考えるか、それをどう発表するかという学力です。 そういう学力を育てる場が、少人数の勉強面での交流なのです。 人間は、何かを覚えるためにこの世に生きているわけではありません。 何かを作り出すことが中心であり、その準備として覚えることがあるのです。 子供時代は、人より多く覚える時期ではなく、作る姿勢を育てる時期です。 作る姿勢が育っていれば、覚える勉強は、必要になったときに集中してできるようになるのです。 子供はみんな、発表する勉強が好きです。 その勉強をするための第一の条件は、余裕があることです。 しかし今、ほとんどの家庭は、親も多忙で子供も多忙です。 だから、まず親がどうにかして時間を捻出し、子供と一緒にいる時間を作ることです。 その時間の中で、知的な創造を楽しむ工夫をするのです。 ▼参考動画「お米の歴史、似た言葉」(発表学習クラスより) https://www.youtube.com/watch?v=VgcRmUsOvOw |
■電車の好きな子は、好きな電車を生かした学問を |
発表学習クラスの小3の男の子は、電車好きです。 電車に乗った動画の紹介のあと、モーターの仕組みと電気の流れについての発表をしてくれました。 子供の好きなものは、人それぞれに違います。 |
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親にとっては、そのどこがいいのか全然わからないようなものが好きな子もいます。 よくあるのが、電車の好きな男の子で、一般に母親はその心理がよく理解できません。 しかし、その好きなものが、その子の探究心の源になります。 だから、その好きなものを生かして、それを学問の方向に発展させていくといいのです。 これまでの世の中は、覚えなければいけない体系的な知識が先にあり、子供の興味は後回しでした。 しかし、これからは、子供の興味関心が先にあり、その興味関心を生かして体系的な知識を身に着けていくようになります。 そのために大事なことは、子供の好きなものに、親も一緒に関わってみることです。 すると、その子供の興味を学問の方向に発展させる道筋が見えてきます。 そして、その学問を更に創造の方向に発展させていくのです。 勉強の出発点は、子供の興味や関心です。 外部からの強制やご褒美ではありません。 いちばんの理想は、同じ興味や関心を持っている子供どうしが、共通の話題をもとに、その興味や関心を学問の方向に発展させていくことです。 |
■近年の受験作文の傾向と対策(再掲) |
そろそろ受験作文の季節です。 作文の実力というのは、なかなか上がりません。しかし、受験は実力の問題ではなく、勝負の問題です。 今ある実力で、いかに合格する作文を書くかというのが目標になります。 そのコツは、10種類のテーマを決めて、そのテーマごとに傑作を1本ずつ書いて、そのテーマならいつでも楽に書けるようにしておくことです。 中学入試の受験作文は、当初は身近な説明文が中心でした。 これは、基本的な文章表現力を見るための試験という位置づけだからです。 しかし、このような身近な説明文は、ある程度準備をして臨めば誰でも一定の水準までの作文が書けます。 本当はそれでいいのですが、作文試験の目的は差をつけて選抜することにあるので、点数がバラけるような問題作りをしなければならなくなります。 そのために、次第に増えてきたのが、「複数の、それもかなり長い文章を読んで、それに対する設問を解き、作文を書く」というスタイルの試験問題です。 こういう傾向の受験作文に対しては、通常の対策以外に、速く読み取り、速く書き上げるという字数とスピードが要求されるようになります。 その対策は何かと言うと、第一に作文試験の課題として出るような文章を読み慣れることです。 中学入試の作文試験の課題は、学問の分野、生き方の分野、言葉の分野、日本文化の分野、学校生活の分野など、だいたい範囲が決まっています。 ですから、ある程度の量を読んでいくと、最初の数行を見ただけでどういう内容が書かれているか見当をつけることができるようになります。 課題文の分野に慣れて読むスピードをあげる、というのが第一の対策です。 第二の対策は、書くスピードを上げるということです。 これは、その場で考えて書いていたのでは時間的に間に合わなくなることが多いので、既に自分が書いた十数本の作文の中から当てはまりそうな実例や表現や意見を思い出し、それらを当てはめながら書くという形になります。 いずれの対策も、練習をすれば必ずできるようになりますが、やはり時間がかかります。 そのつもりで練習を重ねておくことが大切になるのです。 |