言葉の森新聞2007年10月3週号 通算第1003号
文責 中根克明(森川林)

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■■知能を高める教育(その9)
 知能を高めるためには、(1)パラダイムのある本を読む、(2)本をパラダイム的に読む、の二つが大切だと書きました。
 パラダイムのある本とは、いわゆる昔から読みつがれている古典です。
 本をパラダイム的に読むとは、大人と子供が共通に読んでいる本をもとに、大人がパラダイム的な読み方を生活の中で実践することです。
 例えば、大人にも子供にもよく知られている本「桃太郎」を例として説明しましょう。
子:「ぼくのところのサッカーチーム、A君は足が速いけどパワーがないし、B君はうまいけど自分ひとりでやっているし、C君は明るいけどスピードがないし……、何とかならないかなあ」
父:「うーん、そうだね。『桃太郎』は、犬や猿やキジの欠点を直して戦ったのではなく、それぞれが自分の持ち味を出して戦ったんだろう。そう考えれば、何か別の見方ができるんじゃないかなあ」
子:「あ、そうか。A君はかみつき、B君はひっかき、C君は相手の目をつつけばいいんだ」
父:「違うだろ」
 一度、こういう読み方に気づいた子供にとって、「桃太郎」という本は、単なる表面的な物語ではなく、現実を読み取る道具となります。
 パラダイム的に読むための前提は、大人と子供に共通に読める本があることです。そういう本がたくさんあることがその国の読書文化の豊かさです。決して新しい本が次々と出版されることではありません。
 しかし、親が昔読んだ本をそのままの形で出版しても、子供は読みたがりません。そこで、日本の伝統である換骨奪胎や本歌取りが生きてくるのです。
 日本の長い歴史的伝統の中には、きわめて優れた書物があります。しかし、それらの古典の多くは、岩波文庫などで博物館的に保存されていることが多く、現代に活用される形にはなっていません。それらの本を現代の言葉で復活させることが今後の読書文化の大きな柱になると思います。
 歴史的な伝統を受け継いでいないという点では、現代の親の世代もまた、日本の読書文化の伝統から切り離された浮き草のような読書を続けてきた世代です。欧米に匹敵するかそれ以上に深い伝統を持つ日本の文化を現代に生かすことが、これからの私たちの課題になると思います。

 以上、頭をよくする方法をまとめると、
1、親が昔読んだ本を子供にも読ませること
2、親子の共通の読書文化を背景に親と子が対話をすること
3、子供に、日本や世界の古典を読ませること
4、親自身も、日本の古典を新たに読むこと
となると思います。

 試験で他の人よりもよい点数を取って、成績を上げたりどこかに合格したりすることは、もちろん重要なことですが、単なる手段です。この手段を達成するために必要なことは、二次元的で量的な勉強です。
 しかし、勉強の本当の目的は、三次元的で質的な頭のよさを育てることです。そのためには読書が必要で、その読書は、小学校低学年のころはたくさん読む多読、学年が上がるにつれて、親の世代が読んだものと同じような古典を読む古読と、親子の対話で読書を生かす対読、更に、パラダイムの創造に役立つ難読、やがてもっと成長したら自分の未知の分野を広げるための新読、という方向で進めていく必要があると思います。(おわり)


■■同じイメージを持つには……(ひまわり/すぎ先生)
<<え382み>> 娘の通うピアノ教室では、今年も発表会の時期がやってきました。子どもたちのソロの発表以外に『親子連弾』なるものがプログラムに組み込まれていて、確かな腕前のお母さんや、まったくの初心者のお父さんなど、同じ舞台に立つ人もいろいろ。楽しいサロンコンサートといった雰囲気です。私は、普段はほとんどピアノの練習をしないのですが、この時期だけは娘に負けじと張り切って練習します。
<<え382み>> 昨年末のテレビドラマ『のだめカンタービレ』に、親子ではまっていたこともあり、連弾の曲は簡単に決まりました。ラフマニノフ作曲『ピアノ協奏曲第二番 第一楽章より』。ドラマの中で、のだめと千秋が演奏していたものよりもずっと簡単なアレンジですが、原曲の雰囲気はよく出ています。これを何とかかっこよく弾きたい!
 まずは個人練習。自分のパートを確実に弾けるように練習します。しかし、楽譜どおりに弾けるようになっても、連弾の難しさはここからです。一人一人が弾けても、簡単には音楽になりません。もし一人で演奏するのであれば、好きなように表情をつけることができますが、連弾は細かい表情まで息をぴったり合わせるのが難しいのです。

「ここは、だんだん大きく。」
「フォルテッシモに向かって盛り上げて。最初はテンポ速めで、そのあとゆっくり。」
「ここはテンポを思い切りゆらそう。速くしたり遅くしたり。」
 最初は、こんな言葉を使って練習していましたが、なかなかぴったりと合わせられません。そこで表現を工夫してみました。

「ずっと遠くの方から、だんだん近づいてくる感じ。」
 この一言で、大きくするタイミングが、ぐっと合ってきた気がします。
「最初は歩いて登る。ここから一気に駆け上がる。ここが頂上。登りきったら、周りを見渡すように。」
 これで曲の一番の盛り上がりが、うまく表現できるようになりました。頂点のフォルテッシモは、ぴったり息が合って、盛り上がりすぎてイヤらしいほど!? やり過ぎかな。
 さて、テンポのゆらし方は一番の難関。どうしたらよいでしょう。
「風が吹くたびに、きれいな真珠が転がるような感じはどう?」
「不自然! どんどん転がって、どこかに行っちゃうよ。」
 これは、あまりうまくなかったようです。
「それなら、小舟が波にゆられるみたいに弾くのはどうかな?」
「わかった。ゆれる小舟ね。」
 こんなイメージで弾いてみると、テンポを合わせるのが楽になっただけでなく、断然弾くことが楽しくなりました。
<<え382み>> 言葉の森のみなさんは、もう気がついたでしょう。連弾で二人が同じイメージを持つために、たとえ(まるで……のよう、……みたい)がすばらしく役に立ったということです。たとえを上手に使うと、二人のイメージがぴったり重なり合います。あとは、本番の舞台で、緊張で頭が真っ白になって、このイメージを忘れてしまわなければよいのですが(笑)。
 みなさんも、作文を書いていて、言いたいことがうまく説明できず、もどかしいときがあるでしょう。長い説明文や数字などを使って表すことも、もちろんできますが、たとえを効果的に使うと、一瞬で読み手とぴったりイメージを共有することができるかもしれません。たとえは魔法の言葉ですね。


  <<え95み>>



■■おにぎりいろいろ(きりこ/こに先生)
 8月に、シオンとチカラシバの課題の人は、「おにぎりを作ったこと」という課題で作文を書きました。普段からよくおにぎりを作っている人も、この作文を書くために初めておにぎりを作った人も、自分が作ったときのことをわかりやすく説明するお勉強をしました。そこから、さらに、自分の話だけでなく、世の中のことを書いて話を広げてみようというちょっと難しいことにも挑戦しました。ここの話を、みなさん、とても興味深く聞いてくれ、考え、自分が想像したことをとても上手に表現できていて、すばらしかったので、今月の新聞で紹介しようと思います。

 おにぎりは、うんと昔、弥生時代のころからすでに日本にあったといわれています。それから、戦国時代の兵士や畑仕事をするお百姓さんが、仕事の合間に食べるお弁当(携帯食といいます。)として用いられるようになり、明治時代には、駅弁第1号としておにぎり弁当が販売されるようになりました。梅干入りのおにぎりにゴマをふったものだったそうですよ。今では、コンビニエンスストアーで24時間、いろいろな種類のおにぎりが販売され、全国で毎日、たくさんのおにぎりが売れているそうです。おにぎりの歴史をたどっていくと、日本の歴史が見えてきますね。

さあ、ここからは、クイズです。
 
★全国のコンビニで売れているおにぎりの人気ベスト3は、何かな?

 みなさん、何だと思いますか。1位は、ツナマヨネーズ、2位は梅干し、3位はしゃけ でした。予想は当たりましたか。9月に入って、それぞれのコンビニでも、新商品のおにぎりが販売されているようですよ。

★もし、自分がコンビニでおにぎりを売るとしたら、どんなおにぎりを作りたいかな? たくさん売れそうなおにぎりは何かな?

 以下は、この課題に取り組んだ人の意見です。紹介しますね。
 のりの代わりに肉を巻いた焼肉おにぎり。運動した後の人に売れそうだから。
 おかしの入ったびっくりおにぎり。子供達が喜びそう。
 ハートの形や星型のようなかわいい形のおにぎり。女の子が「かわいい」と言って買いそう。
 豚のしょうがやきおにぎり。豚のしょうがやきが大好きだから。
 キムチおにぎり。これは、作ったことがあって、とてもおいしいから。

 このようなことを考えながら作文の課題に取り組んでいくと、楽しくなりますね。自分らしい作文を書くことができるのですね。

 ちょうど、この課題に取り組んだ後、ある大学のAO入試の過去問を見る機会がありました。

「自分たちが化粧品会社に勤務していると仮定して、新しい香水の企画を考えてください。具体的な商品内容と販売方法をまとめ、画用紙に描き、発表してください。」

 大学では、このようなことを考えられる人材が欲しいんだと思いました。言葉の森でお勉強しているようなことが大学入試ででるんだなぁと実感しました。みなさんなら、きっとすばらしい企画を考えてくれ、周りの人を納得させるような発表ができることでしょう。楽しみながらお勉強をするということを皆さんに改めて教えてもらった課題でした。
<<え2004/645み>>


■■「一番になったこと」から(めもま/けい先生)
 9月の作文に課題に「一番になったこと」というのがありました。
「え〜一番になったことって、ないな」
こんなふうに困っている人。
「こんなに短い人生の中で、優劣をつけてるみたいで、なんだかちょっと」
疑問に思われたおうちの人。
反応はいろいろでした。
電話で皆さんにお話したのは、
「一番って、競争して一番になったことだけじゃないんだよ」
と、言うことです。
そして、でき上がってきた作文読んでみると、本当にいろいろな一番があるのだなぁ、と感心しました。
なので、今月はこのことを書きたいと思います。

「一番になったこと」というと、ほとんどの人が「運動会の徒競走で一番になった」とか「水泳大会で一位になった」そういうことを連想します。でも、本当にそれだけだと思いますか?「一番」っていろいろあるでしょう?
たとえば、
●兄弟の中で一番最初に生まれてきた
●家族の中で、ある朝一番に目が覚めた
●一番風呂に入って、すごく気持ちよかった
●給食の「おかわり」に一番で並んだ
●ピアノの発表会で、プログラム一番になった
考えるといろいろあります。

一つの言葉について、最もポピュラーな見方をしていると、自分らしい題材も思いつかないし、なんとなくみんな似たような作文になります。でも、ちょっと視点を変えて、あっちからもこっちからもその「言葉」を見てみてください。なんと、無限にいろいろ広がります。まるで、頭の体操みたいですが・・・。可能性が広がっていきますね。

受験塾の問題集には、正解があって答え合わせができます。でも、作文の勉強に正解はありません。それから、作文を書くには、心と頭でいろいろ練って、自分らしいことを書いていく自由があります。それから、作文を書きながら、書いている人の心を想像できたりして、それが感謝の気持ちの発見につながったりします。(眠たいのに朝一番に起きて、朝ご飯を作ってくださるお母さんへの感謝の気持ちに気づいた人もいました。)

言葉の勉強、作文の勉強って奥が深いですね。ワクワクしてきますね〜!(めもま)
<<え2007/130jみ>>


■■推敲(かな/やす先生)
     <<え2006/312jみ>>
 この夏、みなさんの作文を添削しながら、毎晩世界陸上の中継を見ていました。期待されていた日本人選手達が次々に敗退し、カメラの前で唇をかんでいるのを見ながら、しみじみ思ったことがあります。
「文章を書くことが、こんな風に一回で決まってしまうものでなくて、本当によかった」
 想像してみてください。 あなたが作文を書いている横にテレビ局の人が来て、アナウンサーが実況中継を始めたとしたら。
「○○選手、今作文を書きはじめました。おっとー、最初は書き出しの工夫だ! なになに? 『ザザアと波の音が聞こえます』ですか。解説の××さん、いかがですか? この書き出しは」
「うむ、悪くはありませんが、いまひとつオリジナリティーに欠けているようですな」
なんて言われたら、ほとんどの人は逃げ出したくなると思います。
<<え602み>>
 スポーツ選手というのは、こういうプレッシャーに耐えつつ、世界の強豪相手にその場で勝負をしなければいけません。また、その日体調が悪くて転んだとしても、「あ、今のは無しね。もう一回」というわけにもいきません。その上メダルがとれないと、新聞やニュースで叩かれたりするわけですから、本当に大変なことですね。その点、文章を書くというのは、たとえそれが職業作家であろうとも、みんなに見つめられつつその場で結果を出す、ということを求められたりはしません。よほどの売れっ子なら、締め切りに追われて時間がないかもしれませんが、普通は一人でひっそり納得するまで取り組んで、ミスがあればそれを正し、気に入らなければ書きかえることができます。これを、難しい言葉で「推敲(すいこう)」と言います。何回でも気がすむまで、「今のは無しね」ができるのです。スポーツ選手に比べて、なんと恵まれたことではありませんか。
<<え603み>>
 そんなわけで、多くの作家は推敲に大変力を注ぎます。先生の知っている作家さん達は、たいていこう言います。
「小説を書いている時間よりも、推敲している時間の方がずっと長い」
 いったん書いた原稿(これを、第一稿といいます)を、何回も何回も読み直し、書きかえ、よりよいものにするべく努力をする。それはとても地味で、根気のいる作業です。しかし、この作品をもっとよくしたい。いちばん読者の心にひびくような、形にしたい。その思いを胸に、ひたすら自分の文章と向き合うわけですね。その結果、第一稿が影も形もなくなるくらい、書きかえることになったりもします。プロの作家ですら、一回書いてそれが百点というわけには、とうてい行かないということです。
<<え602み>>
 ですから、みなさんが書いた作文も、手を入れればもっともっとよくなる可能性があるのですよ。月に一度、清書をしますね。その時こそ推敲のチャンスです。面倒くさいでしょう。せっかく書いたのに、変えるなんていやだと思うことでしょう。でも、それが一回きりで勝負が決まらない、作文のよいところでもあるのです。ぜひ、「もっとよくするためには、どうしたらいいのかな」という気持ちを持って、自分の作文と向き合ってみてくださいね。


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