言葉の森新聞2006年8月3週号 通算第947号
文責 中根克明(森川林)
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振り替え授業の受付時間は下記の通りです。
(月〜金) 9時〜19時50分
(土) 9時〜11時50分
振り替え授業の予約はできません。作文が書けるときに直接教室にお電話ください。 なお、夏休み中は、大変混み合っておりますので、20分くらいお待たせすることがございます。
8月12日〜18日は、教室が夏休みのため、振り替え授業もありません。
<<え2004/235み>>
■■作文的な勉強の重要性
世間では単線的な学力観が根強くあります。例えば国語の成績で言えば、学力の高い方から順に5・4・3・2・1という成績がついていくという考え方です。この考え方は、子供が小学校から高校に通っているころには、そのまま子供社会の現実とほぼ一致します。したがって、子供が小学生から高校生にかけての親も、学力は高い方から低い方にピラミッドのような構造で成り立っているという考え方をしがちです。その考え方はもちろん間違っていません。問題は、そのピラミッドのような構造がそのまま社会に出てからも続いていくように考えがちな点にあります。
ピラミッドの上にいる子は、そのまま将来もその位置が約束されたかのように感じ、ピラミッドの中間にいる子は、そのまま将来もその位置に甘んじなければならないように感じてしまうのです。
ところが、実際の社会を見てみると、そのようなピラミッドとは違った構造があることに気づきます。世の中には、多種多様の職業があり、IT産業で働く人もいれば、八百屋さんで働く人もいます。歌を歌うことを仕事にしている人もいれば、会計の記帳を仕事にしている人もいます。それぞれ自分の置かれた立場で、自分の持ち味を生かして仕事をしているのです。
学校時代が、学力を育てるための時代だとすれば、社会は、その学力を生かす時代です。高い学力があることは、広い底辺を持つという点で有利なことですが、それだけでは学力を生かしたことにはなりません。学力を生かすとは、既にある学力を前提にして、それを創造的に組み合わせるということです。この創造性こそが、社会に出てから重要な能力なのです。
ピアニストの舘野泉(たてのいずみ)氏は、脳溢血で右手の自由を失います。しかし、彼は左手だけで弾ける曲があることを発見します。過去の時代にもやはり、舘野氏のように病気や事故で片手を失ったピアニストたちがいたのです。彼らは、不足している片手の能力を嘆くのではなく、今自分が使えるもう一つの片手の能力を生かすことで音楽活動を続けようとしました。
今自分が使えるものを生かす。これが作文的な勉強です。
■■作文を書く面白さは創造性にある
<<え2006/264み>>社会に出てから使える能力は、単純にその人がもともと持っている能力の総和ではありません。
その人が既に持っている能力を前提として、それらをそのときどきの目標に向けて、創造的に組み合わせる能力こそが社会で生かせる能力です。
通常、学校ではそのような能力の教育はなされません。学校の目的は、能力を伸ばすことですから、そのためには自由に選択できる手段を制限して、限られた細い水路の中で、特定の能力だけを伸ばす訓練をする必要があるからです。例えば、社会に跳び箱のような障害物があった場合、それをうまく跳び越す人ももちろんいるでしょうが、中には迂回したり、跳び箱そのものを片付けたり、はしごをかけて跳び越えたりする人もいます。それらすべてがその人にとっての創造的な解決策なのです。
では、この創造的な能力はどこで身につくのでしょうか。それは、主に遊びの中でです。遊びには、目標はあっても手段の制限はありません。この遊びの中で子供たちは、自分の持っている能力を最大限に生かすための創造性を学んでいくのです。
この遊びによる創造性と同じ役割を果たす勉強が作文です。
作文の中で身につく能力は確かにあります。それは、一定の時間に目標とする字数を正確にわかりやすく書く力です。しかし、作文の本当の目標はその先にあります。それは、自分が今持っている材料(実例、語彙、思考力)を有効に組み合わせてよりよい文章を書くという能力です。
作文を書く面白さは、実はここにあります。書くことによって、新しいものの見方、新しい表現の仕方、個性、感動、共感、ユーモアなどを美的に創造するというのが作文の目的です。
現在の作文教育は、正しくわかりやすく書くという初歩的な段階の指導と、作文小論文入試に合格するために書くという受験対策的な指導とに分化しています。しかし、作文教育の本道は、創造性を育てる作文という第三の道にあるのです。
■■心の中の変らぬ「本物」(まあこ/ゆた先生)
<<えa/2659み>>
結婚する前に主人とよく行っていたトンカツ屋。繁華街の路地を入ったところにある老舗といわれるその店は、十五年前と同じように地味にひっそりとたたずんでいました。
その店を度々訪れていたのは20才代前半のころ。メニューはカツレツと一口カツのみ。小さいお茶碗に軽く盛られたご飯は、店員さんが程良いタイミングで「おかわりいかがですか」と声を掛けてくれ、みそ汁と歯ごたえの良い千切りキャベツはあくまでもシンプル。最後は漬け物でお茶漬けをさっぱりといただく。ちょうど残さず平らげられるバランスの良さ。
何より好きだったのは、カウンターの中で黙々とカツを揚げている店主の姿でした。夕方店内に入ると、たいがい席はいっぱいで、カウンター席のうしろの壁に並べられている丸イスで順番を待ちます。その間、ただ静かに静かにカツを揚げ続ける店主の動きを、じっと眺めていたものでした。
結婚してしばらくは、少々値段が高めなため、ぜいたくに思えて遠慮していました。そうするうちに子どもが生まれて、さらに行く機会を逸してしまいました。
そして十五年。今や息子は、私の1.5倍は食べるようになり、行儀もわきまえられるようになりました。その日は家族で近くに用事があったので、「お父さんとお母さんの大好きなトンカツを食べさせてやろう」と3人で思い出の店へと向かったのです。
路地を曲がると、以前はなかった大きなキンキラキンのパチンコ屋が騒々しい音楽を流していました。あの店は変わらずにあるのだろうか……そんな不安がよぎったのでしょう。主人は小走りして先を急ぎました。
「あった!」 変わらぬたたずまい。そこだけ時が止まっているよう。戸を開けると「いらっしゃいませ。」というなつかしい声が聞こえました。十五年の年月で若かった私がおばさんになったように、店主も少し背中が丸くなったかな。しかし、凛とした風格そのままです。
家族連れだったからか二階のお座敷に案内されたので、カウンター越しに仕事が見られなかったのは残念でしたが、出されたカツレツは以前と同じスタイル。 そう、そうこの味。薄い衣であっさりとした味は、ひと口目、少し物足りなさを感じます。しかし、これがすべて食べ終わったときに、もたれず心地よい後味になっている。計算されつくされているのだと気がつくのです。
大正時代創業の老舗。私が初めてのれんをくぐったときにはすでに、店主は受けついだ味を何十年間も守り続けてきた名人でした。そして、この十五年間も、毎日毎日ただひたすらに同じカツを揚げ続けていた。変わらぬ味がその証拠です。
人はずっと同じではありません。年もとるし、取り巻く環境も変わっていきます。社会も変わります。また、変化を求めるのも人間です。 その中で何十年と同じであり続けるということは、変わっていくことよりずっと難しいのではないでしょうか。
現代はあらゆるものが、ものすごいスピードで変わっていきます。新しいことをした人がもてはやされ、そして次々と消えていく。変化に追い立てられているような時代。
店の外に出ると、パチンコ屋の店頭で若い女性がマイクを持って叫ぶように宣伝をしていました。おそらく宣伝している新作のパチンコ台も、数ヶ月もすれば次の新台に替えられてしまうのでしょう。だから大騒ぎをして短期間で稼がなければなりません。
そんなせわしない光景の中に、あの変わらぬ老舗がじっと静かに存在している。気を緩めたら飲み込まれてしまいそうな危機感を覚え、不安になりました。
常に新しいものを求める好奇心はすばらしく、最先端は確かに刺激的です。しかし、心の中に変わらぬ「本物」をどっしりと持っていなければ、ふと気づいたときに薄っぺらなものしか残っていない、そんな日本になってしまうような気がしたのです。
<<えa/2686み>>
■■あこがれの曲(ひまわり/すぎ先生)
<<え2004/537み>> 前にも学級新聞に書きましたが、趣味でフルートを習い始めて、ちょうど一年がたちます。発表会にも二度ほど出る機会があり、仲間もできました。
大人になってから、習い事を始めるきっかけはいろいろありますが、ピアノやサックス、フルートを習っている仲間たちに話を聞くと、「あの曲をかっこよく弾いて(吹いて)みたい。」という動機で始めた人がたくさんいました。そういう私も、実はどうしても吹いてみたい曲があったのです。
学生時代に、オーケストラの演奏会を聴きに行き、心奪われた曲があります。ガブリエル・フォーレ作曲、組曲『ペレアスとメリザンド』の第三曲目に収められている『シシリエンヌ』。フルートとハープの編曲がポピュラーですが、そこはかとない悲しみを秘めたメロディーが、なんともいえず美しい曲です。その後、CDを買いあさったり、ピアノの楽譜を買って弾いてみたりしましたが、自分でフルートで演奏してみたいという気持ちが、ずっと心の中にありました。
しかし、日々の忙しさに追われ、なかなか始めることはできませんでした。どこの教室に行けばよいのか、どんなフルートを買ったらよいのか(しかも、楽器は安くはありません!)、まったく手探りの状態。やりたいけれど、現実には難しいなあ……。心の中でくすぶっている炎は小さくなり、消えかかっていました。そんな私の背中を押してくれたのは、小学生の娘だったのです。ある日突然「吹奏楽部に入部する!」と言い出し、なんと担当の楽器がフルートに決まったというではありませんか。学校から借りて来た楽器を、触らせてもらうと、心の中で長年くすぶっていた気持ちがふたたび一気に燃え上がりました。「お母さんも今月から習いに行くよ!」
<<え95み>>
たいへんなエネルギーを使って、やっとの思いで始めた習い事ですから、それ以来、細々とですが、毎日欠かさず練習をしています。体調の良い日も悪い日も、音がうまく出る日も出ない日も、コツコツと一年間続けてきました。「これがフルートか!?」という音を聞かせ続けた家族には、ずいぶん迷惑をかけていますが……。
そして今、やっとあこがれの曲『シシリエンヌ』の課題をもらって、練習している最中です。イメージどおりの音色とは、まだまだギャップがありますが、ずっと心の中で思い続けてきたことがかなって、幸せを感じています。勇気を持って飛び込んでみること、目標を持つこと、そして細々とでも毎日続けること。この三つの大切さを身をもって感じ、これから十年、二十年、できるだけ長く続けて、フルートの魅力をもっともっと味わっていきたいと思っています。
■■中学生受験の国語論(むり/むり先生)
みなさん、こんにちは!
今月は本を1冊ご紹介します。
「中学受験の国語論」 武本貴志著 株式会社語研
タイトルのとおり、中学受験の国語の特に記述問題の書き方について書かれた本です。中学受験と言っても、高校受験にも大学受験にも十分通用する内容です。「これから受験」という人はぜひ1度読んでみるといいと思いますよ。
この本の中で、国語力を「会話力」「読み書き力」「文学力」「精密力」の4つに分けています。会話力、読み書き力は、文字通り他の人と会話したり、漢字や言葉を正しく使う力のことです。一方、文学力とは、文学作品を味わう能力や、読者が感動する能力、精密力とは、文章を正確、精密に読み書きする能力といわれています。
受験に必要な国語力とは、このうちの「精密力」であるというのですね。たとえば、「文中の『これ』がさす部分はどこか?」とか「主人公はなぜ、○○したのでしょうか?」という問題は、課題文を正確に処理する能力を測る問題なのです。つまり、半径5センチメートルの円の面積を求めなさいという問題と同じなわけです。本の中では、課題文の中の情報から、必要なデータを選んで正しい答えを書く方法が詳しく説明されています。ね、なんかちょっと興味がわきませんか?記述問題の解き方を数学の公式のように説明しているので、読んですぐに役立ちそうなところが、今までの国語参考書にはない斬新さです。
ところで、作文に必要なのは、文学力でしょうか?精密力でしょうか?
実は、国語に必要な前述の4つの能力がすべて必要になるのが、作文です。作文というと、文学力ばかりがクローズアップされているように思いますが、実際には、自分の考えや体験を正確に相手に伝えるという力のほうが、(特に高学年では)重要になります。もっと言うと、精密力があって初めて文学力が生まれるのです。
中学生以上のみなさんは特に、精密力を意識して、作文を書いてみるとおもしろいと思います。つまり、自分の意見が読者にきちんと届くかどうかということです。それを意識するだけで、作文そのもののもつ説得力が違ってくることになります。ぜひ、この夏やってみてくださいね。
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